Fate/ONLINE   作:遮那王

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お待たせしました。
だいぶ掛かってしまいましたが何とか完成しました。




第二十話 竜使いの少女と…

 

「―――――――ピナ…なんで……一人にしないでよぉ……」

 

少女の頬から二筋の涙が流れ落ちる。

涙は地面へ落ち、光の粒を散らしていた。

 

「……すいません。もう少し、私が早く気が付いていれば」

 

彼女の隣で膝を突きながら寄り添うのは、白銀の女騎士。

そのすぐ近くには黒いコートを着た男性プレイヤーが立っている。

 

少女の眼からは次々と涙が零れおち、手に持っていた短剣は地面へと転がった。

嗚咽を洩らし、全身から力が抜けていくのを感じながらも、少女は気丈にも涙を抑え、声を絞り出した。

 

「いいえ…ありがとうございます……助けてくれて……」

 

黒衣のプレイヤー、キリトと白銀の女騎士セイバー二人が少女、シリカと出会ったのは全くの偶然であった。

 

二人は、ある二つの目的でこの階層へと来ていた。

一つは、犯罪者ギルドの討伐。

 

数日前にとあるプレイヤーから、ある依頼を受けて、その目的のギルドがこの辺りによく目撃されていたという理由でこの階層へと足を運んでいたのだ。

 

そしてもう一つの目的が隠しダンジョンの捜索。

 

以前、監督役から送られてきたメッセージによると、各階層にダンジョン呼ばれる特殊なエリアが設置されていた。

そのダンジョンには、サーヴァント専用のクエストがあり、そのクエストを達成するためにこの階層へと来ていたのだ。

 

とは言っても、どの階層のどの場所にダンジョンが設置されているかは知らされておらず、虱潰しに探すしかなかった。

 

そんな折、二人は“ドランクエイプ”に襲われているシリカを発見、救出へと至った。

 

発見した時、真っ先にセイバーがその場から飛び出し、一瞬でドランクエイプを斬り伏せたのだったが、既に彼女のパートナーでもあった“フェザーリドラ”のピナは、ドランクエイプの棍棒の餌食となっていた。

 

シリカは、自分が一年もの間、共に生き続けてきたパートナーを失いその場に泣き崩れ、二人はそれを見ている事しか出来なかった。

 

そんな中、キリトが遠慮がちに声を発した。

 

「……その羽根だけどな。アイテム名、設定されているか?」

 

シリカ、そしてセイバーは、地面に落ちている水色の羽根に視線を向ける。

 

「心アイテムが残っていれば、まだ蘇生の可能性がある」

 

キリトのその言葉は、シリカの心に希望の光を当てた。

 

----------------------

 

キリトとシリカ、そしてセイバーは、一時的なパーティを組む事になった。

目的は、使い魔組成用アイテムの取得。

 

キリトは、レベルがそこまで高くないシリカのためにいくつかのアイテムの譲渡、そして護衛としての役割を買って出ていた。

 

正直、シリカはキリトが何故そこまで自分のためにしてくれるのかが分からず、警戒していたが、キリトの

 

「君が……妹に、似てるから」

 

その言葉で思わず笑いを堪える事が出来ず、キリトを信じてみようと思っていた。

 

そして現在、三人はシリカの定宿である《風見鶏亭》へと足を運んでいる。

 

「ここのチーズケーキがけっこういけるんですよ」

 

そんなシリカの言葉で、宿屋で食事を取る事になり、キリト達を引き連れてここまで来ていた。

 

その言葉で、一瞬セイバーの眼が光った気がしたが、決してそんな事は無い。

 

宿屋に入ろうとした時、ふと隣の道具屋から一組のパーティが姿を現す。

その集団の中、一人の女性プレイヤーの眼がシリカを捕らえた。

 

「あら、シリカじゃない」

 

その顔を見てシリカの顔が曇った。

 

「……どうも」

「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」

 

ピナが死ぬ前、喧嘩した女性プレイヤー、ロザリアだった。

 

「でも今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったわ」

「要らないって言ったはずです!──急ぎますから」

 

会話を切り上げようと、シリカは歩を進めようとする。

だが、向こうは一つ気が付いたようで、再び声をかけた。

 

「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」

 

思わず口をつぐみ、悔しさで唇を噛む。

 

「あらら、もしかしてぇ……?」

「死にました……。でも!」

 

キッとロザリアを睨みつける。

 

「ピナは、絶対に生き返らせます!」

 

そう啖呵を切ったシリカにロザリアは少し驚いたように目を見開き、小さく口笛を吹く。

 

「へぇ、てことは《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」

 

その言葉に、キリトが一歩前に出て発言しようとした。

だが、

 

「(セイバー?)」

 

セイバーが一歩前に出てキリトを止める。

すると、シリカの肩に手を置き後ろへ下がらせた。

 

「セイバーさん?」

「行きましょう、シリカ」

 

シリカは怪訝な顔をするものの、セイバーの優しく諭すような言葉で、心を動かされたのかゆっくりと頷いた。

 

「ま、せいぜい頑張ってね」

 

宿屋へ向かうキリト達にロザリアの笑いを含んだ声が背中を叩いたが、振り返る事は無かった。

 

---------------------

 

《風見鶏亭》の一階のレストランの席で、シリカがまず驚かされたのは、キリトの相棒であるセイバーに関してだ。

 

現時点では、特にレベルやステータスについて話をしてはいない。

だが、彼女の前に置かれた大量の食事がシリカの驚きの対象となっていた。

 

「……よく、食べますね……」

 

シリカは目の前のドリンクを見つつ、胸を抑えながらそれを見ていた。

 

「ああ…彼女、結構よく食べるんだ……。何処にそんな量が入るのかってぐらい」

 

キリトはいつもの事だと、カップを口に付けて言う。

そんな事を尻目に、セイバーはコクコクと頷きながら、料理の入った皿を平らげていく。

 

シリカはそんな彼女の姿を見て、思わず口元を緩ませた。

片手で口を抑えて笑いを堪えようとする。

 

「む…どうかしましたか?」

 

そんなシリカの様子に、セイバーが手を止めて怪訝そうにシリカを見つめる。

 

「いえ…ごめんなさい、ついおかしくて」

 

口を抑えるも、込み上げてくる笑いを堪える事が出来なくなったのか、つい吹き出してしまった。

 

「むぅ…」

 

そのシリカの様子に、セイバーは心外だといった表情を見せる。

 

―――もっと、冷静な人だと思ってたけど、意外と可愛い所もあるんだ―――

 

シリカは、セイバーと会ったときからクールな印象を受けていた。

だが、このセイバーの様子を見て、彼女の中の評価を変えていた。

 

セイバーは眉根を寄せながらも、再び手を動かして目の前の料理を平らげていた。

ゴクリと喉を鳴らして口に入っていたモノを呑み込むと、優しげな眼差しをシリカへと向けた。

 

「その様子ですと、少しは気分が優れてきたみたいですね」

 

ハッと、シリカはセイバーを見つめた。

そう言えば、先程まで沈みきっていた気持ちが、ゆっくり溶きほぐされているような感じがした。

 

だけど、その暖かさを惜しむようにシリカは視線をテーブルに落とし、ポツリと呟く。

 

「……なんで……あんな意地悪言うのかな……」

 

その一言がキリトとセイバーの中に反響する。

キリトは真顔になると、カップを置き、口を開いた。

 

「どんなオンラインゲームでも、キャラクターに身をやつすと人格が変わるプレイヤーは多いんだ。でも、このSAOの場合ははっきり言って異常だと思う。プレイヤー全員が協力してクリアを目指すのは不可能かもしれない。でも……」

 

キリトは息を一瞬止め、言葉を切るとシリカに目を向けた。

 

「他人の不幸を喜ぶ奴、アイテムを奪う奴、―――殺しまでする奴が多すぎる。俺は、ここで悪事を働くプレイヤーは、腹の底から腐った奴だって思ってる」

 

吐き捨てるように言ったキリトの目は、怒り…そして深い悲しみの色を映し出していた。

 

「…俺だって、人の事を言えた義理じゃない。人助けなんてろくにしたこと無かったし、それに………」

 

ギリッとキリトは唇を噛み締める。

思い出されるのは、あの日の惨劇。

 

アサシンによって黒猫団の皆が殺された映像がキリトの脳内にフラッシュバックする。

 

自分の傲慢さがあの惨劇の引き金となってしまった事に、キリトは視線を落とし拳を握りしめていた。

 

「……どんな世界にも――――」

 

キリトの隣で黙って聞いていたセイバーが口を開いた。

その眼にはいつもの凛々しい表情でも、先程見せていた穏やかな笑みでも無く、どこか悲しみを含んだ表情を映している。

 

「弱者を虐げ、自らに満足感を与える者は幾人もいます。人をだまし、嘲笑い、奪い、そして殺す。そんな人間は後を絶ちません」

 

セイバーは首を横に振りそう言った。

 

「皆が協力し合って切りなければいけない状況だとしても、悪事に手を染める者がいる。この世界が現実であっても、そうでないとしても……」

 

セイバーはそう言うと、目を閉じて口を紡いだ。

まるで、この世すべてに嘆いているかのように。

 

「―――俺は…仲間を見殺しにした」

 

おもむろにキリトが口を開いた。

 

「前に…自分の力を過信しすぎて、俺は仲間を……失った…。俺もある意味、自分勝手で最低な人間だ」

 

それはキリトの絞り出すような声だった。

 

自分のレベルであれば大丈夫であろう。

セイバーが共にいれば大丈夫であろう。

 

結果、その慢心が仲間を失い、生き残った少女にも離れられてしまった。

 

「キリトさん……」

 

その事を知らないシリカも、キリトの心の中の葛藤知ってか知らずか、思わずキリトの右手を両手で包みこんでいた。

 

「キリトさんは、良い人です。あたしを助けてくれたのだから」

 

キリトは一瞬驚いた表情を見せ、シリカを見つめた。

いつの間にか、体中に入っていた力が抜けて、口元に微笑が滲む。

 

「……俺が慰められちゃったな。ありがとう、シリカ」

 

瞬間、シリカの顔が熱くなった。

心なしか心臓の鼓動も速くなる。

 

慌ててキリトの手を離し、胸を抑えた。

 

「ど、どうかしたのか……?」

 

テーブル越しにキリトが乗り出してシリカへと尋ねる。

 

「ふふふ」

「セイバー?」

 

キリトの隣でセイバーが意味深な笑みを零した。

 

「いいえ、ただ…」

 

セイバーがシリカへと視線を向けた。

透き通るような眼差しで見つめられたシリカは、不覚にも一瞬ドキリとするが、すぐに視線をずらした。

 

「な、なんなんだ?」

「さぁ?何でしょう?」

 

セイバーの意味の分からない行動に困惑するキリトは、その後もセイバーに詰め寄るが、セイバーは柳のように受け流し、キリトを軽くいなしていた。

 

「(……何なんだろ、この胸が刺すような痛み……)」

 

傍目から見れば恋人にも見えなくもないその行動に、シリカは複雑な気持ちを抱きながら見つめるだけであった。

 




今回はシリカ回でした。
しばらくキリト達とシリカの話が続くと思われます。

次回からはバトルを入れていきたいです。

感想お待ちしております。

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