問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん二世
………とは言ってもこの小説を心待ちにしている人なんているのか?
ではではどうぞ!
ーー“アンダーウッド”主賓室。
収穫祭の準備で賑わう街を見下ろせるこの主賓室に一同は集まっていた。厨房でパンプキンキッシュの下地を作った十六夜はあの後、館に向かう道中で飛鳥たちと合流し、白雪姫を彼女たちに預けたのだ。
「やれやれ………ゲームが解けたと息巻いていたから任せてやったのに。惨敗だったみたいじゃねえか」
十六夜は主賓室の椅子の上で足を組みながら肩を竦ませ蘭丸に飛ばされ帰ってきた飛鳥たちを小馬鹿にした。飛鳥と耀は口を尖らせながらも反論できずにいた。
飛鳥たちから事情を聞いたガロロは唸り声をあげた後飛鳥たちを睨んだ。
「………話は分かった。つまりその人形が“退廃の風”の目的なんだな?」
「ええ」
「だったら話が早い。今すぐその人形を館に返して来い」
「そんな! 今あの館に戻ったらコッペちゃんが危ないです!」
ガロロの決断に狐耳を立てて抗議するリリ。
「だろうな。だが相手は箱庭でも最上位に危険な天災の一つ。倒すことが不可能とされる怪物を相手にお嬢ちゃんはどうするってんだい?」
「で、でも………」
リリは狐耳と二尾を激しく降りながら抗議するが彼女にあれをどうにかする策などない。そこに耀がそろーっと手を挙げる。
「ね、ねえその館のことなんだけど……」
「あん?」
「多分蘭丸があの風ごと消しちゃったかも………」
「はあぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
これにはガロロも叫ばずにはいられなかった。問題児三人ならまだしもよもや蘭丸がやってしまうとは思わなかった。
ガロロはガックリと肩を落とした。もはやこの“アンダーウッド”は終わりだと言われたようなものだった。
「厳密にいうと、“退廃の風”を追い返す方法はある」
「本当ですか⁉︎」
白雪姫の言葉にリリはぱあっと明るくなり白雪姫の手を取る。
「う、うむ………狐の娘よ。おぬしは風の色は覚えているか?」
色? と小首を傾げる。
「“退廃の風”はその色によって桁数が違う魔王なのだ。黒が最も強く白が最も弱い。我らが相対したのは鈍色………五桁に該当すると見ていい」
「五桁の………?」
「あれは格上の霊格を退廃させることが出来ん。………正確には“喰らうことを許されていない”といったほうが正しい。要点をまとめるとだな………“退廃の風を倒すには、階層以上の旗印が必要”ということだ」
「っ、それは………!」
不可能だ。リリはその言葉を辛うじて飲み込む。五桁以上のコミュニティは上層に本拠を抱える者たち。その彼らに旗印を貸して欲しいと頼めるだけのコネクションが今の“ノーネーム”には無い。
いるにはいるのだが、当事者である蘭丸は恐らく手を離せない状況であるだろうし、第一他のコミュニティとのコネクションはコミュニティ同士ではなくあくまで蘭丸個人の付き合いで十六夜らはあった事すら無い。
リリはコッペリアの手を握りながら縋るように十六夜を見た。
「十六夜様でも………どうにかできませんか?」
「………」
十六夜は黙ったまま腕を組み、瞑想するように意識を埋没させた。しかし彼の中でも答えは出ていた。
星霊アルゴール、死神ペスト、太陽の巨龍とは違う“何か”が足元に這い寄ってきている不気味さを感じた。
それでも尚、コッペリアを救うというなら
「ゲームをクリアするしかない、か」
「え?」
「おい、ガロロのおっさん。あの“退廃の風”はゲームのロジックとして呼び出される魔王なんだよな?」
「………ああ。話を聞く限りじゃ、今回のケースは間違いなくその類だろう」
「次にお嬢様。ディーンは今も連れてるか?」
「当然よ。だけど片腕が損壊したままだから激しい戦いに出すのは」
「充分だ。別に戦わせたいわけじゃねえからな。あと確認する事は………」
十六夜は今も俯いているコッペリアの顔を掴み無理やり正面を向かせた。
「おい、いつまで不貞腐れてやがるこの駄人形。此処にいる全員がお前の処遇について話し合ってるんだぞ」
「………処遇など私が追憶の檻に帰れば済む事です」
「それじゃあ納得しない奴もいるし、そもそもお前の帰る檻がもうどこにも無いんだよ」
振り返るとけだるそうにコッペリアを見る蘭丸の姿があった。
「あ、貴方はどうして此処に? “退廃の風”は」
「俺は分身だ。といってもオリジナルが今ピンチだからな………こんな有様だ」
恐らく“退廃の風”を抑える事にほぼ全ての力を注ぎ込んでいるのだろう、ギリギリ生み出した分身の身体はラグが生じていた。
「っ………しかし、ゲームをクリアするなんて不可能です! それはつまり“わたし”を完成させるという事! 今まで幾千もの研究者が挑み、そして到達できなかった。だって、“わたし”は、人類が最後に夢見た幻想………」
「第三永久機関。到達可能と語られながらも、最後は架空の産物だと切り捨てられた退廃した駆動理論」
だろ?と十六夜は得意げに笑い、コッペリアは瞳を見開いて絶句した。しかしこの解答により驚いたのは、飛鳥と耀である。
「あ、あら?」
「………このゲームって、第三永久機関が答えじゃないの?」
「違う。これは第三永久機関を完成させるまでがゲームの解答、だから………この………か………ありゃ? 時間切れか、あとの説明ら頼む十六夜」
霊格を保つのにも限界が来ていたのだろう。蘭丸の分身は音もなく消えていった。
十六夜は一度咳き込むと蘭丸の解説の続きを話し始めた。
「まああいつの解説の続きは、解答の無い………越えられない試練、“パラドックスゲーム”ってわけさ」
「そう………貴方は二○○○年代から召喚されたのですね。ならば知っているのでしょう? 永久機関という、人類の夢の末路を」
「………ああ、それについてはお粗末ながら同情してやるよ」
ーーーー第三種永久機関。
名が指す通り永久に駆動し続ける機関の総称。人類が独力で到達可能だと信じられた最後の幻想。数多の開発者が最後の巨峰として定め、その先にある富と名誉を欲したが、時代が進むにつれ、永久機関は妄想の産物に成り下がっていった。
「栄光という輝きの残滓………それが“わたし”の正体。“わたし”は存在そのものがパラドックスなのです。存在することを前提に永久機関の名前を与えられ、試験の恩恵として用意されながら、決して到達できない存在。奴にとっては食い尽くせない無限のご馳走。“退廃の風”を止めるためにはゲームをクリアし、永久機関の輝きを得るしか………」
「だからその輝きをくれてやると言ってるんだ」
は? と、今度こそコッペリアは絶句した。十六夜はにやりと笑い、コッペリアのデコをバチンと弾いて宣言する。
「この駄人形め。この世界を何処だと思ってやがる。修羅神仏の集う神々の箱庭だぞ。確かに人類の独力では永久機関に届かないかもしれないが………恩恵さえあれば、それらしい形に変わることは可能だ」
「な………?」
コッペリアは赤く腫れたデコを抑えながら驚愕したように瞳を揺らす。十六夜は腰に手を当てコッペリアに宣言した。
「今日からお前は永久機関コッペリアじゃない。俺たち“ノーネーム”が造る新しい人形………神造永久機関コッペリアだ」
*
「………とは言っても、造るのは私たちなのですがねえ」
“アンダーウッド”の地下工房でそう呟くジャックはディーンの砕けた破片の一部を熱く熱した炉にくべながら呆れたように笑った。
「しかし永久機関を造って欲しいとは、とんでもない依頼です。一応言っておきますが私はただの鍛冶屋ですヨ?」
「分かってるさ。ただ他に頼れるコミュニティもない。実現できそうなコミュニティもな。………永久機関の理論は知ってるだろ?」
「ええまあ。“外部からのエネルギーを受け取らずに動き続ける機関”でしたっけ? しかしあれは熱力学………エントロピーの増大則が確立されたことによって実現不可能と太鼓判を押されたはずですが?」
「ところがドッコイ、箱庭の金属を使えばその問題も解消される。なんせこのディーンが実際に体現しているんだからな」
ヤホホ?とカボチャ頭を傾けて考え込むジャック。飛鳥も小首を傾げ十六夜に問う。
「ええと、どういうことなの十六夜君」
「簡単な理論さ。お嬢様は蒸気機関車がどういう理屈で走ってるか知ってるか?」
「馬鹿にしないで。それぐらいは知ってるわ。………ええっと、周囲の熱と気圧を使って、車輪を動かしているのでしょう?」
「そうだ。蒸気機関車のエンジンは石炭を燃やして温度差を作り、そのピストン運動で動いている。だが温度差がなければピストンは動かずエネルギーを抽出することはできない。これが有名な熱力学第二法則。所謂、エントロピーの増大則だな」
「………。そ、そうね」
曖昧な返事で言葉を濁す飛鳥。昭和女子代表・十五歳のお嬢様にはいささか難しい話だったのだろう。
十六夜はジャックを振り返って話を続ける。
「だが神珍鉄があればその問題はクリアできる。何せ、伸縮する金属だからな。肝心のピストン運動を物質の伸縮で補えば、簡単な構造で永久機関の完成ってわけさ」
ポン! と合点のいったジャックは手を打ち、頷いた。
「ヤホホ! ようやく得心しましたよ! 構造をそこまで簡略化して良いのであれば精鉄を任せていただいても大丈夫です!」
「ああ、構造については俺も隣で助言する。残る問題は………お嬢様の許可が貰えるかどうか、かな」
チラリと横目で飛鳥を見る。十六夜の手に握られている破片は巨龍との戦いで砕けたもの。その一部を譲って欲しいということなのだ。総量によって最大重量と霊格の高さが変わる神珍鉄、即ちディーンの霊格が僅かながらに縮小することになる。
「………どうも何も、今の流れで引き受けないわけには行かないでしょ」
少し不服そうに溜息をつく飛鳥。それを見たジャックは何かを思いついたように人差し指を立てる。
「ではこうしましょう。十六夜殿は飛鳥嬢から神珍鉄の破片を貰い受ける代わりに、ディーンさんの修理費を全面負担するというのは?」
「は?」
突然の提案に驚きの声を上げる二人。取り分け飛鳥の反応は大きかった。
「まさか、ディーンを修理できるの?」
「ヤホホホ! 造作もないことですよ! 神珍鉄の加工には手間がかかるでしょうけど、一か月も頂ければ修理は可能です!………まあ、代金はそれなりに頂きますけどね」
チラッと十六夜を見るジャック。十六夜も不満そうに頭を掻いていたが、観念したように両手を上げて笑った。
「オーケー、了解した。後払いでいいなら俺が引き受ける」
「ヤホホホ! 勿論ですよ! お支払いは一括から三十六回払いまでお引き受けしておりますので!」
カボチャ頭を揺らして笑うジャック。この一件で儲かったのはジャックかもしれない。
一方でコッペリアは工房の台座で寝転がって施述を静かに待っていた。
(神珍鉄………自在に伸縮する鉄。それを使えば間違いなく永久機関として完成するでしょう。例えそれが、人類の独力で辿り着いた物でなくても)
胸の中に燻る蟠りを振り払うように首を振る。今優先すべきは“退廃の風”を追い払うこと。それを為さねば彼女に未来を想う資格はない。
(フォックス。貴女の言う通りです。私は今まで待ち人が“わたし”を見つけることしか願っていなかった。しかし本当に夢を叶えたいのであれば………“わたし”から運命の人を探すべきだった)
その為に彼女は己の矜持を隅に追いやる。
遠い日の栄光という足枷から抜け出さなければ。
今こそ追憶の檻から抜け出し自分から歩き出そう。
「では改造を行いますが、覚悟はよろしいですか、コッペリア嬢」
「ええ、お願いします、スミス・パンプキン」
*
一方蘭丸は一人、“退廃の風”を食い止めるべく死闘を繰り広げていた。蘭丸は時空を不規則に歪ませ奇跡的に“退廃の風”を封じ込めていたのだ。
しかしさすがの蘭丸も限界が見えてきていた。
「チィッ‼︎バケモノかよコイツ‼︎」
“アンダーウッド”崩壊の足音が微かに闇の中から聞こえてきた。
中途半端な終わり方で申し訳ないです!
コッペリア編は次回で終わります。
では誤字、感想よろしくお願いします。