Fate/ONLINE   作:遮那王

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やっと完成しました。


第八話 拳と剣と槍

「え……何?」

 

私は突然目の前に現れた人物に戸惑っていた。

吹き飛ばされそうな風とまばゆい光が照らし始めたと思ったら、その中心にはこの男の人が立っていた。

 

「あん?お嬢ちゃんが俺を呼び出したんじゃねーの?」

 

彼は私に問いかける。

私は黙ってただ彼の威圧感に圧倒されながら彼の顔を見るのがやっとの状態だ。

 

「……嬢ちゃん、ひょっとして素人か?」

 

私は答える事が出来ず、黙ったまま見つめ続ける。

 

「マジかよ、まっさかとんだ素人に召喚されるとはな、どんだけついてねぇんだよ俺…!」

 

彼は後頭部を掻きながら立ちあがると顔をしかめながら愚痴る。

軽く罵倒されたが、正直今は言い返す力も気力もない。

 

「まあいいや。とりあえず嬢ちゃん、あんたが俺のマスターなんだ。これだけは理解しとけよ」

 

そう言うと彼は辺りを見渡し、先ほどまで戦っていたキリト、セイバーさん、そして例の男を順に見ると眉をひそめた。

 

「まぁとりあえず、嬢ちゃんが今ものスゲェピンチで、俺が召喚されたってことだけは解ったぜ」

 

彼はそう言うと笑みを浮かべた。

まるで、戦うことが楽しみでしょうがないといった感じで好戦的な口調だ。

 

「ククク、呵々々々々々!まさか此処にきて新たな英霊を召喚するとはな、正直予想外だぞ小娘」

 

突然、あの男が大声で笑い出すとそう叫んだ。

 

「なに笑ってやがるテメェ」

「ッククク、なるほど奴が面白くなると言っていたのはこの事か…。なかなか珍妙な事も起こるものだな」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、今闘るのか、闘んねぇのか」

「…ほう、召喚されたばかりなのに闘りあう気か?いささか血の気が多すぎるのではないか槍の英霊(ランサー)よ」

「うるせぇよ。せっかく召喚されたんだ、さっさと殺し合おうぜ」

 

相対する二人の男は互いににらみ合いながら牽制し合っている。

ランサーと呼ばれた彼は槍を構えながら目の前の男を睨み続ける。

 

だが、二人が衝突することは無かった。

 

「残念ながら、今闘う事は出来ん」

「あぁん?何言ってやがる」

「我がマスターから帰還命令が来ておっての、さっきから喧しくてしょうがない」

 

男は少し笑みを浮かべながらそう言う。

 

「時間切れとは興醒めだが、殺しきれぬのでは仕方がない。舞台裏ではこれが限界よ」

 

そう言い、男は光の粒子になりながら目の前から消えて行った。

 

「お主らとは、またいずれ闘りあう事になるかもしれんな。楽しみにしておこう」

 

男の姿が見えなくなる。

男の声は部屋中に反響し、キリトやセイバーさんにも聞こえているだろう。

だけど、痛みと疲労がピークに達していた私にはその言葉を聞く暇もなく意識が遠のいてくる。

 

私は糸が切れたマリオネットのようにその場へと倒れ込み、そして眠るように意識を手放した。

 

--------------

 

正直な話、驚愕の連続だった。

アサシンに蹴り飛ばされ、止めを刺される直前サチがサーヴァントを召喚した。

サチが召喚したサーヴァント、槍を持っていたからおそらくはランサーだと考えられるが、ランサーが召喚されるとアサシンは突然大声で笑い出した。

 

笑われた事に怒りを覚えたのかランサーはアサシンを怒鳴りお互い睨み合いを始めた。

 

一触触発な雰囲気の中、突然アサシンは闘わないと言い出す。

ランサーは不満げにアサシンを睨み続けたが、アサシンはそのまま光の粒子となって消えて行った。

 

おそらく自らのマスターの所へ帰ったのだろう。

俺はそう推測し、同時に助かったと思い全身の力を抜きかけた。

だが、

 

「あー、くそったれ、せっかく大暴れできると思ったのによ。逃げられちまったぜ」

 

そんな声が部屋中に反響した。

声の主は青のボディースーツに身を包んだ男、ランサーだ。

ランサーは立ちあがり槍を肩に担ぐと俺の方に向き直り、

 

「よう坊主、災難だったな。見たところあの野郎に叩き潰されたみたいだな」

 

そう俺に問いかけた。

 

力が抜けかけていた体に再び緊張が走る。

サチが召喚したとはいえ、目の前にいる男もサーヴァント。

俺たちと殺し合いをする関係にある。

 

「キリト、下がって。」

 

セイバーが俺に駆け寄り不可視の剣を構える。

 

「おいおい、そんな体で俺と闘り合うのか?」

「貴様とはいずれ殺し合う仲。この場で貴様を討つ」

「…上等、受けて立つぜ」

 

セイバーとランサーが互いに睨み合いお互いの獲物を構える。

 

この状況はまずい。

 

いくらランサーが召喚されたばかりとはいえ、セイバーはさっきまでアサシンを相手に闘い続けてきたのだ。

セイバーのHPは既に半分を切っておりランサーの攻撃を喰らえばセイバーとはいえひとたまりもない。

 

「待ってくれセイバー、今ランサーと戦うのはマズイ」

「…大丈夫です、奴は召喚されたばかりのサーヴァント、負けるつもりはありません」

「HPがほとんど残っていない状態で戦うのはいくらなんでも危険すぎる。それに、あいつはサチが召喚したサーヴァントなんだ」

 

そう、ランサーを召喚したのがサチだ。

今、サチの召喚したコイツを今はまだ倒すわけにはいかない。

 

「ッ…キリト、いくら仲間の召喚したサーヴァントとはいえ、奴とはいずれ殺し合う仲、今倒しておかなければ」

「それでも、サチはまだ気を失ってる。サチも無関係の人間じゃないんだ」

 

サチはサーヴァントを目の前で召喚している。

この事をサチのも説明しなければならない。

もうサチは、聖杯戦争とは無関係の人間じゃないのだから。

 

「ランサー、お前も今の状態で闘うのは不本意だろ?せめてサチが起きるのを待ってくれないか」

 

俺はランサーに向けて問いかける。

この状況であいつに問うのは正直かなり勇気がいるのだが、なりふり構っていられない。

 

ランサーは俺の顔を見ながら少し不満げにするが、

 

「っま、ちょいと消化不良だが、嬢ちゃんが目を覚まさねぇ以上俺も派手には動けねぇからな。俺は別に良いぜ」

「……嘘じゃないな」

「おいおい、これで英雄だぜ。一度誓った約束は破ったりしねぇよ」

 

ランサーはそう言い、構えを解くと槍を肩に担ぎ直した。

 

「セイバーも、今闘うのは待ってくれないか。治療しなくちゃいけないし、サチにもちゃんと説明したい」

 

俺はセイバーに問いかけると、セイバーは顔を少し顰めるがやがて構えを解いた。

 

「……解りました。確かに今闘えば私にとってもあまり得策ではない。ランサー、この勝負預けたぞ」

 

セイバーはランサーにそう投げかける

 

「おう、いずれちゃんとケリをつけさせて貰うぜ」

 

ランサーもニヤリと笑いながらそれに応じる。

 

何とかこの場を収められた俺は、緊張で力の入っていた肩をようやく下ろす事ができた。

 

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どこだろうか、

 

気がつくと見慣れない土地に立っている。

 

たしか私はあの部屋で無数のモンスター達に襲われていたはずだ。

 

もしかして私は死んだのだろうか。

 

そうすると―――ここはあの世?

 

けどあの世はこんなにも殺風景なものなのだろうか。

 

ギンッ!ガギンッ!!

 

どこかで鉄の叩きあうような音が聞こえる。

 

ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

次に聞こえてきたのは地鳴りのような叫び声。

 

それも一人じゃない。

 

何万もの人があげた怒声や罵声が耳に入ってくる。

 

音の聞こえた方へ私は目を向けた。

 

そこには、単身で対軍に立ち向かう戦士がいた。

 

戦士と共に戦場にいるのは一人の男と一頭の灰色の馬のみ。

 

敗戦は必須。

 

だが戦士は闘いから逃げなかった。

 

槍を振るい何人もの敵を屠り去った。

 

だが、戦士は槍を無くし、その槍で戦士の隣にいた男と灰色の馬は殺された。

 

そして、戦士自身もその槍で体を貫かれた。

 

だが戦士は倒れない。

 

自らの体を岩にしばりつけ、倒れる事を許さなかった。

 

そして、戦士は立ち続けたまま静かに息を引き取った。

 

何なのだろう。

 

こんなのにも壮絶な死に方、私はいつの間にか涙を流していた。

 

闘う事を止めず、最後まで自分らしく生き続けた戦士。

 

私とは真逆。

 

こんなまっすぐな生き方は私には出来ない。

 

そう思った瞬間、突如辺りが闇に包まれた。

 

何かに引っ張られる感じがする。

 

私は抵抗する間もなく、闇の中に引っ張られ意識を覚醒させた。

 

-----------------

 

気がつくと私は宿のベッドの上にいた。

私はぼんやりと天井を眺める。

 

たしか私はみんなと一緒にお金を貯めようと迷宮区に行って、そして

 

「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

体が震えだす。

あの時の出来事がフラッシュバックする。

 

左胸からエフェクトを散らして消えたテツオ。

体中が真っ赤に染まって倒れたササマル。

お腹を貫かれていなくなったダッカー。

 

そして、真っ赤な衣装に身をまとった男。

 

コワイ。

 

躊躇なく人を殺し、混じり気のない殺気をあの男は纏っていた。

 

思わず自ら肩を抱きしめ体を守るように小さくなる。

 

「おう、嬢ちゃん起きたか」

「ひっ!」

 

突然ベッドの横から声がかけられる。

私は声をかけられた事に驚き、身を引いてしまった。

 

「おいおい、何もそんなに驚く事ねぇだろが」

 

そこには青いボディスーツを纏った男性がいた。

 

「あなた…誰?」

「あん?誰ってお嬢ちゃん、そりゃねぇだろ。もう忘れちまったのか?」

 

忘れた?

私は彼と会った事があるのだろうか?

 

私は混乱している頭で必死で記憶を探り始めた。

 

あの時、あの男はセイバーさんを吹き飛ばし、キリトも蹴り飛ばされて倒れた。

そして、キリトが止めを刺されるかと思った瞬間、私の左手が痛み、風が吹き光が照らし始めた。

光が収まった瞬間、

 

「あ…あの時の」

「おっ、思い出した見てぇだな」

 

そうだった、彼は私の目の前に突如現れ、あの男と対峙していた。

私はあの後気を失ったようだ。

 

「あなたが私をここに?」

「おう。まあ、あの坊主が道案内してくれたからな」

 

彼はニッと笑うとそう教えてくれた。

あの坊主というのはおそらくキリトの事だろう。

「えっと…あ、ありがとうございます」

「ああ、良いってことよ」

 

私はお礼を言い、彼に頭を下げた。

 

そう言えばキリトとセイバーさんの姿が見えない。

私は辺りを見渡す。

 

「坊主たちなら下だぜ。まあちょいと雰囲気は重っ苦しいがな」

 

私の行動から察したのか、彼はそう言う。

 

「とりあえず坊主達のとこに行くかい?色々と話してぇ事もあるからな」

 

彼はそう言い、扉に親指を向ける。

 

「あ…ハイ、じゃあ…行きます。えっと…ランサー…さん?」

 

私はHPの隣に表示されている彼の名前を読む。

すると彼は嬉しそうに笑いながら

 

「おう!よろしく頼むぜ嬢ちゃん」

 

そう言った。

 




今回はかなりの難産でした。

とりあえず次回、サチに聖杯戦争について説明します。

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