僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
「この辺に神社なんてあったっけ?」
三日月だけが輝く夜空の下、麻琴と並んで歩く。麻琴が行こうとしている神社は、町外れにある寂れた神社らしい。人は全くと言っていい程来ないらしい。
「麻琴、疲れてる?」
冷たい風に吹かれながら歩く私と麻琴。二人とも手袋はしていない。マフラーは私が結局編み終えた二人用の長さのマフラーを巻いている。温かいのは、マフラーをしているからだけではない。
「塾もハードだったし、部活の合宿もあったからね。でもまぁ、悠希といれば癒される」
月を見上げながら呟いた言葉とともに、白く吐息が零れる。
「悠希こそ、何か雰囲気変わったね」
「そう……だね。髪、切ったから」
そっか、と短く返事をして口を噤む麻琴。似合うとは言ってくれない。やっぱり今のボクじゃ……。
「悠希、やっぱりあたし……悠希のこと大好きだわ」
「な、何よ。急に……」
このタイミングで言われるとは思ってもみなかった一言に、普段以上に動揺してしまう。そもそも、普段の状況だとしても今のセリフには動揺する。
「短い期間でも……悠希と会えなかったり声が聴けなかったりして……すごく辛かった。目蓋を閉じるだけで悠希のことが浮かんで……」
――ちゅっ――
三度目のキスはボクから麻琴にした初めてのキスだった。
「ゆ、悠希」
「私もね……麻琴のこと大好きなんだって、やっと気付いた。本当の意味で、ボクは麻琴が好き。側にいてくれないと……心が痛い」
絡めた指に少しだけ力をこめる。
「……悠希。ずっと側にいるよ」
「でもさ、来年になったら……違うクラスになっちゃうでしょ?」
「大丈夫。ほら、心は一緒ってやつだよ」
そう言われて、黙り込んでしまう私。ずっと一緒にいるために、今は別々に進まないとならない。そう提案したのは私のはずなのに……やっぱり苦しい。自分で思っている以上に私は麻琴なしではダメになっているのか。結局、言葉を紡ぐこともままならないまま、私と麻琴は神社へと着いていた。
「ここだよ。行こう」
石の階段を昇った先にある本殿。人気は無くしんとしているが、決して寂れた印象を与えない。神聖とも取れる空気がそこには広がっていた。二人で賽銭箱の前に立ち、二十五円を入れて鈴を鳴らす。
「初めての共同作業、なんちゃって」
恥ずかしそうにはにかむ麻琴を可愛いと思いながら、お願いごとをする。
(麻琴が陸上で怪我をしませんように)
「ふぅ。悠希はなんてお願いしたの?」
私が合掌と解くと麻琴が尋ねてきた。その顔が少しだけ上気しているのはどうしてだろう?
「麻琴が怪我しませんようにってお願いしたよ。麻琴は?」
「あたしは……悠希と思い出をいっぱい作れますようにって」
普段は見せない麻琴の乙女然とした表情に、くらくらしてしまう自分がいる。どうしてだろう、男の子だった頃の自分だったら気付けなかったような麻琴の表情を今は鋭敏に気付けるし、愛おしく思うのは。
「か、帰ろうか?」
何かが自分の中で揺らいでいる。それを悟られないように麻琴に提案するが……。
「もっと、ずっと一緒にいたい。いいでしょう?」
気まぐれな猫が甘えるように、不思議な色香を伴って私の眸をじっとみつめる麻琴。
「……悠希、ここでシよ?」
何を? とはとても聞けなかった。その時、ポケットでスマホが鳴っていることに気付いた。
「ちょ、ちょっと待って!」
メールの送り主はお姉ちゃんで、
『麻琴ちゃんに出したアップルティーにこっそりお酒混ぜてみた。麻琴ちゃん、酔ってる?』
……ここに犯人がいた。熱を持った唇も、上気した頬も、普段以上の甘えっぷりも酒のせいだったのか。
「悠希、スマホじゃなくてあたしを見て?」
とろんとした表情で迫ってくる麻琴。じりじりと後退する私だったが、とうとう垣根に背中があたる。
「ゆう、き……」
私の名を呼びながら倒れこんできた麻琴は既に寝息をたてていて、安心しきった様子だった。そんな麻琴を見ていたら、私まで眠くなってしまい、麻琴を抱き枕に眠りに落ちた。
「悠希。悠希! 見て!」
何時間か眠ってしまった私が麻琴に起こされると、辺りはうっすらと明るくなりはじめていて、
「初日の出だよ!! あたし、生で見るの初めてかも!」
燦然と輝く初日の出がボクたちを照らしていた。
ボクと私の混在は今回と次回に限り意図的なものです