すいません。
出来れば7月中にでも投稿したかったのですが、大学の研究が忙しく2週間かかってしまいました。
それではどうぞ。
少女の声が開戦の合図だった。
ランサーは一気にその場を疾風のように飛び出す。
逆巻く突風。
朱槍を手に、蒼い弾丸となったランサーが疾走する。
迎え討つのは紅い弓兵の黒白の双剣。
アーチャーもランサーとほぼ同時にその場を踏み出していた。
神風となったランサーは高速の槍をアーチャーへと突き出す。
それをアーチャーはすんでに双剣で受け流した。
「チッ……!」
アーチャーの舌打ちが聞こえる。
ランサーの槍は、喉、肩、眉間、心臓を間暇なく貫こうとする。
残像さえ霞む高速と言わざるを得ない激烈な槍捌きは、一撃ごとにアーチャーの双剣を弾く。
「たわけ、弓兵風情が接近戦を挑んだな――――!」
ランサーの一撃は烈火のごとく激しい。
アーチャーは必殺の槍を、双剣を盾に変えて受け流し、間合いを詰めようとする。
「ふ――――!」
眉間に迫る槍の穂先を弾き、ランサーの間合いを潰そうと踏み込むアーチャー。
だが…
「――――」
「ぬっ―――!?」
ランサーの槍は一瞬で主人の手元へと戻り、アーチャーの双剣を弾く。
ただ、速いだけではない。
それ以上に巧いのだ。
ランサーの槍には緩急が無く、一撃一撃がとてつもなく重い。
アーチャーは守りに入るが、この世界でトッププレイヤーである私の眼から見ても反撃の手段が見つからない。
「――――!」
一際高い剣戟が耳を打った。
ランサーの槍を弾いた双剣は、そのまま甲高い音を立てて、二振りとも崩れ去ったのだ。
武器を破壊するランサーの技。
一見何の変哲もない突きで、アーチャーの剣のいちばん弱い部分を突いたのだ。
「この間抜けが」
ランサーの罵倒する声が響く。
その一挙手一投足には躊躇がない。
ランサーはがっしりと地面に根を下ろすと、アーチャーの眼を見る。
これで勝負を決めるつもりだろうか。
「ふっ―――!」
一瞬だった。
一息の内に放たれたランサーの槍は視認すらも許さない。
一瞬だが三連の槍の軌道は何とか判断できた。
眉間、首、心臓。
槍は全て、急所を狙って放たれる。
「ア……!」
アーチャーと呼ぶ事すらも出来なかった。
速すぎる。
言葉を発する事も出来ないほどの速さでランサーは突きを発射していた。
だが…
「――――!?」
三つの刺突はアーチャーに届く事はなかった。
アーチャーの手には再びあの中華風の双剣が握られている。
「チィ、どんなトリック使いやがった」
ランサーが思わず毒づく。
一瞬でアーチャーの手に双剣が戻った事に対して、驚きと苛立ちが見て取れる。
「ハ、弓兵風情が剣士の真似事とはな」
その言葉と共に、ランサーが再び走り出した。
「ふっ――――!」
同時にアーチャーは構え、迎撃の態勢を取る。
「……!!」
私は何とか立ち上がって、その戦いを見守る事しか出来なかった。
どんどん速度を上げ、槍を奔らせる。
その度にアーチャーは双剣を使い、ランサーの槍をかわしていく。
懐に入らせはしないとするランサーと、双剣で間合いを詰めるアーチャー。
二人の奏でる鉄の打ち合う音は、絶え間なくリズム上げていく。
「―――――――」
一瞬の攻防が、長い時間に感じる。
見ている此方も息が詰まる。
ランサーの槍は、速度を落とすことなく一瞬でアーチャーの急所を捕らえようとする。
その度にアーチャーは双剣で防ぐが、衝撃で何度も武器を失った。
だけどそれも一瞬。
次の瞬間にはアーチャーの手の中に剣があり、ランサ-を迎撃する。
その度にランサーもわずかに後退し、相手の間合いを推し量らんとする。
瞬間に間合いが離れる。
二人の戦いが始まって、何分と経っていないが私には何時間という長い時間に感じられた。
仕切り直しをする為か、ランサーが間合いを大きく離す。
「妙な技を使いやがる。二刀使いの弓兵なぞ聞いた事がない」
「弓兵であろうと、必要とあれば剣を使うし、槍で刺すこともあるだろうさ」
「……狸が、減らず口を叩きやがる」
両者が軽口を叩き合う。
アーチャーは余裕がなかったのか、少々肩で息をしている。
ランサーはと言うと、心底楽しそうに槍を構えながら言葉を発する。
「……いいぜ、訊いてやるよ。テメェ、何処の英雄だ」
ランサーの発した言葉は尤もな質問だと思う。
アーチャーは弓使いでありながら戦闘のほとんどを双剣でこなしている。
私も彼の正体を知らない。
「それを君が訊くかランサー。君ほどの腕前なら数刻打ち合えば、私の正体など分かってしまうと思ったのだがね」
彼はニヤリと笑うとランサーに向けて軽口を返す。
この男、人を怒らす事に関しては天下一品なのではないか。
そう思うほどアーチャーは挑発が巧かった。
「……つくづくムカつく野郎だな、テメェ」
ランサーが眉を顰めて言葉を返す。
その表情から、苛立ちが見て取れる。
一触触発の空気が流れる中、周りの緊張感が再びピークに達する。
だが、不意にその緊張の張りつめた糸が切れた。
「そう言えば、気づいているかランサー」
ふと、アーチャーがそのような言葉を漏らした。
急にそんな事を言い出すから、見ていた此方も一瞬緊張が解けた。
「……ほう、こっちばかり相手にしていると思ったが、まさかテメェも感づいていたか」
ランサーは口元を歪め、アーチャーの問いに答える。
その口ぶりから、アーチャーもランサーも何かに気が付いているようだった。
「殺気の一つも無かったから放っておいたが、これ以上タダで手の内を晒す訳にもいくまい」
「確かに趣味が良いとは言えねぇ。何より隠れて見てるだけっていうのが気にいらねぇ」
何だろう……。
急に戦いが止まったかと思うと、アーチャーとランサーは何やら意味深な会話を始めている。
誰かが私達を覗き見している…?
「おい!隠れている奴、いい加減出てきやがれ!!こちとらさっきからテメェの事に気付いてんだ。コソコソ隠れてねぇで姿見せやがれ!!」
アーチャーとの会話を続けていたかと思うと、急にランサーが大声で叫んだ。
フィールド全体に響くのではないかと思うぐらいの、怒声だ。
声は辺りに反射し、木霊して私達の耳へと届く。
声の反射が徐々に小さくなり、聞こえなくなる。
と、その瞬間だった。
「……ひっ――――!?」
と、一瞬だが生ぬるい空気が首筋を撫でた様な気がした。
その微妙な感触は、悪寒となって全身を奔る。
不快感と言うよりも恐怖に近い。
「呵々々々、よもやまたしても気付かれるか……。なるほど、やはり此度の戦は雑魚が少ないようだ」
思わず声のした方へと顔を向ける。
私から見て丁度右手側。
そこに其れはいた。
赤い。
其れは人の形をした殺意の塊だった。
人ならざるモノ。
そのサーヴァントは品定めでもするかのように私達を見ている。
この世界に来てから初めて味わう明確な殺意。
私の体は、再び硬直し動けなくなってしまった。
「……ふむ、先程から感じていた視線の正体、それは貴様だったか」
「如何にもアーチャー。この程度の気配遮断で気付かないようならば、消して来いと命令されていたが……それは無用のようだな」
「ふざけてんじゃねぇぞ暗殺者風情が。コソコソ隠れるだけ隠れて隙を見て消すだぁ?ぶっ殺されてぇのかてめぇ…」
「―――――――――――――!!」
あまりにも物騒な会話。
相手を消すとか、殺すとか。
そんな言葉を当たり前のように使う3人の会話。
私は、そんな彼らに圧倒されながら、崩れ落ちそうになる体を必死で耐える。
「見つけた……」
突然私の耳に恨みの籠ったような声が届いた。
声のした方へ視線を移す。
ランサーのマスターである少女が眼を細め、歯を喰いしばりながら男を睨んでいる。
「やっと見つけたよ……アサシン…!」
アサシン……。
今、少女はそう言った。
暗殺者のサーヴァントであるアサシン。
彼女はその正体を知っていた。
何かの恨みがあるのか、少女の眼光は鋭いまま。
「皆を殺した仇……此処で取ってみせる」
私はその言葉に、思わず息をのみ、後ずさりをしてしまった。
殺された……?
アサシンに……サーヴァントに殺された?
聞き間違えじゃない。
彼女は確かにそう言った。
何故?
サーヴァントで、プレイヤーを殺す?
そんな事をして何の得になるのか分からない…。
「嬢ちゃん…落ち着きな。あんまりそんな顔するもんじゃないぜ」
ランサーが少女に声をかける。
なだめようとするランサーの声。
だけど少女は、睨む目をアサシンに写したまま呟く。
「……ランサー」
怨嗟の声でその一言を言う。
「―――――――――――――殺して」
「―――――――――――――――――――!!」
足が震え始めた。
体中にいやな感覚が奔る。
立っていられない。
私は体を重力にまかせてその場に崩れ落ちた。
「ククク……本来ならばアーチャーのみを相手するはずだったのだがな……。ランサーを殺すなという指示も無い」
アサシンはそう言うと、ゆっくりと腰を落とし構えた。
「ふっ……私をご指名だったか――――――ならば、相手取ってやろう。どうせ最後には相手にしなくてはならんのだからな」
アーチャーも双剣を自然な形で構え、迎撃の態勢を取る。
「…随分と舐めた事言いやがるな暗殺者。この俺を殺すとはいい度胸だ……逆に殺されても文句言うんじゃねぇぞ」
ランサーは殺気を隠そうともせず、朱槍を構える。
三者三様の独特な空気が辺りを包む。
今にも弾け飛びそうなくらい張りつめた空気の中、私は気を失いそうになる。
剣、槍、拳。
三人の獲物が今か今かと、主が動くのを待っている。
そして次の瞬間、緊張の糸がプツンと切れ、空気が弾けた。
三人の戦士達の狂乱の宴が此処に始まる。
次回は、三つ巴の戦いに加え、アスナとサチの女の戦い。
どうなる事やら。
感想お待ちしています。