Fate/ONLINE   作:遮那王

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みなさん、クリスマスをどう過ごしましたか?
私は家族と鍋をつついていました。

今回は少し短め、過去の話です。


幕間1 一人の天才と一人の狂人

闇に包まれたとある一室。

「ソードアート・オンライン」正式サービス開始の一週間前、二人の男はそこにいた。

 

といってもこの部屋にいるのは実際一人のみでもう一人はパソコンの画面越しに話しているだけである。

 

「私の世界にこのような細工をするとはな。全く、これでは世界のバランスが狂ってしまう」

 

そう呟く男の名は茅場晶彦。

「ソードアート・オンライン」を開発した世間で言う天才と呼ばれる人種である。

彼は自らが理想としていた世界を作り出そうと、このゲームを開発した。

 

だが、一人の男の手によって脆くも歯車が狂い出したのだった。

 

「なに、私は見てみたいのだよ。自らが囚人となり命が賭けられたと知った人々が、どのように世界を渡っていくのかを。さらに聖杯という賞品を掲げられた人間達が欲望の赴くままに行動する様を私は観察してみたい」

 

画面越しの男は視線を茅場に向けながら言葉を継ぐ。

 

男は歪んだ空間に一人立っておりカソックを着て、その姿は聖職者に見える。

だが、暗い画面越しにかろうじて読み取れるその表情は不気味に歪んでいた。

 

「だがサーヴァントという存在を許してしまえば確実にゲームバランスが崩れてしまう。そこはどう考えているのかね?」

「その点はまかしてもらおう。最初からゲームを壊すような真似はしない。少し制限をかけさせて貰うさ。それに今回のプレイヤー達は魔術師ではなくただの素人だ。サーヴァントの力を十分に発揮させることは万に一つあるまい」

 

茅場の問いかけに男はゆっくり答える。

 

「魔術師…か。最初は信じられなかったが、君と出会って世界にはまだ私の知らないことが多々あると気付かされた」

 

茅場が魔術師の存在を知らされたのは約一年前。

今話している男と出会って茅場は魔術師というものを知った。

 

「魔術は本来隠されるもの。表の世界を生きている者たちがその生がある内に魔術に気付くことなどまずない。もし気付いたとしてもその者は記憶を消されるか命を奪われることになる」

「・・・物騒だな」

 

茅場はその男と初めて会った時の事を思い出しながらそう呟いた。

 

「だが、本当に聖杯は存在するのか?もし本当ならこのゲームは本当に壊れてしまうのだが…」

 

茅場は一抹の不安を抱く。

それもそうだ。聖杯とは万能の願望機で所有者の願いを叶えるという下手したら世界そのものを破壊しかねない危険なものだ。

それに、以前この男の話に聞いていた聖杯は汚染されており、完成でもしたら茅場の考えていた世界は破壊しつくされてしまう。

 

そんな不安そうな言葉を男は理解したのか、

 

「今回私が用意した聖杯は模造品だ。私がかつてその身に宿していた聖杯を元に無益なプログラムのみに書き換えさせて貰った。故にこの聖杯が完成しても君の世界が壊れることはない。そして、サーヴァントを連れたプレイヤーがどうゲームに生かしていくかも私は興味がある」

 

 男はクックッと嬉しそうに肩を揺らしながら言う。

 

「自らの欲望のために聖杯を求めるか。はたまた聖杯を必要とせずただ平穏な日々を求めるためにサーヴァントを使うか…楽しみだ」

 

男はそう言うと茅場へと視線を戻す。

 

「そう言えば君に一つ頼みがあるのだが」

「頼みだと?」

「ああ、どうしてもマスターとなったプレイヤー達を見てみたくてね。私もあの世界へと足を踏み入れることを許してほしい。もちろん、ただでとは言わないがね……」

 

茅場は自らの世界を実現するために「ソードアート・オンライン」を作り出した。

そして自らもプレイヤーとしてこの世界へ旅立つつもりだった。

だがこの男はゲームに参加するのではプレイヤーを見るためだけにあの世界に生きたいと言い出した。

 

それも不気味に笑いながら。

 

「…何が狙いだ?」

「なに、私は右も左もわからずにマスターとなってしまったプレイヤーの手助けをしたいと考えていてね。拠点を建ててくれるとありがたいのだが」

 

茅場は訳がわからなくなった。

考えを巡らせるがなかなか男の考えていることにたどり着けない。

 

「そうだ。どうせなら君にもサーヴァントを一騎支給しよう。私が考えうる中でも強力なサーヴァントだ。これなら文句もあるまい。まあ君が必要ないというなら無理にとは言わんがね」

 

男はそう提案してくる。

確かにサーヴァントという強力な駒を手に入れられることは魅力的である。

茅場はしばし考える。

 

「……分かったよ。君のお願いを聞こう」

「ふむ、ありがたい」

「ただし、間違っても君がゲームの攻略に参加することは止めてくれ。あくまで傍観者として参加するのなら私は君をこの世界に送ろう。それと私に支給してくれるというサーヴァントだが、ゲームがある程度進むまで私に預けるのは待っていてくれないか?時がきたら直接連絡しよう」

 

茅場はいくつかの制限をつけることで男の頼みを聞くことにした。

この訳のわからない男が攻略になど参加したら何が起こるか分からない。

下手すればゲームが根本から崩される可能性だってある。

 

そして男が支給してくれるサーヴァントだが、この男が何の考えもなしに自分に力を貸すとはとてもじゃないが思えなかった。

なので、ギリギリまで粘ってからサーヴァントを受け取ろうと茅場は考えていた。

 

「ふむ、いいだろう。私は傍観者としてマスターの支援をしよう」

「そうしてもらえると助かる」

 

男と茅場は一先ず話を終える。

 

「さて、それではそろそろお暇させていただこう」

 

男はそう言うと画面から離れていき、歪んだ空間のある一端で言葉を継ぐ。

 

すると何もなかった空間に仰々しい扉が出現した。

男は扉に手をかけ部屋を出ていこうとし、茅場は何も言わずにその男の背中を見送っていた。

 

扉を開き男は出ていこうとするが、突如男は立ち止まりこう言った。

 

「楽しみにしているぞ、茅場晶彦。せいぜい私を楽しませてくれ」

「ああ。ご期待に答えられるよう此方もできる限り努力しよう」

 

そう言葉を交わすと男は音も立てずにその空間を後にした。

茅場は画面越しに男の出ていった扉をしばらく見つめ、

 

そして

 

「面倒なことを引き受けたものだ」

 

そう静かに呟いた。

 




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