――第23管理世界、ルヴェラ文化保護区。
人と自然が共存する古き良き暮らしを愛する者たちが暮らす辺境世界、その地区。
ここが今回の、フッケバイン一味として活動を始めたスコールにとっての初任務の現場だ。
現在地は、人々が住む街からは遠い崖の上にいる。飛空艇乗降に必要な広さのある合流地点付近から少し離れた場所だ。そこに二人が乗ってきていたバイクを停めている。
「じゃあ、ここからは二手に分かれて捜索するぞ」
「いいのか?」
スコールはヴェイをはじめとしたECドライバーに関しての知識では、フッケバインメンバーに劣る。そんな人間が対象を上手く発見できうるのか。そこが疑問に思えたのだ。
対しヴェイは、当然と言うように頷いた。彼はおもむろにディバイダーをスコールに見せるように目の前で掲げる。
「一番の目印は体に浮かぶ妙なアザみてぇなもの。まあ、コイツと似たようなモノを持った奴に当たりゃあいい。リアクターは、本かサイファーが持っていたナイフみてぇなもんを基準に。で、発見次第連絡だ」
「わかった。じゃあ、俺は手はず通りに教会の方へ行ってみる」
「できる限りいらねぇ殺しはしたくねえ。そっちの方は任せる。まあ、どうしても要るときは仕方がねぇがな」
「・・・・そうならない様に、速く見つけてくるさ」
スコールの返事に対し、ヴェイは「期待してるぜ」と言うと、背を向けてさっさとバイクを飛ばして行ってしまった。
スコールとは違い、危険が見込まれる事故現場に行くと言っていたヴェイだが、恐らくそこには警察組織――時空管理局もいずれ到着してしまうだろう。捜索は困難を極めるはずだ。
幾度と敵地という敵地に潜入、ないし囚われた際に培った経験を持つスコールは、ことその類の任務に関してはヴェイよりも上手であると思っていた。それ故に自分が、と提案しようとしていたのだが、捜索地点の場所二つのうちひとつが教会と、一般人が多く居る場所であるという事実から、どうしても実行に移せずにいた。だから街側を担当することを受け入れたのだ。
(あいつが動かざるを得なくなる前に、俺が)
そう思い、スコールは思考を切り替え、自身も街に繰り出していった。
◆
◆
街に到着してからというもの、スコールは早速ECドライバーを探して特徴などの聞き込みなどを行いながら街中を闊歩していた。
(とは言ったものの、さすがにこの広さじゃあな)
自然に囲まれているとは言っても、立ち並ぶ建物の数はそれなりに多い。正直、スコールにとっての街の感覚とほぼ同一であったため、都会なる風景をカレンから見せられた時などは驚愕したものだ。
ラグナと出会ったあの街と同格なんて、そうそう見たことがあるわけがないのだ。
(もし、逃走を図るなら港だと踏んでやって来たが)
ルヴェラ北部にあるその場所も例に漏れず、なにやら屋台で賑わっており、とても人一人を探せられる気分にはならなかった。
もういっそ開き直って、支給された金を消費して何か食べ物でも買って休憩でもしようかと考えてしまう。
こういう時は、得てして探そうと躍起になればなるほど見つからないものだ。とか、らしくもない屁理屈を。
「すまない。その貝串焼きをひとつ」
「はいな」
「すみません、同じものを二つください!」
(ん? なんだ)
不意にとなりから声が上がったが、なんのことはない。ただ、偶然おなじものが買いたかっただけの少年だった。
少年は肩にかけるタイプのカバンを背負っており、一見、旅行者の風貌だ。まだ幼さが残る顔立ちをしているが、顔つきはしっかりとしている。
「あの、ここら辺で次元通信ができるところってありますか?」
「次元通信? そんなハイカラなものはここら辺にはないねえ。――はい。おまたせ、お兄さん」
「ありがとう、おばさん」
出来上がった貝串焼きが入った紙袋をおばさんから受け取る。
少年はおばさんから次元越えの郵便や電報を出す為には山の向こうの教会で、という説明を聞き、すこし困った様子を見せていた。その後、カレンたちから聞いたデバイスらしき首飾りから発する声と会話していた。
曰く異次元から飛ばされてきたスコールにとって、違うと言われてもディバイダーと同様に珍しいものであることに変わりはなく、思わず少年の方を視線だけで覗き見ていた。
(む? ――あの腕輪は)
「それは――」
「え?」
思わず声をかけてしまったスコールに若干の驚きを見せる少年。
「ああ、すまない。教会へ行くと聞こえたが、もし場所を知っているのなら案内を頼めないだろうか?」
取り繕いながら、なんとか自然に言葉を出せたと思う。此方も旅行者と言えば似たようなものだし。
重要なのは、少年が腕にはめている輪。そしてそこにうっすらと見える――
(――痣。フッケバインの皆に浮かんでいた模様に似ている。可能性がないとは言い切れないな。少し様子を見てみよう)
このまま帰して、もし当たりで後に発症でもしたら気分が悪い。子供だから余計に酷だ、とスコールは決断した。
「旅行者の方ですか? それなら構いませんよ! でも、一緒に来ている子が居るので、そこまで付いてきてもらってもいいですか?」
「ああ。こちらもそこまで急ぎの用じゃない。よろしく頼む。俺はス――レオンという」
「こちらこそ、レオンさん。僕はトーマっていいます――で、こいつは俺のデバイスのスティード」
『お見知りおきを』
思わず自然に自分の名を名乗ろうとしたが、咄嗟に変えた。
フォルティスから口を酸っぱくして言われた事柄があり、それが「無闇に名前を伝えるな」ということだった。それにはスコールも同感だった。
本来ならばファミリーネームを伏せる事が先だろうが、スコールの場合は立場的にそもそもそんなことで本人の特定などされない。ならば普段使うスコールという名の方が秘匿すべきであると考えたのだ。
スコールはその後、トーマの案内で噴水の縁に腰掛けて待つ少女の下へと案内された。互いに自己紹介を済ませ、三人と一機は次に少女――リリィの衣類などを購入すべく街を散策していた。
「・・・・・・・・~い。素敵な衣装にアクセサリ~♪」
(――なに?)
「トーマ。あそこのフリーマーケットで衣類が置いてあるそうだ」
「ええ!? かなり距離あるけど、よく聞こえましたね・・・・」
同じく驚きを表情に浮かべる少女がトーマに肯定するようにうんうんと頷いた。
ベンチに座って貝串焼きを食べていたのだが――入りきらないのでスコールは立ち食いである――いそいそと食べ終えて三人はスコールの案内でビニールが敷かれた地面に座り、元気よく接客している声のもとへと向かった。
「お、いらっしゃい! いい服あるよ、見てってー。そっちのお兄さんも、似合いそうなアクセあるけど興味ない?」
「すまない。生憎、用があるのはこっちなんだ。トーマ、」
「うん。えーとね、この子の服と靴を探しているんだけど・・・・」
「はいはい! 服と靴、サイズはどのくらい?」
「あ、えーと・・・・」
(こっちを見て、助けを求められても困る)
しまったという風にトーマがスコールの方を見る。堂々と聞くものだから、サイズは事前に把握しているものかと思っていた。少し、呆れが篭ったため息を短く吐く。
何故か喋ることができないというリリィに意思疎通の術を持たないスコールはお手上げであった。せめて、なにか用紙の代わりになるものとペンは無いかとポーチを探ってみるが、出てくるものは回復薬(ポーション)ばかりだった。
「お任せはできないだろうか」
ダメもとで聞いてみる。すると少女は、快く引き受けてくれた。
「まずはサイズ測ろっか! よかったらヘアカットもやってあげるよ。服買ってくれたら特別サービスってことで♥」
(さすがに目まで隠れるほどだと邪魔になるだろう)
「どうする?」
「あ、えーと。お願いします」
「はい完成。どーお? すっきりしたと思うんだけど」
数分ほど前とは別人のように綺麗にカットされた髪をまじまじと鏡で見つめるリリィが居た。
トーマに向かって何かを嬉々として訴えるようにすると、トーマがその意思を汲んだのか、気に入ったという旨を店員に伝えた。
「イエイ☆」
と、手を施した本人も納得の出来栄えのようである。
そうして、髪型に合わせたコーディネートをやってもらった結果――
「かわいい、かわいい」
ぱちぱち、と二人して喜ぶほどに。お代はスコールも驚きの低価格だった。
なんでも、店員本人が趣味で作り上げたものだったらしい。なるほど、出来栄えに見合わない低価格はそれが理由か、と納得した。
「大したものだ」
「そうだね。趣味の割には随分上手だよ・・・・」
トーマはリリィの服と靴代を財布から取り出して、店員へと手渡す。その際、また例の腕輪が目に映った。
シルバーアクセサリーという理由から目線でまた追っていたが、その下に覗く痣は現在のところ隠れて見えなかった。あの時は、結構奇跡的に見えたのだ。
(それにしても、リリィという娘も同じものをつけている・・・・リングは単なるお揃いで、ついでに痣を隠しているだけなのか、それとも――)
「レオンさん、ちょっと!」
すると、いきなり声をかけられたかと思うと片手の裾を引っ張られ、ダッシュで駆ける二人に合わせて走るために思考の中断を余儀なくされた。
《スコール。そっちはどうだった?》
結局、旅行者用休憩宿へと泊まり、次の日の明け方に出立しようという方向で話がまとまった。現在ヴェイへと経過の連絡を取るために、二人部屋で泊まるトーマたちとは少し離れた別室でスコールは過ごしていた。
ちょうど夜がやってきたことで、調査自体も中断しようと思っていたこともあったのだ。スコールは特に意見を挟むこともしなかった為、トントン拍子に事が進んで今へと至る。
「それらしい者は見かけなかった。だが、気になったことがある」
《言ってみろ》
「ディバイダーが持つというドライバー。それに・・・・人間、生物の形状を取るモノはあるか? 違っていたら、杞憂で済むんだが・・・・」
《――――ッ》
ヴェイの息を呑む気配がした。
《・・・・そいつら、どんなだ?》
気になった特徴のことだろう。スコールはトーマとリリィの共通点である、外れない腕輪、そしてトーマの方にあった痣のことを話して聞かせた。
《で、明日お前らは教会へ向かうんだったな?》
「ああ・・・・」
なら、とヴェイが続ける。先ほどとは打って変わった、冷酷な口調で。
《俺が向かう》
「――――」
直後、切られた回線。スコールは件の二人の居る方向の壁を見つめ、
(無事に済めばいいが)
当時、ヴェイの襲撃を受けていたスコールは、やがて降りかかる災難に苛まれる二人の身を案じた。スコールにとって、あの時に体感したことは本当に厄介極まる出来事だったのだ。
ヴェイが動く、となれば・・・・流血沙汰になることは有り得る。
(ストッパーとして動くか・・・・別に文句はあるまい)
そうして暫しの仮眠をとベッドへ背をあずけたが、廊下から何者かの気配を感じ、直後に戸を叩く音を耳にした。近づき、何者かと警戒し戸を開く・・・・と、
「よかった・・・・! レオンさん、今すぐ用意してください! ここを発ちます」
大慌てで顔を突っ込んでくるトーマとはやくはやく、と急かすようにぱたぱたと両手を動かすリリィ。そして、なぜか昼間の服屋の姿があった。
服屋が言うには、管理局の人間がトーマと思しき少年の身を追っているらしい。夕べにそれを聞いた彼女が、そのことを知らせに来たのだそうだ。
アイシスと自己紹介した彼女は、曰く「誰にもばれない秘密のルートを案内する」と言葉だけならば非常に怪しさを全開にして醸し出していたが、二人が信用していたし、なによりスコール自身にも悪意が感じられなかったので大人しく従った。
それに、新入りとはいえ犯罪者集団に身を置くスコールである。彼らから当然のようにフッケバインの刺繍を要求され、渋々とジャケットの裏地に縫ったが、それが管理局の連中に発覚してしまうと非常に厄介極まるのだ。急ぎ離れなくてはならないことは明白である。
忍んで夜の街を駆ける一行が腰を落ち着けたのは、それからしばらくしてたどり着いた林の、少し開けた場所だった。
更新が遅く、申し訳ないです。
何度書き直しても――なんて言い訳ですが、描写が増やせなかった・・・・せっかく、自然がいっぱいな情景のコマが漫画に描かれていたのに情けない。心理描写も。
次はバトらせる。それでモチベを取り戻してやるぅ。
では、これにて~。