恋する一色いろは歌   作:函南 透

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6/5 加筆修正しました

6/11 ルビでの強調を修正しました


だけど比企谷八幡はその依頼を承ける
その1


すべてをいますぐに知ろうとは無理なこと。雪が解ければ見えてくる。──ゲーテ

 

 × × ×

 

「あんなの見せられたら心動いちゃいますよ」

「何が」

「……わたしも、本物が欲しくなったんです」

 

─これは俺と一色との会話の一段片。

交わした会話の一欠片。

 

それがたとえ俺がこんな捻くれぼっちではなかったところで、少しでも人間関係そのものに疑問を抱いている人間がいたとすれば、多かれ少なかれ似たようなものを欲したのではないのだろうか。

安っぽい偽物の理解や(いや)しいばかりの同調意識、奇跡のようにどこにでもあるシンクロニシティの話で盛り上がるのではなく、《お互いに自己満足を押し付け合うことができて、その欺瞞(ぎまん)さを許容できる関係性》を求めてしまったことはあるのではないだろうか。

だがそんなこと絶対にできないのは知っている。そんなものに手が届かないのも悟っている。手が届かない葡萄(ぶどう)はきっと酸っぱいに違いない。

俺が欲しいのはその酸っぱい葡萄だ。

酸っぱくて、苦くて、不味くて、毒でしかなくて、そんなものは存在しなくて、手にすることができなくて、望むことすら許されなくて、意味なんてないけれど、何よりも夢があった。

それでいて尚、《何かあった》わけではないのが実に悲劇的だ。

歓喜を誘い喜悦を求め快楽を感じる悲劇。

それでも俺は欲した。欲してしまった。

それが間違いだった。そこが決定的に間違いだった。

 

しかし、十三日の金曜日と十四日のバレンタインデーを経験した俺から言わしてみれば、本当はそんなことどうでもいいのかもしれない。

──あいつらと一緒にいたいがための言い訳だったのだから。

 

本質を取り違えた問題は、間違いが見えなくなる。

ならば本質を取り違えないように今一度解き直そう。

そのためにはまず問題を語らなければならないのは、実に悲劇的だが。

 

…では、虚実を混えた間違いだらけの青春ラブコメの世界を、あの箱庭での出来事を、比企谷八幡が語り手となって──晒していくとしよう。

 

 × × × 

 

 

俺はいつも通り小町を中学へ送り届けてから高校に登校し、いつも通り真面目に授業を受け、いつも通りベストプレイスで一人飯にありつき、いつも通り由比ヶ浜に好きなチョコ菓子について訊かれて、いつも通り帰りのHRで平塚先生の話を聞いていた。

いや、由比ヶ浜のやつはいつも通りじゃなかったな。

いつも好きなチョコ菓子は何か訊かれるなんて怖ぇよ。どんだけ記憶力悪いんだよ。それこそあの戯言遣い並みに記憶力悪いだろ。

あ、いや、あいつは記憶力が悪いんじゃなくて、無いんだったな。

戯言だけど。

と、まあ、平塚先生の話をBGMにしながら今日という日を振り返っていたが、別に話を聞いていなかったわけではない。ホントダヨ?

その内容があまりにも非現実過ぎて真面目に話を聞く気にはなれなかったのだ。

 

《不審者には注意しろ》

 

今どきの高校生にはちょっと非現実的出来事で、それだけでクラスメイトたちはわいわいと盛り上がっている。

ただ俺としては不審者なんかどうでもいいことで、非現実は非現実に過ぎないとすら思ってしまうほど、どうでもいいことだった。

不審者なんかより恐ろしいものを知っている身としては、非現実ではなく、現実以下として見てしまっている、と言う方が正しいんだけどな。理想もなく、夢もなく、本物でもない。

不審者なんて何処にでもいるし、俺もたまに職務質問されるくらいの人間なのだから、きっと─普通の出来事なのだろう。

世界は広いと知ってしまったから、こんなことも小さく思ってしまうのだろう。

「だろうだろうって、含みのある言い方だな」

誰にも聞こえないくらい小さく呟いて、委員長くんの指示に従い帰りの挨拶をする。

起立、礼─ 

「さようなら」

 

さてと、部活に行きますかね。

すたすたとどっかに駆けていった由比ヶ浜を見送り、俺は部室へと向かってうろうろと歩いていく。

──不審者より、□□□□(ニンゲンシッカク)の方が怖ぇよなぁ…。

 

 

 

1

花より団子、ただし美味しくない。

 

2

ごめんなさい、好きな人がいるので無理です。

 

3

あっけらかんと章を二つぐらい無駄にしてしまったが、俺にとってはどうでもいいこととして脳内で処理されてしまう。

元来《ぼっち》としての能力を最適化してきた俺は、無駄な思考をしないことに長けているのだ。

無意識下に無駄なことを除外し、常に必要なことだけを考える。

そういう風に理解してもらえるとわかりやすいか。

青春を謳歌しているリア充(笑)たちは、無駄なことを考えすぎて病んだり、構ってちゃんになる人が多いらしいが、はっきり言って、馬鹿だろあいつら。

そこんところプロボッチである俺は必要なことしか考えないから、構ってちゃんなんかに成り下がらないというわけだ。

リストカットで気分スカッと♪、もやらない。

まあ、スクールカースト最底辺である俺に下がれる場所は無いんですけどね。逆を言えば上がることしかない。上がることを強いられているんだ!

だが、そもそもの話、カースト制度で決まった身分なら上に上がることはないんだけどな。

たとえ上がったとしても、また落とされるだけだ。

人間は弱者と嘘つきをいじめ、異端を疎外するのだから、必然的にまた最底辺になるだけなのだ。もしくは、疎外される。ランク外というやつだ、いい意味でも悪い意味でも。

 

ぶらりぶらぶらと特別棟の廊下を歩いていると、ファンシーでファンキーなシールが大量に貼られた名前の書かれていない室名プレートが見えてきた。

あれが我が奉仕部のネームプレートである。

因みに、あのシールは由比ヶ浜が貼ったらしく、奉仕部の部長である雪ノ下(ゆきのした)と顧問である平塚先生が何も言わないので、黙認という形で貼ることが許可されているという状況だ。

…。

プレートをよく見てみると、パンダのパンさんのシールも貼ってあった。

雪ノ下さん、あなた、実は自分も貼っていたから問題にしなかったということですか。

なかなかやりますね。

なんて思っていると俺は部室の扉の前まで来ていた。

すう、と扉の前で息を吸うと紅茶特有の匂いがする。

紅茶の名前を言うならば、ダージリンだな。

紅茶の匂いが奉仕部の匂い、とまでは言わないが、奉仕部を─あの箱庭を思い浮かべるなら、雪ノ下とセットで思い浮かぶ匂いだ。

しかし決して雪ノ下が紅茶臭いというわけではなく、奉仕部ではほぼ毎日のように雪ノ下雪乃(ゆきのしたゆきの)という才女が客を、部員をもてなすために紅茶を淹れているからである。

最近では俺も雪ノ下が淹れてくれた紅茶を頂いているんだが、前までは雪ノ下と由比ヶ浜の二人分だけで、俺の分は無かったのだから、俺と雪ノ下の信頼関係が良好になったと考えてもいいんじゃないだろうか。

なんだ、そう考えると、俺─

 

「せーんぱい!」

 

俺の思考を邪魔してきたのは、背後から掛けられた甘ったるい声音のあざとい声。

声の主に見当はある。

たぶんと言うか、絶対に一色(いっしき)いろはだ。

他に選択肢は、ない。

そもそもの話として、一色以外に俺のことを《先輩》と呼ぶやつは居ない。

あと、少し悲しくなる話なんだが、後輩の知り合いというのが一色とルミルミしかいない。

ルミルミはまだ小学生だし、数少ない選択肢を消去法で削っていくと、一色になるって訳だ。

大志?誰だよそれ。

……。

綺麗に手入れされた亜麻色の髪に、可愛らしい大きな瞳、袖を余らせた秋桜色(コスモスいろ)のカーディガン。今日も今日とて一色いろははあざとさMAXだ。因みに秋桜色と聞くと清楚っぽく聴こえるが、ピンクと紫の中間色のことである。実に一色(いっしき)らしい色だと思う。

 

一色の方へ振り向くと、ふわっといい匂いがした。

雪ノ下雪乃が紅茶の匂いならば、一色いろはは女の子の匂い、と言えるそんな匂いが俺の鼻に付いた。

「一色、香水は校則違反だかんな。生徒会長なんだから、その辺は守れよ」

一色から香った匂いが、女の子特有のふわふわした匂いじゃなく、女の子特有の香水の匂いだったってことは、比企谷(ひきがや)ノーズにはお見通しだった。

因みにこの比企谷ノーズは()()()()()()()し、上位互換に由比ヶ浜ノーズが存在する。

付け加えると由比ヶ浜のそれは、犬かよって思うほどの実力を持っているのだから驚きだ。

閑話休題。

俺に指摘された事に驚いたのか目を丸くしていた一色は、はっとした表情になる。

「どうしたんだよ」

何か変なことでも言っただろうか。いや、正しいことを言ったはずだ。

俺の一個下代の後輩である一色いろはは一年生でありながら総武高校の現生徒会長という可愛らしい外見からは考えられないような重要且つ名誉的な職を務めている。

その生徒会長さんが校則を守っていないのは、おかしい。

生徒会長になった経緯があれにしても、一色は生徒会長という立場を利用しているのだから、最低限の校則には利用される筋はある。ただ一色が着ているカーディガンが学校指定のカーディガンじゃないことは見逃してやっているが。

だからこそ、一色に校則違反を指摘する事は正しいことだ。

俺は俺にそう言い聞かせ一色の様子を見る。

一色ははっとした表情から変わって、嬉しそうに微笑み俺を上目遣いで見ていた。

そして一色は俺を見たまま口を開く。

「いえ、先輩でも可愛い後輩のことをちゃんと見てるんだなーって思ったんですよー」

一色にしては珍しく俺のことを誉めてはいるんだろうけど、やはり酷い言われようだった。ある意味すごい批評だ。批評空間だ。

それにしても一色は俺の目になにも映らないとでも思っているのだろうか。しかし残念ながら俺の目はそこまで腐ってない。

…匂いだから目は関係ねぇじゃねぇかよ。

それに可愛いって自分で言うなよ。

今の八幡(はちまん)的にポイント低いぞ。

言いたいことは山程あるが、ここは部室の前、()()()()()()()()()()()()()()()()から、ここで言うのはやめよう。

その代わり。

俺は呆れたような表情を作り、一色を鼻で笑う。

「な、なんですか!今、笑いましたよね?鼻で笑いましたよね!?」

「すまん、本音を抑えようとしたら鼻から出た」

まあ、わざとなんですけどね。

余計なことを言わないのが俺の主義だからね、仕方ないね。

謝る様子の無い俺の弁解に、一色はぷくっと頬を膨らませる。

「鼻で笑うような本音って、最低じゃないですか」

そうだろうか。

どうでもいいことだから深くは考えないけど。

「ここ寒いから中入るぞ」

二月二日、冬の終わりの始まりという季節は当然ながら暖かいわけがなく、しかし物凄く寒いというわけでもない。

これから段々と暖かくなると思うと、嬉しさ半分、炬燵(こたつ)を片付けないといけないという憂鬱感半分が本音だ。

一色はふふっと笑ったかと思うと、はーいと可愛く返事をした。

 




どうもー、函南透です。
加筆修正していってます。
取り敢えず、一章まで加筆修正します。それまでは次章はあげません!ドン!

ではまた次回に!
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