Fate/In ALICE   作:木夏

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お久しぶりです。
どぞ。

※何故か字下げが使えず、段のはじめに空白作っても表示されない、という珍事が起きました。少し見にくいかもしれません。


♯1 春の宴 衛宮くんの受難

四月上旬。よく晴れた午後。

そよ風が薄青色の空に白い花弁を舞わせている。さああ、と風は止まることを知らず優しく吹いていた。

右肩には暖かさを感じる。隣の少女が頭を傾けているのだ。

長い黒髪を左右で纏め、ベージュが基調の真新しい制服を身につけている。ネクタイをしているのははじめて見たけれど、これはこれで清楚な感じがしていいと思う。

彼女が俺の視線に気がついた。一瞬きょとんとして、天使のように微笑んだ。優等生のネコを被っているときやあかいあくまのときとは違う、彼女そのものの笑顔。

感じるのは、胸がほっこりするような幸せ感と

 

ーー周りからの刺すような目線。

 

どういうワケか、俺たちが座っているベンチの周りには、いつの間にかちょっとした人集りが出来ていた。

それで、その彼らからの視線が痛い。

まるで『往来でイチャついてんじゃねえよ、バカども』とでも言われているようだ。…お願いだから勘弁してください。『突き穿つ死翔の槍《ゲイ・ボルク》』に心臓を突かれるのと同じくらい心臓に悪い。

勿論、精神的に、だが。

 

「ねえ、士郎?」

 

先程の笑顔のまま桃色の唇が動いた。そして何故か重くなるプレッシャー。こんな状況じゃなければ、この上なく幸せなんだが。

彼女は周りの状況に気が付いていないのか、ネコのように甘えてくる。

 

「うん?」

「あのね…大好きよ」

 

ふっ、と頬に温もりが触れた。永遠とも思える一瞬が過ぎ、暖かさは名残惜しそうに離れていった。

 

うん、すごくいい。これぞカップルって感じだ。

でもな、遠坂。

物事にはTPOってものがあるんだ。

Time、Place、Occasion。状況は判らないけど時間と場所は明らかにアウトだろ。

 

「………っ⁉︎」

 

最大値まで上がり切った圧力に、俺は声にならない悲鳴をもらした。

マズイ、殺られる。

ランサーに心臓を突かれるより、アーチャーに斬られるより、藤ねぇにボコボコにされるより、比べられないくらいに巨大な殺意が俺に向けられる。

 

そもそも、何故こうなったのか。

何故普段なら少し注目される程度なのに、異常に反応されているのか。

それは、今朝まで遡る。

 

 

 

俺ーー衛宮士郎と遠坂凛は、アリス学園の高等部に編入することになった。

本来なら俺たちは今年大学一年生。高校生ではないのだが、アリス学園では、高校のカリキュラム修了以後の専門的な学習をする生徒も高等部生という扱いになるらしい。

よって、俺と遠坂は高等部B組。A組が一般で言う所の高校で、B組は二年制大学だと考えると判りやすい。

…まぁ、そんなワケで、編入初日ということもあり、自己紹介などと相まったのだが、

 

「はじめまして。遠坂凛といいます。わたしと衛宮くんは冬木市っていうところの出身で、同じ高校に通っていました。あ、あと、わたしと衛宮くんは、一応お付き合いしています」

 

…だなんて爆弾発言を遠坂がしてくれた。

勿論教室は叫び声やら悲鳴やらの嵐。特に、女子の盛り上がり方が物凄かった。

女子からは興味丸出しの、男子からは羨望と怒りの目で見られ、当然授業は全く耳に入って来なかった。

 

 

 

そんなこんなで半日視線に晒され続けた。正直もう限界だった。

…だから、少しイライラしていたんだと思う。

 

「おい!遠坂、一体何のつもりなんだ!」

「何って…キスしただけだけど?」

「それが駄目なんだ!場所を考えてくれ。周りの目もあるだろう」

「場所ってなによ。何処で何をしようとわたしたちの勝手でしょう?…それに」

 

遠坂から笑顔が消えた。一瞬で目に剣呑さが宿る。

…あ、マズい、怒らせちまったか?

考えたときには既に遅く。

 

「愛情をあらわすことの何がいけないのかしら?衛宮くん。これから寮生活で自由に時間が使えなくなるから、今のうちに甘えておこうと思っていただけなのだけど」

 

ひゅお、と音を立てて空気が凍り付くのを確かに聞いた。その目はまさに絶対零度。いや、お前魔眼持ちじゃないだろ。

でも、目は確かに直視出来ないくらい冷たかったけど、頬は赤く染まっていた。それが怒りからくるものなのか、照れからくるものなのかは判らないけど、今俺がすべきことはただ一つ。

襟を正して、遠坂に向かった。

 

「遠坂…」

「おーい、そこのバカップル、ようやく見つけた!」

 

何処からか横槍が入った。

声の主は人集りの中から手をぶんぶんと振っていた。反動で男の割に長い髪がゆさゆさと揺れる。

彼は怪訝そうな目を向ける人たちも気にせず、そのままこちらに突っ込んできた。

 

「待たせたな、衛宮。姫君もご機嫌麗しゅう?」

「まあまあね。貴方は元気そうね、殿内くん」

 

遠坂が答える。上っ面はいつもの遠坂だが、姫君呼びは満更でもなかったらしい。

 

殿内明良。俺と遠坂と同じクラスで、この学園に来てはじめて俺が話した人物でもある。

因みに、初対面のときに遠坂にナンパした。遠坂は勿論断ったし、俺もそんなこと許さない。

 

「こっちは大丈夫だ。それより殿内、何も話を聞いていなかったけど、これから何をするんだ?」

「あ、言ってなかったか。これから特力で歓迎会をやるんだよ」

「歓迎会?誰のだ?」

「馬鹿。お前のに決まっているだろう。来るときは歓迎会、去るときは送迎会。これ特力の鉄則」

 

人差し指を立てて、どこぞの教師かのように話す殿内。その仕草は実によく似合って…いるワケでもないが、確かに彼だったら教師、というのもわかるかもしれない。

 

「特力の鉄則ってのはよく判った。それで、俺はどうすればいいんだ?料理とかなら出来るぞ」

「歓迎するやつに雑用させるワケにはいかないだろ。客人だから楽しんでいてくれ」

 

む。そう言われてしまうと困る。料理は俺の領分だ。遠坂や桜に頼むことも度々あったが、俺自身がもてなされたことはほぼ無い。だから、そこを封じられるとどうしていいか分からない。

ーーって、今の思考、ますます主夫化していなかったか?

 

「ねえ殿内くん。さっきから言ってる『特力』って何かしら。それと、その歓迎会ってわたしも行っていいの?」

 

さっきから話に参加していなくて暇だったのか、遠坂が口を開いた。

 

「ああ、『特力』って言うのは『特別能力系』の略で、能力別クラスの内の一つだよ。姫もどこかのクラスにはいったんだろ?」

「…ええ。わたしは『潜在能力系』らしいわ」

「そうか。姫は潜在系か。ってことは結構オーソドックスなアリス?」

「『病呪のアリス』と『能力転移のアリス』よ」

 

言い淀むことなくハッキリと言い切った。『病呪のアリス』は『ガンド』、『能力転移のアリス』は『宝石魔術』を言い換えたものらしい。どちらもここに来る前に考えた名前だ。

一応、俺のアリスの名前も考えてある。『投影』は『創造のアリス』。それと、一応秘密にはしておこうと思っているのだが、『固有結界』は『空間侵食のアリス』とでもしておこうと思う。そのまま投影とか、固有結界などのネーミングを用いてもいいのだが、万が一魔術師に会ってしまったときに困るので、ちょっとした保険だ。

 

「『病呪のアリス』?聞いたことないな。ってことは一歩違えば姫も特力だったってことかな。…いや、呪ってことは、危力ってことも…」

 

何やら考えて出してしまった殿内を横目に、遠坂は何故か黒い笑顔を浮かべていた。

ーーまあ、綺麗なんだけど。綺麗だから尚更怖い、というか。取り敢えず早く戻ってこい殿内。

ああ、ほら、遠坂の機嫌がますますあやしくなるって。

 

「…自分の世界に入り込むのもいいけどさ、わたしは歓迎会に行っていいのって、聞いているんでしょーー!?」

 

俺の心配も他所に、遠坂は爆発した。

 

 

 

 

ーinterludeー

校舎の端の更に少し離れた場所に、その教室はある。どこからどう見ても一軒家にしか見えないその建物は、特別能力系の教室として使われていた。

外見こそただの家。けれど、中に入れば最新式のアリス育成装置が群れを成しているーーというワケでもなく、授業用の机と本棚、それにちょっとした台所があるだけ。

しかし、今は壁という壁に飾りが付けられ、机にはお茶菓子がずらりと並んでいた。セントラルタウンで仕入れてきたホワロンや、ミルク先輩お手製のミラクルメニューなんかがある。…あ、見てたらお腹空いてきた。

殿先輩が今日の主役を連れてくる間、監督を任されていた翼先輩を中心に、みんなで準備をする。元々飾りは用意してあったし、食べ物も昨日みんなで買いに行った。あとは出すだけで、難しくもなんともない、はずだった。

「だから!蛍姉さんと棗は少し静かにしておいてくれよ!」

「「うるさいハゲ」」

「こんなときだけ息合わせるな!」

 

翼先輩の怒号と蛍と棗の淡々とした声が順々に響き、翼先輩の声で止まった。余程力を消費したのか、肩で息をする翼先輩。かたや蛍と棗は向き合って火花をバチバチ散らしていた。

この二人は異様に仲が悪い。大抵いつも喧嘩している。その原因は色々あるんだけど、今日は二人に挟まれている金髪の少年が原因だった。

 

「ルカぴょん、大丈夫?」

「ああ…ありがとう、佐倉」

 

ありがとう、とは言うものの、やっぱりげっそりしてる。

ルカぴょんが見ていた方に目を向けてみる。そこにあったのはフリルやリボンで飾られた真っ白なワンピース。女の子なら一度は憧れそうなその服を、彼は見ていた。

もちろんルカぴょんはそういうシュミをもっているワケではない。むしろ嫌がっている。目が死んでるよルカぴょん。

 

「ほら、さっさと着替えましょう、ルカくん」

「てめぇいい加減にしろよ…」

 

相変わらず蛍と棗は口喧嘩している。手にカメラを持ってルカぴょんに女装させようとする蛍と、手にアリスで炎を発現させて、蛍を止めようとしている棗。得物は違うはずなのに、放つ迫力は同じだった。

 

「ルカが嫌がってるだろ」

 

とびっきりの殺意を込めて棗が言った。

 

「あら。まわりの人たちはやる気だけど」

 

蛍が冷静に返した。

元々つり目の棗の目が更に鋭くなる。殺意が膨張しているような…。

 

「なんだと…」

 

棗の手の中の炎が勢いを増した。ごう、と音を立てて、赤かった炎が青色に変わった。あー、ほら、言っちゃなんだけどヒトゴロシの目になってますよ、棗さん。頼むから燃やさないで。

 

ーーそして。

蛍以外のみんなが身の危険を感じて固まっているとき、救いの手は差し伸べられた。

ーinterlude outー

 

 

 

 

開けた扉の先は、修羅場だった。

手から青白い炎を出す赤い目の少年と変なヘルメットを被ったショートヘアの少女の周りを、真っ青な顔の人たちが囲んでいた。

 

「…歓迎会の準備はどうした…」

 

殿内が何かを堪えるように言う。

 

「げっ、殿…」

「何が『げっ』だ!こっちは何で準備が終わってないんだって聞いてんだ!」

「いっ、いや、終わったよ。見りゃわかるだろ?」

「横断幕はどこ行った!!」

 

殿内は、左目の下に星のタトゥーのようなものを付けている少年の首を引っ張って行った。『やっぱお前じゃ駄目だったんだな、翼』とか、『そんなんだから美咲ちゃんに振り向いてもらえないんだよ』とか、散々なことを言われていた。

 

「ねえ、士郎。これって本当に歓迎会なワケ?」

 

殿内から参加許可を貰えた遠坂が呟く。うん、俺も何か違う気がする。

確かに飾りやお菓子はそれらしいと言える。だが、喧嘩していたり手から炎を出していたりする人たちがいるような状態で、俺は歓迎されたくない。

ーーって…炎?

 

「ぅわーーっ!?何で手が燃えているんだ!?」

 

俺は手から炎を出している少年の元に駆け寄った。彼は一瞬驚いて、怪訝な表情をした。それは周りの人も同じで、遠坂さえも訝しげな目をしていた。

 

「士郎…それ多分アリスよ」

 

遠坂の一言で、俺の頭の中が真っ白になった。

 

 

 

「それじゃ、改めて。衛宮士郎です。『創造のアリス』っていう、何もないところから物体を取り出す能力を持っているんだ。今までアリスには遠坂くらいにしか会ったことがなくて…さっきはすまなかった。とりあえず、これからよろしく頼むよ」

 

わあー、と拍手が起こる。こういう場面は今まで経験したことがなかったからか、何となくこそばゆい。

照れを隠しながら、辺りを見渡してみる。今名前が判るのは殿内と遠坂、それに『翼』と呼ばれた少年くらいか。名前も知らない、今会ったばかりの人たちに拍手されるというのは、少し不思議な感覚だ。

 

「それじゃ、わたしもしておこうかしら?」

 

隣に座っていた遠坂が立ち上がった。

 

「はじめまして、遠坂凛です。わたしは特力じゃなくて潜在系なんだけど、成り行きでお邪魔させてもらっています。『病呪のアリス』と『能力転移のアリス』、二つもっていて、星階級は一応スペシャルってことになっています」

 

どうだ、とでも言うように遠坂がこちらを見た。どうせ俺はトリプルですよ。

 

「あと、冬木ってところが地元で、士郎とは高校からの知り合いです。それで…実は衛宮くんと付き合っています」

 

既視感が俺を襲う。ランサーが槍をこちらに向けて立っている。同じやつに一日で二度も殺されるなんて…それこそあの夜と同じじゃないか。

ランサーが神速でこちらに向かって来る。因果逆転の効果などなくとも、その速さだけで並の敵はやられてしまう。それは、聖杯戦争を生き残った俺とて例外ではない。

真紅に染まる槍が、俺の心臓めがけて突進してくる。

その瞬間。

 

「な、何それっ。リア充やんか!」

 

誰かの叫び声が聞こえた。

同時に、興奮は周りに伝わっていく。

 

「はぁっ!?あの人たち恋人同士でアリスかよ!」

「まぁ、俺は元々知ってたけどな」

「人生何があるかなんて判らないものね…」

「彼氏の方は頭悪いんだな」

 

三者三様の反応。

本日二度目の受難は、如何な結末を迎えることやら。

 

 

 




後半かなり駆け足に…。
お付き合い頂いた皆さま、ありがとうございました。
以下はちょっとしたキャラ紹介なので、良かったら見て下さい。


衛宮 士郎
高等部B組 特別能力系
星階級 トリプル
創造のアリス (空間侵食のアリス)

遠坂 凛
高等部B組 潜在能力系
星階級 スペシャル
病呪のアリス 能力転移のアリス


残りのキャラは、登場した話のあとがきで紹介します。
でも学アリのキャラは設定そのままなので、原作読んでいる方なら一発でお分かり頂けるかと。

次回も春の宴は続きます。
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