魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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入学編Ⅵ

 

 

 

 

あの後、俺と兄さんは部活連本部に呼ばれ事情聴取をされていた。

 

「―――以上が剣道部の新勧演武に剣術部が乱入した事件の顛末です」

 

兄さんの報告に俺たちの目の前に座る人物、十文字家次期当主である十文字克人はふむ、と頷いた。

 

「司波紅夜は途中から乱闘の様子を見ていたようだが、何故止めに入らなかった?」

 

座っているだけで、その巨漢を含め一般人では萎縮してしまうような威圧感を感じるが、生憎俺は到底一般人とは言えないので特に萎縮することもなく、予め用意していた台詞をすらすらとしゃべる。

 

「あの場で止めに入らなかったのは、それが最善の判断だと思ったからです。あの状況で弟である俺が止めに入れば、状況がかなり悪化する可能性がありました。それに、男の嫉妬は見苦しいですからね」

 

最後の台詞だけ茶化したように言えば、その意味が理解できた者たちは皆苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

部活連で報告を終えた俺と兄さんは、深雪を迎えに生徒会室に向かうつもりだった。だが、昇降口から生徒会に向かおうとしたところで、その必要はなくなった。

 

「あっ、お疲れ~」

「お兄様、紅夜」

 

深雪は俺の名前も呼んでいたが、それはおまけ扱いのようで兄さんに向かって真っ先に駆け寄った。だがまあ、理由は容易に予想できるので、思わず苦笑をしてしまう。

 

「お疲れ様です。本日は、ご活躍でしたね」

「大したことはしてないさ。深雪の方こそご苦労様」

 

そういって見つめ合いながら頭を撫でる兄さんと深雪は、どう見ても兄妹には思えない。取りあえず自分たちの世界に入ってしまった二人は暫く放っておくことにする。

 

「悪いな、待っててくれたのか」

「……あの二人はスルーしちゃうんだ」

「もう慣れたんだよ。アレは暫く放っておけ」

 

俺がそう言うと全員が微妙な、そして俺に同情するような視線を向けてくる。

 

「あの二人は恋人同士だと思っておけば問題ないだろ」

「いやいや、大有りだよ!」

「気にすんな」

「気にするわ!」

 

暫くそんなカオスな空気が続いたが兄さんと深雪が帰ってきたことで、すぐに終わる。

 

「こんな時間だし何処かで軽く食べて行かないか? 一人千円までなら奢るぞ」

 

こうして全員でカフェに寄ってから帰ることになった。

 

 

 

 

新人勧誘期間が始まってから一週間が過ぎた。この一週間は過去最大級のストレスが溜まると同時に、過去最大級のストレス発散ができた日々だった。

兄さんの乱闘事件から兄さんへの嫌がらせが俺に向かってくることが何度もあったのだ。しかもそれに乗じて嫉妬をしてる奴まで襲い掛かってくるから、それはもうストレスが溜まる。それが四日間続いたところで俺はキレた。

最初にキレた時は、襲い掛かってきた奴を捕まえて、手足を縛った後に光と音を完全に遮断する結界の中に三十分間閉じ込めたが、その後さすがに兄さんにやりすぎだと言われたので次からは服部にやったように三半規管をかき乱す程度にしてやった。俺の所業を雫とほのかに教えたら引いてたけど。

そして、誰にも教えていないことだが、実は襲ってきた奴らの中に何人かエガリテのメンバーがいたので、そいつらにはお話をしていろいろ吐いてもらった。だが、特に有益な情報はなかった。あるとすれば、原作との違いが無さそうということくらいか。

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

クラブの新人勧誘期間が終わったからといって生徒会が休みになるわけではない。いや、新人勧誘期間が終わってからがデスクワークとしては忙しいかもしれない。そんな中、俺と深雪はデスクワークも優秀で即戦力として働かされていた。

そんなわけで、当然深雪の仕事が全く進んでなかったら全員が気づくわけで……

 

「紅夜くん。深雪さん、どうしたの?」

 

聞いても正直に答えないであろう深雪に変わり、俺に質問が来るわけだ。

 

「今、兄さんが剣道部の壬生紗耶香先輩とカフェで会ってるんですよ」

 

俺がそう言った瞬間、全員の深雪に向ける視線が、心配そうなものから一気に生易しいものに変わった。

 

「ちょっと紅夜、何を言っているんですか!?」

「そんなにそわそわしてたらバレバレだって」

 

俺たちのやりとりを他の全員はニヤニヤしながら聞いていた。

 

 

 

 

 

次の日の昼食後、兄さんが仕事を始めてしばらくした時、摩利がタイミングを計ったように切り出した。

 

「達也くん、昨日、二年生の壬生を、カフェで言葉攻めにしたというのは本当かい? 壬生が顔を真っ赤にして恥じらっているところを目撃した者がいるんだが」

 

摩利が口にした瞬間、凄まじい悪寒が俺を襲った。

固まって動かしにくい首を壊れかけのロボットのようにギシギシと音を立てながら横を向くと、そこにはドス黒いオーラを纏った深雪が……

 

「お兄様……? 一体何をされていらっしゃったのかしら?」

 

次の瞬間、部屋の温度が下がり始めたのを感じて、俺は咄嗟に空気を温めた。

どうやら他の人たちは気がついていないようで、ホッとため息を吐く。

深雪も俺が魔法を使ったことが分かったらしく、恥ずかしげに顔を赤らめていた。

 

「落ち着け深雪、ちゃんと説明するから」

「申し訳ありません、お兄様。紅夜もありがとうございます」

 

先ほどの状況に気がついていなければ分からない謝罪に生徒会のメンバーたちは不思議そうにしているが、俺と兄さんにはもちろん分かったので気にしていないと首を振った。

 

その後、達也が説明し出した内容は、事実とはいえない言いがかりばかり。

その状況に真由美たちは心当たりがあるようで、兄さんの追及を誤魔化すが、話す様子がない真由美たちに兄さんが切り出した。

 

「俺が聞いているのは、背後の連中のことです。例えば、『ブランシュ』のような組織ですか?」

 

兄さんの言葉に全員が驚愕を浮かべた。

 

 

 

 

 

あの後、真由美たちと話したが、結局何か進展があるわけでもなかった。

夕食を食べ終わった俺は自分の部屋に戻り、CADを弄っていた。三人で暮らすにはかなり広いこの家だが、実は家の中で三人で過ごしている時間は意外と少ない。俺と兄さんは自分の部屋でCADを弄っていることが多いし、深雪は俺と兄さんの邪魔をしないように気を使っている。しかし、今日は珍しいことに深雪が部屋を訪ねてきた。

 

「紅夜、入ってもいい?」

「ああ、構わない」

 

丁度、作業に一区切りがついたところだったので、ディスプレイから目を離し、部屋に入ってきた深雪に向ける。

 

「お兄様に買っていただいたケーキが届いたのだけれど、お茶にしない?」

「兄さんは?」

「もうリビングに居るわ」

「分かった、すぐ行く」

 

そう答えると、ディスプレイに映っている情報を保存して電源を切ると立ち上がった。

 

 

 

 

「271ms。紅夜くん、クリア。すごい」

「そうか? ありがとな」

 

感嘆の声を上げる雫に少し照れながらも軽く答える。

今やっているのは実技の授業で、二人一組のペアを組み、基礎単一系魔法の魔法式を制限時間内にコンパイルして発動するという内容だ。

俺としては、課題とは言っても正直意味のないものだと思うし、何よりも学校のCADのノイズが酷くてイラつくので、座学よりも嫌いな授業だった。深雪もイラついてるだろうと思い隣を見ると、そこには237msという驚異的な数値を出しながらも不満気にしている深雪と、それを唖然と見ているほのかがいた。

 

「すごいね」

「本人は不満そうだけどな」

 

雫も見ていたようでポツリと呟くが、本気を出せば同じくらいの数値を出せる俺としては特に驚くことでもない。

 

「さて、課題も終わったことだし、昼食にするか」

「ん、そうだね」

 

苛立ちを紛らわせるようにわざと大きな声でそういい、深雪とほのかも誘って食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間が経た日。授業が終わり放課後となった時、事態は起こった。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

思わず耳をふさいでしまうような大音量がスピーカーから響き渡った。

 

「きゃあ! なんですかこれ!」

「ついにきたか」

「なにが?」

「ブランシュ」

「それってお兄様が言っていた……」

 

大半の生徒が慌てふためく中、俺たちは冷静に状況を把握していた。

 

『―――失礼しました。全校生徒の皆さん!』

 

少々気まずげに同じセリフが流れた。

 

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

 

続けて流れた言葉に教室にいた数人が大声で怒鳴る。プライドの高い一科生としては、そんな事態は許せないのだろう。

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

「対等ね……」

 

まるで生徒会が一科生と二科生を差別しているような発言に思わず呟く。

 

「いかなくていいの?」

「そうだな」

 

雫の問に面倒だという気分を抑えながら返す。

 

「どうせそのうち会長から連絡がくるだろうな」

 

そう呟くと同時に深雪と俺のポケットから、メールの着信を知らせる音が鳴る。

 

「じゃあ行くか。深雪」

「はい、では行ってきますね」

「あ、はい、気を付けてください」

「頑張って」

 

ほのかと雫の声援を背に俺と深雪は放送室に向かった。

 

 

 

途中で兄さんと合流すると放送室の前に着く。

 

「遅いぞ」

「すみません」

 

既に他のメンバーは揃っているようで、形だけの叱責に形だけの謝罪を返すと、これからの対応について話し合う。

とはいえ、結果を知っている話し合いなんて面倒なので、さっさと終わらせたい。

 

「兄さん、番号知ってるだろ」

「……はぁ、仕方がない」

 

そういって携帯端末を取りだすと、音声通話モードを立ち上げた。5コールの後つながった。

 

「壬生先輩ですか? 司波です。……それで、今どちらに?」

 

その声に全員がギョッとして兄さんに振り返り、兄さんの会話に集中する。

兄さんは交渉で壬生の安全を保障する代わりに出てくるように説得し通話を切った。

 

「すぐに出てくるそうです」

「今のは壬生紗耶香か?」

「ええ、待ち合わせの為にとプライベートナンバーを教えられていたのが、思わぬところで役に立ちましたね」

 

兄さんがそう言ったとき、隣でピクリと深雪と反応したのを俺は見逃さなかった。

 

「それより、早く態勢を整えるべきじゃないですか」

「態勢?」

 

摩利の疑問に兄さんは、何を言ってるんだ? とでも言いたげな顔で返す。

 

「中のヤツらを拘束する態勢ですよ。鍵まで盗み出す連中です。CADは持ち込んでいるでしょうし、それ以外に武器を所持しているかもしれません」

「……君はさっき、自由を保障するという趣旨のことを言っていた気がしたのだが」

「兄さんが自由を保障したのは壬生先輩だけですよ。それに兄さんは、風紀委員を代表して交渉しているなんて、一言もいってないですしね」

 

俺がそう言うと摩利どころか、鈴音や克人までもが呆気にとられた顔をしていた。……解せぬ。

 

「悪い人ですね、お兄様は」

「兄さんが悪い人なのは今更だろ」

「確かにそうだが、お前だけには言われたくない」

「フフ、そうですね」

「うわ、酷いな」

 

そんな会話をしていると突然、深雪が笑みを深めた。

その笑みに何故か悪寒を感じるんだが……

 

「でも、お兄様? 壬生先輩のプライベートナンバーをわざわざ端末に保存されていらした件については、今更ではありませんから、後ほど詳しくお話をうかがわせてくださいね」

 

満面の笑みで楽しげに告げる深雪に、俺は兄さんに対して心の中で黙祷を捧げた。

 

 

 

 




 
今回は全然面白くなかった気がします。すみません。

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