問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん二世
これで三章は終わりです。
七七五九一七五外門“アンダーウッドの大瀑布”フィル・ボルグの丘陵。
十六夜は“アンダーウッド”に着くや否や、瞳を輝かせて丘陵の上から一帯を見渡した。
「緑と清流と青空の舞台。ハハッ、北側の石と炎の真逆じゃねえか!ちょっと出来過ぎじゃねえ?いや、俺は歓迎だが?むしろ抱きしめたいぐらい大歓迎だが?ちょっくら抱きしめに行ってもいいか、レティシア?」
「構わんよ。黒ウサギ達には私から伝えておく」
レティシアは苦笑を浮かべながら承諾する。十六夜は我慢しきれないとばかりに走り出し、“アンダーウッド”の大樹を目指した。そして最上に着いた十六夜は寝転がる水樹の葉と枝を押さえて確認し、多分に水分を含んだ葉は寝転がるのには最適だった。
「よしよし、いいぞ。シチュエーションとしては最高だ。これで肴の一つもあればよかったんだが……ま、今日は星空だけでいいか」
ゴロンと葉に寝転ぶ。そして“アンダーウッドの大瀑布”の力強い水音を堪能しながら、箱庭の星空を眺める。
「……星の位置は箱庭も変わらねえんだな」
デネブ、アルタイル、ベガ、夏の大三角を指先でなぞる。
(鈴華や焔はどうしてるかな……ま、あの二人ならふてぶてしく元気にやってるか)
らしくない郷愁を、軽く首を振って払う。すると後方から気配を感じそっと振り返った。
「おっと、先客か…今宵は星空をと思ったんだが……どうやら同じ趣味の奴がいたとはな」
「ヤハハ、嘘つけ。俺ならここに来ると持ってたんだろ?」
「まあ否定はしない」
微笑を浮かべながら十六夜の隣に腰を下ろす蘭丸。
「黒ウサギが探してたぞ。“主催者”への挨拶を済ませろだってさ。まあじきにここも見つかるだろうがな」
「まあそれは後で行くさ」
「それと、お前のヘッドホンについてだが…」
「ああ、あれか?春日部の三毛猫が自白でもしたか?」
ニヤリと笑う十六夜。そしてつられて苦笑を浮かべる蘭丸。
「やっぱり気づいてたか」
「ああ、つーかこんなあからさまな証拠を残されたら名探偵を気取る気にもられないぜ」
十六夜はポケットから猫の毛が入った小瓶を取り出し、目の前に翳す。
「確かにな。これじゃあシャーロックホームズは気どれないな」
「最初は春日部がやらせたのかとも勘ぐったが、そんな素振りは見せなかった。それに春日部ならもっと上手くやるだろう。となれば、あの三毛猫が単独でやったと考えるのが妥当だ」
「一応聞いておくが……怒ってるか?」
「別に? レティシアにも言ったが、どうせ素人が作った代物だ。一銭の価値も無い。焔のご要望通り、広告塔として付けてやっていただけだ」
「へえ、それはまた随分らしいな」
「そんなことより、手紙に書いてあった“クイーン・ハロウィン”の寵愛者ってのがよっぽど気になるね。強いのか?」
「ああ、強いな」
蘭丸程の実力者に強いと言う程の好評価に十六夜は好奇心を膨れさせる。
「……そんなに強いか?」
「ああ、俺程では無いとしても、お前と互角位の実力はあるだろうな」
蘭丸の評価に十六夜は満足した様に頷き、星空を見上げた。
「そうか……ならその一点だけは、巨人族の連中に感謝しないとな。おかげで収穫祭にいられる時間が延びた。ましてやそんな面白い奴がいるなら是が非でも相手をしてもらわねえと」
「まあ、そうなるといいな」
「そしてそいつを倒した後は……お前だぜ蘭丸」
蘭丸に指を指しニヤリと笑う十六夜。蘭丸は最初こそ面を食らっていたが、すぐに好戦的な目へと変わっていた。
「ふ、そうかそいつは楽しみだな。精々頑張るんだな」
「ハッその傲慢を潰してやるよ」
両者は暫く睨み合うと、戦意を霧散させた。二人がそんなやりとりをしているとガサゴソと後ろの木々が揺れていた。
「ここにいましたか十六夜さん!早く“主催者”に挨拶を……って、あれれ?蘭丸さんもご一緒ですか?」
「ああ。ちょっと前にこいつを捕獲した」
「ちょうど二人で敵情視察をしてたところだ」
「敵情って……巨人族ですか?」
「いいや。この“アンダーウッドの大瀑布”のことさ」
へ?と首とウサ耳を傾ける黒ウサギ。
「南側の下層で、屈指の景観を持つ水舞台。“世界の果て”の迫力とスケールには劣るものの、美しく整えられた土地は流石の俺も認めざるを得ない。……なあ黒ウサギ。俺たちもこんな舞台を作りたいと思わないか?」
十六夜と蘭丸はニヤリと笑って黒ウサギを見つめる。
「つまり敵情視察とは……“地域支配者”として、“アンダーウッド”を超える水舞台を整えるということですか?」
「そうだ。それは何も二一五三八〇外門に限ったものじゃない。更に領地を増やせば、出来る事だって多くなる。ギフトだって集まりやすくなる。……今はまだ農園や水源施設を整える程度だが、聞けばこの“アンダーウッド”は十年で復興を遂げたそうじゃねえか。だからまずは十年、この“アンダーウッド”を目標にする。この水舞台の景観は、目標として相応しいからな」
ヤハハ!と高らかに哄笑を上げる十六夜。蘭丸はクスリと笑うと黒ウサギに告げる。
「……星空に旗を飾り、地上で最も華やかなコミュニティ。これならどんな奴の耳にも届くだろうな。それこそ行方を眩ませている同士にも」
「っ‼︎……………」
思いもよらぬ真意に息を呑み、ギュッと胸の前で両手を握りしめる黒ウサギ。蘭丸は黒ウサギを頭を数回撫でた後、巨人族が進行してきた方角を指差し、
「だがまずは巨人族だ。収穫祭を邪魔されちゃかなわないからな、“アンダーウッド”の為にも蹴散らしてやるよ」
「全くだ。魔王の残党だが知らねえがやることなすこと無粋にも程がある」
「………ふふ。お二人らしいですね。ならばこの黒ウサギも不逞な巨人族を殲滅するのに一役買うのですよ!」
シャキンとウサ耳を伸ばす黒ウサギ。微笑を浮かべながら背骨をパキパキと音を鳴らせる蘭丸。ヤハハ!と軽快に笑う十六夜。
黒ウサギはそんな二人を見つめ静かに微笑んだ。
「お二人を見ていると、とある方を思い出します」
「へえそれは見所のあるやつだな」
「それはもう。何と言ってもコミュニティの前参謀だった方です。その方を“主催者”をする時は何時も揃って同じ事を言うのです。『主催者は参加者を感動させるのが義務だ。金銭のやり取りはその場で切れる縁だけど、感動が完全に消えることはない。何故なら感動とは、生きるのに必要な糧であるからなのだッ!!』とか、真面目に話してくれました」
でもリピーター率は良かったんですよねー♪と楽しげに話す黒ウサギ。
「へえ、ソイツは女なのか?」
「Yes!レティシア様とは別のベクトルの金の美髪で、とても魅力的な方でした」
「ほぉ……黒ウサギは仲良かったのか?」
「仲がいいも何も、黒ウサギが幼い頃にコミュニティで保護してくれた大恩人でございます。無類の子供好きで、優しくて、聡明で……黒ウサギの憧れの方々でした」
黒ウサギは立ち上がり夜空を見上げてふっと目を細める。
「どんなことがあっても……あの方だけはきっと無事です。不思議とそんな風に思わせてくれる方々でした。だからこの窮地にこそ、黒ウサギが駆けつけ、昔の大恩をお返しするのです!そして蘭丸さんや十六夜さん達の事を紹介して、今より素敵な毎日を送るのですよ!」
ムンッ、と健気にも気合いを入れる黒ウサギ。
十六夜は黙り込んだまま、静かに夜空を見上げる。その瞳は先ほどと比べ遙か遠くを見つめているようで、何も映してはいない。
その表情に黒ウサギは少し不安を覚えた。
「……どうしました、十六夜さん?」
「いや……アルタイルの星はどれだったかなと思ってな」
指で星空をなぞりながら誤魔化すように呟く。黒ウサギはその隣で星を指した。
「もう、アルタイルは鷲座の首星ですよ。きっとあの辺りの星が…………」
…………え?と黒ウサギが声をあげ。ガバッと十六夜は我に返って腰を上げる。すると一陣の不吉な夜風が三人の間をすり抜けた。三人の見間違いでなければ、一瞬複数の星が光を無くしたのだ。
「………なんだ、今のは」
蘭丸は訝しげに眉を顰める。しかし異変は、間を置かずに連続して発生した。
『目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ』
そんな不吉な声を聞いた瞬間。“アンダーウッド”に黄金の琴線を弾く音が響いた。
**
その声は宿舎に居たレティシアにも届いていた。
『目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ』
えっ?と呟いたレティシアの体から力が抜ける。同時に琴線を弾く音色が三度響き、彼女の意識を混濁させる。何が起こっているかわからない。飛びそうな意識の中、かろうじて背後を見たレティシアは、クスクスと笑うローブの詩人を目撃する。
「ふふ、トロイヤ作戦大成功。お久しぶりですね、“魔王ドラキュラ”。巨人族の神格を持つ音色は如何いかがですか?」
「き……貴様……何者、」
「あらあら、ほんの数ヶ月前の出会いも忘れちゃうなんて、少し酷いのではなくて? ……しかしそれも、すぐ気にならなくなるわ。だって貴女は……」
……もう一度、魔王として復活するのだから。
**
『目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ。
目覚めよ四つの角のある調和の枠よ。
竪琴よりは夏も冬も聞こえ来たる。
笛の音色より疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ!』
その詠唱に蘭丸と十六夜はハッとなって顔を上げた。
「この詩は……まずい、黒ウサギ! 耀が巨人族から奪った“黄金の竪琴”は何処にある!?」
「え!?そ、それならサラ様が管理しているはずですが、」
「すぐに破壊しろ!! あの竪琴は……」
『如何にも。貴様らの想像通り、あの竪琴は“来寇の書”の紙片より召喚されたトゥアハ・デ・ダナンの神格武具。敵地にあって尚、目覚めの歌で音色を奏でる神の楽器だ』
低く、老齢を思わせるしわがれた声。しかし、居場所を特定させないように細工されているのか、周囲に反響して響く。正体が分からない謎の声を聴き、三人は背中合わせになって警戒する。しかし声の主は一向に姿を見せず、嘲笑うように彼らへ告げた。
『そう急くな、“箱庭の貴族”とその同士よ。今宵は開幕の一夜。まずは吸血鬼の姫“魔王ドラキュラ”の復活を喜ぶがいい!』
刹那、夜空が二つに裂けた。晴れ晴れとしていたはずの夜空は暗雲に包まれ稲光を放ち“アンダーウッド”の空を昏くらく染め上げていく。
二つに割れた空から十六夜達は、神話の光景を見た。
「まさか……あれが………!?」
『そう。神話にのみ息衝く、最強の生命体──龍の純血種だ───!!!』
「GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!」
常識外れの雄たけびは、それだけで“アンダーウッド”の総身を揺り動かす。頭の頭部はかろうじて見えたものの、その全長は雲海に隠れて見えないほどの巨躯なのだ。
「龍……これが龍……!?」
蘭丸はかつてない威圧感に戦慄した。巨龍が現れた星空の歪みからはさらに巨大な城のような影が見え隠れしている。
巨龍の召喚により混乱した“アンダーウッド”ににさらに拍車をかけるかのように巨人族が進行している。
罵声と号令が飛び交う中、巨龍の雄叫びと稲妻はますます激しく“アンダーウッド”を揺らしている。一層大きな雄叫びが一帯を震撼させると、巨龍の鱗が雨のように降り注ぎ、その一枚一枚が巨亀や大蛇となって街を襲い始めた。
「鱗から分裂して新種を作り始めた……?まさか、本当に龍の純血種だというのですか⁉︎そんな……本物の最強種が下層に現れるなんて……!」
「ごちゃごちゃ言ってる場合かッ!すぐに降りるぞ!」
十六夜の一括に、黒ウサギも我に返って頷く。
「ち!コレは予想外だった!」
蘭丸は盛大に舌打ちをする。
大樹の頂上のから飛び降りようとした三人は、地下都市から高速で飛翔するローブの詩人と、その腕に捕らえられた、
「レ、レティシア様ッ!」
「蘭丸……黒ウサギ……十六夜……!」
混濁した瞳の彼女は、彼らをを視界に捉えたことで僅かに意識を取り戻す。空を見上げた彼女は、巨龍と空中に浮かぶ城の影を確認し、ようやく現状を悟った。
(私の“主催者権限ホストマスター”の封印を解いた……⁉︎コイツ、まさか!?)
敵の正体に蒼白になるがしかし、その腕から逃れるだけの力はない。己の運命を受け止めるように瞼を閉じたレティシアは、眼下の三人に訴える。
「………十三番目の、太陽を……!」
「え?」
レティシアの微かな声に耳を傾ける。
天高く掲げられた彼女は、全霊を込めて叫んだ。
「十三番目だ……十三番目の太陽を撃て……! それが、私のゲームをクリアする唯一の鍵だ!!!」
断末魔にも似た叫びと共に、レティシアは巨龍に飲み込まれて光となる。その光は軈て黒い封書となり、魔王の“契約書類”となって“アンダーウッド”に降り注いだ。
【ギフトゲーム名『SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING』
・プレイヤー
獣の帯に巻かれた全ての生命体。
※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。
・プレイヤー側敗北条件
なし(死亡も敗北と認めず)
・プレイヤー側ペナルティ条項
ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。
時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
ペナルティは“串刺しの刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。
解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。
※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。
・ホストマスター側勝利条件
なし
・プレイヤー側勝利条件
一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。
二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。
三、砕かれた星空を集め、獣の帯に玉座を捧げよ。
四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主義者の心臓を撃て。
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“ ”印】
突如現れた巨龍、そしてさらわれ、魔王として復活したレティシア。
果たして問題児達はこのゲームを乗り越え、レティシアを救うことができるのだろうか?
次章十三番目の太陽を撃て!
蘭丸「………待ってろよ、レティシア!」
これで第三章は終了です。次章もお楽しみに!
誤字、感想、お待ちしております。