中量構成の中量二脚
武装 右腕部:マシンガン 左腕部:レーザーブレード 肩部:なし 右背部:なし 左背部:ミサイル 内部兵装:ロケット
装填弾は模擬戦用のペイント弾とロケット。それと信管と炸薬の抜かれたペイントミサイルである。
AEU軍事演習所。彼らの本拠地である欧州にあるだけあってその規模は巨大であり、更には公開演習や新型機のお披露目の際に使われる観客席までが備え付けられている。
そして今日。その観客席には高そうな背広を着た者や、ユニオンや人格連の軍服を着た者たちが詰めている。
<<レイヴン。見ての通り、各国の重鎮もちらほら見られます。言及する必要は無いでしょうが、くれぐれもおかしな真似はしないように>>
それを観客席のある建物が見えるガレージにてACの出番を待つレイヴンが見ていたところ、釘を刺すようなオペレーターの言葉がかかった。それについては彼も重々承知していることなので、その旨を短い言葉で返す。
<<当然です。では、ミッションの詳細を確認します。AEUの新型機、イナクトとの模擬戦を行ってください。どうやらレイヴンを倒すという事によって新型機を売り込みたいようですが、もし勝てれば自分を売り込めることを考えればこちらにとっても悪い事でもないでしょう。
イナクトはフラッグのコピーらしきリニアガンを装備しています、はクレスト社製といえども今回のような中量二脚の構成ではあまり耐えることはできないでしょう。注意してください>>
何度目かになるオペレーターの確認を聞き流すレイヴンの視線の先のモニターには、噂の新型機の姿があった。
あちらの準備はできているらしく、飛行しての旋回などのパフォーマンスを行っていた。その中には複雑な、それでいてキレのある動きもあり、パイロットの練度の高さもうかがえる。
だが、換装機という特徴からか、空戦特化のフラッグと比べると少々動きが重い。これならこの中量二脚のACでも戦えそうだ、と
<<レイヴン、指示が来ました。出撃してください>>
その声を受け、レイヴンは待機モードであったACを戦闘モードに切り替えてガレージから飛び出した。
「それにしても、ACと模擬戦とはね。これは八百長かな。グラハムはどう思う?」
観客席の前列。イナクトを食い入るように見つめていたところ、私グラハム・エーカーは隣に座るビリーに質問を投げかけられた。
「どうなるかは見てみないと分からないが、自国のパイロットよりも金が目的のレイヴンの方が逆に疑われないと思ったのだろう。かといって他国のパイロットを雇えば、工作活動もありえる。それに――――」
イナクトに相対するACのシンプルな黒い鴉のエンブレムへと視線を送りつつ、私は自分が思う本当の理由を口にする。
「腕のいいレイヴンを倒したとなればイメージアップに繋がる上、彼らが性能のいい新型を持つAEUへの攻撃の依頼を受けなくなる可能性もある。未完成の軌道エレベーターに直接でなくとも攻撃を受けるようなことがあれば、AEUは人革連にもユニオンにも置いて行かれる事になるだろう」
レイヴンは強襲に特化した人型駆動兵器を駆って、依頼を遂行する。時には大都市を襲う事もあるが、その機動力を生かして単騎で都市の防衛を行う事もあるのだ。
「それにだ。八百長かどうかは、見てみれば分かるはずだ。ACほど戦力が見た目で分からない兵器もないだろう。」
そう言いながらも、既に私の眼は目の前のACに釘づけになっていた。その首輪を付けた渡り鴉のエンブレム。アリーナの上位ランカー、"UNKNOWN"だ。機体名を付けず、ネームを名乗らず、機体構成はよく変わるがパターンがない。そして、機体の主な目撃場所から中東出身という噂がある以外は不明の、近年急速にのし上がったその道では有名なレイヴンだ。その正体不明な彼を、皆は"首輪付き"と呼んでいる
だが、ACにも軍人としての関心があってアリーナをよく見る私と違い、ビリーはその事に気づいていないようだ。
『それでは、イナクト対ACの模擬戦を開始します。10カウント……9……8……』
アナウンスで行わていたイナクトの紹介が終わり、開始までのカウントが始まる。
ACが新型機に勝てば、AEUの面目は丸つぶれだろう。だが、そうなってもこのパイロットには人革連はもちろん、ユニオンから秘密裏に仕事が舞い込む可能性もある。今この場には、それを決定できる役職の者が来ているのだ。
『4……3……2……1……』
さあ、括目させてもらうぞ、レイヴン!!
<<ミッション開始。敵MSを撃破してください>>
オペレーターの言葉と共にACは右手のマシンガンを乱射しつつ、ブーストを吹かして接近する。
その際にはブレードを構えると同時に、左腕でコアを防御している。コアを狙い打たれても、一撃で撃墜判定を受けないようにするためだ。
だが、イナクトはその弾幕を新型機特有の高機動で軽々と躱すと、剣のような大きさのプラズマソードを抜いてACに接近戦を挑む。
振るわれた二本の蒼いプラズマがぶつかり合い、均衡が生まれて足を止めての鍔競り合いになる。
レーザーブレードは本来、強力なプラズマ刃を短時間の間だけ発振させることにより、MSのプラズマソードとは比べ物にならない威力で相手を切り裂く兵器だ。だが、これは模擬選である。お互いの兵器の炸薬はペイントに変えられ、ブレードの出力は焦げ目を残すまでにリミッターがかけられている。
本来ならMSの展開時間の長いプラズマなら出力で圧倒する事ができるのだが、それはできない。そして、鍔競り合いという本来ならありえない事が起こったのだ。
<<敵のリニアライフルに注意してください>>
イナクトが椀部に装備したリニアライフルの銃口をACに向けるため、つばぜり合いの向きを変え始める。それをさせまいとACは内部兵装の使用のため、胸部の装甲の一部が開いた。この状態ではより早くコクピットを打てるレイヴンが悠々と勝利するだろう。
だが、イナクトが膝辺りを開かせたのを、レイヴンは見逃さなかった。
ブレードの向きを変えて刀身を流れさせ、ACは横に離脱それと同時にイナクトを撃ちおろすために上昇する。イナクトはそれを予想していたのかすぐさまリニアライフルを構え、ディフェンスロッドでコックピットを守りながらACを向きつつ回転軌道をとる。
<<レイヴン、脚部ウェポンベイは空です。フェイクでしたね>>
オペレーターの棘のある言葉に反応する暇もなく、レイヴンは戦闘を続ける。
ACは左背部にあるミサイルでイナクトをロックしながら、マシンガンの弾をイナクトの胸を狙いながらばら撒く。飛ばれては空中での機動性能の差が浮き彫りになり、一方的に攻撃される恐れがあるからだ。
イナクトに躱され弾かれで地面に釘づけにする以外効果がなかったマシンガンの弾数が半分ほどになったところで、レイヴンはトリガーを引き、ミサイルを発射する。
打ち出されたミサイルは六本。それぞれがイナクトに狙いを定め、襲いかかる。
これには堪らずと言った様子でイナクトはマシンガンを受けながらも空中へ飛び出し、その下をペイント剤によるピンクの煙が埋め尽くす。
その際に破損判定を受けたのか、右の脚部が停止した。
その正面には胸からロケットを放ちながらマシンガンを右側の逃げ場に打ち続け、左側の逃げ道にブレードを振りかぶる、翼を広げた鴉の姿があった。
<<レイヴン、お疲れさまでした。相手の武装が少なくて助かりましたね>>
勝利したレイヴンのACはペイント剤にまみれたイナクトの正面に直立しながら、オペレーターに同意した。フル装備のACと少ない武装のイナクト。後者が大量生産されることを考えれば、この結果は一レイヴンとしてはいいものではない。
そして、これからAEUからの仕事は少なくなるだろう、とレイヴンは思いながらも、他の陣営からの仕事は増えると考えていた。
彼は街を本格的に襲撃などの目を付けられるような任務は受けないが、その他の事なら手広くやっている上、これからもやるつもりである。
<<レイヴン!! 上空にアンノウンを確認、すぐに――――>>
突如、無線に激しいノイズが走り、通信が途絶える。同時に、頭部に搭載されたレーダーも機能しなくなったのだ。
レイヴンは即座にECM濃度を確認するが、平常値。収納スペースに衝撃緩和剤と共に入れておいた携帯電話を確認すると、そこには圏外と表示されていた。
ただ事ではない、そう思ったレイヴンは上空に頭部を向けて索敵を行う。すると、すぐにそのアンノウンの姿を確認できた。
白い下地に蒼い塗装のされた胴回り、赤い塗装のされた腰回り。その体のバランスから考えるに、MS。だが、推進のためのスラスターに熱された風の流れは見えず、エメラルド色の光を周囲に振り撒きながら降下してくる。落下でないと言えるのは、その着地を目的としたゆっくりとしたスピードからだ。
レイヴンは即座にミサイルコンテナをパージし、レーザーブレードの出力制限を解除する。
付近にはAEUのMSもいるが、通信がレーダーも含めて妨害されている今、その到着は遅れると判断したのだ。
既に地上に立っていた二機を視界に収めるような向きで、その前にへとMSは重力に引かれていないような滑らかな着陸を見せた。
レイヴンはマシンガンをそのMSに向けながら、メインカメラの映像の録画を開始。その頭部からつま先までを完璧に記録する。
そして、頭部に『GUNDAM』という文字を見つけ、レイヴンは無意識的にその文字を口にした。
「人様の領土に土足で踏み込んで、ただで済むとは思ってねえよなぁ!?」
レイヴンに続くようにイナクトも出力制限を解除したのか、プラズマサーベルが起動。臨戦体勢に入る。
外部スピーカーから発されるイナクトのパイロットの声は好戦的で、邪魔されたのが不服らしい。
一方のレイヴンはその隙を利用し、オペレーターへと再度通信を試みる。
しかし、結果は砂嵐のような不快な音が返ってくるばかりで、電波を妨害されていると判断。続けて備え付けのラジオのチャンネルを回すが、反応は同じ。
その結果、特定周波数のでなく全電波をこの正面のMS、もしくはその共犯者が遮断していると判断した。
ECM搭載航空機か、このMSの頭部アンテナからなのか。それとも――――
相手の分析を進めるレイヴンは、MSの背から吹き出すエメラルドグリーンの粒子を睨んだ。
どこの所属かも分からず、どのような性能かも分からない。
右側の外側に付けられた盾に隠された巨大な実体剣の存在。つまり、この大きさの剣を白兵戦で振り回すだけの出力が――――イナクトやAC以上の出力がこの細身のMSにはあるという事だ。また、イナクトのパイロットは確認したか分からないが、その先には銃口が存在。
この『GUNDAM』と恐ろしく高性能と予想されるMS相手にどう動こうか、とレイヴンは思案したその瞬間、イナクトが動いた。
「俺はAEUのパトリック・コーラサワーだ! 知らねえとは言わせねえぞ!!」
名乗りを上げ、プラズマソードをMSの右腰――鹵獲を狙った一撃をMSへ突き刺さんとする。
正面からの、相手を侮った迂闊な攻撃。だが、状況を動かすには十分だ。
ACのブースターが紅い火を放出し、その巨躯を一気に進ませる。
障害物をスケートでよけるような、外側から回り込む滑らかな機動。その先に狙うはMSの骨盤部分。
エネルギーを送り込まれたブレードが、ヘリオンをバターのように切り裂く高出力のプラズマを出現させた。
刹那、ACの左腕が爆発した。
<<左腕部破損>>
サポートAIが無機質に現実を伝える。
やられた。レイヴンはMSが振り上げた右手に持つ、ブレードの発振器を叩き切ったピンクのプラズマソードを睨みつける。
断頭台のギロチンのように振り下ろされる直前の動きを見せた右腕。
血の気が引いたレイヴンは安全装置を瞬時に解除。そしてペダルを踏み込み、オーバードブーストモードを起動した。
前よりの横方向へと爆発的な加速を得たACは光に左腕を完全に破壊されながらも、その軌道から弾丸のように距離を取る。
だが、左腕の破壊による爆発とは別に、ACのコックピットを墜落したような衝撃が襲った。
オーバードブーストを読んでいたであろう『GUNDAM』が、ACに"回し蹴り"を入れたのだ。
研究されたとしか思えない相手の行動と、それを実現する運動性が『GUNDAM』にはあった。
体勢を崩し、そしてパイロットも脳震盪となって制御を失ったACはオーバードブーストを起動させたまま、荒地の山を終点に定めて暴走する。
このままではACもろとも、パイロットを守る保護機構がMSより少ないレイヴンはミンチ以下になるだろう。
だが、ブレードを発振させていたのが幸運だったのか、エネルギー不足によりオーバードブーストが緊急停止。その速度がゼロとなるまで草も木も無い荒地を抉り続け、岩の塊にぶつかる直前でまともなのはコックピットブロックと頭部のみとなったACはその動きを止めた。
同様に四肢を失ったイナクトの後にACを確認した『GUNDAM』は背からより多くの粒子を出すと、式典で上空を飛行するように悠々と空を渡っていった。
ミッション結果
失敗:頭部以外のパーツは全損。パイロットも意識不明となっており、多額の出費が予想される