Fate/ONLINE   作:遮那王

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皆さんたくさんの感想ありがとうございます。

少し短いですが投稿します。




第十四話 すれ違い

時計の針がもうすぐ日を跨ごうとしているころ。

 

遺跡のようなフィールドで三人の戦士が互いに命を断とうと自らの獲物を振るう。

 

激しい剣戟の音が辺りに木霊する。

 

剣、槍、そして拳が鉄を叩く音。

 

その音を発生させているのは、まぎれも無く三人の戦士たち。

 

「なんで……」

 

一人の少女が思わずその一言を漏らす。

 

「なんで貴女はこんなことを…」

 

少女は眼前にいる人物に問いかける。

 

性別は同じ女性。

年齢は少女と同い年か少し年上。

 

黒髪で見る人が見れば美少女の部類に入るだろう。

 

だが、少女は彼女の眼を見て、一気に鳥肌が立つような感覚を覚えた。

 

絶対的な覚悟の眼。

 

何が何でも成し遂げてやるという、覚悟を持った眼だった。

 

「私は、聖杯を手に入れる。聖杯を手に入れて、私は全てやり直す。みんなで笑いあった日常を、取り戻してみせる」

 

眼前の少女はそう答え、そして…

 

「だから、倒して。ランサー!!」

 

サチは自らの従者に命令を下した。

 

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時はさかのぼる

 

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「アーチャー、そっちに行った!」

「了解だ、マスター」

 

あの日以来、私は前以上に攻略とレベル上げに力を入れられるようになった。

私の元に強力な存在、サーヴァント〈アーチャー〉が現われた事により、私は以前より難しいエリアでレベル上げをする事が出来るようになった。

 

アーチャーは私の後方での援護、そして取り逃がしたモンスターの撃破を行ってくれる。

私は積極的に攻撃を仕掛け、アーチャーはその援護といった感じだ。

アーチャーという名にも関わらず、彼は巧みに双剣を使いこなして難なくモンスター達を倒す。

 

そんな毎日を私達は一ヶ月続けていた。

 

しばらく戦闘を繰り返すと、もう出現しないのか、辺りにモンスター達が居なくなった。

私はそれを確認し、ふぅ、と息を吐くと辺りを見回した。

 

「今日はこんな所かしら。そろそろ戻る、アーチャー?」

 

私はアーチャーに問いかける。

 

「ああ、頃合いだな」

 

アーチャーは私の言葉にそう答えると、手に持っていた黒と白の双剣を霧散させ、空気に溶かした。

 

「……ホントに便利よね……貴方の能力」

 

私は皮肉を込めて彼に言った。

アーチャーの能力、それは自分の見た事のある武器をそっくりそのまま創り出す、というもの。

 

“投影”というらしいが、一度でも見た事があればそれを創る事が出来るらしい。

 

一度、その原理を説明してもらい、理解しようと試みた事があるが、何やら難しい単語を羅列されて、とてもじゃないが理解する事は出来なかった。

 

あの時のアーチャーの呆れたような馬鹿にしたような顔は今でも忘れられない。

 

以前、試しに私の“レイピア”を創れるかと、お願いしてみた事があったのだが、彼はあっさりと創ってみせた。

だけど、それと同時にこんな事も言った。

 

「確かに、私は武器をそっくりに創り出す事はできる。だが、あまり君の武器を量産するのはお勧めしない。私の投影した武器は本物にそっくりの贋物だ。本物と比べると質は若干落ちる。だから、君は素材を集めて自分自身で武器を造った方がいい」

 

そんな事を言ってきた。

 

私からすれば、私の武器をいくつも創ってくれた方がありがたい。

だけど、アーチャー自身それに乗り気ではないのと、質が落ちるという点を考慮すると、今後のため自分で新しい武器を造る方が良いみたいだ。

 

そういうわけで、私は自分の武器の強化のために、今知り合いの鍛冶屋へと向かっている。

 

私が贔屓にしている鍛冶屋というのは、一人の少女が開いている。

彼女とは路上で露天販売をしている時に出会った。

年が近いという事と、信頼できるという事で、私はいつも彼女に武器の手入れを依頼している。

 

「リズー、居る?」

 

私は店の扉を開け、少女の名を呼んだ。

 

「いらっしゃいませー…って何だアスナか」

 

鍛冶職人のリズベットは、この世界での私の数少ない友人の一人。

 

「なんだってなによ、もう」

 

私は彼女の態度に少しむくれる。

 

「ごめんごめん、ついね」

 

そんな私を見てリズは手を軽く振って謝る。

 

「それで、今日はどうしたの。武器の手入れは前にしたはずだけど?」

「ううん。今日は少し強化してもらおうと思って」

 

私はそう言うと、ウィンドウを操作してアイテムを取り出す。

すると、リズは途端に目を輝かせた。

 

「なにこれ!?これってS級素材で、手に入れるの滅茶苦茶大変なはずだよ?良く手に入ったね!?」

 

リズはそう言い、アイテムを受け取る。

 

「あー、うん。たまたま見つけて…ね」

 

私が差し出したのは、今日狩りをしている最中、たまたま私とアーチャーが倒したモンスターがドロップしたものだ。

そのモンスターも、なかなか手ごわいうえに逃げ足が速いので狩るのは難しいとされている。

 

だが、そのモンスターを見つけた瞬間、アーチャーは弓を放ちモンスターを足止めした後、私が止めを差す形になった。

 

弓を放ったアーチャーによれば、動いていなければ仕留めるのは容易、動いていてもあの程度なら当てる自信はあるらしい。

 

やはり、その辺りは弓兵の名の通りの腕前である。

 

「ふーん、まいいわ。すぐ終わるしそこらへんで待ってて」

 

リズはそう言うと、私からレイピアを受け取る。

レイピアと囲うようなアイテムを作業台へと持っていくと、リズはハンマーを取り出し、準備を始めた。

 

「いつもありがとね、リズ」

 

私はそんな彼女を見て、思わずそんな言葉が出てしまった。

リズは少しびっくりしたような感じで私を見ると、すぐに笑顔になり、

 

「良いって良いって、アスナは私の大事なお客様なんだから」

 

そう笑いかけてくれた。

彼女の笑顔を見ると、自然に私の頬も緩んでしまう。

 

私たち二人は互いに笑いあった。

 

「じゃあそこら辺に掛けてて」

 

彼女はそう言うと、私のレイピアを金床に乗せ、作業を開始した。

私のレイピアと持ってきたアイテム。

彼女はその二つを交互にハンマーで叩きながら加工していく。

 

私はその姿をボーっと見つめながらふとある事が気になった。

 

「リズ、ちょっとごめん。外に出てても良いかな?」

「んー?別に良いよ。まだ少し掛かるから」

 

作業を続けながら答えたリズの返事を聞くと、私は店の外へと出る。

外に出て、周りを見渡し、私が気にしていた原因を呼ぶ。

 

「なんで姿を消したままなの?」

 

そう問いかけると光の粒子が集まり、私のサーヴァント、アーチャーはドアのすぐ隣の壁に寄り掛かっていた。

私の問いかけに、アーチャーは目を閉じながらおもむろに口を開く。

 

「敵に見つかる危険性があるからだ。あまり無暗やたらに姿を現していては、いつ奇襲をかけられるか分からないからな」

「奇襲って、そんな大袈裟な」

「いや、どこから敵が見ているか分からん。用心しておいて損はない」

「此処は圏内だし、戦闘も行う事はできないわよ」

 

そう、此処はデュエルを除く、戦闘が行われない<アンチクリミナルコード有効圏内〉なのだ。

だが、アーチャーは顔をゆっくり上げ、私の顔を見つめる。

 

「此処が圏内だからといって安心は出来ない。もしかすれば抜け道があるかもしれんし、圏内で攻撃する事が出来るスキルを持ったサーヴァントもいるかもしれん」

 

アーチャーはそう言うと、再びうつ向き気味になり目を閉じる。

 

「そう言う事だ。私は必要な時だけ姿を見せよう。何かあればよびたまえ」

 

アーチャーはそう言うと、再び光の粒子を撒き散らし消えてしまった。

私は茫然としながら、アーチャーのいた場所をしばらく見つめる。

 

「いくらなんでも考え過ぎよ。まったく…」

 

私は少しむくれながらそう呟くと再び店の中に入った。

 

私はこの時、アーチャーは考え過ぎだろうと思っていた。

あり得ないだろうと。

 

わざわざ、他の人よりもすぐれたハンデを持っているのに、同じ立場の人に戦いを挑むなんて事はない。

 

私はそう思っていた。

 

「考え過ぎ……か…。そうだと良いんだがな」

 

私が店の扉を閉じると同時に、アーチャーのそんな呟きが聞こえた気がした。

 

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「うん完璧。さすがリズ」

 

私は手に持つレイピアを見てそう呟く。

なかなか難しい素材で私の武器を強化してもらったのだが、そこはリズが腕を見せてくれて、完璧な仕上がりで渡してくれた。

 

「これで攻略も少しは楽になるかな」

 

レイピアを腰にある鞘に戻しながら私は居住区に戻ろうとしていた。

だけど、ふと思った。

 

「すこし試しておこうかな?」

 

腰のレイピアを見て、私は呟いた。

友人のリズの鍛えてくれた武器。

それがどれだけの物か、不意に私は試したくなってしまった。

 

「まだ、日没まで時間はあるし……少しくらいなら…」

 

私はそう言うと、転移門へと歩いていた道を引き返し、フィールドへと続く道に歩き始めた。

だけど、急に誰かに肩を掴まれた。

その足がふいに止まる。

 

後ろを振り向くと、アーチャーが私の肩を掴んで、フィールドに向かう私を止めていた。

その表情はいつになく厳しい顔をしている。

 

「なに、アーチャー。そんな顔するなんて…。一体どうしたのよ」

「……マスター、今日はもう戻った方が良い。新しい武器を試すのは明日でも遅くはない」

 

アーチャーはそう言い、私の顔をじっと見つめていた。

 

「なによ、私がこのエリアの敵に後れを取るとでも思ってるの?」

 

私は、急に止められたことと、自分を過小評価されているようで、その時少し頭に来てしまった。

 

「私はこれでも血盟騎士団の副団長を任されてる身よ。こんな所で負けるわけないわ。それとも何、私一人じゃ何も出来ないとでも言うの?」

 

思わず語尾がきつくなる。

 

「…別に君の実力を疑っているわけではない。ただ、あまり闇雲に動くべきではないと言っている。近頃の君は、かなり無茶な戦い方をしている。新しい武器が手に入った機会に、少し戦い方を見直すべきではないのか?」

 

私はアーチャーのその言葉に、一気に頭に血が上った。

まるで、今まで自分がしてきた事を全部否定されたみたいで声を荒げずにはいられなかった。

 

「余計なお世話よ!確かに私は何度も貴方に助けられてきたわ。でも私は貴方が来るまでずっと一人で戦ってきたの!今更心配される義理はないわ!」

 

私は目の前に立っているアーチャーに、怒声を浴びせた。

アーチャーが私を心配している事は分かる。

だけど、それ以上に自分自身を否定された事に我慢が出来なかった。

 

私が激しい声を浴びせたのにも関わらずアーチャーは表情を変えない。

アーチャーは眉一つ動かさずに私の顔を見つめたままだ。

 

その表情が私の怒りをさらに掻き立てる。

表情がどんどん強張って行くのが分かる。

 

「もういいわ。貴方は着いて来ないで。私一人で行くから」

 

私はそう言うと、踵を返しアーチャーに背を向けてフィールドへと続く道を歩き始めた。

背後のアーチャーは何も言わない。

着いて来ている気配もしない。

 

しばらく歩いた後、私は少し気になって後ろを振り向いた。

 

そこに、いつも側に立っている赤い騎士は存在しなかった。

限りなく広がる草原にはNPCが居るだけ。

 

「……ふん」

 

私は軽く鼻を鳴らすと、フィールドへ向かうため再び足を動かした。

 

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少女は、そこで思い知る。

 

自らが聖杯戦争に参加しているという事を。

 

その聖杯戦争がまさに命がけの戦いである事を。

 




始まりと終わりを少し意味深な感じで書いてみました。

感想と評価、お待ちしています。

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