読んで楽しむダークソウル   作:ヨイヤサ・リングマスター

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 皆さんはペトルスという人物をご存じでしょうか?

 おそらく三番目に出会うNPCですので、殺したことのある人もおられるかと思います。

 ある時は、意味の無い情報を、さも重要な話であるかのように偽って金を集める男。
 またある時は、仕えている主を見捨てる男。
 またある時は、その後逃げ帰ってきた主を殺す男。

 そんな悪人として名高いペトルスですが、この話はある一人の人間がペトルスをぶん殴ったところから始まる。

 さぁ、綺麗なペトルス物語の始まりだ!




第6話:綺麗なペトルス

 

 

 

「イッヘヘヘヘヘヘ」

 

 

 免罪をご存じだろうか?

 不死教会にある鐘を鳴らすと現れる、オズワルドという人物に多額の寄付をすることで、これまでに何かしらの理由で敵対してしまった人物に行った罪を消し去ることが出来るものだ。

 

 殺していなければ必ず相手は、その罪を許してくれる。

 

 だが……免罪とは、その人物の敵対するに至った出来事に関する記憶を奪うことで罪を消しているのだ。

 

 とすると、どうなるか?

 例えば、オズワルドに免罪を頼んだ人物がペトルスの顔に腹がたったと言うだけの理由で殴ったのだとしたら。

 例えば、ペトルスが自分を殴った人間に関する記憶と一緒に悪の心も失ったとしたら。

 例えば、聖女レアに彼が最後までついていたならば。

 

 あらゆる偶然によって起きるはずのない出来事が起きたとしたら。

 ペトルスは本当の意味で聖職者になれるかもしれない……。

 これはそんな、もしかしたらの物語です。

 

_______________________________________________

 

 

「さぁ、行きましょう地下墓地へ」

 

 

 一行のリーダーである女性、『聖女』レアは『火継ぎの祭祀場』での祈りを済ませると三人の従者を連れて使命を全うするために歩きはじめた。

 

 従者三人の名前はヴィンス、ニコ、そしてペトルス。

 それぞれにレア個人は勿論、レアの家に長い間仕えてきた従者である。

 

 

「ところでペトルス。

 お前今日はなんだか、いつもより神々しく見えるんだが、何かあったのか?」

 

 

「むーん」

 

 

 ペトルスは普段は悪人面をしており、聖女として名高いレアの従者として似つかわしくないブ男なのだが、その日は何故か、普段と違って一段と輝いて見えたことにヴィンスが疑問を持ったのだ。

 

 ちなみに「むーん」と言ったのはもう一人の従者ニコ。無口である。

 

 

「いえいえ、私ごときの醜い造形の顔をまじまじと見ては皆さんの目を汚してしまいます。

 特に体調にも問題はありませんのでお気になさらず」

 

 

 ペトルスはそう言うが、彼の雰囲気は明らかにこれまでと違っていた。

 

 

「いえ、私もペトルスの顔が醜いのは常々思っておりましたが、今日はその……なんと言いますか、神のごとき波動を感じるのですが……」

 

 

 レアはペトルスに近づき、何度も確認をするように見つめる。

 

 ペトルスの別人であるかのように疑っているのだろう。

 

 

「お嬢様の言うとおりだ。

 ペトルス、お前今日は美しいぞ。

 顔の造形の醜さは相変わらずだと言うのに何でそんなにも神々しいのだ」

 

 

「むーん」

 

 

 ヴィンスもニコも気になるのは一緒のようだ。

 

 それもそうだろう。

 ペトルスの普段の表情は造形の醜さだけでなく、心根が腐った人物特有のドブのような薄汚いオーラを感じる悪人面なのだ。

 これではまるで聖職者ではないか。

 

 

「私自身は別段変わった気がしないのですが……。

 もしかしたら、これまでの祈りによって悟りを開いたのかもしれませんね。

 主よ、感謝します。『アンバサ』」

 

 

「ペトルスが神への祈りの言葉を!?

 信じられません!

 あの! ペトルスが『アンバサ』だなんて……」

 

 

「こいつはきっとペトルスの偽物だ!

 本物のペトルスなら絶対にこんな綺麗な言葉は言えるはずがない!」

 

 

「むーん!」

 

 

 散々な言われようだが、これでペトルスがどんな人物なのかは分かってもらえたのではないだろうか。

 

 ペトルスは極悪非道で、聖職者の名を語る悪の権化なのだから、神への祈りの言葉を口にし、神々しい波動を放つ彼を、誰が本物のペトルスだと認めようか。

 

 

「そうは言われましても、私も特に身に覚えがありませんので……。

 確かに私は、自分が悪人顔というのは自覚していますが、それが神々しい雰囲気を放てるようになったというのはいいことじゃないですか」

 

 

「……確かにそうかもしれませんね……」

 

 

「言われてみれば元々が酷かっただけで、聖職者にとって祈りの言葉を口にするのも、神々しく見えるのも普通のことだな」

 

 

「むーん」

 

 

 それで三人は納得した。

 ペトルスはかつて、自身が仕えるレアお嬢様と護衛仲間ヴィンスとニコが来る前に自分を殴った人間が、オズワルドに免罪を頼んだことで、自分の悪の記憶が失われたことに気づいていない。

 

 それゆえに自分が悪人だったことにも気付いていない。

 

 悪の心が消えたため、この日初めてペトルスは聖職者を名乗れる人間になったのだ。

 

 まぁ、それはさておき一行は地下墓地へと進んで行った……。

 

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「おお、あんたらまともだな?

 てぇことは貴重な旅の仲間だ。

 俺はパッチ、よろしくな」

 

 

 巨人墓場に潜った一行はパッチと名乗る人物に会った。

 

 

「はじめまして、私はレアと申します。

 使命を全うするためにこの地へと参りました」

 

 ヴィンスとニコは、あからさまに怪しいパッチを警戒し、守るべき主のために、臨戦態勢は崩さない。

 

 ペトルスもオズワルドの免罪によって綺麗なペトルスになっているのでパッチに関する記憶もないため、警戒を強めている。

 

 レアが挨拶をしたのも、怪しげな男だが態度が怪しいからと言って疑っては聖職者として失格だからという理由であり、レア自身もこのパッチという男を信用しているわけではない。

 

 

「……そうだ、あそこにお宝が見えるだろう?

 あれ、あんたらに譲ってやるぜ。

 まぁ、友情の証ってやつさ」

 

 

 しきりにペトルスに目くばせをしてくるパッチだが、綺麗なペトルスにはパッチに関する記憶がないのでその真意はつかめないでいた。

 

 どうやら記憶を失う前は一緒になって、色々と悪さをしていたようだ。

 

 

「宝……ですか」

 

 

 レアはとりあえず覗いてみようと思い、パッチが指し示す崖下を覗いた。

 

 その瞬間! パッチはレアに後ろから蹴りを入れた。

 

 

「あ……」

 

 

 突然のことに驚いたレア。

 

 だがその体は蹴られた勢いによって、無情にも崖下に落ちていく。

 

 ヴィンスとニコも慌てて助けようと手を伸ばしたが三人は一緒になって落ちてしまい、残るのはペトルスとパッチだけとなった。

 

 パッチの高笑いが場に響き、あまりにも突然の出来事にしばし呆然とするペトルス。

 

 

「よぅ、ペトルス。

 お前は聖職者とはいえ、俺と同じゲスだからな。

 あいつらが死んだあと、いつもみたいに身ぐるみ剥いで山分けしようぜ。

 ウッヒャヒャヒャヒャヒャ」

 

 

 下卑た笑いは墓地に響き渡る。

 この場にいるのが自分と同類のペトルスだからこそ、パッチもここまで余裕のある行動がとれるのだろう。

 

 だがここにいるのは「ペトルス」ではない。「綺麗なペトルス」なのだ!!

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「……さねぇ……」

 

 

「どうしたペトルス?」

 

 

「許さねぇって言ったんだよぉ!!!」

 

 

「がはっ」

 突如キレたペトルスに締め上げられるパッチ。

 

 だが綺麗なペトルスの怒りはこんなものではない。

 

 

「私は聖職者だ。

 この世に善と悪があることくらい分かっている。

 だがなぁパッチ、てめぇはその中でも一番やっちゃいけねぇ、吐き気のする『悪』をやっちまった」

 

 

 締め上げる手に力を込め、そのまま壁に叩きつける。

 

 パッチは自分と同類だと思っていたペトルスの豹変ぶりにとまどっているようだ。

 

 

「『悪』とは、てめー自身のためだけに弱者を利用し、踏みつける奴のことだ!!

 ましてやレア様をーっ!

 貴様がやったのはそれだ! あ~~~ん!?

 私が聖職者である限り、てめぇは生かしちゃおけねぇ!

 だから、私が裁く!!!」

 

 

「ぐっ……『悪』だと?

 てめぇがそれを言うのか!?

 俺と同じ外道の癖して今更、聖職者ぶるのか!?

 これだから聖職者ってのは始末におえねぇ。

 許さないのは俺の方だぜペトルス!」

 

 

 ペトルスの手を振り払い、体勢を立て直したパッチは、その手に持つ槍と盾をしっかりと構えペトルスに向かっていく。

 

 

「俺は『幸運』のパッチ改め、『鉄板』のパッチ!

 この木材で作られたかのように見えるが実は『鉄板』を仕込んである『大鷲の盾』の防御の前で為す術もなくくたばるがいい。

 後悔と懺悔の涙を流しながらなぁ」

 

 

「確かに私は過去は悪人だったのかもしれない。

 だが、聖職者に一番必要な神と人を信じる心を学んだ私に負ける理由など塵一つもない。

 お前こそ悔い改めるのだ!」

 

 

 ペトルスは奇跡『助言求め』を発動した。

 

 この奇跡は異世界で書かれた旅の助言を多く見つけるための奇跡。

 

 本来攻撃目的としては何の役にも立たない奇跡なのだが、ペトルスはあえて、この奇跡を使った。

 

 

「な、何だこりゃ?

 耳が聞こえない!?

 くそっ、ペトルスの野郎、何をしやがった!?」

 

 

 奇跡『助言求め』によって異世界から集められた助言の数々がパッチに張り付き、彼の視覚と聴覚を封じる。

 

 

「パッチ、お前を殺す意志は私の意思だ。

 だが、実際に殺すのはお前に恨みを持った異世界の無念なる死を遂げた勇者たちの言葉だ。

 その言葉を体に刻んで地獄に落ちるといい」

 

 

 体に張り付いていた『助言』を消そうと暴れまくるパッチだが、耳に届くのは彼が騙して殺してきた人々の無念の叫び。

『俺が太陽だ!』

『やっちまった……』

『尻』

『攻撃しろ』

『この先、白くべたつく何かが必要』

 

 

 繰り返し耳の中で響く亡者の声。視界いっぱいに広がるコメント文。

 パッチは暫し、のたうち回っていたが、そのまま転落死してしまった。

 

 

「悔やむなら自分の行いを悔やむんだ。

 それらは全てお前への恨みが巻き起こした言葉なのだからな」

 

 

 ペトルスは神の奇跡を使い、足元に書かれていた異世界からのパッチへのメッセージをパッチに張り付けただけ。

 パッチはそのメッセージによって視界を遮られ、耳に届く怨嗟の声によって苦しみながら自ら崖から落ちていった。

 ただそれだけなのだ。

 

 

「そうだ、お嬢様は!?」

 

 

 パッチが消えたことで崖下を覗きこむペトルス。

 

 崖下には落下衝撃からか、気を失ったレアと、仲間のヴィンス、ニコの姿もあった。

 

 どうやら無事のようだ。

 

 

「良かった……。

 とにかく早く助けないと」

 

 

 こうしてパッチを倒し、レアを救ったことにより、後に最初ペトルスと敵対した人間が『薪の王』グウィンを倒して火を継いだことにより、世界には平和が戻り、祖国へと帰ったペトルスは本当の意味での聖職者として、その生涯を無二の主であるレアに忠誠を誓うことで幕を閉じた。

 

 

 綺麗なペトルス物語、これにて閉幕!




『助言求め』をジョジョ第四部のスタンド、「エコーズACT1」みたいな使い方でパッチを自滅させたペトルス。

 きれいなペトルスが書きたくて書いただけの話でしたw

 私は物語に出てくる聖職者って、物凄い悪人か物凄い善人かのどちらかにはっきりと別れているので好きですね。

 ペトルスのゲームでの罪状は、違法集金容疑、婦女暴行容疑、窃盗容疑ですが、この話ではプレイヤーがそこに至る前にペトルスと敵対し、記憶をごっそり消して綺麗なペトルスにしたので犯罪者ではありません。

 パッチは聖職者に関しては例外なく嫌っていた気もしますが、まぁここまでの悪人ならペトルスとも上手くやっていけそうですけどね。

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