何とか投稿。
前話の時に半分程度できていたので、どうにか間に合いました。……次回から大丈夫かなぁ?
今回からようやくリーナの登場です!
ヒロインが出て来るまで三十七話……本当に長かった……。
西暦二千九十六年の元旦を、俺はいつも通り兄さんと深雪の二人と共に迎えた。
最早癖となったが故に正月だからといって自堕落な生活を送るようなことはなく、普段と同じように朝日が昇る頃には目を覚ました俺は、登校時間と然程変わらぬ時刻に出かける準備を終え、玄関で兄さんと深雪を待っていた。
「お待たせしました」
聞こえてきた声に顔を上げると、振袖を身に纏いいつもの数倍の魅了を振りまく深雪の姿があった。
「うん、とても綺麗だ」
当たり前のように臆面もなく称賛する兄さんと、その言葉に頬を朱に染める深雪に俺はまたかと呆れを含んだため息を吐く。
「当然だけど、やっぱり似合ってるな」
俺は深雪の姿を褒めながらも、二人が自分たちの世界に入る前に流れを止める。
「紅夜も似合ってるわよ」
「そうか? ありがとう」
答えながら自分の姿を見下ろし、何となく袖をヒラヒラとさせて確認してみる。今俺は兄さんと同じく羽織袴姿なのだが、実は羽織袴を着るのは滅多にないことなので少し違和感を感じる。深雪が嘘をついているなんてことはないだろうが、俺は普段とは異なった違和感を感じる姿に、何となくそわそわとした気分を味わっていた。
「もちろん、お兄様もとてもお似合いです」
俺から視線を外した深雪が、まるで息をするのと同様の行為であるように頬を僅かに赤らめ、兄さんに賞賛の言葉を送った。
「ありがとう。じゃあ行こうか」
普通の人間ならば間違いなく赤面ものであろう深雪の微笑を、何でもないように受け止める兄さんは、やはり流石と言うべきかもしれない。
門の前で待っていた先生と小野に新年のあいさつをした後、コミューターに乗って駅へと向かう。恰好も恰好だからか、何時も以上に大勢からの視線を浴びながら
「わっ、深雪さん、綺麗ですね!」
待ち合わせ場所に着いた俺たちを出迎えた第一声がこれだった。その声の主である美月は隣の俺たちが目に入っているのか怪しいほど熱いうっとりした視線を深雪に向けていた。
「明けましておめでとうございます、達也さん紅夜さん。よくお似合いです。達也さんが着るのはちょっと意外ですけど」
「明けましておめでとう」
「明けましておめでとう。ほのかも似合っているよ」
兄さんの飾り気のない褒め言葉にほのかは嬉しそうに笑う。
「でも、意外ってことは、やっぱり少し違和感があるのだろうか?」
「そんなこたぁないんじゃねぇの? 達也、良く似合ってるぜ。何処の若頭って貫禄だ」
「俺はヤクザか」
しかし何というか、こういった衣装を着たときに注目されないのは初めてで何となく疎外感を感じる。まあ、単に自意識過剰なだけかもしれないが。
そんな俺の気持ちに気が付いたわけではないだろうが、兄さんの服装について本心とも取りにくいコメントをしたレオは俺に視線を向けて服装を眺めた。
「なんつーか、紅夜は良いとこのお坊ちゃまって感じだな」
「それは褒めてるのか?」
「褒めてるんじゃね?」
「疑問形かよ」
何とも微妙な気持ちになる言葉をいただいた。内容が案外的を射ている上に自分でも納得してしまう為に余計に返しにくい。
「別にヤクザには見えないけど、紅夜君も含めて羽織袴がそこまで様になる高校生は珍しい、ってことだけは確かだと思うわ」
「ヤクザ者というより、与力か同心のイメージだね」
「お坊ちゃまについて否定はなしですか。そうですか」
小野と先生に少し拗ねたように言うと二人は苦笑して言いにくそうに言葉を選ぶ。
「まあ、なんというか、達也くんは十手や刀が似合いそうだけど、紅夜くんは扇子が似合いそうね」
「確かに、扇子を持って上座にいそうだ」
「それってお坊ちゃまと大して変わらないじゃないですか」
俺がそう言うと、もはや否定する気もないのか、曖昧に笑って流された。
今回集まったメンバーは美月、ほのか、レオの三人。エリカと幹比古は家の手伝いで抜け出せず、雫はいよいよ留学が近いということもあり、父親の仕事関係で来れなかった。そんなわけで予定通り全員そろったので無駄話は歩きながらすることにして今回の目的地、日枝神社に向かうことにした。
特に寄り道をするようなこともなく、長い階段を上って神門をくぐり、拝殿前の中庭に入る。そこで不意に視線を感じた。ぶしつけにジロジロ見るのではなくチラチラと伺う視線。俺は不自然にならないように周囲を見渡した。
「紅夜くん、心当たりは?」
「さあ? 見惚れてくれているんでしたら、嬉しいんですけど」
「確かにあんな美人さんに見惚れられているなら羨ましいのだけど、どうやらそういった様子ではないみたいだねぇ」
中々上手いことさり気無さを装っているが、まだまだ俺の気配察知を抜くには足りない。というか、今のところ気配察知でも捉えられないのは、BS魔法を持っている小野と得体の知れない先生くらいのものだ。当然ながら、そんな二人が俺の気が付いたことに気が付くのは当たり前だろう。
先生の言う通り俺を伺い見ていた女性はとても容姿が整っていた。典型的な金髪碧眼でありながらも、何処か日本人の面影を感じさせる俺とそう年齢は変わらないであろう少女。深雪が夜空に浮かぶ静かな月だとしたら、彼女は煌々と輝く太陽だろう。その少女は毎日深雪を見慣れている俺でも振り返りそうになる程の美少女だった。そして俺はこの特徴が当てはまる少女を知っている。
アンジェリーナ・クドウ・シールズ。魔法部隊スターズの総長であり、アンジー・シリウスの名で俺と同じく戦略級魔法師である少女。
薄れかけた原作知識から、そういえばこんなこともあったと思い出す。しかし、原作で兄さんに向いていたはずの視線が俺に向いているのは、やはり戦略級魔法師の容疑者が俺に絞られているということなのか。
しかし何というか、随分と懐かしい服装をしている。今の流行からすると随分とちぐはぐな印象を受ける服装。まるで戦前のころ、俺の生前の時代のギャル系ファッションを混ぜ合わせたような恰好だった。何故態々あんな目立つような恰好をしているのか疑問を覚え、思い出す。
――ああ、そういえばリーナはポンコツだった。
思わず哀れみのような生暖かい視線を送ってしまった。それに気が付いたのかは定かではないが、リーナは何事もなかったような顔で俺たちの方向に向かってくる。そのまま何も言わずにすれ違い、長い階段へと歩み去った。すれ違いざまに意味ありげな視線を向けてきたのは、きっと隣にいた兄さんへのものだったのだろう。……階段の下へと消えていく金髪を見ながら、俺はそう思っておくことにした。
◆
短いながらも色々あった冬休みが終わり今日から三学期。ちなみに色々の中には空港へ雫の見送りに行って、思いがけない涙ながらの別れに悪ノリしたりといったこともあったりする。
その雫の代わりに、今日はAクラスに留学生が来る予定になっていた。登校した俺は目の前の空席に僅かな寂しさを覚えながら自分の席に着く。そしてチャイムが鳴るまでは、深雪とほのかの二人という、何時もより一人少ない人数で時間を潰す。
ついにチャイムが鳴りクラスの生徒全員が席に着いたところで先生が教室に入って来た。内容は雫の代わりに留学生が来たというもの。
教室にはそんな情報は皆知っているので、もったいぶらずに早く留学生を紹介しろという雰囲気が流れていた。それは険悪なものではなく、留学生が女子だという情報が出回っていることから、早く見たいという焦れたことによるものだった。
そんな空気を先生も感じ取ったのか、無駄話もそこそこに教室の外で待機しているであろう生徒を呼び込む。
微妙な緊張感で張り詰める空気の中、臆した様子もなくガラリとドアが開かれ、留学生が入って来る。同時に、教室にいる者の殆どが息を呑んだ。
しかし、そういった反応に慣れているのか戸惑うこともなく、愛想には見えない綺麗な笑顔を浮かべた女子生徒は堂々と教卓の前に立つ。同時に先生が教卓のコンソールを操作すると教室の前、前世で言う黒板の位置にあるディスプレイと各自の机のディスプレイに顔写真と名前が表示された。
「アンジェリーナ・クドウ・シールズです。三ヶ月という短い時間ですが、皆さんと親睦を深めて日本について色々と学べたらと思っています。どうぞ、よろしくお願いしますね?」
満面の笑みを浮かべたリーナは、最後だけ僅かに口調を崩し、コミカルにウィンクを決める。
一拍の間、そして教室が沸き上がった。
やはり騒いでいるのは男子。教室にいる殆どの男子が立ち上がらんばかりに騒いでいた。そして女子も半数以上が近くの友人とキャッキャと姦しく話していた。
残りの半数は男子を見て仕方がないとばかりの表情をしているが、チラチラとリーナを見ている辺り、大して他と変わりがないだろう。教室の中で冷静でいるのは、俺と深雪、そして残りの数名だけだ。
同性をも魅了するリーナの笑みで一気に騒がしくなった教室を先生が呆れたように鎮める。
しばしの時が経過して鎮まった教室で先生が説明したのは、リーナが学校に慣れるまで面倒を見てほしいというもの。そしてその役割につくのは普通、生徒会副会長だろう。しかし、ここで予想外の面倒ごとが発生した。それは、俺もリーナの面倒を見てくれというもの。別にそれは納得できる。一応生徒会に所属している身ではあるのだから。
予想外だったのは深雪ではなく、俺がメインでリーナにつくことだった。何故そうなったのか、それは少し考えれば分かることだ。俺の席は雫の席の後ろだ。しかし雫は留学してそこにはいない。代わりに入って来たリーナが座る席は必然的に雫がいた席、つまり俺の前の席。そうなってくると深雪よりも席がすぐ後ろの俺の方が面倒を見やすいということになったわけだ。
そこらへんの事情を先生が説明しすると僅かな嫉妬の視線が浴びせられる。その視線に気が付いているのかいないのか、リーナは俺の前まで来ると満面の笑みを浮かべて一言。
「これから色々とよろしくお願いします。仲良くしましょうね!」
「……ああ、よろしく」
その意味ありげな笑みは今度こそ間違えようもなく俺に向けられていて、今年は大変なことになりそうだと理解した俺は、期待半分、面倒半分で微妙な苦笑をリーナに返した。
書いてみると予想していたより、リーナが動かしやすくて驚きました。
今までの原作キャラの中で一番書きやすいかもしれない……!
それとどうでもいい話ですが、原作のオフシャルゲームに追加された魔法に「エイドスを視る」というものがあって笑いました。ご丁寧に「視ることの出来る範囲には制限がある」なんて説明まであって……(笑)
ただし、ネーミングセンスは私の方が上でしたね(断言)