Fate/ONLINE   作:遮那王

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前回の投稿から随分と間を開けてしまいました。

テストやらレポートやらで首がなかなか回りませんでした。

では次の話です。


第五話 黒猫団と・・・

ビーターである俺は他のプレイヤー達からは疎まれる存在だ。

故に俺は基本ソロとしてこのゲームを攻略している。

 

だが現在、俺は一つのギルドに所属している。

 

ギルドの名前は“月夜の黒猫団”

 

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きっかけは些細なことだった。

 

俺は最前線から十層以上も下のフロアの迷宮区で武器の素材となるアイテムの収集に来ていた。

当然この時もセイバーは俺の側に控えているわけで、彼女も俺と共に狩りをしていた。

一通り必要量を集め終わった俺たちは帰ろうと出口へ向かう。

 

「キリト、止まってください」

 

彼女は突然そう言うと、俺の肩に手を置き立ち止らせた。

何事かと思ったが、その疑問もすぐに解決した。

通路を少し大きめのモンスター群に追われながら撤退してくるパーティーと俺たちは遭遇した。

 

「どうしますか、キリト?」

「どうするも何も…助けるにきまってるだろ……!」

 

俺は少し迷ったが、そう言うと脇道から飛び出しリーダーらしき男と一言言葉を交わすと武装ゴブリンの前へ踊り立った。

正直この程度の敵であれば俺一人でも十分だし、セイバーの手を借りる必要もない。

だが、俺はゲームの中でも攻略組に位置付けされており、なおかつ汚いビーターだ。

だから俺はわざと手を抜き時間をかけてゴブリン達と戦った。

 

だが、

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

甲高い悲鳴が迷宮内に響き渡る。

悲鳴の主はパーティーの中でも紅一点の槍使いの少女のものだった。

声の方向へ目を向けると、三体のゴブリンが少女に向かって武器を掲げているのが見て取れた。

どうやら俺は知らない間に、一団から抜け出た敵を見逃していたらしい。

俺は急いで彼女の元へ駆け寄ろうとするが、

 

グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

 

断末魔と共にゴブリンは消え去ってしまった。

見るとセイバーが少女の前に立ち、不可視の剣を振り切っていた。

どうやら一振りで三体のゴブリンを消し去ったらしい。

俺はそれを確認し、ホッとすると再びゴブリンの一団を相手に時間をかけながら、今度は一体も残すことなく戦いを繰り広げた。

 

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「ありがとう……ほんとに、ありがとう。凄い、怖かったから……助けに来てくれた時、ほんとに嬉しかった。ほんとにありがとう」

 

槍使いの少女は涙を流しながら俺達に礼を言ってきた。

俺は彼女のその涙とありがとうという言葉に、ただ助けて良かったと強く思った。

 

「いいえ、当然のことをしたまでです」

 

セイバーは少女に笑顔を浮かべながらそう口にする。

サーヴァントという存在になる前のセイバーについて、俺は彼女から何も聞かされていない。

一度、どのような偉業を成し遂げてサーヴァントとなったのか彼女に聞いてみたことがある。

だが、

 

『申し訳ありません――本来最初に自らの真名を明かすものなのですが、貴方はマスターとしてはまだ未熟…精神的防御もままならないと思います。敵に誤って真名を明かされると此方に大きなハンデがついてしまいます。ですので貴方には真名を知らせずにおきたい。どうかこの無礼をお許しください』

 

そう言われ断られてしまった。

確かに英雄だったころの名前が知れてしまえば、相手に大きなアドバンテージを与えることになる。

この提案に俺は同意し、しばらくは彼女の真名を知らずに聖杯戦争に参加することにした。

 

だが、彼女の見せる礼儀正しい態度と戦いの時の身のこなしを見ると、彼女がいかに偉大で素晴らしい騎士の英雄だったのか分かる。

 

「俺もちょっと残りのポーションが心許なくて……よかったら、出口まで一緒に行きませんか」

 

俺はセイバーと少女が声を掛け合っているのを横眼に見ながら彼らにそう問いかけた。

 

「心配してくれて、どうもありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて、出口まで護衛頼んでもいいですか」

 

リーダーらしき男は顔を大きくほころばせて頷いた。

これが俺たちと月夜の黒猫団によるファーストコンタクト。

そして俺が黒猫団に入る切っ掛けとなった出来事だった。

 

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「よかったら、うちに入ってくれないか」

 

黒猫団のリーダー、ケイタは俺にそう問いかけてきた。

 

俺たちはあの後、迷宮区から脱出し主街区の酒場で一杯やることになった。

そこで自己紹介を終えると、黒猫団のみんなは俺とセイバーにいろんな質問を投げかけてきた。

その見えない武器は何なのか、パーティを組んでいるのか、もしかして恋人同士なのか。などと、他愛もない会話を交わしていた。

俺はそれらの質問にサーヴァントという存在をあまり表沙汰にせず、なおかつ自分の本当のレベルを明かさないように気を使いながら談笑を続けた。

 

そして談笑を続けるうちにケイタは俺にギルドへの勧誘をしたのだ。

 

「ほら、僕ら、レベル的にはさっきのダンジョンくらいなら充分狩れるはずなんだよ。ただ、スキル構成がさ……君ももう分かってると思うけどさ、前衛できるのはテツオだけでさ。どうしても回復がおっつかなくて、戦ってるうちにジリ貧になっちゃうんだよね。キリトやセイバーさんが入ってくれればかなり楽になるし、それに……おーい、サチ、ちょっと来てよ」

 

ケイタが呼んだのは、あの黒髪の槍使いの少女だった。サチという名らしい彼女はワイングラスを持ったままケイタの隣に並んだ。

 

「こいつ、メインスキルは両手長槍なんだけど、もう一人と比べるとスキルの錬度が低いから今の内に片手剣に転向させようと思うんだ。でもなかなか時間が取れない上にいまいち勝手が良く分からないみたいでさ、よかったら、少しコーチしてあげてくれないかな?」

「なによ、人をみそっかすみたいに」

 

サチは頬を膨らませるとちらりと舌を出して笑った。

 

これまで俺はずっと殺伐とした最前線で暮らし、リソースの奪い合いを続けてきた俺にとって彼らのやり取りは微笑ましく、そして眩しく俺の眼に映った。

 

「みんないい奴だから、キリトもすぐ仲良くなれるよ、絶対」

 

ケイタを含め黒猫団の面々がいい奴こうやって楽しく話しているだけでもうすでに分かっている。

俺は彼らを騙していることに罪悪感を感じていたが、

 

「じゃあ……仲間に入れてもらおうかな。改めて、よろしく」

 

笑顔を作り頷いた。

 

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「キリト、よろしいのですか?」

 

小さな宴会が終わり、ギルドに入った俺を含め皆が宿に戻ると、各々の部屋で睡眠を取るため分かれた。

部屋に入った俺に今まで俺の後ろを黙ってついてきていたセイバーが唐突にそのようなことを言いだしたのだ。

 

「…何がなんだ」

「キリトが自らの力を偽って彼らと共に行動することがです。確かにあなたの力が加わればギルドの実力も上がるでしょう。しかし、いつか嘘というものはばれるものです。嘘がばれた時、彼らから罵りの言葉を浴びせられるかもしれない。そして下手をすれば命の危険だってあるかもしれないのです」

 

セイバーの言葉を俺は黙って聞く。

 

「それに私たちは聖杯戦争の参加者です。いきなりの襲撃の際、周りにいる彼らが巻き添えになる可能性だってあるのです。そうなる前に私たちは彼らから離れるべきです」

「……分かってる―――――分かってるんだけど」

 

俺は言葉に詰まりながらも声をひねり出すように続ける。

 

「―――――もう少し……もう少しだけ彼らといちゃいけないかな…」

 

絞り出すように俺は呟いた。

俺が彼らといることはかなりの危険が伴う。

でもそれ以上に俺は彼らと一緒にいることに居心地の良さを感じていた。

 

「…………」

 

セイバーは黙ったまま俺の顔を見つめ

 

「……分かりました。もう少しだけ彼らと行動を共にしましょう。しかし、覚悟だけは常にしておいてください。いつ彼らと別れることになるかは分からないのですから」

 

セイバーはそう言うと俺の部屋から出て行った。

 

いつ彼らと別れることになるかは分からない。

そのセイバーの言葉は俺の中で強く反響し続けていた。

俺がビーターとばれた時、彼らから非難を受けそしてギルドから去るかもしれない。

フィールドにいる途中で他のサーヴァントからの襲撃に遭い、黒猫団のみんなが戦いに巻き込まれるかもしれない。

最悪、俺を含め皆がこの世界、そして現実世界で死ぬかもしれない。

 

俺はそのリスクを背負ってでもギルドに身を置くことを選んだ。

俺自身、寂しかったのかも知れないし、彼らから頼りにされるのもとても気分が良かった。

正直他のサーヴァントが来ても俺とセイバーとなら追い返すことはできると思う。

 

きっと大丈夫

 

俺は自分に言い聞かせるようにして眠りについた。

 

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俺が黒猫団に入ってからパーティバランスは大幅に改善された。

戦闘中は、俺はひたすら防御に徹し他のメンバーに止めを刺させることで経験値ボーナスを譲り続けた。

おかげでギルド全体のレベルは快調に上昇していった。

 

そんな中、俺は深夜になるとたびたび宿屋を抜け出してセイバーと行動していた。

理由は俺とセイバーのレベル上げのためだ。

俺たちは皆が寝静まった深夜に最前線へと乗り出し、レベル上げを行っていた。

 

そして現在、俺は第一層のはじまりの街、黒鉄宮に来ている。

理由は、セイバーの強化のためだ。

 

サーヴァントは、レベルアップによって得られるSP(スキルポイント)を、好きなパラメータに割り振ることで、強化することができる。

魂の改竄と呼ばれているそれは、はじまりの街の黒鉄宮の秘密工房に行かないと行う事ができない。

 

そのため俺は久しぶりに第一層へと足を運んでいた。

秘密工房の場所は、聖杯戦争参加者にしか知らされていないらしく、他のプレイヤーが来ることはまずないらしい。

 

秘密工房へと到着すると、俺を出迎えたのは二人の女性。

蒼崎姉妹と名乗った彼女らは、NPCでもプレイヤーでもないバグのような存在らしい。

 

「あら、久しぶりね。改竄しに来たの?」

 

朱色の髪の女性、蒼崎姉妹の妹“蒼崎青子”が俺に問いかける。

 

「ああ、頼む」

「随分とほったらかしにしていたな。こまめに来ておいたほうがいいぞ」

 

青髪でメガネをかけた女性、姉の“蒼崎燈子”が久しぶりに来た俺に声をかける。

 

「ここ最近忙しくって…。なかなか来ることができなかったんだ」

「そうか、まあ私の知ったことじゃないがな」

「自分から聞いといてそれは無いんじゃないのか…」

 

橙子のぶっきらぼうな返事に俺は思わず苦笑する。

 

「ま、いつもの事だから気にしないで。じゃあさっさと始めましょ」

 

青子はそう言うと俺とセイバーに向けて改竄を促す。

俺は改竄するステータスを選ぶと、青子はその設定に合わせて改竄を始めた。

 

サーヴァントは個体によって上がりやすいステータスと上がりにくいステータスがあるらしく、俺が改竄をする時は割とセイバーの上がりやすいステータスにSPを多めに割り振っている。

なるべく均等に降ることも大事なのだが、現在の状況で上がりにくいステータスに割り振ってもあまりメリットが存在しないと俺は判断した。

 

「はい、終了。随分とSPが溜まっていたから割といい感じよ」

 

俺はしばらく待っていると青子の声が俺に届いた。

続くようにセイバーの声も聞こえる。

 

「ステータス調節がうまくいったようです。私の力も少しずつですが戻ってきました」

「そうか、なら良かった」

 

俺はその言葉に笑みを浮かべながら返す。

 

「それじゃあそろそろ宿に戻ろう。あまり長居するわけにもいかないし」

「はい、承知しました」

 

俺はセイバーに促し、蒼崎姉妹に向き直る。

 

「ありがとう、また来るよ」

「改竄したい時はいつでも来なさいよ」

「まあ、死なない程度に頑張るんだな」

 

青子と橙子の声が俺に掛けられる。

俺は二人の言葉を受け取ると工房を後にし、そして転移門へと足を進める。

転移門へと到着した俺は宿のある街へと転移をし、宿へと歩を進める。

 

そして、皆が寝静まっている宿へと到着すると起こさないようにゆっくりと自室へと戻り、セイバーと俺のステータスを静かに確認していた。

 

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サチが居なくなった。

 

俺はそのことをケイタから告げられた。

なんでも宿から消え、ギルドのメンバーリストからも場所が特定できないそうだ。

ケイタや他のギルドメンバー達は大騒ぎとなり皆で捜索に出ることになった。

 

皆はメンバーリストから確認できないのは迷宮区にいるからだと迷宮区へと捜索に出たが、俺は自らの所得していた“追跡”のスキルを使い、俺とセイバーは二人でサチの捜索に出かけた。

 

サチの靴跡は主街区の外れの水路へと続いていた。

周辺を見回しているとセイバーがおもむろに口を開いた。

 

「キリト、あそこを…」

 

セイバーが指差した先には、暗闇の片隅で隠蔽能力つきのマントを羽織ってうずくまっているサチの姿があった。

 

俺はサチの方へと向かおうとするが、セイバーはその場で立ち尽くしたままであった。

 

「セイバー?」

「キリト、今彼女はかなり追い込まれているはずです。ですのであなた一人が彼女の元へ行ってあげてください。私が行けば余計なプレッシャーをかけるだけかと」

 

同じ女性としてサチは少なからずセイバーに劣等感を覚えているのではないか、セイバーはそう考えたのか、俺から距離を取りサチからは見えない場所へと移動した。

俺はゆっくりと頷くとサチの元へと歩を進めた。

 

「……サチ」

 

声をかけると髪を揺らして彼女は顔を上げ、びっくりしたように呟いた。

 

「……どうしてここが判ったの?」

「カンかな」

「……そっか」

 

サチはかすかに笑ったあと、再び顔を伏せた。

俺は懸命に言葉を探し、工夫のないセリフを口にした。

 

「…みんな心配してるよ。早く戻ろう」

 

サチは何も答えない。

一分か二分待ったあと、俯いたままのサチの囁き声が聞こえた。

 

「ねえ、キリト。一緒にどっか逃げよ」

「逃げるって……何から」

 

反射的に聞き返した。

 

「この街から。黒猫団のみんなから。モンスターから。……この世界から」

「それは……心中しようってこと?」

 

俺は恐る恐る訊ねた。

 

「ふふ……そうだね。それもいいかもね」

 

サチは小さく笑い声を洩らした。

俺に座ることを促すと、ポツリポツリと話し始めた。

 

死ぬ事がとても怖い事。

その恐怖により眠れなくなった事。

 

そして、俺にこう聞いてきた。

 

何故こんな事になったのか、何故ゲームから出られないのか、何故ゲームで本当に死ななければならないのか、こんな事をした張本人に、一体どんな得が有ると言うのか、そもそもこんな事に……何か意味が有るのか。

 

俺はこの質問に個別に回答することは可能だった。

しかし、彼女がそんな答えを求めているわけではないことくらいは、俺にも解った。

懸命に考え、俺は言った。

 

「多分、意味なんて無い……誰も得なんてしないんだ。この世界ができたときにもう、大事なことが終わっちゃたんだ」

 

嘘をついた。

俺は少なくとも黒猫団で強さを隠して潜り込むことで密かな快感を覚えている。

そういう意味では俺は得を得ている。

 

そして、俺がこの時口にできたのは嘘で塗り固めた一言だけだった。

 

「……君は死なないよ」

「なんでそんなことが言えるの?」

「……黒猫団は今のままでも充分に強いギルドだ。マージンも必要以上に取っている。あのギルドにいる限り君は安全だ。別に無理に剣士に転向することなんてないんだ」

 

サチは顔を上げ、俺にすがるような視線を向けた。

 

「……ほんとに?ほんとに私は死なずに済むの?いつか現実に戻れるの?」

「ああ……君は死なない。いつかきっと、このゲームがクリアされる時まで」

 

そんな説得力の欠片もない、薄っぺらい言葉であったが、サチは俺の近くににじり寄り、俺の左肩に顔を当てて、少しだけ泣いた。

 

だが、俺はこの時気付かなかった。

俺達を見ている視線に。

ただ、獲物を見つめる猛禽のような人殺しの眼が俺たちを狙っていることに。

 

 


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