僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
「おやすみ」
「俺も寝る」
「あ、うん。おやすみなさーい」
大晦日。年越し蕎麦も食べ終えた姫宮家、両親は先に眠りリビングには私とお姉ちゃんと夏希が残っている。
「あ、お姉ちゃん。ケータイ鳴ってる」
蕎麦を食べたどんぶりを洗っている私に、夏希が教えてくれた。夏希にしてみればお姉ちゃんもお姉ちゃんなんだけど、お姉ちゃんと姉さんで呼び分けている。それはさておき、水道の水を止めてタオルで手を拭く。そうしてやっと気付いた。私のスマホが流す音楽が……威風堂々であることに。指の震えを抑えながら通話できる状態にする。
「もしもし……麻琴」
「悠希……今、いいかな?」
久しぶりに聞く麻琴の声はどこか不安げで、いつものような快活さに欠いていた。
「いい、よ」
それにつられるように、私の声にもどこか不安な感情がこもる。
「今、悠希の家の前にいるんだけど、会えないかな?」
すぐさま玄関まで走って小窓から外を確認する。そこには、こころなしか疲れた様子の麻琴が立っていて、私はすぐに扉を開けて……
「ま、こと……麻琴ぉ」
大切な人の名を呼びながら強く抱きしめた。麻琴の身体は冷え切っていて、玄関の前で電話をかけるか悩んでいたことが分かる。
「上がって。何か温かいものでも……」
あ、この前買ったアップルティーがあるじゃないか。それにしよう。というか、麻琴の前でこの格好はやめよう。夏場はTシャツ1枚で過ごしていたけど、冬場はもこもこのパジャマと半纏で着膨れてしまっている。
「お姉ちゃん! アップルティー淹れてあげて。私は着替えてくるから!」
「あいよ~」
そろそろ年が変わることだろうか。お姉ちゃんはケータイでせっせとメールと打っている。そんなお姉ちゃんにお願いだけして、私は階段を駆け上がって自室へ急ぐ。パジャマシーズンは寝るときも下着はつけている。取り敢えずパジャマだけ脱いで下着姿になる。……そういえば、髪を切ったことに何も触れてくれなかったなぁ。まぁ、そこまで気が回るようじゃ、麻琴らしくないけど。そんなことを考えていたからだろうか、姿見に映る自分が僅かに微笑んだ気がした。
「さてと……何を着ようかなぁ」
冬休み、お母さんと買い漁った新品の服が何着もある。組み合わせ自体が考えてあるけど、まだ実際に着ていないコーデもいくつかある。姿見の前で何着か重ねながら、決めたのが……
「お洒落は寒さに打ち勝って手に入れる。お母さん……ハードだよ」
珍しく試してみたモノトーンコーデ。白のドレスシャツには雪の結晶を模した装飾がされていて、このシーズン限定って感じの一着。下は黒のフレアーで、丈は膝上。寒い。でも、脚は一応オーバーニーのソックスに守られている。スカートの裾とソックスの上端の間――いわゆる絶対領域――の重要性はとっくに理解したため、このコーデに特段の不安要素はない。セーラー風な襟が特徴のコートを羽織って一階へ降りる。その直前にふと自室の時計をちらりと見ると、『1月1日 水 午前00:31』と表示されていた。服を選ぶのに結構な時間を使ってしまったようだ。
「お待たせ!」
私がリビングに戻ると、麻琴は久しぶりに見る朗らかな笑顔で、
「明けましておめでとう。今年もよろしくね、悠希。さぁ、初詣に行こう」
と手を差し出しながら私に言った。