ランスが征く   作:アランドロン

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物語の冒頭



第零話 JAPAN

      『JAPAN 八甲田山・山中』

 

「ふむ、少し寒いな。暖房用のアイテムは何処に仕舞ったかな…」

 

 テント内の気温計は8度を示している。

 先ほどまで研究に没頭していたので温度の事は気にしては居なかったが、冷静になると寒く感じ始めた。

 テントの中央で黒い服を着た大魔術師、『ミラクル・トー』は自分の右側に作った不気味な黒い渦に手を突っ込み探し物をする。

 いつもなら自宅にて魔術の研究をしているのだが、ヘルマンでの経験を経て外で研究するのも悪くないと思い、外出先で自作の魔法テントを張り、魔術の研究を続けていた。

 

「しかしJapanの式神は面白いな、調べれば調べるほど深みが増してくるとは」

 

 よっ、との掛け声と共に渦の中から赤く光る石を取り出し、自分の前に置かれた机の上に置くと呪文を唱える。

 すると赤い石は更に赤みを増し、テントの中に温かみを放出する。

 その机の上には北条家から友好的(・・・)に譲り受けた式神を呼び出す呪符だかが並べられている。

 

「私の魔術との相性が少し悪いが、なぁに、私に不可能はないのだ」

 

 呪符に簡単な呪文をかけ、反応を調べる行為を朝から延々と繰り返していた。

 

「……ん?」

 

 その机の、自分を挟んで反対側のテントの端で赤い光がクルクルと回り、テントの中を照らしだす。

 テントの外に仕掛けてある探知魔術に誰かが引っかかったようだ。

 

「…どれ、こんな山奥に誰が来たのやら」

 

 もう一度黒い渦に手を突っ込み手のひら大の水晶を取り出すと、短い呪文を唱えた。

 

「ふむ、見慣れない奴だな…」

 

 水晶に映し出された小柄な女性に見覚えはなく、女性はテントの入り口を見上げているようだった。

 水晶を一撫でし、外と通信をしてみる。

 

「何ようだ…?」

 

 小柄な女性は声にビクっと反応を示すと辺りをキョロキョロと見まわし、恐る恐る返事をした。

 

「あ…、あの。ここはミラクル・トー様のテントで間違えないでしょうか?」

 

 女性は何処に声をかけるか迷っているようで辺りをまだキョロキョロしている。

 

「うむ、如何にも私がこの世の王になるミラクルだ、その王に何の用だ」

「わ、私は山中小鹿(やまなかこじか)と申します、ミラクル様にお頼みがありましてやってまいりました」

 

 小鹿はその場でお辞儀をした、その姿は小動物を連想させる。

 

「ふむ…、すまないが私は今、少々忙しい、また後日に改めよ」

「ああああ!あの!すいません、急に来たのは謝ります、でも他にもう頼るところがありませんで!!」

 

 小鹿はズサという音を立て、その場に土下座をした。

 雪に埋もれるように体を小さくした小鹿は、小鹿と言うよりうさぎの類だろう。

 

「…、何やら訳ありの様じゃな、いいだろう少し話をしてやろうではないか、入りたまえ」

 

 ミラクルが手を水晶にかざすとテントの入り口がすっと開いた。

 

「ありがとうございます!!」

 

 小鹿は半泣きの顔で鼻水を垂らし、おでこの雪を落としながら立ち上がるとテントへ入っていった。

 

 

 

「して、用向きはなんだ?」

 

 ミラクルは地面から少し浮いた椅子に不遜な態度で座り、小鹿を見下ろしている。

 小鹿は向かいの椅子にちょこんと座りあたりをちらちら見ていた。

 周りは見渡すばかりの本棚や研究用の資材が立ち並んでいる。

 使用目的の分らない不気味な物も置いてあり小鹿はゴクリと生唾を飲む。

 

「えっと…、このような事を頼むのはお門違いかと思いましたが」

 

 小鹿は姿勢をただし、威圧感のある無表情のミラクルの顔を見る。

 肉食獣と草食動物の関係だろう。

 

「私はある男に散々な屈辱を味わされまして、その復讐に何か良い呪物はないかと思いまして…」

 

 小鹿が言い終わる前にミラクルは眉間に皺を寄せた。

 

「なんだ、ただの怨恨か、そのような小さき事で私を訪ねたと?」

 

 睨まれた小鹿は体を震わせた。

(こ、怖い!でも負けてられない!)

 震える体を意思の力で押さえつけ口を開く

 

「で、でもその男、異常に運が良くて。しかも私の名前も憶えて居ないみたいで…」

 

 小鹿の瞳から涙がこぼれ始める。

 小鹿はつらつらと今までされた侮辱の数々を吐露する。

(ふむ…、良くわからんが余程の事をされたようだな)

 ミラクルはため息をつき黒い渦に手を突っ込むと徐に刃渡り10センチほどの飾りのない短剣を取り出した。

 それを見た小鹿はひっっと声を上げる。

 

「安心しろ、これはただの短剣だ、今から呪いをかけて必ず心臓に当たるようにしてやる」

 と、にやりと笑った。

 

「い、いえ!殺したいほど憎いのは確かなんですが、殺してはお家再興が…」

「…、ふぅ、なんだ殺さないのか、何か事情が良くわからんがどのような物が欲しいのだ?」

 

 なんだかめんどくさくなってきたなと、ミラクルは肘掛けにひじをつき、ナイフを弄っている。

 

「そうですね…、何か更生させる方法はないでしょうか?」

「更生か…、あぁ、そういう趣の物は作れなくはないが…」

「本当ですか!!」

 

 小鹿はキラキラとした目でミラクルを見上げた。

 

「ふ、ただ少し材料が必要でな」

 

 ミラクルは尊敬のまなざしで見上げ作る小鹿に軽い高揚感を覚える。

 

「な、何でも取ってきます!何が必要でしょうか!」

 

 がばっと椅子を転がすような勢いで小鹿は立ち上がった。

 しかしミラクルは小鹿をじっと見つめるだけで何も発言しない。

 

「えっと、どうしたのでしょうか?」

 

 小鹿は鬼に見つめられた時のように何か嫌な気配を感じ次第に冷汗が垂れてくる。

 ミラクルは小鹿を見下ろし、口を歪め。

 

「…そうだな。まずはお前の体液を5リットルほど貰おうか」

 

 言葉を聞き終わる前に小鹿は出口に向かって駆け出した。

 しかし入ってきたはずの出入り口がなくなっている。

 すぐ後ろに気配を感じ、反射的に振り返るとそこには小鹿の『恐怖』が立っていた。

 

 




初めまして、

暇つぶしに始めたランスの話に付き合ってもらい恐縮です。

各個人の設定や口調など、うろ覚えの処もあるので余り突っ込んでいただけると幸いです

小鹿が不憫でなりません

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