しばらく旅を続けたミルドレットは、魔術の名門ヴィンハイム学院の近くに腰を据えてお菓子屋さんを始めていた。
突然の展開と驚くなかれ、これにはちゃんと理由があるのだ!
「いらっしゃ~い、おや? ローガンさんまた来たのですか」
それはすなわちこの地での権力者や有力人物から行方不明の姉の情報を得ることである。
「私の弟子がここのお菓子を気に入ってな。
狩って来なければ私のパンツを全部焼き払うと言うもんでな。
まったく……何の変哲もない旅人の標準装備だというのにビアトリスめ……」
『ビッグハット』ローガンも彼女の店の常連である。
来るたびに、よく弟子の話をするが、ミルドレットとしては彼の弟子、ビアトリスの考えには賛成だったりもする。
何の変哲もないとか言いつつ、彼の足を守る装備『旅の靴』は変態性に溢れすぎなパンツであり、それを愛用しているローガンの変人ぶりがよく分かる装備だからだ。
「……それは大変ですね~。
それよりも、私の姉の情報は何かつかめましたか?」
これも毎回聞いているのだがあまり情報は集まらない。
もしも姉が生き延びているのなら、滅びてしまった国の代わりに自分でウーラシールの魔術を外部に伝えようと魔術師の多い国を転々すると思ったからだ。
失われるには惜しい魔術をウーラシール国は多く保持していたのだからその数少ない使い手である<宵闇>が広めないはずがない。
そんな考えからミルドレットは旅を続け、あちこちで料理人として修業していた。
そして国を巨人の襲撃で失ってから数年、料理人として腕を磨きながら姉の情報を探す旅で、世界中の調理技術を学んだミルドレットはヴィンハイムで店を開くと世界中から情報が届けられるようになった。
そして何故、料理屋ではなくお菓子屋をやっているかについての理由だが、ミルドレットの料理は何を作ってもすぐに売り切れるからだ。
その中でも金持ち貴族が多いこの国では、ミルドレットの作る美しさと美味しさを兼ね備える特別な菓子が一番人気であったのだ。
そこで最初こそ料理屋も営んでいたミルドレットだが、途中からお菓子専門として情報収集に励んでいるのだった。
「ふむ……、貴公の姉かどうかは分からぬが、呪われた地『ロードラン』にあるという『白竜』シースが住まう『公爵の書庫』と呼ばれる場所に金色に光るクリスタルゴーレムがいるそうだ。
もしやこれが貴公の姉と関係があるのではないだろうか?」
「なるほど、確かに姉はモンスターから好かれやすい体質だ。
クリスタルゴーレムに取り込まれての旅をしている可能性もあるな」
こうして客として来る魔術師たちから情報が集まるわけである。
荒唐無稽な役に立たないガセネタばかりではあるものの。
だが世界各地の食文化を独自の技術で昇華させたミルドレットの腕は『ビッグハット』ローガン、『鍛冶屋』リッケルトなどの権力者からも気に入られるほどで、店としては開店以来ずっと右肩上がりの売上なのを続けている。しかし姉を探すことを第一に考えているので稼いだ金も大半が傭兵などに各地への探索以来として消えていっている。
そうして得た情報の中には今回のローガンの情報のように呪われた地、ロードランに関する者が多いのだ。
その名の通り呪われた不死者が集まる国であることから、傭兵たちもそこには行けていない。
なのでミルドレットはまた旅に出ることにした。
国を出る時は大勢の魔術師たちに惜しまれながらも感謝の言葉とともに見送られ、胸に熱い思いを宿したミルドレットは希望に満ち溢れた生き方を送れていた。
途中、姉の存在を忘れてしまう時もあったのは秘密♪
「ミルドレットさーん。
またこの国にも来てくださいねー!」
「この国はいつでもあなたを待っています」
「お姉さんを見つけたらまた戻ってきてくださいねー」
思わず涙を流してしまうミルドレット。
祖国を失ってからは特に人との出会いを大切にしてきたミルドレットは、ここ数年の間にこの地でかけがえのない友情を育んでいたのだ。
「ふふ、姉上を見つけたら、またこの地に来るのも悪くないな」
次なる目的地は呪われた地、ロードラン。
ようやく彼女の冒険の前書きが終わろうとしていた!
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巨大なカラスに運んでもらってロードランに来ることは出来た……のだが。
「うーん、迷った」
現在迷子である。
「やはりカラス君には一番近くの篝り火までは送ってもらうべきだったな~。
陸地が見えたからそろそろ降りても大丈夫だろうと思って飛び降りたのは失敗だった」
ミルドレットが巨大カラス便から途中下車した先は川だった。
幸いにも浅かったので溺れることはなかったが、その川は両端が反り立つ岩壁となっている。
「これは登るしかない!
料理人らしく!!!」
目の前が岩壁ならば登りたくなるのが料理人というもの。
生まれたお国柄のためか、ミルドレットは年を取るとともに楽観的かつその場のノリによる行動が増えてきていた。
そしてそのノリによる行動を実現しうるだけの実力までも兼ね備えてしまっているというのだから凄いものだ。
ちなみに彼女はすでに不死者となっているので死なない。
「あー……、あんたは誰だ?」
岩壁を登った先には洞窟があり、せっかくだからとその中に入ると見張りのつもりなのかデブなモンスターが居た。
「ここは『病み村』と言います。
貴方は観光客ですかー?」
「……まぁ、観光客と言えば観光客だな。
行方不明となった姉を探しているうちにこの地に辿りついた。
よければこの地の代表者に会って協力を頼みたいのだが」
「分かりました、ではどうぞこちらへ。
あ、申し遅れました。
私はこの『病み村』の『飛竜の谷』経由の入り口の門番をさせていただいているミスズと申します。
これでも一応女ですので」
紳士的な礼をする見た目とは裏腹に礼儀正しいデブモンスターのミスズ。
彼女はこの『病み村』という場所では、それなりの地位にあるのか、他の同僚らしきモンスターたちに通りすがりに敬礼をされていた。
「アハハ、私の信念は『無知は罪なり、無視は悪なり』でして、部下にもそう教育をしていたら私の顔を見ると敬礼のポーズを無意識のうちにとるようになってしまったのですよ。
気にしないでください」
「……そうか」
いわゆる鬼軍曹な人なんだろう。
ミルドレットの祖国、ウーラシールでも国王直属の近衛騎士団の団長が『好奇心は猫を殺す』や『ダイスンスーン』などとカッコつけたセリフで部下に教育を施していた光景を思い出す。
「(そういえば彼は元気なのだろうか……)」
戦の最中、彼の姿を見ていなかったが、もしも生きているならまた会いたいものだ。
「おや? どうかされましたか?」
「いや、何でもない。
ただ少し昔を思い出していただけさ」
そうしてその後は大した会話もなく、ミスズに連れられて『病み村』の下層エリアに降りていく。
「凄いなここは。
こんな場所にエレベーターまで用意してあるとは」
「ええ、この地を統治なさっている『混沌の魔女』クラーグ様の計らいで、観光客を集めるにはサービス精神が大切だ、ということになっているのですよ」
正確には観光客から人間性を奪うのが本当の目的なのだが。
その『混沌の魔女』の妹さんがテーマパークみたいな楽しいことが大好きという性格なために、実際にはテーマパーク化を目指しているのだそうだ。
下層へと降りていくエレベーターの動力源をしている赤い犬と目があったが物凄い爽やかな笑顔をミルドレットに見せてきた。
あの赤い犬の彼は、自分の仕事に心から満足しているのだろう。
「では着きました。
私は持ち場に戻りますが、この先にこの村の統治者がいるので、どうぞお会いください」
「門番と言う割には素性も知らない観光客をすんなり通すんですね。
自分で言うのもなんですけど、私けっこう怪しいと思うんですが」
ここまでの対応から、ミルドレットは門番のミスズは主への忠誠心が高いと思っていたのだが、自分を主の部屋の前まで送り届けただけで仕事に戻ろうとするのに疑問を持った。
ミルドレットの現在の格好は頭には目のところに穴の開いた『ずた袋』を被り、手には大きな包丁を持っている以外裸である。
一応胸と腰は女としての最低限の恥じらいから布を巻いてはいるが。
「いえいえ、疑問に思う必要はないですよ。
ただ単純にこの地の主であるクラーグ様はこの『病み村』で一番強い御方なので、もしも貴方が無礼を働いて戦闘にでもなれば私がいてはクラーグ様が本気を出せませんからね」
なるほど、と肯くミルドレット。
そうしてミスズが帰って行くのを見届けると、ミルドレットは部屋の前の霧を潜って中に入った。
門がないのに門番とはこれいかに?
その答えは彼女(デブ)たち自身が「門」だから!!!
最初に私が『病み村』に『飛竜の谷』経由で行った時、あのデブ三匹に襲われて何度か殺されちゃったので、あれでも女性ですし、少しアタックが過激とはいえ、モテモテ気分になればいいのでは? という妄想から生まれた話。
が、男女平等な私は相手が女性だとしても殺されれば腹も立つのですがw
「おどりゃー、ここまで前の篝り火から走ってくるのにどれだけ時間かかっとると思っとんのじゃー!?
というかこのゲーム無駄にエリア広すぎじゃー!!!」的な♪
最初の頃は走り抜けて少し先にある梯子を下りれば勝手に飛び降り自殺してくれるのも知らなかったので、弱い武器でチマチマ攻撃しながら殺されまくっていましたw
それと思うにミルドレットはこの村の人たちと仲がいいのだと思います。
次話はアットホームなのんびりした雰囲気の話になると思います。
漫画で言うならば『みなみけ』に弟キャラを加えたような感じでしょうか。