Fate/ONLINE   作:遮那王

30 / 37

長らくお待たせしました。
3ケ月半ぶりくらいですが投稿します。




第二十七話 戦闘終了

 

「……やってくれるじゃねぇか、ライダー」

 

ライダーの大声量で、自らの名を叫んだとき丘の上のランサーは、犬歯をむき出しにし凶暴な笑みを浮かべていた。

 

聖杯戦争において、真名を隠すことは常等手段。

真名が割れるということは、自らの弱点を晒すことと同義である。

ランサーもまた、自らの名をすすんでばらす様な輩はいないと踏んでいた。

 

だが、丘の遥か下で腕を組むサーヴァント、ライダーはそんな常識を自らの手で破壊したのだ。

 

ランサーは、それが心地よかった。

 

自らが望むのは、騎士として一対一の真剣勝負であり全力の殺し合い。

ランサーはライダーのその潔さに感服し、そして奴なら小細工を使わず真正面からやりあえる、そう確信していた。

 

「おい、嬢ちゃん。悪いが観戦はここまでだ。俺達も出るぜ」

 

ライダーにあれだけの事をされたのだ。

ランサーとしても、ここで指を咥えているだけというのは、出来るはずもない。

タイミングも良い事に、ライダーはまたしても大声で他のサーヴァント達にここに出てくるよう呼びかけている。

 

「……もう少し、手の内が見たかったけど―――――分かった、行こうランサー」

 

そんなランサーの気持ちを察したのか、サチも首を縦に振らずしかなかった。

その言葉に、より一層ランサーの口元が吊り上がった。

 

「よーし。じゃあ行くと――――!!」

 

瞬間、ランサーの目が大きく見開かれ、先ほどまで眺めていた場所を睨みつけた。

 

「……?」

 

サチは、自らのサーヴァントの突然の豹変に何が起きたか分からず、同じ場所へと目を向けた。

 

その瞬間だった。

黄金の圧倒的な存在感がソコに降り立ったのは。

 

――――――――――――

 

辺りを包むのは、困惑と同様。

そして殺気が充満していた。

 

その黄金の男が降り立ったことでそれらは一気に膨れ上がっていた。

 

古代ウルクの英雄王―――――ギルガメッシュ。

 

あの男は確かにそう名乗った。

 

その名を知る者は、この場に何人といるだろうか。

ギルガメッシュの知名度は日本という国においてそこまで浸透していない。

 

だが、ギルガメッシュの威圧感はそんな名も知らない者達にも感じさせるほどに圧倒的だった。

 

ただでさえ、セイバーアーチャー、バーサーカーの戦いで息を切らしていたのに、そこへさらにライダーの介入。

そしてギルガメッシュの乱入と、キリトとアスナの精神は疲弊しきっていた。

 

だが、サーヴァント達は、奇妙な違和感を感じていた。

特に、セイバーは顔を顰めて何か、魚の小骨が喉につっかえたような感覚がその中にある。

 

「(なんだ、この奇妙な既視感は……。なにか、私は―――――――)」

 

前に一度、これと同じようなことがあったのか……セイバーはそう感じていた。

 

そんな中、ライダーは口元に笑みを浮かべると、嬉しそうに語りだした。

 

「なるほど。よもや、貴様バビロニアの英雄王か。そりゃあ大層な大物が出てきたもんだ」

 

ギルガメッシュは、その言葉が聞こえてか聞こえていないのか、無言のまま辺りを見渡す。

 

ライダー、バーサーカー、アーチャー、そしてセイバーと、順に一瞥した。

 

そして、つまらなさそうに鼻を鳴らすとおもむろに口を開く。

 

「なるほど、此度の役者が揃ったというわけか。だが……」

 

ギルガメッシュは、一点を見つめる。

その視線の先は――――――。

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

痺れを切らしたかのように叫ぶ、バーサーカー。

理性を失い、戦う獣と化したその存在は、戦いを邪魔した存在に腹を立てているようにも見えた。

 

「この場に相応しくない者もいるようだ」

 

ギルガメッシュはそう言うと、じっとバーサーカーを見つめた。

そして、徐に右手を掲げる。

 

「なっ!!?」

 

セイバーの背後にいるキリトの驚きに満ちた声が上がる。

 

ギルガメッシュの背後の空間が歪み、そこから後光のように宝具が出現したのだから。

その数20を超え、槍や剣はもちろん斧、槌、矛……挙句の果ては用途の知れない奇怪な刃を持つ武器まである。

 

「見せてみよ狂犬。貴様の実力を」

 

ギルガメッシュの号令によって魔弾と化した宝具が解き放たれる。

轟音が大気を揺るがし、破壊の力が疾走する。

ミサイルの集中砲火のような武具の投擲に倉庫街は絨毯爆撃を受けたかのような有様になっていく。

 

すさまじい光景にサーヴァントもマスターたちも唖然としている。

動いたのは標的になったバーサーカーだけだった。

 

最初に飛んできた矛を左手でつかみ、右手の剣と共に構えると、襲い来る宝具を片っ端から迎撃した。

 

流れるような動きは精緻にして華麗、武舞といっても過言ではない。

手に馴染まない武器を扱う危うさなどは感じられなかった。

おもわず今の状況を忘れて見とれるほどだ。

 

そしてただ見とれるだけではない、これほどの破壊を可能とするギルガメッシュとそれを凌ぎ切るバーサーカー。

これから聖杯戦争が進めばこの二騎とも戦うことになるだろう。

あるいは両方と、そのときにこの正体不明なサーヴァントたちとどう闘えばいいのか、サーヴァントたちは己が戦う瞬間を想像し、この戦闘を観察している。

 

バーサーカーは強力な武器が飛来すれば、手に持っている武器を捨ててより強力な武器を手にとって戦闘を再開する。

 

この攻撃をしのいでいるバーサーカーが異常なのであって、それ以外の英霊だったならすでに勝負はついていたかもしれない。

 

やがてひときわ強烈な音と共に、最後の武器が叩き落される。

さっきまでの破壊の音が嘘のように静まり返った後には粉塵の中に立つ無傷のバーサーカーと、その周りに散乱している武器たちが残った。

バーサーカーの周りには何もない。

木々が岩が、跡形もなく吹き飛んでいた。

 

しかし、それだけの破壊を周囲に振りまきながらもなお、バーサーカーの鎧には傷一つついていなかった。

魔弾はその一つとしてバーサーカーを破壊するどころか掠る事さえ出来なかったのだ。

 

「……」

 

その光景を腕を組みながら眺めていたギルガメッシュは、眉一つ動かさない。

まるで、それが当然であると言わんばかりに。

 

やがて、バーサーカーは右手に持つ曲刀を上段に構える。

そして一気に投擲する……はずだった。

 

甲高い音と共に、バーサーカーの持つ曲刀が空中へと投げ出された。

否、何者かに弾かれたのだ。

 

バーサーカーがそれに反応するが、遅い。

 

疾風の如く蒼い影が、深紅の槍を用いてバーサーカーを吹き飛ばした。

そして、立て続けに蒼い疾風の踵落としがバーサーカーの体躯を抉る。

バーサーカーはそれに反応しきれず、無様に地面に転がった。

 

「ほう、やっと来たか」

 

ライダーがぼそりと呟く。

まるで来ることを予想していたようだ。

 

蒼い影は、地面に軽快な音を立てて降り立った。

そして深紅の槍を肩に担ぎ、口元を歪めた。

 

「すまねえな。無粋と分かっていたが横槍を入れさせてもらったぜ」

「――――ランサー……」

 

セイバーが警戒しつつ、声の主―――ランサーを見つめた。

当然、この場にいる全員が突然の乱入者へと目を向けている。

 

「ランサー、無粋と分かりつつ何故手を出した――――――返答次第では貴様のその首を跳ね飛ばすぞ」

 

ギルガメッシュが、低い声でランサーへと問いを投げた。

その背後には、先ほど以上の剣群が空間から顔を出している。

誰もが息を飲む。

 

「すまねえなぁ英雄王。ちょいとさっきの戦いを覗かせてもらったんだが……俺もバーサーカーに興味があるんだ」

 

槍をバーサーカーに向けながら答える。

 

「テメェと奴の戦いを見て、疼いちまってよぉ―――――嬢ちゃんには止められたんだが」

 

ランサーらしい戦闘狂の答えだった。

 

「軽く奴の反応を見たかったんだが、まさかこの程度避け切れねぇとはな」

 

そういうと、ランサーは残念そうにバーサーカーを見つめた。

ランサーからすれば、今の不意打ちも相手の手の内を見るための軽い運動のつもりだった。

 

だが、当のバーサーカーはランサーの速度に反応しきれず醜態をさらしてし、挙句地面をなめる羽目に。

 

そのことに気分を害したのか、辺りに殺気を振りまきながらバーサーカーがゆっくりと立ち上がった。

その手には、先ほどギルガメッシュが放った宝具の一つであろう大剣が握られている。

 

「まあ、一度手を出しちまったらもう引っ込むつもりはねぇ。こいつは俺が貰うぜ」

 

ランサーはそういうと槍を握る手に力を込めた。

どうやらバーサーカーと一対一の勝負が御所望らしい。

 

「……好きにしろ」

 

ギルガメッシュはそう言うと、背後に広がっていた宝具を収めた。

今回は傍観に徹するようだ。

 

「そんじゃま、行きますかね」

 

ランサーはそう言うと、体制を前のめりにしながらバーサーカーへ突っ込んだ。

予備動作すら必要なく、静止した状態からいきなりトップスピードに到達したランサーが地を駆けた。

 

「速いっ」

 

セイバーが思わず口にする。

先ほども動きを見ていたが、セイバーを持ってしてもランサーの速度は目に追い切れないものだった。

 

「~~~~~~~~~!!」

 

バーサーカーが声にならない叫びを上げながら、ランサーを迎え撃つ。

両手で構えられた大剣がランサーへと迫る。

 

「甘ぇ!!」

 

バーサーカーの切り下げられた大剣が空を切った。

だが、それで終わりではない。

バーサーカーは大剣を握りなおすと、今度は地面すれすれの位置からランサーへと向かい切りあげる。

 

だが、ランサーも黙って切られるほど甘くはない。

自らの速度を生かして、剣をかわす。

 

そしてそれは一瞬で起こった。

 

バーサーカーが持っていたはずの大剣が、その手から離れ宙に浮いていた。

そして、無手になったバーサーカー目掛けて、ランサーの目にも止まらぬ速さの突きが放たれる。

 

「~~~~~~~~~!!!」

 

悲鳴と共に鎧が砕ける音が辺りに響いた。

またしてもバーサーカーがランサーによって宙に浮かされる。

 

「一瞬の内に三撃も入れたか。なるほど、以前とは比べ物にならない速さだ」

「アーチャー、今の攻撃が見えたの!?」

「微かにだがな―――――――だが、私の目でも完全には追い切れなかった」

 

アスナがアーチャーの呟きに驚愕の声を上げる。

確かに、倒れ伏すバーサーカーの鎧には三か所の刺突痕が残っていた。

 

それを見ることが出来たとなると、流石は弓兵のサーヴァントと言わずにはいられない。

だが、真に驚くべきはランサーとバーサーカーの力量差。

セイバーとアーチャー、二人掛かりでようやく相手に出来たバーサーカーをランサーは一瞬でケリを付けたのだ。

 

「~~~~~aaa……」

 

バーサーカーはそれでも息絶えていなかった。

弱々しく痙攣しながらも、ゆっくりと上体を起こしにかかっている。

 

「まだ動けるか……。しぶとい野郎だ」

 

ランサーはそう言いながら再び槍を構えなおす。

 

だが、地に伏したバーサーカーは立ち上がろうとして足掻きながらも、どうやら戦闘続行が不可能なまでにダメージを受けたものと自覚したらしい。

動きを止めたかと思うと、そのまま陽炎のように輪郭を滲ませ霧散するように消えていった。

実体化を解いて霊体化して退散したのだった。

 

「……っち」

 

舌打ちしながらランサーは構えを解く。

そして槍を肩に抱えなおした。

 

「……さて」

 

ランサーは徐に辺りを見回す。

全員の顔を見るように首を回し、そして背後へと顔を向け見上げた。

 

「……」

 

視線の先には腕を組みながら戦いを見ていた、黄金のサーヴァント。

 

「「……」」

 

両者の視線が交差する。

無言の時間がかなり長く感じられた。

 

やがて、沈黙を破ったのはギルガメッシュだった。

 

「ククク……フハハハハハハハハハハッ」

 

肩を揺らして大声で笑い始めた。

 

ランサーはそれが気に入らないのか眉を吊り上げる。

 

「そう力を入れるな、我は気分が良い。あの狂犬をまさか貴様が打ち崩すとは。どうやら、此度は我を存分に楽しませてくれるようだ」

「どういうことだ……」

 

ランサーはギルガメッシュに対し睨みを利かせながら問う。

どうやら、ランサーには自分がバーサーカーに負けると思われていたと聞こえたらしく、怒りをあらわにしていた。

だが、ギルガメッシュはその問いに答えることなく、笑いながら周りを見渡しながら口を開いた。

 

「いい機会だ、貴様ら次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」

 

そう言うと黄金のサーヴァントの姿がそのきらめきだけを残して消えた。

霊体化したのだ。

やがて完全にその姿が見えなくなる。

 

「……ちっ」

 

ランサーは逃げられたと言わんばかりに、舌を打つと今度はこの場にいる全員に向き直り口を開いた。

 

「よう。まだやるか?」

「「「「!!!」」」」

 

全員が身構えた。

先程までバーサーカーを圧倒したその力。

戦うとなればそれを相手取らなければならないことになる。

 

彼の持つ深紅の槍は、未だに鈍く光を放っていた。

 

「いやはや、流石は最速の称号を持つサーヴァント……まさかここまでとはのぉ」

 

この緊迫した空気をぶち壊すのはやはりライダーだ。

何が起こったのか理解した上で感心している。

 

「世事は止めろよライダー。くすぐってぇ」

「これでも余は貴様に敬意を持っておるぞ、ランサー。しかも、まだ手を隠していると見える」

 

その目は深紅の槍へと向けられていた。

 

「時にお主、物は相談だが我が家臣にならんか?」

 

やはり、この状況でもライダーは勧誘をする。

どこまでもわが道を行く征服王に呆れのため息が漏れる。

 

「貴公がいれば他の連中も我が家臣にできそうだ。どうだ?待遇は優遇するつもりだが?」

「伝説の征服王に勧誘されるとは、俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇな」

「ほう、では――――――」

「だが、俺はテメェの下に就くつもりはね無ぇ」

 

ランサーは鋭い瞳でライダーを睨みつけた。

 

「むぅ、どうしてもだめか?ランサー」

「しつこい男は嫌われっぞ」

 

ランサーは一刀両断にライダーの勧誘を断った。

その態度に、どうやら見込みなしと判断したのか、ライダーはため息を尽きつつ肩をすくめる。

 

「まあ、そこまで言われては今回は引くしかないか、仕方がない」

 

そう言うと、ライダーは二頭の神牛に手綱を入れた。

 

「では、ランサー、セイバー、アーチャーよ……しばしの別れだ。次に会うときは存分に余の血を熱くさせてもらおうか」

 

牡牛は嘶きとともに電気を放つと、蹄から稲妻を散らして虚空へと駆け上がる。

 

「さらば!」

 

轟雷と共に、ライダーの戦車は空の彼方へと駆け去って行った。

 

場に静寂が満ちる。

 

この場にいるのは、セイバーとアーチャーの主従とランサーのみとなった。

 

「――――――ランサー」

 

静寂を破ったのはキリトだった。

以前対面しているランサーに向けて声を発した。

 

「お前……」

「坊主。そいつは賢い選択とは言えねぇな」

 

ランサーから出たのは底冷えするような低い声だった。

明らかに拒絶の意図が含まれている。

 

「……前に多少会った事が有るとはいえ、今のお前らと俺達は敵同士。馴れ合うもんじゃねぇ」

 

突き放すようにランサーが言う。

すると、薄暗いフィールドの奥より、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。

セイバーとアーチャーが身構える。

 

「……あ―――――――――」

 

キリトが声を漏らした。

その人物は自分自身よく知る存在。

ランサーのマスター、サチであったから。

 

「ランサー、引こう。最低限の目的は果たした」

 

サチはランサーに向かってそう言うと、キリト達を一瞥する。

キリトは、目を見開いたまま動けず、アスナに至っては先程の戦闘の余波を受けたのか座り込んだまま動けない。

 

「まぁいいか。とりあえず今日はこのくらいで引いといてやるよ」

 

そう言うと、ランサーはサチの腰を抱きその場から立ち去ろうとする。

 

「待ってくれ!!」

「……キリト君?」

 

思わずキリトが呼び止めた。

アスナが疑問そうに声を絞り出す。

 

サチはランサーの右手に体を預けたままキリトを見る。

 

「サチ……君は何をしようと――――――」

「キリト、前にメッセージで言わなかったかな?」

 

サチはキリトの言葉を途中で切って口を出す。

 

「今の私たちは敵同士。私は聖杯を手に入れる。そして、すべてをやり直すの。だから……」

 

サチはそこで一拍を置いた。

そして、俯きがちに言葉を紡いだ。

 

「もう、私と関わらないで」

 

明らかな拒絶の言葉。

 

その言葉が放たれると同時にランサーが地面を蹴った。

一瞬でその場から消え去る。

 

キリトは絶句しながら、ただ虚空を眺めそのまま座り込んでしまった。

 

この場に残されたのは2人と2機のみ。

大混乱の乱戦はこれにて終結した。

 

 

 




まずは、長い間更新できなくてすいませんでした。
社会人ともなると、なかなか時間が取れない者で。

そして、前回感想を頂けた皆さんありがとうございます。
感想をもとに、少しずつオリジナルを入れていきたいです。

ちなみに現在のステータスの順位としては、

ギルガメッシュ≧ランサー≧アサシン>>バーサーカー>セイバー≧アーチャー≧ライダー>>キャスター

ぐらいな感じです。

またの更新をお楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。