かなりのローペース更新になってしまいますが、読んでいただけると嬉しいです。
ーinterludeー
楽しいと時間は早く過ぎていくとは、昔からよく言われることだ。
それはただの人間だけでなく、自分たち魔術師にも当てはまることだと、遠坂凛は思う。
自分は快楽主義者だからそう思えるのかもしれない。本当は楽しいと感じること自体、己の魔術の発展に身を捧げる魔術師としては誤っているのもきっと事実なのだ。
けれどーーいや、だからこそ、自分は目一杯人生というものを楽しんでやろう。遠坂の悲願である魔法の実現も、一人の女としての幸せも、両方勝ち取ってやるのだ。
だから私は、今ここにいる。
ーinterlude outー
「士郎」
「ん、遠坂か」
制服から普段の恰好に着替えた遠坂が、梯子の先からひょい、と顔を出した。
「まさかとは思ったけど、こんなところにいるなんてね。ちょっと予想外だったわ」
言いながら、俺の隣に座り込む。
俺が今いるのは、高等部寮の屋根の上。『何でも使っていい』と言われた備品庫の中から引っ張り出してきた梯子を使って、ここまで登ってきた。
「まあ、ちょっとした好奇心だよ。さっきまでセントラルタウンの方なんか、ちょっとした新都みたいだったんだぞ」
セントラルタウンがあるだろう南西の方向を指差す。今はもう店仕舞いをして明かりはほとんどついていないが、明かりがついていると意外と華やかに見えるのだ。
「…今日、楽しかった?」
「へ?」
「だから、歓迎会のことよ」
突如切り替わった話題に驚きながら、少し考えてみる。
歓迎会は、慌ただしく終わった。
遠坂の爆弾発言ーー嫌っていうワケじゃないんだが、何もあの場で言わなくともいい気がするーーからはじまり、その場にいたみんなと挨拶して、その後はまったりとお茶会になった。
勿論、アリスばかりの会だから、普通に『まったり』とはしていなくて、明らかに同じ人物が5、6人いたり、空を飛んでいる人がいたりした。
だが、決して居心地が悪いものでもない。今までは遠坂くらいしか特別な力を持った人を知らなかったし、魔術の秘匿だとか、そういうのを考えなくていいのは楽だった。
「ああ、楽しかったよ。色々大変だったけど、良かったと思う」
「なら良かったわ」
「なんで遠坂がそんなこと気にするんだ?」
「前に言ったでしょう。わたしは貴方を最高にハッピーにしたいの。なのにわたしの都合で来たアリス学園で、しかも初日から、嫌な思いされたら困るのよ」
そうだ。確かに遠坂は、いつだかそんな事を言っていた。
でもそれは、俺からしたら少し満足いかない。
「そう言う遠坂は、どうなんだよ。楽しかったか?」
「…わたし?」
「そうだ。おまえが俺を幸せにしてくれるなら、俺だっておまえを幸せにしてあげたい。俺たちはカップルなんだから」
顔が赤く染まっていくのが自分でも分かった。もう一年も付き合い始めてから経つのに、未だにこういうことは慣れない。
…くそう。ちょっとはカッコつけたいんだがなぁ。
「…そっか、ありがとう。だったら、天に昇るくらい幸せにしてくれないと許さないんだから」
「うーん、善処しておくよ」
先に目を閉じたのはどちらだったか。
どちらかが合図をするワケでもなく、そっと、唇を重ね合わせた。
ーinterludeー
衛宮士郎先輩の歓迎会は、とても慌ただしかった。
本当なら大学生になる歳で入学したこと、『創造のアリス』という、とても珍しいアリスだったこと、それから、あの綺麗な赤い女性の一言。それは全部インパクトが強くて、だからこそあそこまで盛り上がったんだと思う。
蛍がいつもの調子で先輩たちにインタビューして、棗と翼先輩が羨ましさの籠った目で見つめ、ルカぴょんは静かに驚く。みんなテンションが高かった。
でも、翼先輩は美咲先輩がいるからともかく、なんで棗があんな目で先輩を見ていたんや?
「もうすぐ消灯でっせー。トイレは今のうちに済ませて下さいー」
壁の向こうで寮母のタカハシさんが騒いでる。
それで、今まで空想にふけっていたのが一気に現実に引き戻された。
「…衛宮先輩、士郎先輩…」
うん。士郎先輩の方がしっくりくる。明日からは士郎先輩って呼ぼう。
明日も能力別クラスがある。そのとき、『士郎先輩』って呼んで、挨拶するんだ。
さあ、もう寝よう。
明日もきっと、晴れるといいなぁ。
ーinterlude outー
次回からは学アリのストーリーに則ったお話になる予定です。
棗や蛍は、まだ名前しか出せていないので、なるべく早く出したいです。