問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん二世
話の八割ぐらいは完成してたんですがあとを少し書くのを忘れていました。
いや、ほんとマジスイマセン!
問題児と時空間の支配者。
「なに…………これ…………?」
“退廃の風”が発生した館のあった場所に着いた耀と白雪姫とリリは目の前で起こっていることを現実とは思えなかった。
「クソッタレ‼︎ 化け物かよコイツ‼︎」
コッペリアを逃がすために足止めを引き受けた蘭丸が現在なお“退廃の風”と格闘していた。
「蘭丸様‼︎」
どうやら気づいてなかったらしくリリの声に少しだけ反応する。
「おお来たか。てことはやるべき事は決まったんだな?」
「はい、十六夜様がコッペちゃんを連れてくるまで時間稼ぎを」
「そいつは助かる。俺もそろそろ限界が来そうでな」
その額からは大量の汗が文字通り滝の如く溢れ、彼周辺の土壌の飽和度を上回り水溜りが出来ていた。耀達は今まで蘭丸がここまで必死になっている姿を見たことの無い。箱庭に来て早々、白夜叉と決闘を行なった時には、白夜叉がそもそも本来の力を抑えている状態であり、死力は尽くしたが、まだ心には一重の余裕があったようにも見えた。だが、今回の蘭丸は余裕すら無くなっていた。否、奥の手はあるにはあるのだが、どうにもそのタイミングを逃してしまい、今やそのタイミングすら無く、何とか食い止めているという現状である。
しかし、白雪姫だけは二宮蘭丸という男の力を疑問視していた。
(“退廃の風”を食い止める? そんな馬鹿な話があるのか? 彼奴にはあらゆる恩恵は無意味な筈だぞ)
あらゆる物を時代の追憶に誘い、その存在を朽ち果てさせる“退廃の風”。“人類最終試練”の一角であり、最強の神殺し、打倒不可能と言われる魔王。
彼女の知るところこの魔王が五桁相当と言ってもその魔王の歩みを止められるものはいない筈である。その風を蘭丸は結果的に食い止めている。恐らく彼の保有するギフトと関係があるのだろう。しかし今はそんな悠長に構えている暇は無い。
「リリ! 白雪! さっき言った通りに!」
「は、はい!」
「うむ、心得た!」
本来の目的を思い出した耀はリリと白雪姫に合図を出す。それと同時にリリと白雪姫は松明を抱え、一つ一つに火を灯し始めた。
耀は先程の攻防で、“退廃の風”は光に集まる習性があるのではないかと仮説を立てた。実際はどうか分からないが少なくとも可能性は残っていた。
「耀、すまん。そろそろ…………ッ‼︎」
「うん‼︎ 蘭丸は離脱して‼︎」
「ああ、一旦離脱する」
“退廃の風”を抑え込んでいた蘭丸は瞬間移動で姿を消した。蘭丸の妨害により進路を阻まれていたが、その障害もなくなり、お預けを食らっていた犬のように新たな餌を求めた。
(来るッ…………‼︎)
耀の目論見通り“退廃の風”は自分らに向かってきた。しかしここで一つの誤算が生じた。
「耀様⁉︎」
“退廃の風”は松明の炎には目もくれず、一斉に春日部耀に向かっていた。
耀の輝く風に味を占めたのだろう。
「ッ…………この‼︎」
耀はありったけの力で風を放つが足止めにもならない。鈍色の風に触れた途端に塵芥と化していった。
不利を悟った耀は“退廃の風”に背を向けて逃げ出した。
しかしこの魔王に狙われたら最後、最早逃げ場などどこにもない。
(考えが甘かった…………‼︎知性が無くても、この風は魔王なんだ)
そんな耀を嘲笑うように“退廃の風”は逃げ回る彼女を捉えていた。
(駄目だ…………逃げ切れない)
魔王の顎が耀に触れたその刹那、
「おいおい。諦めが早すぎるだろ、春日部‼︎」
大気さえ焼き尽くす速度で疾走する影、逆廻十六夜は、耀を抱きかかえたまま大地に着地する。
クレーターを作りながら仁王立ちする十六夜は皮肉気味に笑いかけた。
「いやはや驚いたぜ。春日部はもっと無骨なイメージだったんだがな。まさかあんなに潔いとは思わなかった」
「…………む。そう思うなら十六夜もアレに追いかけられてみたらいい」
「そうだな、アレを相手にしたらもう暫くは働きたく無くなるぞ」
十六夜が飛んできた場所にはネクタイを緩め、ワイシャツの襟元をだらし無く開けた蘭丸が寝転がっていた。
「これはこれは、我らが“ノーネーム”一のしゃち…………オホン、稼ぎ頭様がこんなところでサボってるとはな」
「社蓄と言おうとしたことは見逃してやる。あとこれはサボりじゃ無く有給休暇というやつだ。俺の出番は終わりだろ。アレはもう大丈夫なんだろ?」
「ああ、このゲーム、俺たちの勝ちだ」
十六夜らが上空を見上げると“退廃の風”が滞空していた。魔王が見つめるその先には燦々と輝く翠色の髪を靡かせる、蒼い瞳のコッペリアが佇んでいた。
「皆さん、お待たせしてすいません。施術は無事に終わりました。そして…………」
コッペリアが一枚の羊皮紙を広げる。“契約書類”である羊皮紙は眩い輝くを放つと同時に巨大化し一枚の大きな旗となって“アンダーウッド”に靡いた。
「ゲームクリアです。“退廃の風”よ、もはや貴方では私を滅せない…………‼︎」
真っ赤な生地には重なり合う歯車と幻想を孕んだ蕾の旗印が刻まれた、巨万の富と栄光、人類が夢見た最後の幻想。
コミュニティ“ラストエンブリオ”の旗印である。
「去りなさい“退廃の風”よ。“わたし”の終わらぬ夢“パラドックスゲーム”は終了しました。これ以上の現界は契約違反に該当します。そうなれば如何に不倒の魔王といえど箱庭から追放されるのは逃れられません」
凛とした声音で告げるコッペリア。しかし“退廃の風”は去ろうとしない。
確かにゲームはクリアされた。しかしここには沢山のご馳走があるではないか。
喰らいたい、喰らいたい、と涎を垂らした獣の様に今にも飛びかかりそうである。
「ちっ‼︎あのヤロー…………ならこっちもあたり関係なく本気で…………」
その瞬間、蘭丸の霊格が爆発的に跳ね上がった。何時ものスーツの上から黒い羽衣を纏い、黒い錫杖を握ると彼の周りを黒い七つの球体の物体が守る様に浮遊する。
しかしその蘭丸を無視して十六夜は大地を蹴り、遥か上空へと跳躍した。
「あっ! おいてめっ…………」
「おい、カオナシ魔王。てめえがルール破って暴れるっていうならこっちも相応よ反則技を使わせてもらうぜ!」
十六夜の右手から極光を放つ。その光は夜の都市を照らした。
“退廃の風”は光に驚くどころが歓喜の表情を浮かべている様にも見える。
"いい手土産が出来たと"
(笑ってる…………?)
形なき魔王の笑顔に違和感を感じた蘭丸だったがその意味は出てこなかった。
“退廃の風”は膨張したかと思うとそのまま箱庭の中心部、世界軸へと消えていった。
「やれやれ、これで一件落着かな」
「ああ、だが十六夜。俺の獲物を横取りしやがって、俺めっちゃ痛いやつじゃねえか」
「さて、祝勝会がわりにパンプキンキッシュを食うか」
なんだか面倒くなった十六夜は強引に蘭丸の発言を無視し、スタコラと歩き出した。蘭丸はいつか必ずシメると胸に刻み、空腹を騒ぐ胃を抑えるために今回はキッシュに免じて許してやることにした。
*
主賓室で祝勝会がわりに全員で十六夜作のパンプキンキッシュpart2の完成度の高さに舌を巻いていた。
「蘭丸様! コッペちゃんのいたお店を元に戻してくださってありがとうございます!」
「いいってことよ、つーかそもそも店ごと消し飛ばした俺が悪いしな」
リリが黒ウサギへのプレゼントとして所望していた木彫りのプローチだが蘭丸が“退廃の風”もろとも消し飛ばしてしまったのだ。そこだけの時間を戻し、ブローチを見つけたのだった。
しかしコッペリアがそこそこ重大なことを言い出した。
「ですがフォックス、あのブローチは売るとなると結構な値段がしますが…………」
「金ならこの収穫祭で稼げば良い、俺の手伝いでも良いしな。ここでアルバイトをして稼ぐってのは」
「はい、蘭丸様‼︎」
パタパタと二尾を振り、蘭丸に頭を下げるリリ。その顔に満足した蘭丸はキッシュに手を伸ばそうとしたその時、
「うわああああああああああ‼︎暴れマッチョだあああああああああ‼︎」
都市街では何故かマッチョ人形の大群が群がっていた。
「………おい。あの筋肉人形、ゲームの一部じゃなかったのか?」
「ご冗談を。あれは追憶に追いやられた何某かの具現です」
「成る程、お前の同族か」
「…………面白い冗談ですね、如何に恩人といえど、その侮辱は聞き流せません」
「そりゃ面白いね。永久機関の力を是非とも拝見したいと思っていたところだ。ゲームのお題は〝収穫祭前夜祭~マッチョ狩りハード~”とかなんとか」
ノリノリ十六夜に頷くコッペリア。その言葉を聞いた蘭丸はキッシュを大急ぎに掻き込み、ぶどう酒で流し込んだ。
「よし、俺も乗った。ただし傷はつけるなよ。高く売れるからさ」
その流れに蘭丸もニヤリと笑いながら席を立つ。乗り気でない飛鳥と耀は嫌な予感に駆られた。
「ま、まさか私達も参加しろとか?」
「せ、せめて、キッシュを食べ終わってから、」
「何いってるんだ女性陣、お前らも出るんだよ」
「さ、諦めろ。労働の始まりだ」
と言うと飛鳥と耀の手を掴んだ十六夜と
「古今東西異世界外界問わず、偉い人は言いました。“働かざる者食うべからず”ってな」
蘭丸君は社蓄さんなのです。