問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん二世
“アンダーウッド”収穫祭本陣営。
黒ウサギとジンと蘭丸はその後、サラの許に呼び出されていた。“ノーネーム”と同じく呼び出された“ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーと共にサラへ問う。
「サラ様。一体これはどういうことですか?魔王は十年前に滅んだと聞いてましたが」
ジンの追求を聞き、サラは背凭れに仰け反り天を仰いだ。
「……すまない。今晩詳しい話をさせてもらおうと思ったのだが、彼奴らの動きが存外早かった。実は両コミュニティいを“アンダーウッド”に招待したのには訳があったのだ。……話を聞いてくれるか?」
「はい」
「ヤホホ……話だけなら」
即答するジンと笑って誤魔化すジャック。サラは身を乗り出し事情を説明する。
「この“アンダーウッド”が魔王の襲撃を受けていたという話は、既に聞いたな?」
「ああ。確か十年前の出来事だよな?」
「そうだ。魔王を倒す事は出来たのだが、傷跡は深く残ってしまった。そして魔王の残党が、“アンダーウッド”に復讐を企んでいるらしい」
「なるほどな、それがさっきの巨人族なのか?」
「そうだ。しかしそれだけとは限らん。私もさっきまで巡回に行っていたのだが、やはり周囲の様子がおかしい。ぺリュドンを始め殺人種と呼ばれる幻獣まで集まり始めている。グリフォンの威嚇いかくにすら動じないとなると、何かしらの術で操られている可能性もある」
サラは滔々と推測を述べる。黒ウサギは了承するも、新たに生まれた疑問を提示した。
「しかしあの巨人族は、一体どこの巨人族なのですか? あの仮面は見覚えがありませんが」
ふむ、とそこで会話を切る。言葉を纏めるように悩んだサラは、ゆっくりと解答を口にする。
「あの魔王の残党は……箱庭に逃げ込んできた巨人族の末裔。その混血達だ」
やはり、と黒ウサギは頷いた。
「箱庭の巨人族はその多くが敗残兵だ。ケルトのフォモール族などが代表格なのだが、北欧の者達も多い。敗残してきた経緯から、基本的に戦いを避ける穏やかな気性で、物造りに長けた種なのだが……五十年前に“侵略の書”と呼ばれる魔道書を手に入れた部族が、“主催者権限”を用いて巨人族を支配し始めたのがキッカケだ」
む、と黒ウサギは考える様にウサ耳を伏せる。
「“侵略の書”……? もしやゲーム名は、Labor Gabalaと呼ばれるものだったのでは?」
「知っているのか?」
「え、ええ。しかし知っているとは言っても、軽くウサ耳に挟んだ程度の知識でございます。別名では“来寇書”と呼ばれる“主催者権限”で、土地を賭け合うゲームを強制できる書だとか」
「俺もそれは聞いたことがある。数ある“主催者権限”の中では最もポピュラーな能力とも言え、彼奴らはそれで次々とコミュニティを巨大にしていった、とか……」
しかし、その魔王の一族は戦いに敗れて滅んだ。巨人族は敗残兵に戻ったのだ。
「……けど、巨人族は今でもこの“アンダーウッド”を狙い続けている。元が気性の穏やかな一族であるのにも拘かかわらず。つまり此処ここには、奴らがそれ程までに執着する何かが在るって事か?」
蘭丸の指摘にサラは首を縦に振る。彼女は椅子から立ち上がり、壁に掛けてあった連盟旗を捲めくった。その後ろあった隠し金庫から人の頭ぐらいの大きな石を取り出し、一同に見せる。
「連中の狙いは、この“瞳”だ」
「“瞳”……ですか?この岩石が?」
ジンが目の前に置かれた石を見て尋ねる。サラは頷くと、厳かな声音で説明した。
「ああ。今は封印されているが……もしも開封されれば、一度に一〇〇の神霊を殺す事が出来ると言われている」
「…おいおいマジかよ。それって“バロールの死眼”じゃないのか?」
驚愕する蘭丸に続き、ガタン‼︎と、ジンと黒ウサギは腰を浮かせる程驚いた。
「バ、バ、“バロールの死眼”!?」
「ご、御冗談をッ!? “バロールの死眼”と言えば、ケルト神話群において最強最悪とされた死の神眼!! 視るだけで死の恩恵を与える、魔王の瞳ではありませんか!!!」
血相を変えて声を上げる。しかしながら、その凶悪さを考えれば無理もないだろう。
“バロールの死眼”とは、死の恩恵を与える心眼である。紀元前五世紀にまで遡さかのぼって語られるケルト神話に記述された、巨人族の王バロールが所持したとされる神眼。この瞳が一度瞼まぶたを開けば、太陽の如き光と共に死を与えると伝承されている。
以前“ノーネーム”が戦った“黒死斑の魔王”が、風に乗せて死を運んでいたとするならば。
“バロールの死眼”は、光と共に死を強制する瞳なのだ。
「しかし“バロールの死眼”はバロールの死と共に失われたはず。それが何故なぜ今さら」
「そうおかしな事ではない。聞けばケルト神というのは多くが後天性の神霊と聞く。ならば神霊に成り上がる為ための霊格が確率されている事になる」
「つまり、第二第三のバロールが現れても何ら不思議では無い……ってことか」
蘭丸の言葉に、サラは真剣な面持ちで頷いた。彼女が述べる通り、神霊は功績を積む事で後天的に成り上がる事が出来る。“黒死斑の魔王”がいい例だろう。彼女は八〇〇〇万の死霊群で在る事とは別に、ハーメルンの笛吹きによる信仰と恐怖を取り込んで神霊に昇華した。つまり神霊への転生とは、“一定以上の信仰を集める”という試練を乗り越えた先にある恩恵なのだ。
「い、言われてみれば確かに。ケルト神の半分以上は、国威と共に信仰を得た種族です。権威あるドルイド達の信仰が、祖霊崇拝と自然崇拝が主流だったからという記憶がありますが……」
「そうだ。人は信仰を集めれば神に成れる。ケルト神話群はその顕著な一例だ。故ゆえに箱庭の中では偶発的に“バロールの死眼”を開眼させる巨人族は、少なからず現れたらしい。一説では、“侵略の書”の副産物とも言われているがな」
そう言って視線を落とすサラ。その瞳の先には、魔王の力が宿る瞳。
「連中は何としてもこの神眼を取り戻したいのだろう。適性が無ければ十全の力を発揮しないが、それでも強力なギフトであることは変わりない。私達が収穫祭で忙しい時を狙って、今後も襲撃を仕掛けてくるだろう」
「ヤホホ……その襲撃から街を守る為ために、我々に協力しろと?」
サラの要請に、ジャックとアーシャはあからさまに嫌な顔をした。彼らは戦闘力こそあるが、そもそも武闘派のコミュニティではない。“ウィル・オ・ウィスプ”は、あくまで物造りが主体の組織である。前回のように巻き込まれたならともかく、進んで戦いに臨のぞむのは主義に反するのだろう。アーシャは青髪のツインテールを左右に振って難色を示す。
「確かにウィラ姉は強いよ。でも、性格が致命的に戦闘向きじゃないんだよね。だから滅多なことじゃギフトゲームにも参加しないし。それにこの件はまず、“階層支配者”に相談するのが筋ってもんだろ?相手はギフトゲームすら無視する無法者だぜ?」
彼女の指摘に、サラは沈鬱そうに黙り込む。その指摘は正しかった。
“階層支配者”とは今回のように無法行為を行う連中を裁くことが使命。ましてや相手は“主催者権限”すら持ち合わせていない無法者である。問答無用で虐殺されても文句は言えない。しかしサラは、辛そうな視線を向けて首を横に振った。
「残念ながら……現在南側に“階層支配者”は存在しない」
「……は?」
「先月の事だ。時期としては“黒死斑の魔王”が現れたのと同時期になる。七〇〇〇〇〇〇外門に現れた魔王に“階層支配者”が討たれたのだ。その後の安否は今も分からん。しかも魔王の正体すら不明ということ」
「なっ!?」
予想外の回答に絶句するアーシャ。他の面々も同様だ。まさか“階層支配者”が不在になっているとは思いもしなかったのだろう。サラは静かに天を仰あおぎ、南側の現状を話す。
「巨人族が暴れ始めたのはそれからの事なのだ。本来なら“アンダーウッド”に移住してくるはずであった“一本角”の同士……ユニコーンの群れも、奴らの襲撃で壊滅的な打撃を受けたらしい。以後、連絡も途絶えたままだ」
「そ、そんな……!」
黒ウサギは蒼白になった。それではトリトニスの滝で出会ったユニコーンも無事では済まないだろう。
「我々は白夜叉様に代行として、この南側から新たな“階層支配者”を選定して貰えないかと相談した。しかし秩序の守護を司る“階層支配者”として相応しいコミュニティなど、そうそう見つかる物ではない。そこで白夜叉様から話を持ちかけられたのが……“龍角を持つ鷲獅子ドラコ・グライフ”連盟の五桁昇格と、“階層支配者”の任命を同時に行うというものだった」
「なるほどな。つまり今回の収穫祭は単なる土地の再興を誇示するだけの催しじゃ無く、“龍角を持つ鷲獅子”の五桁昇格と“階層支配者”の任命を賭けた一世一代のゲームってわけだ」
その言葉に、ジンと黒ウサギは息を呑む。
サラは頷き、事の重要性を語る。
「そうだ。“階層支配者”に任命されれば“主催者権限”と共に強力な恩恵を賜たまわる。巨人族を殲滅するには“主催者権限”を用いたギフトゲームで挑むしかない。南側の安寧のためにも、この収穫祭は絶対に成功させねばならないのだ」
強固な決意で宣言するサラ。初めて知る真実に言葉を無くす一同だが、黒ウサギは同時に納得もしていた。
“龍角を持つ鷲獅子”は、下層においても有数の規模を誇る連盟だ。遥か遠い“ノーネーム”の二一〇五三八〇外門にさえ、“六本傷”の分家が存在している。そして規模と同様に、活動の歴史も長い。その由緒ある連盟の議長席に、新参であるはずのサラ=ドルトレイクが座っている。如何いかに南側の住人が大らかな気性とはいえ、群れの主ともいえる議長席を易々やすやす譲るはずがない。縄張り意識の強い一部の幻獣などは尚更なおさらだ。しかしサラは、“階層支配者”である“サラマンドラ”の元跡取り娘である。その経験も見込まれ、僅か三年という所属歴で議長に任命されたのだろう。
(サラ様は御父上の隣でずっと“階層支配者”の活動を見てきたはず。“龍角を持つ鷲獅子”連盟の将来を見据えれば、彼女を議長に据えるのは当然の流れだったのかも)
黒ウサギはサラの素姓や人格を詳しく知っている訳ではないが、仮にも“サラマンドラ”は元同名コミュニティだ。
その跡取り娘であっただけに、噂程度には聞いていた。
彼女が星海龍王の龍角を継承すれば、“サラマンドラ”は最盛期を迎えるだろうと噂されていたほどの逸材である。
しかし当のサラは、憂鬱気に赤髪を触って苦笑を浮かべた。
「次期“階層支配者”という立場を捨てて“龍角を持つ鷲獅子”連盟に身を置いた私が、現在は南側の“階層支配者”になろうとしている。さぞや滑稽に見えるだろうが……生憎と手段を選んでいる場合ではない。南側の安寧の為ためにも、両コミュニティの力を貸していただけないだろうか?」
「そう言われましてもねえ……」
ジャックは事情を聞いてもまだ難色を示す。
それでも引く下がるという選択肢を持たないサラは、“バロールの死眼”の上に手の平を載のせ、
「無論、タダとは言わん。多くの武功を立てたコミュニティには、この“バロールの死眼”を与えようと思う」
「は……!?」
「聞けばウィラ=ザ=イグニファトゥスは生死の境界を行き来する程の力があると言う。ならばこの“バロールの死眼”も十全に使いこなせよう。我らの手元で腐らせておくよりは、彼女の下で力を振るった方が有益というものだ。……どうだろう、ジャック」
「それは……まあ、おっしゃる通りですが。確かにウィラならば、“バロールの死眼”の適性は高いでしょう。しかし、我々以外のコミュニティに渡った時はどうするのです? 下層でウィラ以外に“バロールの死眼を使いこなせる例外など……きっと居ませんよ?」
チラ、とジャックが蘭丸達を見る。
“ノーネーム”であれば別だとも思っているのだろう。
サラもその視線に気づき、頷いて返す。
「安心して欲しい。“バロールの死眼”を譲渡するのは、“ウィル・オ・ウィスプ”か“ノーネーム”の何れかに限らせてもらう予定だ」
「ぼ、僕達もですか?」
「し、しかしサラ様。黒ウサギ達の同士に適性持ちはいないと思われわすよ?」
難色を示す二人に対して今度はサラが驚き、思い出したように切り出した。
「すまない、すっかり忘れていた。実は白夜叉様から“ノーネーム”へ、新たな恩恵を預かっていたのだった」
「それって……“アレ”の事か?」
「ああ、話は既に聞いているだろう?『The PIED PIPER of HAMELIN』をクリアした報酬のことだ。アレさえあれば、“バロールの死眼”を使いこなすことが出来るはず」
パンパン、とサラが手を叩いて使用人を呼ぶ。現れた使用人は両手に小箱を持っており、蓋ふたには向かい合う双女神の女神の紋が刻まれていた。“サウザンドアイズ”の旗印で封印された小箱を渡されたジンは、面食らって驚く。
「これが、新たな“恩恵”……?」
「そう。お前達は“黒死斑の魔王”主催ゲーム、『The PIED PIPER of HAMELIN』を全ての勝利条件を満たしてクリアした。これはその特別恩賞。開けてみるといい」
ジンは神妙な顔で頷き、小箱の封を解く。中には笛吹き道化“グリムグリモワール・ハーメルン”の旗印を刻んだ指輪が入っていた。
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