やはり一色いろはの青春ラブコメは終わらない。   作:札樹 寛人
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ようやく、一色いろはの一週間は報われる。

 夜の繁華街を先輩の後ろに続いて歩いて行く。

 どうやら先輩には当てがあるようなので、素直にエスコートされる事にします。

 男の人ってラーメンとかカレーとか焼肉は得意分野ですもんね。

 そんな風に考えていると、一軒の焼肉屋さんが目に留まりました。

 

「そういえば、先輩って漫画とか結構好きでしたよね?」

「まぁ、今でもそれなりに嗜む程度にはな。 何、お前も知らない間にそういう趣味装備したの? オタサーで姫とかしてたの?」

「は? なに言ってるんですか」

「そういうドスの効いた声、怖いからやめてくんない。 目がマジ過ぎるんだけど一色さん」

 

 ちなみに大学生時代は、フットサルサークルに所属してました。

 多分、先輩に言ったら、『あー、なんかうぇーいって感じでやってそうだな』とか言われそうな気がします。

 まぁ、当たらずとも遠からずなんですけど。 ちなみに葉山先輩みたいな人って言うか、戸部先輩みたいな人が多かったです。

 

「まぁ、良いです。 それより漫画が好きなら良いお店ありますよ! ほら! あそこに!」

「俺には漫画とは全く関係無い、ただの有名な高級店しか見えないんだが」

「えー? ジョジョって先輩好きじゃなかったですかぁ?」

「好きだけどね。 でも、あれは違う叙々だから。 値段が最高にハイってやつだから。 ……あそこが良いのか?」

「いえ、言ってみただけです。 流石にわたしもそこまで図々しくないですよー」

「一瞬、本気の目に感じたのは気のせいか……」

 

 普通に冗談ですからね。

 幾らわたしでもそこまで先輩に甘えるわけないじゃないですか。

 特に今日は、色々と迷惑かけてるわけですし……

 

「コスパ的にもっと良い店が有るんだよ」

「流行のコスパ男子ですか。 あんまりコスパに拘り過ぎると結婚出来なくなりますよ」

「いや、専業主夫はコスパに拘った方が良いだろ。 家計を預かる身になる予定なんだから」

「え……この期に及んでその夢まだ諦めて無かったんですか……」

「身を粉にして働いている社畜の企谷八幡は世を忍ぶ仮の姿だ……そろそろ忍ぶのやめたいと思ってる」

「腰掛けが許されるのは可愛い女の子だけですよ。 例えばわたしとか」

「自分で言っちゃうところが一色さんらしいですね。 さすいろ。」

「えー? わたし可愛くないですかぁ……そうですよね……もう24ですしね……」

 

 とびっきり可愛い拗ね顔を先輩にお見舞いしてみます。

 

「あざといわ」

「もう! リアクションそれだけですか? もっとこう拗ねた後輩を慰めたりとかして下さいよ」

 

 あざといと何時も通り一言で済ませようとする先輩にちょっと追撃をかけてみます。

 期待を込めた目を先輩に向けると、困ったように先輩は、頬を掻きながら口を開きました。

 

「あー……なんだ……まぁ、そのあざと可愛い事は認めなくも無いな」

「えっ? なんですか先輩! 今なんて言いました!? 私、何か難聴になったみたいなんで、もう一回お願いしても良いですか?」

「もう言わん」

「えー、良いじゃないですかぁ」

 

 スタスタと目的地にさっきまでより速足で向かいだす先輩を追いかけながら私は、もう一回とせがむ。

 多分、これ周りを行き交う人々には完全なるバカップルに見えてますよね?

 ……そう思うとわたし自身が恥ずかしくなってきました。

 先輩は相変わらず前だけを見て歩いています。 多分、赤くなっているであろうわたしの顔を見られなくて良かったような残念なような複雑な気持ちです。

 

 それから5分ほど歩いたところで、先輩は足を止めました。

 目の前にはちょっと薄汚れた感じの焼肉屋さん。

 でも、漂ってくる匂いはとっても良い匂いです。

 

「席が片付くまで10分だと。 ここで良いか?」

「へぇ……良いんじゃないですか」

「……あれ? 普通の反応だなお前」

「? どーいうことですか?」

「いや、なんか……『えっ……なんか薄汚れて無いですかぁー わたし、こういうところはあんまりぃ……

 やっぱりさっきの叙々苑とかの方が良いんじゃないですかぁー』みたいな反応が来るもんだとばかり」

「……それわたしの真似ですか。 二度としないで下さい」

「ご、ごめんなさい」

「これでも、申し訳無いと思ってるんですよ」

 

 ちょっと膨れてみる。

 どうも、先輩は必要以上にわたしを小悪魔キャラと思っている気がする。

 ……そういう風に自分を演出しているのは、他ならないわたしなんですけどね。

 さっきもやっちゃいましたし。あ、自業自得ですね、これ。

  

「……別に気にすんな。 俺もフツーに仕事終わってなかったからむしろ助かった」

「もう片付いたんですか?」

「仕事に終わりなんかない。ゴールドエクスペリエンスレクイエムみたいなもんだ」

「はぁ。 そのなんちゃらはどうでも良いですけど」

「……ついさっきジョジョネタ振っておいてこの扱いか……」

「そんな事言われても……タイトルくらいしか知らないですし。 あ、ワンピースなら少しわかりますよ!」

「それ、服の話じゃないの?」

「違いますよ。 漫画の方ですよ! それくらいはわたしだって読んでますよ。 多少は、分るはずです!」

「そうか……いや、やめておこう……俺みたいなタイプがその海賊の話をするとまず確実に空気淀むから。一般のレベルを超えてしまう」

「なんですかそれ」

「本気で俺がワンピース語ると凄いぞ。 捲かれた全ての伏線を考察してワンピースの正体に迫るまである。」

「先輩……気持ち悪いです」

「……だからやめとくって言ったんだ」

 

 むー……やはりわたしも少し先輩の趣味に迎合してみる必要あるでしょうか?

 実は、高校生の頃ライトノベルとやらを少しだけ読んでみた事が有ります。

 確か、友達が少ないと言いながら、たまに男気を見せたり、ひたすら女の子といちゃいちゃする作品だったと思いますけど

 

 ……ちょっと先輩っぽいですね。 事実は小説より奇なりとは良く言ったもんです。

 ぶっちゃけ、高校時代の先輩のモテ方って尋常じゃなかったと思うんですよね。

 そりゃ人数では葉山先輩が圧倒的だったんでしょうけど……先輩の周りには雪ノ下先輩や結衣先輩みたいにレベル高い人ばっかり集まってましたから

 アレでボッチボッチ言ってたら本当のボッチの人に刺されると思います。

 

 ……わたしだって居たんですから。

 

「ん? なんだよ。 どうしてもワンピースの謎に迫りたいなら迫るが」

「いえ、先輩を主人公にした漫画とか小説があったらどんなタイトルになるのかなぁ……って」

「……『見栄張って就職した企業がブラックで俺はもう駄目かもしれない』とかじゃないか」

「本当に、そんなにブラックなんですか? 凄く有名な会社じゃないですか」

「そもそも専業主夫以外の仕事はブラックだと思ってる」

「世の中の99.99%の仕事がブラック認定されそうな勢いですねー」

 

「2名様ー お席の片付け終わりましたのでどうぞー」

 

 そんな会話をしている間に、席の準備は整ったようです。

 

「あ、先輩! 席空いたみたいですよ」

「じゃ、行くか」

 

 お店の中は、外以上にお肉の焼ける良い匂いが充満しています。

 新幹線の中で、多少飲み食いしたはずなのにすごくお腹が空いてきました。

 服に臭いが付くとかカロリーだとかは、今日は脳から消す事にしてしまいます。

 今日の一色いろは、お肉と脂と焼肉のタレとビールで出来ています。

 ……これじゃただのおっさんみたいじゃないですか。

 平塚先生もこうやって女子力を失って行ったんでしょうか……

 

「取り敢えず生で良いか?」

「逆にそれ以外の選択肢が有るなら教えて欲しいくらいです」

「食べ物は? なんか食いたいものあるか?」

「先輩にお任せします」

「…………難問だな」

 

 難しい顔をして考え込む先輩。

 奉仕部で無理難題を依頼された時に良くこんな顔していました。

 わたしは、そんな先輩の顔を見るのが嫌いじゃありませんでした。

 だからこそ……生徒会長をしていた頃、あんなに毎日のように奉仕部に足を運んだんでしょう。

 ……それにしても、注文決めるのに先輩悩み過ぎじゃないですか?

 

「あ、あのー……別にこれわたしの好きな物を当てて下さいとかそういうクイズじゃないですからね? 

 普通にカルビとか食べたいですし。あとサラダとかあれば文句ないんで」

「そうなの? 焼肉屋でオシャレメニュー必死で探す必要なかったのか……パスタとか」

「そんな事ばっか言うと、おしゃれそうな名前のお肉ばっか頼みますよ。シャトーブリアンとか」

「その子たちばかりは、ちょっとレベルが高い。 もう少しレベル上げてから戦おう」

 

 そう言いながらもわたしの希望を多少は踏襲しながらの先輩セレクトで注文は決まっていく。

 

「あ、タン塩良いですねー」

「ここはタンが美味いんだ」

「へぇー、詳しいですね。結構来てるんですか?」

「たまにだな。 肉でも食わんとやっとれん時とかに来る感じだ」

「この前の同僚の人とかとですか?」

 

 彼女と言う可能性は考えない……考えたくないだけかもしれません。

 

「いや、基本一人だ」

「ついに一人焼肉まで極めちゃったんですか……」

「おい、やめろ。悲しい人を見る目で見るの。 最近ではウォォンとか心の中でモノローグ入れる技も覚えたんだぞ」

「どんどん悲しい感じになってますよ先輩………………そういう一人の時は、わたs」

『ビールお待たせしやしたぁー!!』

「ああ、どうも」

 

 ……言いそびれました。

 一回タイミングを逃してしまうと何だか照れ臭くなってきました。

 先輩には聞こえて無かったみたいですし……ちょっと踏み込むタイミング再考しましょう。

 

「すまん。今なんか言いかけてたか?」

「な、何でもないですよー! ほら先輩! 早くジョッキ持って下さい! かんぱーい!」

「お、おお……乾杯……」

「あれぇー? 先輩、ちょっとテンション低くないですか?」

「俺は平常運転だ。むしろお前がテンション上がりすぎなんじゃないか。 初めて焼肉に来た小学生みたいになってるぞ……小町がこんなんだったわ、確か」

「えー、だってお肉ですよ!お肉。それに今日は金曜日じゃないですか。色々嫌な事有ったけどもう忘れました!」

 

 ……照れ隠しも手伝って、明らかにテンション上がってますよねわたし。

 当初から予定は変わってしまい、先輩にもきっと迷惑は掛けてしまいましたけど

 それでも……この1週間は、この時間の為に必死に仕事してきたんですから

 少しくらいテンション上がってしまっても大目に見て貰いたいです。

 

「金曜日の夜ほど、社畜の心を優しく包んでくれる時間は無いからな」

「そうですよー 先輩ももっと弾けても良いんですよ!」

「ハメ外すのは構わんが……記憶を失う程飲むなよ」

「わ、分ってますってば……って、そう言いながら先輩、飲むペース早いですよ」

「俺は自分の限界酒量は分っているからな」

「大人ですねー」

「1つしか変わらんだろうが」

 

 そう1つしか変わらない。

 大人になってしまえば、1歳の差なんて大したものでも無いのが事実です。

 だけど、あの頃は1歳の差と言うのはとても大きかった気がします。

 だって、どうやっても1年早く学校からは居なくなってしまうんですから。

 あの時は、わたしはどうやっても3人に追いつく事は出来ませんでした。

 

「そーですよね。 ちょっとズレてればもしかしたら先輩と同学年だったかもしれないわけですし」

 

 もしも、わたしも先輩達と同じ学年だったら……

 何かが違ったんでしょうか。 それとも、交わる事すら無かったんでしょうか。

 

「賭けても良いが、お前は俺の事無視してたと思うぞ。その場合」

「おそらく99%そうでしょうねー」

「ちょっとは否定しようよ……いや、全く否定出来ない事実ではあるんだが」

「でも、1%は……違ったかもしれないですよね」

「まっ、どっちにしても学年が同じだろうが、違おうが……お前との関係は変わらん気がする」

「えー、そうですかねー?」

「どっちにしろ俺はお前の事をあざとい奴だと最初は思うだろうし、知り合えばそれだけじゃないってのも気付くだろうしな」

 

 あ、そんな風に先輩はわたしの事を考えてくれて痛んだ。あざとさだけじゃないって……わたしの中の『本物』を感じてくれていたんだ。

 そう思うとちょっとだけ恥ずかしくなってしまいます。

 

「どうかしたか? 俺なんか気持ち悪い事でも言ったか?」

「な、何でも無いです。 ほ、ほらっ! 先輩タン塩焼きすぎですよ!」

 

 自分の動揺を誤魔化すように先輩のお皿にタン塩を盛り付け、話を変えようとしてみます。

 

「お、おお悪いな……しかし、何となく違和感があるな」

「? 違和感……ですか?」

「お前が焼肉奉行したり、サラダ取り分けたりしてるの」

「えー……それくらい誰でもやりますよ」

「そうか? 高校の時のお前は、何かやらなそうな気がするが……むしろ男に取りわけさせるイメージ」

「どんなイメージを持ってるんですか…… 葉山先輩の前とかでは、ちゃんとしていましたし。あ、戸部先輩とかにはしないですけど」

「……ああ、そう。可愛そうな戸部」

「ついでに言うと高校時代だったら先輩にも多分しないですねー」

「他人事じゃなかった。可愛そうな俺……」

 

 正直に言うと、先輩には甘えたいって言うのが高校の時のわたしの本音ですから。

 戸部先輩とかその他大勢の人に対するアレとは、高校時代も今も、ニュアンスは違うんですよ?

 その辺、気付いてくれてるんですかねー?

 

「ま、俺にも取り分けしてくれるって事は、それだけ一色の社畜スキルが高まったと言う事だな」

「全然嬉しく無い講評ですね……でも、戸部先輩には、多分今でもとりわけませんけどねー」

「……ある意味でオンリーワンになっているじゃねーか、戸部」

 

 葉山先輩と自分が同格になったと言う方向性はスルーするのが先輩らしいです。

 こんな遠回しなアピールが通じる人じゃないのは重々承知なんですけどね。

 実際には、先輩の場合は気付いた上で、気付いてない振りをしてる可能性の方が高いかもしれませんけど。こういう事以外での洞察力はいっつも高いですし。

 

 その辺の先輩の本心は、高校生の時のわたしの立場では、中々踏み込み辛い部分ではありました。

 でも、今は高校時代とは違います。 何と言ってもわたしたちは既に社会人です。 大人です。 

 大人はお酒の力に頼るという手が使えるのです。 先輩は前回も途中からウーロンに切り替えていて酔ってる所を見せませんでした。

 逆にわたしは醜態を晒したわけですが……でも、言い訳させて貰うならば、わたしは一応場を盛り上げるためにやってたところもありますからね。

 先輩に久しぶりに再会して舞い上がってたとかそういう事だけじゃないんですよ? 本当ですってば。

 今日は……何と言っても二人きりなわけです。 覚悟してくださいよ、先輩!

 

 そう決心しながら、わたしは先輩にビールを注いでいく。

 奥義ステルスウーロンの術は、既にわたしには通じませんからね!

 

 つづく




クッソ久しぶりの更新になりすんません……ぼちぼち書いていきます。


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