思いついたSS冒頭小ネタ集   作:たけのこの里派

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BLEACH Unsweetened Strawberries 2

 

 

 

 

 黒崎一護の特異性とは何か? 

 両親と一致しない突然変異のオレンジの髪?

 高校生兼死神代行という立場?

 勉強はできるのに頭が悪い処?

 勿論違う。

 それは物語に登場する、全ての力の素養を兼ね備えているという点である。

 

 物語の主人公───というよりかは『彼の物語』という点を重視した原作本編。

 実は霊王の有様だったり元五大貴族の原罪だったり、最終章の敵対勢力である滅却師の根本的な侵略目的だったり────世界観の最重要部分を明確に描かれてはいなかったりする。

 

 無論、それは『BLEACH』という作品────『黒崎一護の物語』を壊して仕舞いかねない要素であるからだ。

 連載・及び完結時はその意図的な情報の未開示が原因の一つとして、打ち切り疑惑さえ存在していた。

 そういった要素は、一護がほぼ登場しない原作後を描いた公式小説などの情報補完によって明かされている(それでも開示渋った御大から良く設定引き摺り出したリョーゴ)。

 

 自らの力を霊圧として放出・様々な霊術として操作し、斬魄刀と呼ばれる『自身の魂と力を写し取った刀』を振るう調整者─────『死神』。

 魂魄が晒され、胸に空いた孔が仮面と力となり、その空白を埋めんが為に徒に他者の魂を喰らい、進化する悪霊──────『(ホロウ)』。

 世界に満ちる霊的物質『霊子』を自在に操り、弓矢に変えて魂魄を完全に消滅させる力を持つ、かつて世界を救った古の英雄の末裔─────『滅却師(クインシー)』。

 そして古の英雄神の()()()()()を魂魄に宿して生まれ、物質に宿る『魂』を操る人間────『完現術者(フルブリンガー)』。

 黒崎一護は、この上記全ての霊的素養を生まれながらに保有している。

 これは滅却師の祖であり、死神達が王と崇め人柱にした霊王────本気で全知全能に近い、古の英雄神を超える素養であった。

 まあ、それだけの力を持っていれば、物語の多くの黒幕や強者が主人公に注目し、利用しようとするのも道理である。

 

 そんな黒崎一護は、しかしそれはもう甘い。

 倒した敵の傷を当たり前のように癒して、挙句その敵に庇われて『チョコラテ』と比喩される程優しすぎるのだ。

 作中で騙され力を奪われることもあるのだが、それはその騙した相手の前に似たように現れた胡散臭い集団(仮面の軍勢)がマジモンの善人集団だったから同じ様に信用しちゃったんじゃないか? と思う程甘い。

 明確な殺意を口にした事など、それこそ作中で一人だけ。家族や周囲の過去を書き換え大切な日常を壊した例外(月島 秀九郎)だけである。

 

 最終的に内なる虚(ホワイト)が、下手糞な弟に痺れを切らしてコントローラーを奪うが如き兄貴ムーブをする嵌めになるのだが(表情は邪悪なのに言ってる内容全部助言なホワイト兄貴)。

 ラスボスであり母の仇であるユーハバッハにさえ「殺す」と言えなかった事から、その甘さがどれほどか分かるだろう(とは言え、トドメとそれに至る流れは珍しく殺意マシマシ)。

 無論、その甘さは日常に於いて長所、魅力と呼ぶべき美点である。特に兄としての一面からのセリフは、作中屈指の名言として印象深いだろう。

 そんな人間性のお蔭で仲間を増やし、あるいは多くの人たちを救っているのだが───逆に言えば、その殺意の無さが彼の勝率を著しく下げている。

 そんな有様なので危機に陥る事も頻繁であり、何なら普通に負けることだってある。極めて重要な局面でさえ普通に負ける。

 

 というか、素で間が悪いのだ。

 卍解という奥義習得後の戦いでも、様々な事情(というか黒幕の嫌がらせしか思えない)余りの過密スケジュールの所為で、これまでの戦いと無理な修行が祟り戦闘前から包帯塗れの満身創痍。結果相手の卍解を前段階の始解で受け、そのダメージが止めとなり自身の霊圧で行動不能になってしまう(対朽木白哉戦)。

 真なる斬月の具象である内なる虚(ホワイト)侵食(対話)により戦闘中に行動不能に陥る。また元来霊圧さえあれば撃ち放題の技が、数発が限度に陥る程のコンディションの致命的悪化(対ヤミー、対グリムジョー初戦)。

 完全虚化による恐怖によって、虚化を筆頭とした自身の力の無意識の抑制など(対ウルキオラ戦以降、無月習得まで継続)。

 ────といった風に、万全のコンディションで強敵と戦えた回数など、本当に数える程度しかないくらい少ないなのでは、と思ってしまう。

 

 その生涯で喧嘩こそ頻繁にしていたものの、斬った張ったなど―――殺し合いなんて一度も経験してこなかった高校生が一年にも満たない戦闘期間(修行期間は最大2カ月)で数百年、或いは千年単位で修行しているキャラクターを上回る事が出来る時点で十分主人公しているのだが、流石にあんまりではないだろうか……。

 駄目押しに積み重ねを重んじる作中設定故に、持ち前の甘さも合わさり搦手や根本的な経験で前述した通り勝率は決して高くないのだ。

 

 ────ならば逆に、そんな甘さをある程度抑え、幼少期からその素養を研鑽していけばどうなるだろうか? 

 

 無論、数百年鍛錬している連中に経験で勝る事など出来はしないが、しかし。

 それは原作における最終章。黒崎一護の本来の力を、あるいはそれ以上のものを物語序盤に手にすることを意味する。

 積み重ねを重んじる作中設定だが、霊圧という一点に関しては話は別。それは黒崎一護の感情面を除き、彼が活躍出来た最大のカタログスペックであるからだ。

 そんなことをすれば正しく物語の崩壊だが、物語が現実に成った場合話は変わる。

 作中に於ける才人、浦原喜助の言葉を借りるなら────負けたら死ぬのだ。

 死なない為の準備を死ぬほどするなど、誰もが行っている事なのだから。

 そんな誰もが持つ当たり前の権利を、態々放棄してやる理由なんて無い。

 

 の、だが。

 そんな当たり前の防衛行為に、待ったを掛けた者が居た。

 

 ────斬月。

 黒崎一護が保有する『滅却師(クインシー)』の力の具象。

 千年前のユーハバッハの姿をした、彼が千年前の敗北で捨てた善性とも。

 そんな彼が、作中同様に自分(一護)の成長に待ったを掛けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

第一話 メゾン・ド・チャンイチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 高層ビル群で形成される、雲一つ無い蒼天に聳え立つ摩天楼。

 その異様ながら輝きに満ちた世界は、まさしくそう形容される場所だった。

 そんな摩天楼の頂点の一つに、世界の主たるオレンジ色の髪の少年が起き上がる。

 先程母を庇い致命傷を負い、その内なる力が盛大に暴走した少年────黒崎一護であった。

 

「────何が最適解だった?」

 

 そんな世界に少年は欠片も動揺せず、寧ろ勝手気ままに寛ぎながら小さく呟く。

 何故ならこの摩天楼は、まさしく一護の心象風景。

 それも何度も行き来していた彼は、正しく最もリラックス出来る場所と定めそう振舞っていた。

 

「……」

 

 そんな一護の問い掛けに、一人の男が現れる。

 漆黒のコートに身を包んだ長髪長身痩躯。

 浅く髭を蓄えた表情は、一護の問い掛けによって苦悶のソレに染まっていた。

 

「時間がズレた────()()()()()()

 母さんの命日である黒崎一護(オレ)が9歳の『6月17日』に、屋外に出る事を出来うる限り慎んだし、空手道場も無理を言って欠席にして貰った。俺は来るべき運命を回避できたと思った。

 だが、結果として聖別(アウスヴェーレン)は起きてグランドフィッシャーに襲われた」

 

 正史(げんさく)と一護が呼ぶ在り得たかもしれない未来。

 その世界線に於いて、黒崎真咲は一護が9歳の6月17日にて、グランドフィッシャーに殺されている。

 原因はグランドフィッシャーと相対している最中、ユーハバッハが行った「自らが不浄と判断した滅却師からの力の徴収」によって、真咲が力を奪われた為。

 であればその最悪のタイミングを回避できれば、その死を回避できる筈だった。その準備をしてきた。

 しかし、その運命の時に聖別(アウスヴェーレン)は起こらなった。

 

「当時は()()()()()()()()()本気で困惑したのをよく覚えてるよ。千年前に負けた時、復活出来ないレベルで山爺に蒸発させられたのかとさえ考えた」

 

 聖別(アウスヴェーレン)

 それはユーハバッハ自身の魂の欠片を持つ存在を対象にした、力の再分配。

 

 千年前に滅却師と死神との大戦にて、滅却師の頭目たるユーハバッハは山本元柳斎重國率いる護廷十三隊に敗北した。

 物語に於いて人気の一つに挙げられる、魅力的なキャラクター達。その多くが所属する死神組織。

 三界の一つである尸魂界の中心都市である瀞霊廷、それを守護する護廷十三隊。

 そんな組織は設立当初────血も涙もないユーハバッハに、「殺意に溢れていた」「殺伐とした殺し屋の集団」とまで言わせるほどだった。

 十三隊ある護廷隊、その十一番隊は荒くれ者の巣窟、戦闘能力は最強とされているが。

 千年前の初代護廷十三隊は荒くれ者処か、重犯罪者や戦闘狂さえ敵を皆殺しにできる実力があれば躊躇なく登用。

 その為か、必要なら容赦など欠片も無く味方を捨て駒に使用する殺戮集団であった。

 組織の設立者であり現在も総隊長を勤める山本元柳斎重國、彼の全盛期の時代だ。

 その力は読者から、作中の敵勢力の戦略が「山爺が丸くなってることを願いつつ一切灰燼に帰せない事をお祈りするお祈りげー」と揶揄される程である。

 

 物語ではそこから千年近く復活の為の時間を要し、現代にて力を取り戻すための足掛かりに自身の子孫である滅却師から力を徴収したのだ。

 だが、本来行われるべき完全復活から九年前の力の徴収────即ち黒崎一護が9歳の6月17日にそれは起こらなかった。

 想定外の事態に、そもそもユーハバッハは復活する事も出来ずに、千年前に死亡しているとさえ思った。

 だが、それを斬月は否定。

 そんなユーハバッハの分霊とも言える、血に由来する滅却師の力の具象たる斬月は己の本体の胎動を確信していた。

 それだけではない。

 原作との乖離────それは決して聖別(アウスヴェーレン)発生時期のズレ()()()()()()()()

 

「そうだ。仮に私の()()聖別(アウスヴェーレン)の発動が何らかの理由でズレたとして、それでもお前の母がそのタイミングであの虚に襲われる事などあり得ぬ話なのだ」

 

 グランドフィッシャー。そう呼ばれる虚は元来、彼等虚たちの住む世界『虚圏(ウェコムンド)』を支配する者────藍染惣右介の手駒だった筈なのだ。

 ユーハバッハと藍染惣右介。この両者は決して手を組むことは無い。それは原作の描写でも明らかである。

 両者が示し合わせなければ、意図的な発生は在り得ない。

 ならば、今回の事態は完全な偶然だと言える。

 

「だが一護、もし────」

「もしこれが偶然だってんなら、直接的な対策こそが最適解だった訳だ」

 

 即ち、一護自身が強大な力を以てグランドフィッシャーを撃退する。

 その結論に、斬月は沈黙を以て同意せざるを得ない。

 結果的にホワイトの暴走で乗り切れたとはいえ、その為に一護が死に掛けているのだ。

 一護が力を得る。彼が戦場に身を晒す事を拒んだ結果がコレである。

 ホワイトが反対し、それでも斬月の想いを酌んだ一護の配慮の果てが死の瀬戸際だった以上、斬月に発言権など無い。

 そんな一護の心中は、疑問で満ちていた。

 

「結果として本来より約一年後に起きた聖別(アウスヴェーレン)。それにジャストタイミングで起こったグランドフィッシャーの襲撃。そして今日────つってもあくまで体感時間で(現実)じゃどんだけ時間経ってるか判らんけど、何より()()()6()()1()7()()()()()()()

 ────なぁ斬月、俺に何か隠してないか?」

「……一護」

「もし()()()()()()()()()()()()()()()()()()、俺の出自ぐらいしかない。

 その場合は時間の齟齬なんてものは無い。ただの認識の錯覚だ。

 説明不足。良かれと思って。……そんなのが俺にとってクソなのは、恐らく俺の全てを知ってるお前達なら十二分に理解してくれてると思ってたんだけど?」

 

 斬月は口を開くことに窮する。

 バイザーで覆った瞳は、固く閉ざされている。

 信頼、友愛。それらをダイレクトに感じる事の出来る斬月は、しかし口を開く事が出来ないで居た。

 何より、自分の行動が己が愛する主を死に瀕する事態に繋がった事に苦痛を覚える。

 それは紛れも無く、自責であった。

 

「……はぁ、解った。一先ずこの話は後にしよう。ホワイトは居るか?」

『呼んだかよ』

 

 そんな斬月に話を切った一護は、もう一人の住人の名を呼ぶ。

 その返事は、一護の影から響いていた。

 彼の影が伸び、暗い影が漂白されながら人を形取る。

 摩天楼に白い着物────死神の装束たる死覇装の反転色を纏う者が、姿を現すと同時にその呼びかけに答える。

 一護を青年の年齢にまで成長したような、配色だけが白黒白髪白貌。

 一護は斬月との区別として『ホワイト』と呼んでいた。

 

「あー……、やっぱ『そう』なったか。

 まぁ取り敢えず、有難うな。本気で助かった」

 

 斬月からではなく、一護の影から現れた。

 その事実に何らかの理解を示した一護は、それを察しつつ感謝の言葉を述べる。

 過程はどうあれ、彼等によって一護は元より、母の真咲も救われたのだから。

 

『構わねェよ一護。

 つってもお前が色々手を打ってんのは知ってるし、オマエ自身はただの餓鬼だ。何よりどうせああいう状況に成ったら動いちまうのも理解できるが────宿主がそうポンポン死に掛けちまったら堪ったモンじゃねぇんだ。今回みたいのは勘弁してくれや。

 まぁ? 御蔭で俺はオマエの親父の“紐”を解けたんだから、これ以上どうこう言うつもりはねぇんだが』

「やっぱそうか。なら親父も完全復活か。これルキアも死神の力の譲渡も糞もねぇじゃん。夏梨達のこともさぁ、もう無茶苦茶だよ~」

()()()()()()()()()()()、そんなモンあって無い様なモンだろ』

「未確定情報の事前確認の重要性をだね! 問いたいんだよ俺は!」

 

 言い争うように話しながら、しかしケラケラと笑う二人はまるで兄弟の様に息が合っていた。

 事実一護が物心ついてから、二人はそんな関係性を構築している。

 同時に一護は、保護者の様な一歩離れた立場を取っていた斬月の方に向く。

 

「おう、アンタもこっちゃこいや斬月。今後の方針を考えよう」

「…………しかし、私は────」

「一先ず母さんは助かった! 今はそれで良い。自分を責めるんなら、その分俺の力になってくれ」

 

 この精神世界は、黒崎一護の精神状態に左右される。

 悲しめば雨が降り。絶望すれば摩天楼は崩れ去り、世界は海に沈む。

 ────だが天に届かんばかりの摩天楼は、未だ健在。

 その事実に、斬月は目が眩みそうだった。

 

「あ、先言っとくけど、俺が戦わない選択肢は今回の一件で消えたかんな。どうせ藍染惣右介は俺関係なく街消し飛ばすし、ユーハバッハに至っては千年前から未来改変疑惑もある。俺が弱かろうが強かろうが関係が無いんだよ。

 アンタは精々俺が傷付かないように、強くなるためのトレーニングメニューを考えてくれ」

「─────一護、約束してくれ」

「おん?」

「もう他者を護るために、自身を犠牲にしないと」

「…………また、当たり前の話をし出したな」

 

 斬月が真に懸念する事。

 それは一護が戦いの中で傷付くこともそうだが、何より嘗ての英雄の末路を辿る可能性がわずかでも存在する事だった。

 もし、それしか手段が無かった場合、一護がその選択をしない保障が欲しかった。

 

「安心しろよ斬月。俺は霊王じゃねぇし、お優しい原作主人公(黒崎一護)とは違う」

「一護……」

「手前を護れない奴に、他人を護れるかよ」

 

 彼は、彼等に常にそう嘯く。

 彼の者と性質こそ異なっていようとも、本質は変わらない。

 それは、母の危機に対して行った行動が示しているというのに。

 

「────強くなるんだ。誰にも負けない様に」

 

 

 

 

 

 

 




取り敢えず予約投稿は此処まで。
後書きは追記するかもですが、寝違えがやばいのでまた今度です。

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