Fate/ONLINE   作:遮那王

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一週間ぶりです。

今回、皆さん大好きであろう彼が登場します。


第十一話 閃光と弓兵

眩い光が徐々に収まり始める。

 

魔方陣の中央で背を向けて立っているなにかは、ふと声を漏らした。

 

「酷い話だ。間違っても呼ばれるコトなぞないように祈っていたが、まったくの徒労とはな。抑止の輪はどんな時代でも働き者、というコトか。いいだろう、せいぜい無駄な足掻きをするとしよう」

 

紅い外套を着たその男は私に背を向けたまま何やら愚痴ると、視線だけを私に向けた。

 

「選定の声に応じ参上した。オレのような役立たずを呼んだ大馬鹿者はどこにいる?」

 

男は自分を卑下しながら私を軽く罵倒する。私はキョトンとしながら男を見つめる。

 

「ふむ。認めたくないが、この場にいる人間は君ひとり。念のため確認しよう。君が私のマスターか?」

「…マス…ター?」

「ん?君が私を呼び寄せたのではないかね?」

 

私は目の前にいる男の問いかけに沈黙する。

 

「はぁ…。どうやら今回はとんだ素人に引かれたらしい。ここまで私は幸運が低いとはな」

 

男は深くため息をつくとそうぼやく。

そんな態度にカチンとして思わず声を荒げる。

 

「あ…あなたいきなり出てきてなに…」

 

“ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!”

 

私が男の態度に口を挟もうとすると、今までほったらかしにされたのが気に喰わないかのように狼の遠吠えが聞こえた。

私はその遠吠えに身を縮めたじろぐが前にいた男はフッと軽く笑うと黒き狼に歩を進めた。

 

「いい機会だ。君の力で御しきれなかったあの獣を相手取ってやろう。なに、貧乏くじには慣れている。まずは思うままにこの力を振るわせてもらう」

 

男はそう言うと、

 

「投影準備〈トレース・オン〉」

 

そう呟きどこからともなく白と黒の双剣を取り出し両手に握っていた。

 

両手?

 

この世界には二刀流なんてスキルは無いはずなのに。

 

“グォォォォォォォォォォォォ!!!”

 

「フッ!」

 

黒き狼は前脚を振り上げ爪を突きたてるが、男は左手に持つ黒い剣で軽く受け流すと、

 

「フンッ!」

 

右手に持った白い剣で受け流した脚に切りつける。

 

“ゥゥゥゥオオオオオオゥゥゥゥゥゥ!!!”

 

 狼は少し怯むが、切られたことに構わず逆の脚を男に振り上げる。

 

「ハァァァァ!!」

 

 だが男の方もそれを先ほどと同じ様に受け流すと、再び足に切りつける。

 

“グガァァァァァァァ!!!”

 

悲鳴のような雄たけびと共に、狼は一歩下がった。

どうやら迂闊には近づかない方がよいと思ったらしい。

 

だが、男はニヤリと笑い、

 

「その選択は間違いではない…。だが、」

 

男はそう言うと手に持っていた双剣を飛ばす。私は何をしているのかと眼を見開くが、

 

「鶴翼、欠落ヲ不ラズ〈しんぎむけつにしてばんじゃく〉」

 

彼がそう呟くと投げられた双剣は円を描くように狼に接近する。

狼はバックステップをしてそれをかわす。

が、

 

「心技泰山ニ至リ〈ちからやまをぬき〉」

 

剣を投げて無手になったはずの男の両手にいつの間にか同じように白と黒の双剣が握られていた。

そしてそれを再び投擲する。狼は横跳びにそれをかわす。

だがその時にはすでに三組目が投げられていた。

 

「心技黄河ヲ渡ル〈つるぎみずをわかつ〉」

 

狼はそれらをすべてかわし男に再び近づこうとする。

だが、次から次へと男の手からは剣が投擲される。

 

「唯名別天ニ納メ〈せいめいりりゅうにとどめ〉」

 

この男は何をしているのだろう。ただ無意味に剣を投げているだけにしか見えない。これではあの素早い動きをみせる狼には傷をつけることが出来ない。

 

「そんな心配そうな顔をするな。周りを見てみろ」

 

私はそう言われると辺りを見回す。

 

「……!!」

 

そこには今まで投げられた剣が飛び交っていた。

はじいたのと同じ数の双剣が彼を中心とした円状に散乱している。

 

「確かにあの獣の速度は脅威だ。まともに速度比べをすれば勝ち目はないだろう。だが速度で負けているのなら数で対するまでだ。こうまで囲まれればどうかな?」

 

男はそう言い、

 

「両雄、共ニ命ヲ別ツ〈われらともにてんをいだかず〉」

 

そう紡いだ。

白と黒の双剣がはじかれた様に飛ぶ。

いくつもの剣がお互いに引き合って集まろうとしている。

その集約点は円の中心、無数の白刃と黒刃が中心にいる黒き狼めがけて殺到する。

 

獣はこの場を切り抜けようとせまりくる剣戟をかわし叩き落とそうとするが、完全には防ぎきれず体表に傷がつく。

それでも剣は止まることなく狼を傷つけ続ける。

 

そしてついに“カオスヴォルフ”のHPバーはあと一本というところまできた。

だがその瞬間、黒き狼の姿が変わった。

黒かった体毛はさらに濁った黒へと変色し逆立ち始めた。

そして、今までよりもさらに速く動き、完全に剣戟をかわし始めたのだ。

 

黒き狼は剣の合間を抜き私たちの方へと突進してくる。

 

男は私を小脇に抱えると、人間には明らかに無理だと思うほどの距離を跳躍し、その狼の突進をかわした。

 

「む…これは少し予想外だな」

 

男は私を抱えながらそう呟く。

 

「どうするの?」

 

私がそう問いかけるが、男は皮肉っぽく笑うと

 

「なに、まだ範囲内だ。これぐらい対処できる」

 

そう言うと男は視線を再び飛び交っている剣に向ける。

剣はいまだに狼を傷つけようと殺到しているが、狼はこれをいとも簡単にかわす。

だが今度は全ての剣が狼に集まりだした。

狼は身を屈めてその剣劇を全力でかわそうとしている。だが、

 

「王手〈チェックメイト〉だ、消し飛べ。…壊れた幻想〈ブロークンファンタズム〉」

 

瞬間、黒き狼を囲んでいた剣がまとめて爆発する。

重なる爆音が狼の姿を包んで光の中に消し去った。

 

「剣は避けられるかもしれんが、爆発での不意打ちはどうだ?」

 

男はそう呟くが答えるものは誰もいない。

あまりの容赦のなさに私は唖然としてしまった。

最初からここまでのシナリオを立てた上で戦闘を進めていたのだろうか?

 

…おそらくそうだろう。

 

口元に浮かぶ満足そうなあのニヤリ笑いは間違いない。

 

“…グゥルルルルル…”

 

うめき声が聞こえた。

私はハッとなって爆発地点を見る。

爆発による煙の陰から狼がはい出てきた。

体中に傷を負い足元もおぼつかないが、HPバーはあと五分の一程残っていた。

 

「ふむ、やはり魔力供給がうまくいってないようだな。これも未熟なマスターを引いたせいか…?」

 

彼はそう皮肉めいた言葉を私にかける。

だが私は反論することも出来なかった。

ただあの黒い狼があれほどの攻撃を食らってもまだ生きていることに絶望しかけていたのだ。

 

「やれやれ、そんな顔するな。この程度ならすぐ終わる」

 

そう男は私に声をかけると、いつのまにかその手に黒い弓を握っていた。

 

“グルォォォォォォォォォォォォォォ!!!”

 

狼は傷ついた体で私たちに突進してきた。

その鋭い牙で私たちを噛み砕こうと歯を剥きながら。

 

男はそんな光景を目の当たりにしながらも冷静に弓を構える。

だが、番えているのは矢ではなくひと振りの剣。

その剣は紅く輝いてそして、

 

「赤原猟犬〈フルンディング〉!!」

 

男がそう言い剣を放つと、剣はぶれることなく狼の顔へ迫り、そして

 

“グォォォォ……”

 

額に命中した。

 

黒き狼は力なく倒れるとそのままポリゴン状になり消滅した。

 

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男は手に持っていた弓を下し、そして弓は魔法のように男の手から消えた。

 

「ふう、まあギリギリ及第点と言うところか。まだ始まったばかりだからな、今後に期待させてもらうようにしよう」

 

彼が何やらそんなことを言っているが、私はまだポカンとしたままその場に座り込んでいた。

 

「さて、立てるかね?」

 

男はそう言うと私の目の前に手を差し伸べた。

私はハッとして彼に視線を向ける。

 

「だ…大丈夫…です」

 

私は彼の手を取り立ち上がる。

まだ疲労が残っているのか少しふらつく。

立ち上がった瞬間私は左手の甲に鋭い痛みを感じた。

何かを刻みつけられるような痛みだ。

 

「く…グゥゥゥ……!?」

 

私はその痛みに体を曲げて耐えるが痛みは増すばかりだ。

そして痛む手の甲を見つめる。

そこには三つの模様が組み合わさったような紋章が浮かんでいた。

刺青のように皮膚にしみ込んでいるそれは、紅く発光している。

 

「ほう、やはり君が私のマスターに違いないようだ。君は先ほど死にたくないと叫んだ。この世界には負けたくないと…。まあ、悪くない願いだろう。その願いの終わりまで共に歩み、共に闘うことをここに誓おう」

 

男はそう言うと私と視線を合わし皮肉っぽく笑った。

だが、私にはその声はろくに耳に入ってこなかった。

左手に刻まれた印の発熱。

それは徐々に強まり、今では耐えがたい激痛となって意識がだんだん遠のいてくる。

 

“手に刻まれたそれは令呪。サーヴァントの主人になった証だ。使い方によってサーヴァントの力を強め、あるいは束縛する、三つの絶対命令権。まあ使い捨ての強化装置とでも思えばいい。”

 

再度私の耳にあの声が聞こえてきた。どうにか痛みに堪えつつ、言葉に耳を傾ける。

 

“困惑しているであろう。しかし、まずは……おめでとう。傷つき、迷い、辿り着いた者よ。主の名のもとに休息を与えよう。君はここで晴れて「聖杯戦争」の参加者となったのだ”

 

……あらためて注意深くその声に耳を傾けるが、その声はどことなく癪に触る。

厚みをもった声は三十代半ばの男だろうか。

 

“おや、私の素性が気になるかね?光栄だが、そう大したものではない。なにしろただのNPCだ。私は君たちをサポートする存在にすぎない。気になるのであれば、第一層「はじまりの街」の西にある教会に来るといい”

 

どこの誰かもわからない。

その言葉をただただ私は聞き流す。

痛みと疲労によってもう精神が限界だった。

 

“それでは最後に私から言葉を送ろう。マスターに選ばれたプレイヤーよ「光あれ」”

 

だが私はその言葉を聞くと同時に疲労のためにその場に倒れこんでしまった。

そして眠るように意識を闇の中へ落としていった。

 

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私は荒野に立っていた。

 

茜色に染め上げられて果てのない大地。

 

生物は何処にもおらず、風だけが吹き抜けていく。

 

そこには無数の剣が乱立していた。

 

持ち主はおらず朽ち果てていくのみの剣の群れは墓標のようだ。

 

いつの間にか剣の群れの中に剣でないものが混ざっている。

 

それは一人の男だった。

 

紅い外套を着た男が一人。

 

男は振り向かない。

 

後姿からでは男がどんな顔をしているのか、どんな表情をしているのか分からない。

 

その銀色の髪だけが風に揺れている。

 

視界の中、男は前を向いたまま歩き出した。

 

同時に私は、背後に引っ張られるような感覚が私をそこから切り離す。

 

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「……夢?」

 

私は眼を開きその場を見回す。

辺りはすでに明るくなっており、木々からは光が差し込んでいる。

 

私は起き上がると体に毛布がかけられていることに気付く。

どうやら誰かがかけてくれたらしい。

立ち上がるとするが体にうまく力が入らない。

 

何故かはわからないが体がものすごく重い。

どうにかして立ち上がるとそこは昨日自分があの狼と戦った場所だ。

そして、あの紅い外套の男と出会った場所でもある。

巨大な黒い狼、紅い外套の男、あれはすべて夢であったのだろうか…。

 

「やれやれ、ようやくのお目覚めか。ずいぶんとのんびりしたものだな」

「……!?」

 

私の隣に、突然人影が現れた。

真紅の衣で身を包んだ、浅黒い肌の青年。

忘れようもない。

あの黒い狼を倒し、強烈な印象を刻んだ彼は、

 

「あなたは…、一体何者?」

「ん?説明は聞いていただろう。それともそんなことを忘れるほど君は記憶力が悪いのかね?」

 

何かと鼻に付く言葉で目の前の男は軽口を叩いてくる。

私はそんな男の態度にムッとしながらも、気を失う寸前の記憶を確認する。

確か何処からか聞こえてきた声はこの男の事をなんと説明していただろうか。

 

「サーヴァント…」

「ほう、なかなか覚えがいいな。どうやら頭は悪くないと見た」

 

そうだ…。

あの空から聞こえた声はこの男の事を「サーヴァント」と言っていた。

それに私は第一層の攻略戦で、一度サーヴァントの召喚を見たことがある。

男は私に軽口を放つと、再び口を開き始めた。

 

「体の調子はどうだ?痛みがあるようなら今のうちにいってくれ」

「いえ…今は大丈…夫……」

 

私はそう言うがやはり体は重く、若干ふらつく。

 

「やれやれ、辛いのなら無理をする必要はない。聖杯戦争が始まった以上、主人の体の管理も重要な仕事になるからな」

 

男は私を支えるとそのまま地面に座らせる。

 

「ところで、君は聖杯戦争が何か分かっているのか?」

「…聖杯戦争?」

「…………まさかとは思ったが本当にただの素人とはな…」

 

男は再び溜息をつきやれやれといった感じで額に手を置く。

ここまで軽口を叩かれ、憐みのこもった眼で私を見つめる目の前の男に、私もさすがに声を荒げずにはいられなかった。

 

「あなたさっきから何なの!いきなり出てきて助けてくれたのは感謝するけど、あなたの態度は目に余るものがあるわ!!それに…」

「まぁ落ち着きたまえ。あまり怒鳴られてまた倒れられても困る」

「……っぐぅ……」

 

私の言葉を遮ると男は再び皮肉っぽく語る。

確かに私の体力はあまり回復しきれてない。

私は言い返すことが出来ずに黙ってしまった。

 

「まぁ、確かに混乱して当然だな。何も分からずに戦争などと…。とりあえず移動しないか?ここでは話しづらいこともあるしな」

 

男はそう言うと私に近づきそして…

 

「…きゃっ!?」

 

そのまま抱きかかえた。

俗に言う「お姫様だっこ」と言うものだ。

 

「ちょっ…何するの!?」

「ん?君は動けそうもなかったのでな。抱えて私が走った方が早く着くであろう?」

 

私はまだ疲労がたまっており、まともに歩くことも難しいであろう。

だけど…わざわざこのような羞恥を私に受けろというのであろうかこの男は!?

 

「君の家は何処だね?さすがに場所が分からないと私も動きようがない」

 

男はそう言うと私に顔を向けながら問いかける。

……もう私に拒否権はない。

私は観念すると地図までの道のりが書かれたデータを男に見せる。

 

「ふむ、了解した。では少々飛ばすので、しっかり掴まっていたまえ。振り落とされないようにな」

「え…?ちょっとま……!?」

 

男は私を抱えながら風のように走り出した。

私の制止を聞くこともなく。

私はその日初めて、数十メートルの高さを飛ぶという経験をした。

 




いかがだったでしょうか。

今後も感想・批判お待ちしています。

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