やはり一色いろはの青春ラブコメは終わらない。   作:札樹 寛人
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やはり社畜になった一色いろはの目は死んでいる

こんな事になるなんて学生の頃は思っていませんでした。

 

自慢では無いのですが、色んな人達をりy……に助けられた結果、高校時代は生徒会長として十二分な実績を残す事が出来、

お陰様で、名門と呼ばれる大学に推薦で入学する事も出来、そつなく大学生活も持ち前の要領で満喫し

就職活動においても、わたしと言う人間のパーソナリティは有利に働きました。

結果として、わたし……一色いろはは、誰でも聞いた事が有るようなメーカーに採用される事が出来ました。

 

 

めでたしめでたし

 

とそこで完結しないのが、人生なんですよねぇ……

人生と言う物語において、学生時代と言うのはほんのプロローグにすぎないのですから

たとえ、高校時代を題材にしたラブコメ小説が12巻で完結したとしても、その先はもっともっと長いのです。

そう、わたしのモラトリアムの時代は終わり、今では……

 

「いやー、相変わらず一色ちゃん可愛いねぇー」

「そうですかぁー」

「うんうん、ウチの会社にもいろはちゃんみたいな素直で仕事の出来る子欲しいよ」

「わたしなんてそれ程でもないですよー あ、部長何飲みますか? わたし作りますね!」

 

はい、すっかり接待が板についた営業マンです。

甘ったるい声で取引先のおじさん達にサービスするのもお仕事なんですよ。

学生の頃に培ったスキルは、社会人になった今でも有用でした。ある意味で天職なのかもしれません。

はっきり言って年齢を考慮すれば社内でわたしの接待スキルに適う相手はいないと思います。

お蔭様で接待要員として、頻繁に駆り出される有様です。

あんまり勘違いされないようにだけは、気をつけないと……わたし、健全な営業マンですからね!

 

まぁ、このコンプライアンスに煩い時代に、そうそう変な事なんて起きませんけどね。

ウチの上司も人使いは荒いですけど、その辺はきっちり弁えてるタイプですし。

わたしのミッションは、すこーしだけ、お客さんに気持ち良く飲んで貰うことです。

ばっちりこなして、社内外ともにわたしの評判を今日も上げていきますよー

 

「じゃあ、カラオケ行こういろはちゃん!カラオケ!」

「そうですねー」

「またAKB歌ってよ!」

「わっかりました! 今日も盛り上げますからねっ!」

「おぉー! さすがいろはす!」

 

作り笑いには自身があります。

こうやってニコニコしながら、場の空気に乗ってあげれば受けは凄く良いのは、経験で良く知っています。

はぁ……今日も恥を忍んで歌って踊りますか……

本当にわたしも立派な社畜になったもんですね。

こんなわたしの姿を見たらあの人はなんて言うんだろう……

やっぱり『あざといな。お前の営業』って言われるのかな。

 

 * * *

 

「あったま痛い……」

 

時計の針は、既に午前11時を回っています。 飲みすぎました。 

借りたコスプレ衣装でノリノリに場を盛り上げて、上司にも『良くやった』とお褒の言葉を頂戴したような気がしますけど……

今は、そんなんもうどうでも良いです……今日はもう何もしたくない……泥のように眠りたい……

 

「うー……死にたい……」

 

今のわたし、あの人並に死んだ目をしてると思います。

今日が土曜日で本当に良かったです。流石に今から出社は無理です。

ふらふらと鏡の前に辿りついたわたしの目は予想以上に死んでいました。

一色いろは(24) 絶賛社畜中って感じの目でをしてますねぇ……

学生時代からこんな目をしてたあの人は、どんだけ将来を先取りしていたんだか……

 

……最近は仕事で疲れると、すぐに学生時代の事思い出してしまいます。

どうしても、自分のこのゾンビみたいになった目を見ると、あの人の事を連想しちゃうからでしょう。

きっと……あの人は働きたくないと言いながら、わたしを手伝ってくれていた時のように良い社畜をしているんだろうなぁ。

 

Priiiiiiii

 

おや? 携帯に着信のようです。

仕事関係……ま、まさかね……土曜日のトラブルに対処するパワーはもう私に残ってないですよー!?

 

「おっはよー!いろはー」

 

良かった……電話は大学時代の友人からの連絡でした。

この娘は、昔からテンションが高いのですが……二日酔い状態のわたしの頭には響きます。

 

「おはよ……」

「どしたの? 元気ないね」

「二日酔い……」

「え? 大丈夫……ではなさそうだね」

「もう一生お酒は飲みたくない気分……」

「むかしっから飲み過ぎた時はそう言ってるよねー」

「昨日に戻れるなら……本当に戒めたい」

 

「その調子で今日の合コン大丈夫?」

「へっ?」

 

えっ!? そ、そう言えば……ちょっと前に約束したんだ……仕事に忙殺されてて完全に忘れてました。

 

「あ……あはは……そ、そうだね。 今日だよね……」

 

すでに、私の中では今日はこのままダラダラしつつ、二度根モードにそのまま入って

夕方くらいに起きて、ゆっくり溜まったドラマでも見ようって完璧な計画が出来上がっていたのに……

 

「いーろーはー! 絶対忘れてたでしょ!?」

「……あ、あはは……」

「もうっ! 折角今回はレベル高い相手なんだからっ! きっといろはの御眼鏡にも適うはずだよ!

ちゃんと夜までに脱ぎ捨ててる猫被っておきなさいよ!」

「うん……善処する……」

 

彼女は何時までも独り身のわたしを案じてくれて、こうした場を設けてくれるんですけどねぇ

でも……何故か今の所、特別な関係になれたことはない。

わたしってこうじゃなかったはずなんだけどなぁ……結構誰にでも手をだ……仲良くなれるタイプだったはずなのに。

 

 『本物が欲しい』

 

あの言葉を聞いてしまった、あの日から

自分でもそう思ってしまった時から、きっとわたしは変わってしまったんだろう。

 

「はぁ……8年も前の事引き摺って、なに考えてるんだか……」

 

同日、午後6時。

何とか体調を回復したわたしは、重い体に鞭を打ち、何とか待ち合わせの場所までやってきた。

高そうなお店です。 相手方が決めたお店なんですけど、お相手はエリート商社マンだそうで、流石ってところですねー。

待ち合わせ場所に現れた相手方もなかなかのイケメン揃いです。3対3だと聞いていたのですが、1人は遅れてくるそうです。

キツイ中、時間通りに来たわたしを待たせるなんて、全くその時点で-10ポイントですよ。

 

 

「一色さんは何を飲む?」

「えーっと……わたしはカシスオレンジでお願いします」

 

決してあざとさを出そうとしてるわけじゃないですよ。

単純に、ビールは昨日飲み過ぎました……今日は甘いカクテルをちびちび舐めていくスタイルで行かせてください。

 

乾杯、自己紹介と定番の流れも終わり、談笑タイムに入りました。

爽やかな笑顔を浮かべる相手方の幹事さんは、葉山先輩タイプです。

世の中は広いもんで、葉山先輩くらいの傑物も大手企業さんになるといるもんですねー。

場を盛り上げてる調子の良さそうな人も、細かい気遣いは忘れないイケメンさんです。

戸部先輩が、「もうこれで終わりでも良い」……って感じでありったけの情念で進化したらこんな感じになる気がします。

わたしの中でのあだ名は「トベさん」とでもしておきましょうか。

 

高校1年の時のわたしだったら、どうにか落とそうと必死になってたんでしょうけど……

今日は、友人二人のサポートにでも徹する事にします。 あんまり調子も良くないですし。

 

そんな風にわたしが考えていると、トベさんがこっちに向かってくる誰かに気付いたのか手を上げた。

どうやら重役出勤のお付のようです。 さーて、本日の中々レベル高い男性陣の中で遅れて登場する彼はどんなもんか確認しましょう。

 

「おっそいよー!こっちこっち!」

「おい。 何だこれ。 今日は同期の飲み会じゃなかったのか」

 

……聞き間違え? この声って……

 

「いやー、お前に素直に言うとエスケープするじゃん」

「そんな俺を敢えて何で呼ぶのか理解出来ん…… 」

 

不機嫌そうに現れた彼にわたしの視線は釘付けになっていた。

私は、懐かしい言葉を口にしていた。 有り触れた言葉だけど、わたしは彼にしか、こう呼んだ事は無い。

 

「せ、先輩……」

「…………え」

 

高校を卒業してから7年が経っても、先輩は相変わらず死んだような目をしています。

むしろリアルな社畜となって、その目の濁りっぷりもより深くなっているまであります。

相変わらずの腐った死体のような目の先輩ですが、ビシっとスーツを着こなしている姿はときめいてあげなくもないくらいに合っています。

 

 

……私はどうなんだろう……

先輩からはどう見えているんでしょうか?

 

「そんじゃ、帰るわ」

「ちょっと! なんでわたしの顔見た途端それなんですかっ!!」

「いや、だってお前……合コンってだけでアウェーなのに……そこに昔の知り合いがいるとか……無いだろ。無いわ」

 

7年たっても本質的なところは変わってないですねこの人……

それにしても『知り合い』ですか……何なんですか。 ちょっと胸が痛むの何なんですか。

そういう言い方されると意地悪したくなっちゃうじゃないですか。

 

「えー?比企谷と一色さんって知り合い?」

「ま、まぁ……」

「『知り合い』なんて水臭いじゃないですかぁー せんぱぁい

 高校の時はあんなに仲良くしてくれたじゃないですかぁー」

 

思いっきりわざとらしく甘えた声を向けてみる。

あっ、戸惑ってる戸惑ってる。 そういうところは本当に変わりませんねぇー

 

「やめてくんない。 高校時代の話とか本当に止めて下さい。 お願いします」

「じゃ、取り敢えず座ってください。 シッダンですよ先輩」

「はぁ……お手柔らかに頼むぞ。 本当に黒歴史の発掘とかやめてくれよ

 そんなもん幾ら掘ってもガンダムは出てこないからな、俺の場合」

「何言ってるのか良く分らないですけど、キモイです」

 

観念したように、ため息を付きながら席に付く先輩

そうそう、いっつもこんな感じでしたよね先輩は。

 

……はっ? なんかわたし急に超テンション上がってないですか……?

ごめんなさい本当にそんなんじゃないんで、そもそも遅刻した時点で-10ポイントなんで勘違いしないで下さいね先輩。

 

つづく




1週間を目途に更新していきたいと思っています。宜しくお願いします。


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