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……お腹が痛いよ。また、死んじゃったのかな?あの子を助ける事が出来ずに……。って、なんか揺れてる。私が目を開けてみたその風景は私の世界では決してあり得ない光景であった。石で引かれた歩道に、その横に広がるように並ぶ露店の数々。
「………凄い…。」
私は目に映るその光景が信じられずに、平凡な言葉を呟いていた。
「あ、あのー……お身体の調子は大丈夫ですか?」
私の前方から聞こえたその声には聞き覚えがあった。それは、ダンジョンで私が助けようとした白髪の少年。
____あぁ、生きていてくれた。今回は、人を救えた。
「………………」
「あ、あのー………?」
「あ、すみません。大丈夫です。もう殆ど……っ」
「無理はしないで下さいっ!君はミノタウロスに殴られたんだから、とても傷付いているはずですから…」
彼はミノタウロスという言葉を言う瞬間、微かにであるが彼の表情が強張った気がした。
恐らく、ミノタウロスを自分で倒せなかった事。
私に戦わせた事でも悔いているのかもしれない…。
「私の名前はシロ。所属組織は一応ですが【朧】と言うのですが覚えはありませんか…?」
「シロ、君…ですか?オボロ…オボロ・ファミリアなんて聞いた事ないなぁ…。あ、僕の名前はベル・クラネルって言います!」
「ベル…ベルさんですか…。申し訳ありません…唐突に聞くのもどうなのかと思うのですが…。私は今、もしかして…おんぶをされているのでしょうか…?」
おんぶ。それは元々負んぶという言葉から始まったものであり、幼児がされる様なものである。誰もが一度はされた事がある当たり前の事であろう。でも、今現在、私は…この歳でおんぶをされているという事に気付いてしまったのである。
「……?はい、そうですよ?シロが僕を助けてくれた後、抱き抱えて街まで戻ってこれたんだけど…。街中で抱っこというのは目立つかな、って。」
彼は天然なのか、それとも私の事を気遣ってくれた為にした行動なのかどちらか判断がとてもしにくかったが故意ではないは判った…。
「あ、あの…降ろして……欲しいんですけど…っ」
男性の背中に乗っていると考えると、その…むずがゆい。というか、この往来をずっと背負われているのを街の人々に見られたというのが恥ずかしい。いや、でも…私は何時も男子に間違われるから大丈夫なはず…そう、大丈夫だよね。
「ダメですよっ!命の恩人にはしっかりとした礼義で返さないと!神様だってそういうに違いありません!っと、目的地に着きましたね…。」
彼が止まった拍子に顔を背中にぶつけてしまったが、それを気にしないようにして見上げたその先には大きな緑色を基調とした建物が建っていた。……何か文字が書いてあるみたいだが全く読めない…。
「ちょっと用事があってギルドまで来たんです。えっと、少し待っててもらっていいですか?エイナさぁぁぁあんっ!」
⁈彼はこんな建物の中で大声で叫ぶの⁈って誰か来るし…!う、う、…私は彼の荷物。そう、私は荷物。
「あ、おかえりなさいっ、ベル君!今日も無事に帰ってこれたんだね?良かった良かった…。って…その後ろに背負っている方は?」
「あ、彼はシロ君っていってオボロ・ファミリア?という所に所属している冒険者さんみたいです!僕が5階層でミノタウロスに襲われていた所を助けて頂いたんです!」
正確には私は助けてない気が…。そんな違いに少しばかり考え込んでいると、耳が長く特徴的な背の高い女性が私の事を眺めていた。
「…私の名前はシロと言います。すみませんが【朧】という組織に聞き覚えはありませんか?」
流石に初対面の人との挨拶の時に人の背中からというのは失礼な気がしたので、ゆっくりと地面に降りてから相手に向かい合った。地面に降りて分かった事だけど、確実に肋骨が折れてる感覚がした。
「初めまして、シロさん?私はギルドの案内役のエイナって言います。えっと、オボロ…オボロ…聞いた事ないかな…。あ、君の背中を見たら分かるかもしれないよ?」
背中……?どういう事なんだろう…背中になんて何もないのだけれど。
「えっと……脱げという事でしょうか…?」
「うーん、此処では脱ぎにくいでしょ?あっちで脱いでもらっていい?あ、ベル君はそこの椅子に座って反省をしてなさい!Level1の冒険者が冒険しちゃダメでしょ!私達が帰ってくるまで其処で正座している事!」
彼女に指を指された個室に入って、上着だけでいいと言われたので浴衣を上半身だけはだけさせれば胸に巻いている晒しを取っては馴れない解放感に吐息を漏らしていると
「あら、シロ君って女の子だったの…立派なものを持ってるわね…。」
エイナさん、確実に貴女には敵わないですからね?ご自身の胸に手を置いて私の胸に手を置いて比べて下さい…。
「…やっぱり男だと思われていましたか…。致し方ありませんが…。えっと、背中を見せればいいんでしょうか…?」
「えぇ、ちょっと見せてねー…」
「……傷だらけなだけで見ても面白いものではないと思うのですが…」
「………」
何故か沈黙で返されて少し居心地が悪い。やっぱり私の身体は不潔なのだろう…彼女には悪い事をしたかもしれない…。
「シロ君…貴女どうやってミノタウロスを倒したの…?」
「……?倒したというのは語弊があります。私はただ一、二撃程防いだに過ぎません。金髪の綺麗な女の方に助けられました…。」
「貴女は…冒険者でもないのにミノタウロスと打ち合ったというの…?」
背後を振り向いて見えた彼女の顔は信じられないものを見るかのような表情を浮かべていた。私は知らなかったんだから、私が反応できなかったのも仕方がない。この世界にはLevelというものがあるという事を。
彼女に色々と質問責めをされて私はたじろぎながらも頑張って答えた。何処から来たのか。その組織の詳細。何をしにこの街に来たのか。
私は出来る限り素直に答えたのだが彼女は時間が欲しいとの事で帰って欲しいと言われてしまった。
個室から出てきたのは体感時間で30分位だったのだが、白髪の少年___ベルさんといっただろうか律儀にもソファの上に正座でずっと待っていたようだ。あの長耳のお姉さんにまた今度お説教するからと言われてげんなりとしていたが、その光景を見て私は年の離れた兄弟に見えた。
「シロは自分のファミリアの事は分かったの?」
「いえ、全く…。見当もつかないと言われてしまいました…。後日、もう一度来て欲しいと言われたのですが……何処に寝泊まりしましょう…。」
「…良かったらなんだけど、僕のファミリアの所に来ない?僕、助けてもらったのに何もお返し出来てないから。あ、後、神様ならそのオボロ・ファミリアの事分かるかも知れないし?」
……優しい子なのだというのがよく分かった。彼は困っている人がいるなら迷わずに手を差し伸べるのだろう。とても眩しい…けど、偶にはそういう子に近付いてもいいのかもしれない。
「では、少しの間よろしくお願いできますか?」
「此方こそ宜しくっ、シロ!」
私がベルさんに抱いた最初の感情は安心だった。