恋する一色いろは歌   作:函南 透

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投稿遅れましたすみませんありがとうございます。


その2

奉仕部の扉を開けて、一色と二人並んで一緒に部室の中へと入る。

一番最初に目に入ったのは、()()()()

「先輩?」

一色が心配そうに俺の事を呼んだ。

おっと。

いつの間にか俺は立ち止まっていたらしい。

自分のことながら《らしい》という表現はどうかと思うが、どうでもいいことなのであえて思考する必要はないだろう。

「あ、ああ。すまん。」

そう言って、俺は長机の端の方に座る。

この席が俺の定位置となっていて、俺の左隣に一色が座る。

一色との距離がいつもより近い気がするんですが、気のせいですよね?

さして気にすることでもないからほっとくんだけどさ。ほら、下手にこういうこと言うと一色にフラれるからさ。

フラれちゃうのかよ…。

俺が視線のやり場に困っていると、一色はくすりと笑う。

「ふふ、先輩らしいですね。」

「いや、なにがだよ。」

一色が何を言っているのか俺には理解できなかったが、特に深く考えることなく、一色と長話する気もないから、俺は鞄から本を取り出し、視線を本へと向け読書を──開始する。

一色もこれ以上俺と無駄話をする気はないらしく、長机の上に生徒会の仕事であろうプリントをドサッと置き、ガバッと広げ、シュパっと仕事を開始する。

こう擬音語で表すとかなりの量を感じさせるが、実際は多からず少なからずと言ったところだ。

しばらくして、一色がペン尻でかつかつとプリントの一部分を突く。

「先輩、ここはこれでいいですかね?」

プリントを見るに卒業式関連のものらしく、一色が尋ねてきたのは備品関連についてだった。

ふむ。

そういえば、来月には卒業式があるんだったな。俺が高校を卒業するのは来年だから関係ないんだけど。

在校生代表として一年生二年生からも卒業式に出席する生徒もいるらしいのだが、俺には今までそんな経験ないし、卒業式のことを特にこれといって知っているわけでもないので、俺は一色にわかりやすく答える。

「あいにく俺は卒業式のことは何も知らんからな。雪ノ下に訊け、雪ノ下に。」

うん、わかりやすい。わかりやす過ぎて一色がため息をつくレヴェル。

「はあ」とため息をついた一色は、「しょうがないですね」と呟いて、別の仕事を片付けに入る。

遠回しに後で雪ノ下に聞けという意味だったのだが、どうやら一色にはちゃんと伝わったらしい。

さすがは一色いろは。気遣いができる子だ。

 

 

 × × ×

 

 

「先輩ってほんと鈍感ですよね」

一色はシニカルに微笑みそう言った。

()()がたとえどれ程まで俺を─比企谷八幡を表している言葉だとしても、それは比企谷八幡を表しきれている言葉ではなかった。

比企谷八幡という男は、もっと─言葉で言い表すのが困難なほど─酷く腐った人間なのだ。

だから俺は一色にこう言い返す。

「俺は鈍感なんかじゃねぇよ」

「いやいやいや、どこがですか」一色は手を横に振って否定する。「先輩は人の気持ちに気付けてないじゃないですかー。そんな先輩のどこが鈍感じゃないって言えるんですかね?」

一色がここまで強く言い切るから、俺も一瞬そうなんじゃないかと思ってしまったけど、やっぱり俺はよくある青春ラブコメをテーマにしたライトノベルズの主人公よろしくな鈍感野郎なんかじゃない。

「俺は人の気持ちに気付けないんじゃなくて、人の気持ちを考慮しないんだよ」

「要するに人の気持ちを考えないってことですか。だから結衣先輩に泣かれちゃうんですよ」

「なっ、由比ヶ浜は今関係ないだろ」

「そうですね。"今"は関係無いかもですね」

含みのある言い方をした一色は、「けど」と更に続ける。

「今までがそうだったように、これからも先輩は結衣先輩を泣かせるんです」

たしかに今まではそうだったかもしれない。

京都でのあの出来事で由比ヶ浜は泣いた。人の気持ちを考えない俺に、

『人の気持ち、もっと考えてよ…』と。

あれから俺はやり方を変えた。

本物と呼べるモノになるために。

だから…だから─

「…泣かせてたまるかよ」

俺の言葉に一色はくすりと笑う。

「楽しみにしてますね」

 

 

 × × ×

 

 

俺が一色と交わした会話を思い出してしまうほどの違和感が部室にはあった。

時間は俺が部室に入った頃からあまり経ってなく、外では生徒たちがわいわいと騒ぎながら下校しているようだ。

左を見ると、プリントとにらめっこしてる一色がいる。

その様子はいつもいるかのような堂々としたものだった。

ていうか一色のやつ、いつの間にか居座っていたから、いつも居るんだよなぁ…。

生徒会役員選挙が出会いのきっかけだったけか。

ある依頼を持って、奉仕部の顧問である平塚先生と当時はまだ生徒会長であった城廻(しろめぐり)先輩に連れられてやって来たのが一色いろは。

誰も立候補していない生徒会長という役職に、推薦人三十人集めて立候補させられた一色は、選挙に負けることを奉仕部に依頼した。

きっと一色いろはという人間が邪魔だったから、一色と同じクラスの人間が嫌がらせとして推薦をしたのだろう。

そのあざとさが邪魔だったから。

その可愛さが目障りだったから。

理由は何でもいい。

兎に角、一色いろはは()()()だったということだ。

それでも俺の中では、一色いろはは邪魔者ではない。

鬱陶しいけど。

…。

違う、違う、そうじゃ、そうじゃない。

一色の事を考えるんじゃない、今感じている違和感について考えるんだ。感じるんだ!

俺はぶんぶんと首を横に振り、邪念を吹き飛ばして今感じている違和感について考えるべく、奉仕部の現状を整理しにかかる。

放課後直ぐの時間とあって、外ではまだ帰宅する生徒がちらほら見える。その中には勿論、部活に行く生徒もいるのだろう。

いつも通りの日常。

そこに違和感は無い。

例えそれが偽物だとしても、本物になろうとしている時点で本物より本物なのかもしれない。

偽物の詐欺師だって、少年少女に言い聞かせちゃうレヴェルだ。

でも結局は──、

至極どうでもいいな、本当に。

 

次に部室の中をぐるっと見渡してみる。

長机に幾つかプリントを並べて生徒会の仕事をしている一色いろはがいて、俺の座っている位置の反対側、端っこには雪ノ下雪乃が座っている。

どうでもいいことだが一応伝えておくと、雪ノ下は膝の上に文庫本を置いて眠っている。

疲れているのだろう、俺と一色は暗黙にそっとしておくことに了解した。そこに誤解があるかもしれない、が。

どうでもいい。

まあ、雪ノ下は寝ている。それだけだ。

それ以上でも、それ以下でもなく、寝ているだけ。なにもしてない。

本当に、

「どうでもいいよな」

と誰にも聞こえないように呟いて、空欠伸をかます。

後は由比ヶ浜か。

由比ヶ浜はいつも通り携帯電話をいじって…。

俺は由比ヶ浜がいつも座っている席に視線を送る。

明るく脱色された髪にお団子頭、いつもその場を盛り上げて─いる由比ヶ浜結衣。

しかし、()()()()()()()()()姿()()()()()()

跡形もなく。

ぽつんと席が一つ空いている状態で、誰も座ることなく、椅子が置いてあった。

奉仕部の部員は、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣、そして比企谷八幡の三人で構成されている。

本物になろうとしている三人で、上辺だけの付き合いではなく、本音を言い合える仲の三人だ。

だからか。

由比ヶ浜が居ないという事が、違和感に感じるのは。

俺と雪ノ下だけでは奉仕部ではないのだ。

雪ノ下と俺の間に由比ヶ浜が入って初めて奉仕部になる。

上低と下底だけでは本物にはなれないという訳だ。

高さが無ければ、雪ノ下と俺を繋いでくれる由比ヶ浜がいなければ本物を求められないのだ。

本物を求めて、それで終わってしまうのだろうか。

解が出たら終わるようなものなのだろうか。

分からない、だけど俺は欲した。

そこにどんな結末が待っていようと、何を犠牲にしてでも欲した本物。

いつか手に入れるその日まで、欲し続けよう。

再確認して、俺は口を開く。

「一色、由比ヶ浜にメール送っといてくれ」

それを聞いた一色は、何言ってんの?この人…みたいな顔をしてこう言う。

「それくらい自分でやってくださいよ」

だよな。予想してた答えが来て安心する。

実家のような安心感だわ。

お父さんお母さん、これからも養ってください。あと、小町大好き。アイシテル。

安心感からか、俺は一回大きく息を吸い、そして吐いた。

深呼吸と言えばわかりやすいか。

ふう。

ポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、由比ヶ浜にメールを送るべくスマートフォンを弄る。

スライドして、タップして、くぱぁ。

すげぇ指が疲れるな…。

由比ヶ浜は常にこれをやっていたのだろうか。すげぇな。

ピアニスト並みに指の力強いんじゃねぇの?

そんな事を考えている内にメールを打ち終わった。

誤字が無いか一度確認する。

よし。

誤字無し、顔文字無し、文脈適当。

万全だな、なんて思いながら送信ボタンをタップして由比ヶ浜にメールを送る。

一分くらいして、由比ヶ浜から返信が来た。

ふむふむ。

顔文字が邪魔だが、内容は簡単な物だった。

どうやら調理室にいるらしく、片付けが終わったら直ぐに来るとのことだった。

了解の意を込めて短く返信する。

なんだかメールって、楽しいな。

気分がいいので顔文字もつけといてやった。

今の八幡的にポイント高い。

「先輩、その顔本当に気持ち悪いです」

一色が身を引きつつ気持ち悪そうに言った。ていうか、引いた。

ほっとけ。

嬉しいことがあるとついにやけるんだよ。つい、な。

「俺が気持ち悪いのはいつものことだ。そっとしとけ」

そう言って、俺はめんどくさそうな顔をし、左手でしっしと払う仕草をする。

一色が「照れ屋だなぁ」と少し笑みを浮かべながら呟いたので、俺は「そんなんじゃねぇよ」と返し、由比ヶ浜が来るまで本に意識を戻した。

 

──────────

おまけ 八幡と結衣のメールでのやり取り

 

16:48

FROM 八幡

TITLE nontitle

─────────

今日部活は

            』

 

16:49

FROM ☆★ゆい★☆

TITLE Re

─────────

調理室片付け終わったら行くよ!(`・ω・´)

あと顔文字ないと怒ってるみたいに見えるって何回も言ってるじゃん!

ていうかヒッキーからメールって珍しくない(。・ω・。)?

            』

 

16:53

FROM 八幡

TITLE Re2

─────────

そうか^^

別に怒ってないから安心しろ^^;

 

それはお前からのメールが多いだけだ』

 

16:55

FROM ☆★ゆい★☆

TITLE Re3

─────────

なんで最後だけ顔文字使わなかったし!

本当に怒ってるみたいじゃん(´・ω・`)

            』




ぼっちろー、テストとかいう学生の敵と戦ってたと思ったら、いつの間にかメガガルーラと戦っていた函南透だよ!ポケモン楽しいよ!

はい、加筆修正後回しでポケモンやってました。すみません。受験勉強もやってたのでさらに遅れました。ありがとうございます。

一色がヒロインです!由比ヶ浜はヒロインじゃありません!と一応言っておきますが、全員が全員、物語に深く関わるので由比ヶ浜もサブヒロインくらい語ってもいいはず。僕が由比ヶ浜のこと好きなのもありますけど。

次回は、加筆修正前は百合ヶ浜間違えた由比ヶ浜回でしたが、かなり修正するつもりなので一色回になるかもです。かも。

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