それでは続きをどうぞ…
『ランスの寝室』
リック達が帰ってから二日たった日の朝。
目が覚めたランスは傍らに眠るシィルを起こさないよう静かにベットから抜け出すと、部屋の隅に置かれた姿見の前に立った。
「…」
無言のまま、櫛を手に取り寝癖のついた髪を自分で梳かす。
「…こんなもんか」
クローゼットを開け、お決まりの緑の服を着る。
「んぅ…ランス様?」
シィルは寝ぼけ眼で上半身を起こすと裸を隠すようにシーツを抱えた。
「お、起こしてしまったのか、済まないな、おはようシィル」
とランスは言いつつ、キラキラと擬音が出るほどの優しい笑顔をシィルに向けた。
「は…、はい!おはよう、ございますぅ…」
今まで向けられた事のなど無い、未知の優しい笑顔にシィルは顔を真っ赤にしシーツに顔をうずめる。
それを見つつ、ランスは自分の服を着込む。クローゼットからシィルの服を取り出しベットの側に立ち、
「ほれ、服だ」
と、ランスがシィルに手渡したのは今まで着せて貰った事などない、シルク素材の滑らかで奇麗なドレスだった。
「あ…、あのぉ、これは…?」
シィルはドレスを受け取るとまじまじとドレスを見る。
「あー、なんだ。昨日ビスケッタさんに頼んで買ってきて貰ったんだ。シィルにはその、…白のドレスが似合うと思って、な」
今度は多分に照れの含まれた優しい笑顔をシィルに向けた。
「……嬉しい」
寝起き、いきなりの出来事でシィルは涙目になるとドレスをギュッと抱きしめる。
それを見てランスは「ははは」と軽く笑った。
「喜んでくれたか?」
「…はい、宝物にします!」
「大袈裟だな、服ならまた買ってやる。そうだ、次の休みに一緒に買い物に行こう」
「買い物…。ですか?」
シィルは目尻の涙を拭いつつ、ランスを見上げる。
「そうだ、まぁ、でぇとって奴だな」
と、ランスは照れながらそっぽを向き頬をかく。
「!!!!!」
シィルは突然訪れた自分の胸の、はち切れんばかりの鼓動に言葉を失い、口をパクパクさせた。
「ははは、まぁ、楽しみにしてろよ」
とランスはシィルの頭を一撫ですると、ベッドを離れドアに向かう。
「ら、、、、ランス様、どこへ?」
シィルは胸を抑え、顔を真っ赤にさせながら質問をした。それにランスは振り返り、
「ん?ギルドへ行って仕事を貰ってくる。自分の愛している女性くらい、自分で養うのは当然だろう」
と、片手を上げ、部屋から出て行った。
「愛してるって………はぅ」
余りの衝撃にシィルの鼓動は限界を超え、頭から湯気を上げながらベットに倒れ気絶した。その顔は幸せそうを通り越し、ニタニタと気持ちの悪い程の緩んだ顔だった。
『ランス城 玄関ホール』
「ん…?」
気絶しているシィルの事なぞ全く知らないランスはギルドに向かうためにランス城内を歩いていた。
広いランス城ホールで、朝早くからピグとナギがキャッキャと元気に遊んでいた。
「おう、おはよう」
二人を視界に納めたランスは、挨拶に手を挙げると、
「おはよーう」
「はよーっす」
「…おはよう」
と、ナギとピグに続いて柱の陰から志津香がちらりと顔を出した。
「なんだ、志津香もいたのか」
「なによ、いちゃ悪い?」
「いや、そんなことはない、あ、そうだ、それがいいかもな」
「な、なに?」
志津香をじっと見ていたランスが急に閃いたといわんばかりにポンと手を叩く。
「いや。志津香とナギを元に戻す手がかり、ギルドで聞いてくるよ、」
「…忘れてなかったのね。別にいいわよ、特に困ってもないし」
「そうか?まぁとりあえずギルドには行くんだし聞いてくるよ」
「そう…、好きにしたら?」
志津香がふんっと毒づきながらランスを見ると、
「おう、まぁ俺の好きにさせてもらうさ」
と、シィルにも見せたキラキラつきの優しい笑顔を向けた。
「……(ちょ、なに?これも呪い?やば)」
と、不覚にも顔を真っ赤にさせた志津香は、ランスの視線から逃れるように急いで柱の陰に戻った。
「らーーんす!」
「とーちゃん!」
隙をみてナギとピグがランスに飛びついてくる。
「ははは、こらこら、危ないではないか」
と笑顔で二人を肩に抱えあげると、くるくると勢いをつけて回り始めた。
「キャー!」
「御無体なー」
二人はランスの髪や頭を掴みながら、キャッキャと楽しそうに笑う。
ランスは一通り振り回して遊ぶと二人を優しく下ろし、二人の頭に手を置いた。
「さて、俺はこれから仕事に行くから二人は留守番、よろしくな」
「…仕事?」
自身の感情を何とか押さえ込んだ志津香は、怪訝な顔をランスに向けた。
「ランス何すんのー?」
「ん?それをこれからギルドへ行って探すんだよ」
(……呪い、おそるべしね)
「んー?ランスもっと遊ぼー」
と、構って欲しいピグはランスに飛びつくが、ランスはピグをゆっくりとはがしながら、
「はは、帰ったらな」
「私の事愛してないのー?」
ピグが再び抱き継ぐがそれをランスは止め、ピグの肩に手を置いた。
「ピグの事は好きだ、でもな愛ってのは大事な時に、大事な人に使う言葉だ、そんな軽々しく使ってはいかんぞ?」
(だ…、誰よこれ?)
志津香はとうとう、開いた口が塞がらなくなった。
「それにな…、俺はもうシィルを愛しているんだ」
「……え?」
ランスは少し照れながら、ピグの頭を優しく撫でると出て行った。
「やっぱりシィルちゃんかー」
「まー、仕方ないよねー」
「……」
ナギが振り向くと、其所には目を閉じ、唇を少し噛み締める志津香の姿があった。
「ねえさま…」
ナギは俯いたまま動かない志津香をそっと抱き締めた。
『キースギルド』
「さてと、とりあえず今の俺にあった仕事はないかな」
ギルドの扉を開く。相変わらず人気の無いギルド内部にランスはずかずかと足を踏み入れた。
「おぃーっす」
ランスが中に入っていくと、奥のカウンターではげ頭が光った。
「おぅランス、シィルちゃんのパーティー以来だな」
とキースは悪党丸出しの笑みを浮かべ、片手を挙げた。
「おうキース、楽しめたか?」
「まぁな、途中外で花火が上がった時は命も覚悟したがそれなりに楽しめたぜ」
「それはよかった」
と、ランスは笑顔を浮かべる。
「あぁん?…どうしたよお前、何か悪いもんでも食ったのか」
「いや?いたって健康だが」
ハテナ顔のランスをキースは訝しがるが、取り敢えず無視することにした。
「まぁいいか、それで?今日は何のようだ?」
「仕事を探しに来た」
「そりゃまたどうした?お金ならリーザスの嬢ちゃん来てから困ってなかったんじゃなかったか?」
「そうだな、でもある程度安定した収入が欲しいんだ、俺向きの」
ランスはカウンター横の掲示板に張ってあるクエストをキョロキョロと見ていた。
「ふーん…。どういう風の吹きまわしか知らねえがお前向きで安定収入ってのは難しいな、今は女がらみの仕事はうちには無いな」
と、キースは自分の頭をなでる。
「いや、女絡みとかは良いから何かないか?」
キースは眉間にしわを寄せる。
「マジでどぉしたんだよ…。んー、それならこれなんかどうだ?自由都市とリーザスの国境付近に出る盗賊狩り、最近ヘルマンからのならず者がここいらに集まって悪さしてるんだが、そこそこ良い金になるし、場所も近いぞ」
キースは一枚の資料を渡す。
「んー。ま、これでいいか。わかった、受けるよ」
「…お前が一つ返事で受けるとわたまげたぜ。よし、気が変わらないうちにクエスト成立だ。頼んだぜ」
と、キースは討伐に必要な書類をランスに渡す。クエストの選び方にこそ問題は有るが、達成率の極めて優秀なランスにキースは面倒な仕事を押し付けられたとホッとした。
「はいよ、まかせときな」
「…ランスやっぱり一つ聞かせてくれ、どうして仕事が必要なんだ?」
ランスの態度を不審に思い、キースは質問する。ランス城の維持費が各国の費用から出ているのを知っているキースは怪訝な目でランスを見る。
「ん?まぁ、体がなまらないようにな、それにシィルのために金を稼がないとな」
「シィルちゃんの為?…お、おお!もしかしてとうとう身を固める決心でもしたのか!?」
キースはカウンターから乗り出し気味にランスに詰め寄る。
「ちょっと!近いぞハゲ、、、まぁシィルさえよければその気もあるが。何にせよまずは金だ」
「そ、そーかそーか!いや、こんな日が来るとな!シィルちゃんの粘り勝ちか!いや、めでてえ!」
キースは大口をあけ、自分の頭をぺシぺシと叩きながら満面の笑顔で笑った。
「あまり公言するなよ?まだ何も決まってはいないのだからな」
と照れ臭くなったランスは片手をあげると、逃げるようにギルドを出て行く。
「いやぁ、アイスの村から気にはかけてたが、俺の心配が一つ消えたな!マジでめでてぇ!おぅい、ハイニ!店閉めて今日は祝い酒だ!」
キースは大笑いしながらカウンターの奥にひっこんだ。
『自由都市最北、リーザス国境手前の森の中』
「んー、このあたりだよな、」
ガサガサと歩きにくいけもの道を進む。
「しかし、盗賊団のアジトならそれなりに道もあると思っていたんだがなぁ」
ランスは草むらの中で足を止め、周囲を見渡してみる。
「お、あれかな?」
ランスは再び草の根をかき分け進んで行くと正面の、少し森の開けた場所に二階建ての丸太で組まれたロッジ風の建物が見えた。
近くの木に忍び、周囲の様子をうかがう。
「人数は…。多いな」
ロッジの窓から人影が見える。中では盗賊風の男たちがちらちらと動いているのが見えた。
(よし、周囲には居ないな。近づくか…)
ランスは森を通り裏口のドアに回り込む。
小屋の中から厳つい男達の声が漏れてくる。
「平和になりましたよねー」
「そうだなぁ、もう傭兵とかやってらんねーよなー」
「俺達、戦う以外に特技、ないしな」
「あ、俺、一応菓子作りレベル1だぞ?」
「なんだ?店でもだすか?お前の顔じゃ誰もかわねーよ」
盗賊たちの雑談と笑い話が聞こえる。
(突入するか…?)
ランスが突入するタイミングを計っていると、中から女性の声が聞こえた。
「でも…、盗賊なんてやっぱダメですよ」
「あ、ボス、お疲れ様です」
「でも、この人数、皆で食ってくにはこれしかないっすよ?」
(頭領は女か…?交戦的には感じないが相手は盗賊だ、気を引き締めないと…)
ランスがゆっくりと裏口のドアに手をかけた時、
「侵入者だーーーー!!!!」
突然の大声にランスが振り向くと森の方から5人ほど武器を抜き、こちらに向かって駆けてくる盗賊達が見えた。
「ちっ!」
裏口から飛び退くように離れ、裏口から出てきた盗賊、森からくる盗賊両方から離れる様に走った。
「あ!お前は!!」
裏口から出てきた盗賊の一人がランスを指差す。
ランスは振り返り、カオスをビシッと構える。
「え?…ああーっ!」
更に裏口から続いて出てきた女頭領もランスを指差し、驚愕の表情を浮かべた。
「ん?お前は…、何か見たことあるような…」
「おまっ!ボスにあれだけの事をしといて忘れたのか!?」
「エレナ様!どうしますか!?」
厳つい髭男は女頭領のエレナに指示を求めるが、当のエレナはアタアタとするばかりだ。
「…あー、思いだした、確か血吸いのエレナか」
ランスはエレナをジロリと睨むように見る。
「ん……」
ランスと視線の合ったエレナは、顔を赤くするとロッジの中にそそくさと走って逃げた。
「きーさーまー!!」
森からかけてきた盗賊は走る力をそのままにランスに切りつけてきた。
「おっと!まぁいい、盗賊共覚悟しろ!」
ランスは盗賊の攻撃をかわすと一歩下がり、カオスを掲げ気合いを籠める。
「気をつけろ!こいつ、むちゃくちゃ強いからな!!」
盗賊たちは剣を構え直し、陣形を組んだ。
「行く……ぞ?」
ランスが気合いと共に盗賊の群れに突っ込もうとすると、森の方から何かが盗賊たちに飛んできて、
ドーンと大爆発した。
「えええええええええええええええ!!!!!」
まるでボーリングでストライクを取ったかのように、盗賊たちはちりじりに吹き飛ぶ。
「うお!!」
ランスは爆風から顔をカオスで守った。
そこにいた盗賊たちはぴくぴくと痙攣し、死屍累々と倒れている。
「む…むごい」
ランスが顔を青ざめさせていると森の方からガサガサと草の根を掻き分ける音が聞こえた。そちらを確認すると人影が森から出て来て、此方に近づいて来た。
「やっほ、ランス。チューリップ改良したんだけどなかなかの威力でしょ」
と、マリアが笑顔で何事も無かったかのようにランスに片手を上げながら挨拶してきた。
「あー、久しぶりだな。っつーかあぶねーだろが」
あはは、と笑うマリアを見てランスはため息を吐いた。
「久しぶり、元気だった?」
「まぁ、それなりにな。それより…」
ロッジの中から元気の良い、大量の足音が聞こえてきた。
「今のは音は何だ!!」
わらわらと盗賊が裏口から出てくる。寝ていた奴等でも起きてきたのだろうか、先程よりも数が多いようだった。
「まずはこいつらだ。マリア、手伝ってくれるか?」
ランスはきりっと顔を締め、盗賊達を睨み付ける。マリアはランスの顔をちらりと見ると、
「……おっけー、」
(なんかランス、かっこいい……?)
マリアはずり落ちたチューリップを構え直した。
「うりゃーー!!」
「ぎゃー!」
「どりゃー!!」
「ぎゃー!」
5分後、ランスは盗賊をカオスで一撃に伸した。
「そいつで最後ね」
「はぁはぁ…、そっか」
ランスが周りを見渡すと地面には多数のクレーターと盗賊達が積み重なるように倒れていた。
「…威力、あがってるな」
マリアが肩に担ぐチューリップを見て素直に感心した。
「凄いでしょ?はい、これ」
マリアは笑顔でランスにタオルを渡す。
「ああ、済まない」
タオルを受け取ると額と首の汗をぬぐう。
「あ、あのー…」
ランスとマリアが声に反応し裏口の方を見ると、ドアの陰からエレナが顔だけを出していた。
「おー、エレナ」
ランスが手まねきをするとエレナは青ざめた顔で、小刻みに震えながら出てきた。
「ご、ごめんなさい!これ以上皆にひどい事しないでください!」
エレナはしゃがみこむと近くに倒れていた盗賊に手をあてた。
「ううー、頭領…逃げてつかぁーさい…」
ランスはエレナを見つめ、づかづかと近づく。
「エレナ」
「は、はい…」
エレナはしゃがみこんだままランスを涙目でおずおずと見上げる。
「もう盗賊なんてやめるんだ、」
ランスはエレナに手を差し出す。
「…でも、この人たちのご飯とか用意しないと…」
エレナはランスから視線を反らし、倒れている盗賊の頭をなでる。
「頭領…」
盗賊はすすり泣き、エレナはよしよしっと頭を撫で続ける。
「そうか。要は仕事さえあれば盗賊なんてやめるんだな?」
「え、あ、ハイ、それは、そうですけど…」
ランスはあごに手を当てる。
「んー、わかった、俺がどうにかしよう」
ランスはおもむろに懐から財布を取り出した。
そこから大量のゴールドを取り出すと、
「とりあえずこれを受け取れ」
とエレナに無造作に投げ渡す。
「え…?」
エレナはいきなり渡された大金を訳もわからず見つめた。
「それでみんなの傷を治したらCITYにある俺の家に来い。それまでに仕事を探しといてやるから」
エレナはポケーっとランスを見上げる。
「わかったな」
ランスはきらきらと優しい笑顔をエレナに向ける。
「は…はい!!」
頬を少し染めたエレナの良い返事を聞き、ランスは良しと頷く。
「マリア帰るぞ、依頼完了だ」
と、マリアの肩をポンっと叩き表玄関の先に見えるケモノ道に歩き出した。
マリアは口を開けポカーんとランスを見ていた。
「ありがとうございます!!」
エレナの声にマリアが我に返る、エレナはその場で土下座をしていた。
「はははー」
ランスの笑い声が木霊し、マリアはランスに駆け寄り隣に並んで歩く。
「…ラ、ランス?」
「なんだ?」
「いいの?」
マリアはちらりと後方で土下座をしているエレナを見る。
「いいのだ。仕事ぐらいどうにかしてやる。まずはコパンドンに連絡してみるか」
「そうじゃなくてさ…」
「ん?どうしたのだ?」
「あの子に…エッチなことしないの?」
マリアはもう一度ちらりとエレナを見る。倒れた盗賊達を引きずって小屋に入れ始めていた。
「あー、そうだったなぁ。いや、そんな酷い事はもうしないと誓ったのだ」
「……ええ!ちょ、どうしたの!?」
マリアは驚愕し、ランスの顔を両手でつかむ。
「ちょ、マリア」
「ランスがエッチな事しないなんて、、、なに?これ本物?」
マリアは怪訝な顔でランスの顔をまじまじと見る。ついでに顔を摘まむ。
「そうだな、どこから説明するか…、まぁ簡単に言うと呪いらしいのだが」
「呪い…、モルルン?」
マリアは手を離し、首を傾げた。
「いや、それが俺にも良く解らんのだが。性格が変わる呪いらしいのだ」
「……それで?」
「んー。それで今までしてきたことが間違いに思えてきてな、これからは自分を改めることにしたのだ」
「…ランスはきつくないの?」
「いや、寧ろ今は良い事をして気分がいいな。こんな俺は嫌か?」
ランスはマリアに少し困った良い笑顔を見せる。
(…やだ、なに?この素敵人物…)
マリアは顔を赤らめ、視線を外すように俯いた。
「どうした?」
「ん、な、なんでもないよ。」
「そうか。さて、俺は帰るがマリアはどうするんだ?」
「んー。志津香に頼まれてた本を届けたいから私も行くわ」
「わかった、」
時々じろじろ見てくるマリアを無視しながらランスは帰路についた。
『ランス城』
ランスは自宅の大きな扉を開く。大きな扉のわりに軽い力で開くのは、建築に駆けた金額が違うからだろうか。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ」
玄関ホールにはビスケッタが待っていた。
「おう、ビスケッタさんも出迎えありがとう」
「いえ。ランス様、お荷物をお預かりいたします」
「そうか。ではこれを金庫に仕舞ってくれ」
と、ランスは帰り道にギルドで受け取った報奨金を渡した。
「承りました。夕食のご準備ができておりますが、いかがいたしますか?」
「あー、もうひとり分増やせるか?」
ランスは後ろを振り返り、ドアの陰にいたマリアを中に入れた。
「ビスケッタさん、こんばんは」
「畏まりました、すぐに準備をいたします。準備ができしだい声をおかけいたします」
マリアは手のひらをヒラヒラとさせ、ビスケッタに挨拶をした。ランスはよろしくと頷くとビスケッタは恭しく頭を下げ、奥の扉へから厨房へ向かった。
「…相変わらず、ランスにはもったいないメイドさんだよね」
「そうだな、いつも助かってるよ」
マリアが頬笑みかけたのでランスも軽く笑い返す。そんな仕草一つ取ってもマリアには新鮮でどう返事を返すかマリアは悩んだ。
「まぁ、ここで立ち話もなんだ、志津香のところへ…」
ランスが少し困った顔をしているマリアを促し、足を踏み出そうとした時、
「あ、ランス様、おかえりなさいです。マリアさんもいらっしゃいです」
と、ランスとマリアの後ろ、玄関扉から笑顔でシィルが入ってくる。
「おぉ、シィルも外にいたのか、お帰り」
「こんばんわシィルさん、パーティー以来だね」
シィルは笑顔で「ハイ」と頷く。
「それにしても…、シィルちゃんの服、何か新鮮だなぁ」
マリアはシィルが来ているシルクの白いのワンピースを見て微笑む。
「ハイ、ランス様がプレゼントしてくれて。嬉しくて今日一日来てました」
頬を緩ませ、シィルはその場でクルリと回った。
「ふーん、へー、ランスもいい所あるじゃない」
マリアはニヤニヤと表情を変え、ランスを肘でつつく。
「ああ、まぁな。いつもの一張羅じゃさみしいと思ってな」
ランスは少し照れつつマリアに背を向けた。
「ほら、志津香のところに行くんだろう?」
ランスは頭を掻きつつ、城の奥へと先に歩きだした。
「志津香さんに用ですか?」
「うん、頼まれてた本を届けにね。あ、ちょっと待ってよランス!」
先に言ったランスをマリアは小走りに追いかけていく。
「あれ?すれ違ったのかなぁ…」
シィルは首を傾げたが取り敢えず二人の後ろを小走りで追いかけた。
『ランス城 志津香、ナギの部屋』
ランスが軽いノックをする。
「志津香、いるか?」
返事がない、ランスはもう一度ノックする。
「志津香?マリアが来ているぞ?」
返事がない、ランスは横に立つマリアの顔を見る。
「しづかー?あけるよー?」
と、勝手知ったる親友のマリアはドアノブに手をかけ、扉を開いた。
マリアを先頭に中に入ると、
「?なんだ?」
「なんで…?」
部屋の中は空っぽだった。
ベットやタンスなどの家具は残っているが、その他の生活を感じさせる志津香の私物が何もなかった。
「やっぱり…」
ランスがシィルの顔を見ると、シィルは困った表情を浮かべていた。
「やっぱりって、何かあったのか?」
マリアもシィルを見つめる。
「いえ、お昼過ぎに街で志津香さんとナギさんと会いまして。結構な荷物を持ってたんで何処に行くのか尋ねたら「カスタムへ帰る」って言ってまして…」
「それで?」
「いつ帰ってくるのか尋ねたら、暫くは戻れないって…」
「何か理由を聞いたのか?」
「いえ、それが話してくれなくて、ナギちゃんもだんまりでしたので…」
「むぅ、」
どうしたんだろうかと悩むランスにマリアが声をかけた。
「大丈夫よ、カスタムに帰ったのならすぐにでも会えるわよ」
「…そうだな。道中少し心配だが、まぁ志津香の事だ。同行させてくれないだろうしな」
と、ランスは少し笑い、マリアもそれに同意した。
「でしょうね、ふふ、『ついてこないで!』ってね」
「それでどうする?今すぐ帰るならカスタムまで送るが…」
「え?あぁ、いいわよ、今日はもう泊まってくから」
「そうか、まぁ今日は手伝って貰ったし、歓迎するぞ」
ランスはキラリと歯を光らせながら笑顔を向けた。
「そ、それに、久々にシィルちゃんとも長話したいしね」
と、マリアはランスの笑顔から顔を背け、シィルに少し緊張を含めた笑みを向けた。
「はい!私もお話したいこといっぱいあります!」
「おう、そうと決まればまずは飯だな、シィル、すまないがマリアを前の部屋に案内してやってくれ、それから飯にしよう」
「はい、わかりました、さぁマリアさん、こっちです」
シィルはマリアの手を引くと、マリアが前から使っていた部屋に向かって歩き出した。
「仲が良いのは良いことだな。…それにしても志津香、一言くらい声掛けてくれてもいいのになぁ」
頭を掻きながらランスは部屋に戻っていった。
『ランス城 マリアの部屋』
「ふぅ…、」
夕食を皆で談笑しつつ食べ、お風呂に入ったマリアはランス城の中にある自室に帰り、ベットに腰かけた。
今日は何だか変な一日だったなぁと、思い返していると部屋の扉がノックされた。
「はい、空いてますよ」
ノックの後、扉が開くとかなみがニコリと笑顔で入ってきた。
「こんばんはマリアさん、今大丈夫?」
「大丈夫だよ、かなみさんもお風呂上がり?」
「ええ」
笑顔でかなみを部屋に入れると自分のとなり、ベットに座るよう促した。二人は石鹸の香りを漂わせている。
「そういえばかなみさん、最近はどう?」
食事の席では結構な馬鹿話に花が咲いた為、お互いの近況はまだ聞けずにいた。
「んー。私自身は健康で何の問題も無いんだけどさ」
「ん?何かあるの?」
かなみの少し困ったような表情に、何か聞いて欲しい事でも有るのかなと思ったマリアは素直に質問した。
「うん、それをマリアさんにも知っておいて欲しくて…さ」
心なしか表情の暗くなったかなみに、マリアは首を傾げた。
「それって私に関係あること?」
「多分……。えっと、マリアさんってさ、」
「うん?」
かなみは顔を上げ、真剣な眼差しでマリアを見る。マリアは少し頭を引いた。
「マリアさんってランスの事、好き、なんだよ、ね?」
「……ええぇ!な、なんで知ってるの!?」
マリアは志津香位にしかハキッリと問われたことの無い自身の恋心を突然突かれ、驚きで思わずのけ反った。
「ま、まぁ?なんとなく、なんだけどね」
「そ、そうなんだ。…いろんな人にばれてるとは思ってたけど…、直球で言われるとなんか困っちゃうね」
友達の恋話なのに顔を真っ赤に染めるかなみにマリアは苦笑すると、力を抜きベットに体を倒した。
「…それで?」
続きを促すマリアに、かなみはマリアの方をちらりと見ると話を続けた。
「マリアさん。今日、ランスがおかしいことに気が付いた?」
「えっと、なんか真人間になってること?」
「うん」
「それならランスに聞いたけど、なんか変な呪いにかかってるって…」
マリアはかなみを見たが、背中越しで表情は伺えなかった。
「うん、そ、それで何だけどさ…」
かなみが何か言いにくそうにしているのをマリアは感じた。
「ランスに何にかあるの?」
「ある、というか…。多分、志津香さんもそれで出ていったんだろうけどさ、」
マリアは体を起こし、かなみの顔を伺う。
よく見る困った表情とは違う、少し悲しげな顔をしていた、
「ランスの奴さ、…昨日からシィルさんを特別扱いしてるの、」
「ん?いつもしてるでしょう?」
いい加減腐れ縁のマリアも、ランスとシィルの間に自分達では入れない仲が有るのをマリアは感じていた。だからマリアもランスを諦めようと努力はしているわけなのだが。
「いや、あのね、そうじゃなくってさ。ランスがシィルさんを…、恋人扱いしてるの」
「……へ?」
一瞬、理解に苦しむが、何となくかなみが困る理由と志津香の行動が解ってきた気がした。
「多分、真面目になった影響なんだろうけど、シィルさんの事を急に俺の恋人だ宣言してさ。多分それを聞いて志津香さん、出ていったんだと思うんだ…」
「ま、まぁ志津香も憎いだけじゃ無かっただろうけど…。はぁ、やっぱりランスの中ではシィルさんで決まってたんだね、」
志津香の親友であるマリアは志津香の行動が何と無くだが理解できた。自分が同じ時、同じ場所に居たら間違いなく同じ行動をしていただろう。そんな親友との共通点を見いだし、マリアは少し笑ってしまったが、どちらかというと共感している切なさに、直ぐに「はぁ、」とため息を吐いた。
「なんとなくわかっていたけど少し悲しい、よね」
かなみが少し涙目になりながらマリアに同意を求める。この子も自分達と同じ気持ちのなのだろう。いや、既に諦めようとしていた自分よりも、かなみの方が辛いのだとマリアは気付いた。
「そうね、ヘルマンに向かう前のランスを知ってる人なら、ああ、やっぱりって感じではあるけれども…、お互い、変な人を好きになっちゃったね」
マリアはにかなみを抱き締めた。それは自分を抱き締めるようにそっと。
「あれだけいろんな酷い事して、子供まで出来たのに最悪な奴だよね……」
かなみはマリアの肩越しに泣き始め、マリアは痛みを分け合うように静かに涙をこぼした。
しばらくしてかなみが泣き止むと、マリアは自分の髪を拭こうと持っていたタオルでかなみの涙を吹いてやった。
「ぐず、ごめん…、ありがとう」
マリアから離れるとかなみは残った涙を袖で拭う。
「ううん、私もなんかすっきりしたわ、」
マリアも笑顔で目尻の涙を拭った。そして呼吸を整え、かなみは本題を切り出した。
「…それでね、マリアさんにお願いがあってここに来たんだけど、」
「…お願い?」
「うん、ランスの呪いが治ったら前みたいに元に戻れると思うんだけど…」
「う、うん…、」
今さら何をどう戻すのかマリアは不思議に思ったが、現状を良しとして無いだろうかなみに取っては前の関係の方が多少でもましなのだろうと解釈した。
「元に戻るまでさ、ランスを私たち以外に合わせないようにしなくちゃいけないの」
「え?どうして?」
良く解らない提案にマリアは目が軽く充血したかなみと視線を合わせた。
「今日の朝、ビスケッタさんと話してて気が付いたんだけどこの状況って結構まずいと思うの」
「状況…、あぁ。なんとなく言いたい事がわかってきたよ」
かなみはコクリと頷く。
「そう、ランスに好意を寄せてる人って何気に結構いるでしょ?特にさ…」
「そうね。うん。リア王女、か」
「うん、リア様にシィルさん恋人宣言が聞かれたら多分、大変なことになると思うんだ」
「想像したくはないけど…。下手に話が拗れたら戦争にでもなりかねないわね」
マリアはリーザスの兵の強さを身をもって体験している。それを思いだし、二度と御免だと眉を寄せる。
「でしょ?だからしばらくはランスを外に出さないようにしなくちゃならないの」
「そうね…。はぁ、真面目になっても面倒な男だよね」
マリアは今日の素敵笑顔ランスを想像していた。
「本当、どうしようもない奴よ。惚れた方が負けだとは言うけどさ、」
「ふふ、私たちもどうしようもない馬鹿だよね」
「そう、よね…」
二人は顔を合わせると、どちらともなく静かに笑い出した。
一話に時間がかかりすぎです(笑)
全体的には短い話になるとは思うので、気長に見てやってください。
一応結末は考えていますがいつになるやら…