やはり一色いろはの青春ラブコメは終わらない。   作:札樹 寛人

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いつまでも、一色いろははメールを待つ。

 いえいえいえ、ちょっと待ってください。 その笑顔なんなんですか? 窓に映ってるあなたは一色いろはさんですよね?

 幾らなんでもあざといとか通り過ごしていませんか? ちょろい認定されるまでありますよ。

 と言うか正直言って驚きです。 自分自身にもですけど、先輩って自分からこんなメールしてくる人でしたっけ?

 間違いなく高校時代だったら、約束を取り付けても自分からは何もして来ない……いえ、ガチで忘れられてる可能性すらあった気がします。

 

 それがどうしたんことやら、レスポンスが意外と良いですよ社会人になった先輩は……

 

 この7年間であの人格が変わるだけの何かがあったんでしょうか?

 そもそも、商社勤めって学生時代の先輩からはとてもじゃないけど想像出来ません。

 あの人は、確かに仕事は速かったですし、実は実行力も行動力も有りましたけど

 そういうのを自分から出して行くタイプでは無かったと思います。

 必要に迫られれば、例え自分が犠牲になるとしても、もっとも効率の良い方法を選択する。

 そんな風にわたしには見えてました。 自分から商社なんて社畜界の極みみたいなところに身を置くとは思えません。

 どんな心境の変化があったんでしょうか? そんな風に先輩を変えたのは……いえ、今はそんな事考えるのやめましょう。

 多分、考えても答えは出ないし、思考のドツボに嵌ってしまうだけなのが用意に想像出来ます。

 

『 どうしたんですかぁ?

 自分からそんなメールしてくるなんて!

 明日は雨って言うか雪でも降るんじゃないですか!

 

 はっ!?  もしかしてこれを機会にわたしを口説こうとしてます!?

 ごめんなさい。 久々に再会したばかりでいきなりそれは無理です。』

 

 ……送信ボタンを押そうとして指が止まる。

 おかしくないだろうか、この文面。 喋ってるときはただの軽口でも文章にすると印象が変わる事はある。

 ……別に、大丈夫ですよね? これくらいの距離感なら……

 

 電車は何時の間にかわたしの降りる駅の一つ前まで来ている。

 時間経つの早いですよっ! 普段だったら帰りの電車ってやたらと進みが遅く感じるのに……

 どんだけ集中してるんですか、わたし。 もうちょっとでゾーンとかに入ってしまいそうな集中力でしたよ。

 心の持ちようによって時間感覚が変わるって言うのは本当なんですねぇ。

 

 メールの文面を考えるのは電車を降りて家に帰ってからにしようか。

 でも、そうなるとちょっと遅くなってしまう。 折角珍しく、むしろ人生で初めて?先輩の方からメールして来たと言うのに……

 

 分かってます。 別に多少メールの送信が遅れようがどうこうなる人じゃないって言う事くらい。

 むしろ、こっちが速攻で返しても向こうから返ってくるのは次の日とかになる可能性だって有ります。

 可能性ととしては、そっちの方が遥かに高いと思います。 そういう人です。 そんな事は言われるまでも無く百も承知なんです。

 

 電車は、わたしの降りる駅に刻一刻と迫っている。 

 わたしは何をそんなに悩んでいるのでしょうか? 自分でも良く分からなくなる。

 このままの文面の方が、先輩が認識している一色いろはらしいのは間違い無いと思います。

 でも、わたしはそのままで良いんでしょうか?

 

 7年ぶりに再会した先輩は、やはり目は腐っているけど、少しだけ7年前とは変わっていました。

 わたしもきっと少しだけ7年前よりは大人になっています。 そして、今の先輩には……多分、奉仕部は無い。

 あの時は、わたしは踏み出せませんでした。 踏み出すべきでは無いと思っていました。

 さっきまでの笑顔は消え、窓には難しい顔をした女が映っている。

 どんだけ真剣な顔してるんですか……仕事中でも中々見られない表情ですよ、コレ。

 

 

 ………………………

 

 迷った挙句、わたしはそのままの文面を送信しました。

 うん、今はまだこの方が良いんです。 先輩とわたしは、再会したばかりなんですから。

 

 

 あっ! こ、この文面……金曜日の誘いに関しての返事してない……!

 変なところで悩み過ぎて、一番肝心なところを忘れてるっ!

 慌てて、わたしは追加のメールを打つ。 

 

『 あ、ちなみに金曜日は暇です。

 非常に残念なことに金曜日なのに暇なんですよ。

 ラッキーでしたね、先輩!』

 

 ……こんなところでしょうか。

 ちなみに金曜日には、時間が有れば組合の飲み会に参加して欲しいと言われていたんですが

 非常に遺憾では有りますが、今回はお断りさせて頂くことにします。  

 

 追加のメールを打ち終わって気付くと、既にわたしの降りる駅から二駅程先の駅に到着しようとしていました。

 わぁ……どうやら、本当にゾーンに入っちゃってたみたいです。

 仕事中にもこれくらいの集中力が発揮出来れば、もっと早く仕事終わるんでしょうねー。

 はぁ……面倒ですけど、2駅分逆送することにしましょう。 その間に先輩からの返信あるかもしれませんし。

 もっとも、さっきから何度も言ってますけど、先輩のことですからすぐに返信来るとは限りませんけどねー。

 

 

 自分にそう言い聞かせながらも、内心ウキウキしていなかったかと言えばウソになります。

 ………………はい、現在時刻は23時45分です。

 既にわたしは家に帰り着き、コンビニで買ってきたお弁当で夕食を済ませ、お風呂にも入り終わる程の時間が経過しました。

 実に電車を降りてから2時間が経過しています。

 

 

 いえ、分かってますよ。 それくらいわたしは理解のある後輩ですよ。

 別にあの先輩がメールマメなわけないじゃないですか。 

 何かの気の迷いで、向こうから連絡してきたからって、そこからのレスポンスも良いなんて高望みしすぎじゃないですか?

 そもそも、わたしも色々考えすぎてメール返すまでに時間掛かったわけですし。

 自分の事を棚にあげて、先輩にどうこう言うつもりなんか全く無いんです。

 

 でも……このままだとわたし、今日眠れない可能性が出てきます。

 

 既に眠る準備は終わっている。 むしろベッドには既に入っています。

 ただし、さっきからわたしは携帯から目が離せない状態が続いています。

 メールの受信確認を行うのは、何度目でしょうか。

 

 はぁ……もう0時を回りますね……今日はもう寝ます。 

 これ以上もんもんとしていると本当に……本当に……

 

 その瞬間、携帯が震える。

 

 わたしは飛び起きて、メールを確認する。

 

『 いろはー 今週の金曜日暇ー?』

『忙しい。死ぬほど。』

 

 0.2秒で友人からのメールに返信する。

 ちょっと空気読んで下さい。 今、そういうの良いんで。

 これ、絶対にこういうパターンですね。 何時まで起きてても今日は返信来ないパターンです。

 メール来たと思ったら、絶対に関係無いメールとか、何ならアマゾンの商品配達のお知らせとかだったりするやつです。

 わたしも、もう子供じゃないんですから。 別に先輩からメールしてきてるわけですし?

 ここでこんなにもやもやしている必要がそもそも無いんですよね。

 わたしからの返信だって、ちゃんと金曜日は暇って事は伝えているわけですし。

 今日は寝ます。 もう絶対に寝ます。 明日の朝、メール確認すれば良いだけなんですから。

 

 

 ………午前3時30分

 

 一色いろはさん、あなた今年で幾つでしたっけ?

 へぇー、24歳ですかぁー もういい大人ですねー

 そのいい大人が、何で平日の月曜日からこんな時間まで夜更かししてるんですか?

 日曜日の夜も夜更かしして、遅刻しそうになったのもう忘れたんですか?

 学習能力無いんですかぁ一色いろはさん。

 

 普通に眠れません。

 ちょっと自分で自分に引きます。

 こんなの高校生どころか、中学生レベルの恋愛偏差値じゃないですか。

 

 もう流石に気付いてます。

 この時間にメールしてくる人は普通居ません。

 相手の事を考えたら尚更です。 普通寝ている時間ですから。

 

 ……ただ問題は今から寝たら、明日の朝起きれる可能性が非常に低いと言う事ですね。

 わかりました。 こうなったら勝負です。 わたしはもう寝ません。 もう今日は朝まで起きて…………

 

 ※※※※※※

 

 枕元に置いた携帯の振動で、わたしは目を覚ます。

 あぁ……アラームかぁ……まだ眠い……今日会社行きたくない……

 わたしはすぐにでも安眠を妨害する振動を止めようと携帯に手を伸ばす。

 

 1件の新着メール

 

 …………眠気は吹き飛んでいた。

 

『 俺は何回お前に振られりゃ良いんだ……じゃあ、金曜日に時間と待ち合わせ場所は後で送っておく 』

 

 実に先輩らしい簡素な返事。

 だけど、それが凄く、凄く嬉しい。

 金曜日の夕方まで、4日間。

 多分、わたしは頑張れるだろう。 いえ、頑張って見せます!

 金曜日の夜に仕事が残っているなんて事態は100%避けなければいけませんから!

 

 わたしは眠気をねじ伏せ、ベッドから起き上がる!

 さぁ、今日もがんb……時計の針は、既に8時30分を回ってた。

 

 さて……今日の最初のミッションは良い言い訳を考えることになりそうです。

 

 つづく

 


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