思いついたSS冒頭小ネタ集   作:たけのこの里派

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悪魔が憐れむ歌 2

 

 

 ──────始まりは、キヴォトスにソレが生じた瞬間だった。

 

『廃墟』。

 一般的なソレではなく、連邦生徒会長によって定められた立ち入り禁止区域。

 SRTを用いてでも警備し、ミレニアム自治区に在りながらミレニアム生徒会(セミナー)を含め一切の侵入を禁じた其処の通称が、『廃墟』と呼ばれる場所だった。

 しかし、そこまでするのも宜なるかな。

 そこは前文明、或いはキヴォトスが今の生徒による自治(忘れられた神々の支配)となる以前の残骸。

 現在の最新技術の最北であるミレニアムの技術さえ、未だ足元に届かぬ超文明の残骸は、今尚機能しているのだから。

 

『死』を最大の禁忌とするキヴォトスに於いて、その秩序(テクスチャ)が及んでいない可能性がある場所だ。

 そんな所に生徒達は勿論、他のヘイロー(安全装置)を持たぬ住民を立ち入らせる訳にはいかない。

 あるいはその技術を悪用されないよう、『子供を導くに相応しい大人』以外の侵入を許してはいけなかったのかもしれない。

 

 そんな場所に、一つの炎が生じた。

 

 人魂を思わせる、青白い焔。

 鬼火、ウィルオウィスプ、ジャックランタン。或いは、聖エルモの火。

 それらを彷彿とさせながら、しかし『廃墟』でなければ大騒ぎになっていたであろう、巨大な青い炎がキヴォトスに顕れていた。

 

『ソレ』は、周囲を観察する様に炎を揺らしながら、キヴォトスの中心にて天に聳え立つ『聖塔(サンクトゥムタワー)』を見上げた。

 キヴォトスにテクスチャを打ち付ける、楔を。

 そしてキヴォトスが自らをそう解釈したと納得した後、その大きさを一気に圧縮し、地に落ちた。

 否。地下に潜ったのだ。

 旧文明故に広大な地下空間を、当たり前の様に透過しながら駆け巡り、虱潰しにして『其処』に辿り着く。

 

 広がった空間に、ポツンと椅子が存在し。

 その椅子に、全裸の少女が凭れ掛かっていた。

 少女にしか見えない存在は、しかして無機的なアンドロイドなのか。

 何百年程度では効かない時間を、此処で眠り続けていた存在である。

 

 青い炎は、僅かな時間その光景を感じ入る様に見詰めると、ゆっくりと少女の頭に入り込んだ。

 

 そこから二年間ほど経った後に、『シャーレ』の先生とゲーム開発部の双子がやって来るまで。

 その青白い炎は少女に備わった機能と、それを活かすための研究を開始。

 二年間、只管ソレだけに没頭したのだ。

 

 それを始める際に、少女の口が動く。

 少女自身は物理的接触が無ければ、決して目覚める事はない。

 青白い炎が物体さえ透過出来る以上、ソレによって目覚める事は出来ないからだ。

 だからその言葉を紡いだのは、きっと彼女に取り憑いた様に入り込んだ、青白い炎によるモノなのだろう。

 

「『"U R MY SPECIAL"』────ケヒッ

 

 後に厨二系シナリオを熟読後のとあるクソゲーシナリオライターによって、特に意味無く『堕天(フォーレン)』と名付けられる者は。*1

 こうして箱庭にて、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

第一話 七神リンは憤る

 

 

 

 

 

 

 連邦生徒会は、過去一番の繁忙期の只中にいた。

 

 キヴォトスは数千もの学校とその自治区が集合した学園都市。

 そんな学園群を事実上束ね行政を一手に担うのが、キヴォトス首都『ウトナピシュティム地区(District of Utnapishtim)』─────通称『D.U.』を直接管理している、キヴォトス全域の行政と学園都市全体の運営に従事する中央組織『連邦生徒会(General Student Council)』である。

 

 十一もの行政とソレを纏める統括官が存在し、それらを各学校から選出した人材が担う。

 キヴォトス中の選りすぐりのメンバーで運営されている、正しくキヴォトスの心臓は現在、機能不全に陥っていた。

 

 原因は、統括官と各行政官の更に上。

 キヴォトスを統べる王。忘れられた神々の一族の長、『超人』連邦生徒会長の失踪である。

 彼女の消失は、一国の王が消えた程度では済まない影響を及ぼした。

 

 キヴォトスを管理する中枢部たる、サンクトゥムタワーの主不在を示す様な機能不全。

 これにより、連邦生徒会に依存する行政権や物流が停止。

 唯でさえ『超人』に依存し切っていた連邦生徒会は、諸問題を含め大混乱に陥った。

 

 心臓が止まり、脳が行方不明なのだ。

 キヴォトスを人と例えるなら、それ以外が動いていたとしても死亡認定されても然るべき有様である。

 

 だが、希望はあった。

 緊急治療の宛は、あったのだ。

 

 連邦生徒会長が失踪前に設立していた、『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』。

 連邦生徒会のお膝元とはいえ、凡そ一部活動に許される筈もない特別待遇。

 あらゆる自治区に介入出来、あらゆる学園の生徒を入部させる事が可能。

 そしてキヴォトスのあらゆる場所に対しての捜査権を有する、まさに超法規的組織である。

 新たに築かれた、第二のキヴォトスの玉座とさえ言えるだろう。

 

 所謂「シャーレの先生」の赴任である。

 その人物を連邦生徒会長が、その失踪前に招集した旨を己が副官────七神リンに伝えていた。

 

 無論、リンは連邦生徒会長を信じている。

 その手腕を、人間性を、超人としてキヴォトスを束ねる姿を一番知っている。

 だが、そんな信頼とは裏腹に彼女は連邦生徒会長の代行を務める事になってしまっていた。

 

 連邦生徒会長の言葉を信じると共に、代行兼統括官として王不在の第一の玉座を護らなければならなかった。

 

 連邦生徒会長故に行使可能だった、多くの権限の空中分解。

 そして主不在が原因か、機能不全に陥ったキヴォトスの行政権そのものである連邦生徒会本部(サンクトゥムタワー)への対応。

 どれも形だけの代行であり、優秀ながらも『超人』に頼り切りであった連邦生徒会の陥穽が浮き彫りになりつつも、本当に来るか分からない『先生』を頼りに彼女は寝る間も惜しんで動くしかなかった。

 

 そんな連邦生徒会長不在で起こった問題の一つが、『Special Response Team(特別対応チーム)』の名を冠したキヴォトスの法執行機関における最高学府。連邦生徒会長直属の法執行機関『SRT特殊学園』の、閉鎖案であった。

 

 自治区が一個の国も同然な在り方故に、その枠組みを越えて汎ゆる自治区へ介入し戦闘行動が可能な学園というのは、王不在の連邦生徒会では運用不可能な超抜組織である。

 保有する武力に於いて各自治区の個人最強は除くとして、部隊としての装備と練度はキヴォトスでも屈指。

 間違いなくキヴォトス最強の武力と言えるだろう。*2

 

 間もない一番の活躍と言えば、昨年度。

 無差別かつ大規模な破壊行為を行う事から『災厄の狐』と呼ばれた凶悪犯罪者(狐坂ワカモ)の捕縛を成功させた『FOX小隊』だろう。

 彼女達の活躍は、クロノス報道部(キヴォトスの報道機関)でも華々しく取り上げられた。

 

 だがそんな華々しい功績も、連邦生徒会長失踪でこの学園組織が完全に宙ぶらりんとなった以上、制御不能の武力の証明となってしまう。

 その武力と権限に危機感を持った連邦生徒会内で、協議の議題に挙がるのは必然であった。

 

『連邦生徒会長不在の現状、権限・責任の双方共に欠如している故に運用困難』

 

 責任者不在の特記戦力。

 当事者である『SRT特殊学園』の生徒達の預かり知らぬ処で、必然の危険視から閉鎖が決まるのも当然の帰結であった。

 防衛室長を筆頭に反対者は一定数存在していたが、事実運用困難である以上負えぬ責任を負うリスクを回避したがるのも、決しておかしくはない。

 彼女達は決して、超人ではないのだから。

 皮肉にもキヴォトス最大の混乱を前にして、その対処に最も効果的な戦力を連邦生徒会は自ら手放す選択をした。

 した筈、だった。

 

ふざけんなよボケが

 

 サンクトゥムタワー内部に当然のように乗り込め、会議室のドアを蹴り壊す者が現れなければの話。

 紺色のコートが特徴の少年は、その瞳と纏う殺気に反して『ブルー』と名乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 コツコツ、と。

 タワー内の通路を歩きながら、途中既に改修された会議室の扉を一瞥した七神リンは、当時の情景を思い出す。

 その後に起こった現状のキヴォトスの混乱を考えれば、あの脅迫以外何物でもない要求にも、SRTを解体したことで生じるリスクにも理解は出来る。

 

「……それに付随する責任を、誰も背負えなかった筈だった。誰もが、背負われる事に慣れていただけ……」

 

 あれから数週間、キヴォトスの現状は危機的なものといってもいい。

 いつの間にか漏れた『連邦生徒会長()()』の情報は、キヴォトスの治安を瞬く間に悪化させた。

 武器の流出や、不良達の起こす騒ぎ。

 そして逮捕した生徒を収容する矯正局から、七人もの脱獄犯が発生した。

 その内の一人に、かつて『FOX小隊』が捕縛した狐坂ワカモが含まれているのだから、頭が痛い事この上ない。

 

 加えて他の脱獄犯を合わせ『七囚人』と呼ばれる者達も、一部を除いて劣悪な犯罪者。

 義賊めいた怪盗や伝説的スケバンリーダーなら兎も角、危険な違法薬物事犯(山海経元生徒会長)も含まれているのだから目も当てられない。

 飲酒が発砲よりも遥かに罪が重いキヴォトスで、判り易い麻薬と云ったものではないが、効能がオカルトに片足突っ込んでいる薬物の危険性は最早目も当てられない。

 

 成程。会議室に乗り込んで語録を吐き捨てた『彼』の気持ちを理解する。

 今も書類の山を抱えながら駆けずり回り、剰え自分の補佐さえやろうとする調停室長(同僚)に微笑みながら、リンは感謝していた。

 その後の混乱を思えば、『SRT特殊学園』を存続させた価値は確かにあったと。

 

 連邦生徒会の幹部全員での承認を前提とした、通常運用を度外視した責任の分散と希釈で、辛うじて存続させた連邦生徒会の武力。

 そんな現在彼女達は、絶賛全力稼働中である。

 

 連邦生徒会長消失及び『シャーレの先生』到着まで、それまでに発生するであろう事件と各種対応に対する鎮圧作戦。

 そう銘打って、本来出動に際し必要な各行政室長全員の承認を、可能な限り省略した一計。

 お陰でSRTの部隊は、表向きこの数週間()()()()()()である。

 勿論キチンと裏で補給を行っているが、出動は一度きりである以上は承認は一度で済む。

 無論今回限りの脱法行為であり、今後彼女達を運用していくに当たって使えなくなる手段だ。

 

 だがそれにより、各自治区の暴徒の鎮圧で絶大な効果を現在進行系で上げている。

 仮に閉鎖していた場合、今尚終わる事のない仕事量が追加でどれほど倍加していたか。

 少なくとも各有力自治区からの突き上げはこの程度ではあるまい。

『彼』から「事務能力に関しては十分超人(バケモン)ハッキング対策といえどペーパー主体は頭おかしなるで」と称されて以来、そこそこの自負があるリンにとっても恐怖の一言である。

 

 尤も、その分「政治能力がお粗末。共感能力の乏しい調月リオ(ミレニアム生徒会長)以下なのは、控え目に言ってヤベェよオマエ。でもアオイ達が更に下行くのは、本気でなんなん?」と扱き下ろされているが。

 その指摘は当時一切の痛痒を与えなかったが、連邦生徒会長の代行を務める羽目になった現在、ジワジワと激痛を与え始めている。

 

 そんな痛痒を横に置き、漸く混乱に終止符を打てるカードがやって来たのだから、と彼女も気合を入れ直す。

 そう、連邦生徒会長が託した『シャーレの先生』がやって来たのだ。

 

「貴女が居れば、『先生』に此処までの重荷を背負わせる必要も無かったのですけれど」

 

 ───連邦生徒会長の捜索は、現在行えていない。

 単純に手が足りていないというのもある。だが、無理をすれば捜索に相当数リソースを割けるだろう。

 連邦生徒会が仕事量で火の車になるだろうが、連邦生徒会長にはそれだけの価値があるのを、リンは誰よりも知っていた。

 だが、それは許されなかった。

 他ならぬ、在野の帝王に。

 

「───お、リンちゃんじゃん」

「! ……来ていたのですか」

「おう、恐らくオレがシラフで此処に来れるのは、暫く無いだろうからな」

 

 丁度エレベーターから出てきた、雑に掻き上げられた金髪の登場にリンは少し驚いた。

 学園都市キヴォトスは獣人機械人が存在すれど、事実上女子だけの世界。

 明確な男性というだけで非常に珍しい彼は、明らかに偽名を名乗っているが最早そこは問題ではない。

 

「『シャイニング』が構築した既存のそれとは異なるインフラ。最初は意図が解らず、会長が承認した際は目眩がしたのですが……。お陰で、タワーが停止した現状でもインフラは維持されている。連邦生徒会を代表して感謝します」

「いや、それも行政が完全に停止していたら焼け石に水だった。己の成果に胸を張れよ、連邦生徒会長代行」

「……代表取締役を辞したというのは、本当なのですね」

「あぁ。公的立場は全て降りたよ」

 

 キヴォトスのインフラを一手に引き受ける巨大グループ『シャイニング』の創設者であり、その支配者。

 本来、連邦生徒会の面々以外では易々と入ることの出来ないサンクトゥムタワーに、顔パスで出入り出来る存在。

 連邦生徒会長をキヴォトスの表の顔とするなら、彼は裏の顔と言っても過言ではない。

 何せブルーの不興を買えば、キヴォトスの財政界での居場所は勿論、商業活動などマトモに行えなくなるだろう。

 

 電気、水道、物流、製造。それらを『ミレニアムサイエンススクール』と積極的に業務提携を行い、その最先端技術を社会に汎く送り出すことでキヴォトスの技術基準を数世代進めたとさえ言われる程に成長。

 かつて『カイザーコーポレーション』というグループが抱えていた資産や権利は勿論、他の大企業群を傘下に収めた彼等はたった二年で行政以外を、全て『シャイニング』系列で統一させてしまった。

 

 加えてブルーはミレニアムの筆頭株主となり支援する事で、本来技術屋を抱えている筈のミレニアム側がその資金源を『シャイニング』、延いてはブルーに握られてしまっている。

 キヴォトスで『シャイニング』が健在である限り、予算不足に喘ぐ事こそ無くなった。が、その代償としてミレニアムは嫁に財布を握られた尻敷亭主といった有り様となっていた。

 

 そしてそれは、キヴォトス外縁の自治区であればあるほど顕著になる。

 何せ中央が独占していた技術や環境を、『シャイニング』に届けて貰っているのだ。その渡守が居なくなれば、再び中央の独占が始まるだろう。

 人間一度贅沢を覚えてしまえば、それを奪われるのに耐えられない。

 もし連邦生徒会がその行政権で無理矢理『シャイニング』を潰そうものなら、複数自治区による連合軍が発生するだろう。

 というより、潰せばキヴォトスが諸共滅びる。

 

 更に今回の一件で、SRTとその指揮を行っている防衛室は巨大な借りを作ってしまった。

 特にSRTの生徒にとって、学園閉鎖を回避してくれた救世主に近い。

 

 他の自治区は勿論、連邦生徒会でも無視は決して出来ず、排除することも不可能。

 故に連邦生徒会長自ら対応し、交流と交渉を重ねて来た。

 タワー内部に当然の様に入れるのは、最早顔パス並みに馴染んでしまった事を意味していた。

 ───そんな権力を、彼は自ら手放した。

 

「相変わらず、貴方は周囲の人間を振り回すのが得意な方です」

「人をハリケーン扱いすんなや。俺は引き継ぎキチンとやったが? つーか、ソレは丸投げしてバックレたあの女に言うべきだな」

「……そうですね。貴方()、と訂正しましょう。それで、何の御用でしょうか?」

「物見遊山。来てるんだろ、シャーレの先公。野次馬とは言わせないぜ?」

 

 僅かばかりか、リンの目が開かれる。

 恐らく、独自の情報網を持っているのだろう。

 監視カメラでもハッキングしたのか、ミレニアム辺りのハッカーでも雇ったのかもしれない。

 元より、ミレニアムとの繋がりが公私共に深いのがブルーだ。

 連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)の権限の高さを考えれば、当然の警戒レベルとさえ言える。

 この電子的セキュリティの脆弱性が、キヴォトスの事務仕事にペーパーを強いられる最大要因なのだが。

 

「一応確認しますが、先生に危害など許されませんよ?」

「ハズレの淫行教師なら、悪いが()()()()()()()()連邦生徒会長(アレ)の見る目を疑いたくはないが……『超人』にも失敗と不可能が存在するのは、アイツが『消失』という択を選んだ時点で証明されている。S.C.H.A.L.Eはゴミに許される権力じゃねーの。おっと、セルフブーメランかな?」

「そうですね。生徒に頻繁にセクハラとモラハラする貴方が言っても、何も説得力がありません。……そも、女性ですよ」

「あー、女先生なのね。オイオイ其処は男先生だろ、本格的に俺が悪目立ちすんじゃん」

 

 連邦捜査部(S.C.H.A.L.E)の顧問であるという事は、キヴォトスの空の玉座に座ることと同義。

 それが、キヴォトスの外から来訪する以上、キヴォトスの誰もその人柄を把握していないことを意味している。

 その危険性は、リンも同意する処だ。

 

「(あの人を疑う。あるいは、彼女の失敗に備える)」

 

 この発想が、眼の前の人物に植え付けられたとしても、理に適っているのは事実なのだから。

 それが決定的になったのは、連邦生徒会長の捜索をそもそも行わないという選択を選ばされた時だ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『─────シャイニングとしては、「消失」した連邦生徒会長を捜索するのではなく、それによって生じる混乱への対応にリソースを注ぎ込んで貰いたい』

 

 かつて行おうとした、失踪した連邦生徒会長の捜索の制止。

 他ならぬ会議室に乗り込んできたブルーによって、始める前に打ち切られた。

 サンクトゥムタワーの機能不全と、連邦生徒会長という『超人』の消失。

 発生し得る混乱への対処を最優先とし、無駄な行為にリソースを割くな。

 そう『シャイニング』代表取締役として要求されれば、連邦生徒会は頷くしか無い。

 

『連邦捜査部の設立に、シャーレ顧問の招集。バックレる直前に第二の王権打ち建てた以上、あの女は()()()()()()()()()()()と判断したんだろうよ』

『はッ……!?』

 

 防衛室長の終末を預言された様な声無き悲鳴が聴こえたが、それに気付かずリンだけは彼に抗議した。

 連邦生徒会長捜索の大義名分────『そもそもの混乱も、連邦生徒会長が復職すれば解決する』という主張を叫び続けるが、だがそれをブルーはインフラを握る者として切り捨てた。

 

『お前等そんな有り様で、本気で隠れたアイツを見つけ出せると思い上がってる理由は何だよ?』

『そんな、有り様……?』

『サンクトゥムタワーの制御権。誰も委任されていないらしいな』

『ッ!』

 

 キヴォトス全土の行政を一手に引き受ける、連邦生徒会がその権勢を持ち続けられる王権。

 しかし現在連邦生徒会長失踪によって、その機能を停止している空の玉座そのものである。

 ブルーの指摘は、連邦生徒会役員としては決して目を背けられず。

 しかし是が非でも認められない事実の証明であった。

 

 

『つまりお前等全員が束に成ろうと、連邦生徒会長(自分)は勿論シャーレの先生(外様)にも価しないと判断された訳だ』

『──────』

 

 

 連邦生徒会のどの役員にも、その制御権は一端だろうと与えられていない。残されていない。

 即ちそれは、連邦生徒会長は自分の部下を何一つ信用していないと断言するも同然だったのだ。

 彼女の副官であり現在代行を担うことになった、七神リンといえど例外ではない。

 

『なぁ、一応確認なんだが────矜持は無いのか』

 

 飄々とした態度を消して、静かに言い放つ姿に全員の肌が総毛立つ。

 その感情は、怒りだ。

 

『恥は無いのか? ここまで「使えない」と断じられて。悔いは無いのか? ここまで舐め腐った対応されて、不甲斐ないと思わないのか』

『ッ……!』

 

 そんな人材を、王にして超人なりし女は言葉ではなく行動で「信用できない」と暗に告げていた。

 本来ならば、プライドがそんな事実を直視させない。出来ない。

 だが自分達は、それを許さぬ反証を自ら作ってしまった。

 

 そんな事実を突き付けられ、呆然とする彼女達にブルーは口調を戻す。

 解り易く、彼女達の感情を煽る。

 燻っていた、火に油を注ぐ。

 

『透き通った青空を貫く塔の神官共を、王は揃って役立たずと宣告した訳だ。事実SRTって武力を、お前等自分から放棄しようとしてたもんなぁ? 

 源石嵐や疎隔層に覆われている訳でもないのに、随分とお暗い事で。勿論キヴォトスの将来がな。連邦生徒会長がアロンの杖に身を投じる訳だ』

アロンの杖(Aaron's rod)……?』

『【アロンの杖をこの事件の苦い思い出として、いつまでも()()()()の傍に置きなさい。アロンの権威を疑う者がまた出たら、それを見せてやりなさい。そうすれば、民が不平を言って色々な災難を被らずに済むだろう

 何言ってるか分からんだろう。適当な与太だ、気にすんな』

『…………ッ』

『で? お前らそれで良いのか? このままで』

 

 言いたい放題してくれるブルーに。何よりそれを黙って聴くしか無い醜態を晒している自分達に、脳が自壊する錯覚さえリンは覚えていた。

 そんな彼女を見る者たちに、その熱が伝播する。

 

 リンと室長幹部連は即座に動き出した。

 連邦生徒会の行政業務上、サンクトゥムタワーは不可欠である。

 だが動かない以上、それ無しで出来ることを遣らなければ、彼等は本当に案山子同然だ。

 ブルーに火を点けられた彼女達にとって、自覚させられた以上それだけは許容できない。

 

『責任を、持つべきでしょう。あの方に押し付けていたものを、私達も背負うべきです』

 

 その熱が、本来なら敬遠していたSRT運用時の責任を幹部全員が背負う覚悟を抱かせた。

 

 各自治体の首脳陣への、混乱を抑えるために内密なれど事実上の緊急事態宣言。

 緊急時の超法規的処置として行政権の臨時移設を行うため、特別行政府の設営。

 無用な混乱や衝突を回避するため、予めSRT小隊の派遣連絡とヴァルキューレへの根回し。

 遣れることは幾らでもある。

 

『ブルー代表、「ラマシュトゥ」にも協力を要請します。構いませんか?』

『OK、話通しとくわ。

……SRT閉鎖は阻止した。連邦生徒会の瑕疵の指摘もやった。なら後は……オイ、そこの糸目ピンクまな板凡愚チビ、諸々調整するから面貸せ』

『糸目ピンクまな板凡愚チビ!?』

『政治出来んの、連邦生徒会(ここ)じゃお前だけだからな。釘刺しついでに付き合え』

『いや訂正して欲しいのですが!? 主に後半部分!』

『お前がリンちゃん並のスタイルになってからほざけや。

 あ、そうだ────()()()()!』

 

 糸目をカッ開いて愕然とする防衛室長(不知火カヤ)を捕まえた彼は、彼女を引き摺っていた足を少し止める。

 珍しくちゃん付けではなくフルネームで呼ばれたリンは、驚きで肩と胸を跳ねさせる。

 

『ッ! ……何でしょうか?』

『どんな事情が有ろうとも、責任者には説明責任がある。仮にどうしても必要だったとしても、仕事ほっぽり出してボイコットカマしたのは事実だ』

『……それは』

 

 連邦生徒会長の罪。

 それは連絡もなしの職務放棄以外の何物でもない。

 仕事を放り出した上司に、部下は怒って良い。

 これは絶対である。

 だから、意地悪気な笑みで提案されたそれにリンが乗ってしまったのも、仕様が無いのだ。

 少なくとも、リンはそう供述するだろう。

 

『帰ってきたら、全員でアイツのケツか乳をシバいてやれ』

『……はぁ。えぇ、楽しみにしておきましょう。ですがそれはそれとして、セクハラですよブルー代表。少なくとも貴方は不参加です』

『ソレは別に構わねぇよ? 俺は今後もアイツの弱みを()()()()()()。お前らと違って、俺はアイツの部下でもなんでもない。だのに手前の尻拭いさせようってんだ。乳ビンタで済ませると思ったか?』

代表?

『オマエに凄まれても怖くねぇなァ。手前のツラの良さを恨めや』

 

 む、と。リンは言外に容姿を褒められて詰まる。

 容姿にはそこまで頓着しない彼女だが、唯一の異性に褒められれば悪い気はしない。

 とはいえ煙に巻いているのは事実なので、ジト目を向けざるを得ないのだが。

 

 ふと、連邦生徒会長とこの少年の遣り取りを思い出す。

 こんな風に、良く二人掛かりで揶揄われたものだ。

 帰ってきたら、存分にやり返してやろう。可能かどうかは別として。

 

『しかし、「代表」か……。そろそろこの立場も、もう要らんな』

 

 連邦生徒会長が消失し、キヴォトス第一の変化に際し。

 七神リンの業務への熱意の一つに、あんまりな字面が追加された日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

………我々は望む、七つの嘆きを。

………我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

『─────私のミスでした』

 

 見知らぬ車両。

 見知らぬ少女。

 しかし何処か憶えのある語り口。

 

『どうか、先生─────』

 

 そして、物語は始まる。

 

 

*1
コレが才羽モモイを、彼が嫌っている理由の8割。後は素で嫌い。彼は無限城決戦編以外、つまり平時の善逸が嫌いである。

*2
勿論ミレニアムの超技術は除く。おかしいよアイツ等(デカグラマトン編を見つつ)





七神リンちゃん
 黒髪ロング切れ目眼鏡エルフ耳巨乳という、プレイヤー視点での生徒第一号。
 ワンオペとは言わないが、独裁政権ばりに権力と責任が集中していた連邦生徒会長が、突如幼女プレイ(セルフ人身御供)に走った為に地獄の舵取りを強いられた苦労人。彼女は大変頑張っている。
 それはそれとして、原作でも三大校の使者(内一人は生徒会役員)を「暇そうな方」と翌々考えずともアウト発言を初っ端カマしている。
 挙げ句、幹部でも実務能力が明確に劣るカヤにクーデターを一方的に喰らう程度には政治力が無い。
 生粋のナンバー2とも。やっぱおかしいよ卑劣様(二代目火影)
 本作ではオリ主特有の上から目線のツッコミにより、色々焚き付けられ積極的に。
 連邦生徒会長失踪前は、良くブルーと二人して揶揄われていた。

連邦生徒会役員
 キヴォトス屈指のブラック戦士達。彼女達は大変頑張っている。
 事務処理能力は確実に卓越しているものの、その事務処理能力が残念なカヤにクーデーターを成功されるなど、原作からしてそこら辺が残念な娘たち。
 過労でンなモンを気にする余裕が無いとも。
 本作では明確に連邦生徒会長が対等に扱う野郎の存在と、その当人に焚き付けられた事でハッスルした。
 なおSRT閉鎖案が原作より遥かに早く発案されたのも、この野郎の悪影響でもある。
 具体的には「装備物資一式を原作カイザーより供給元を独占している」「それにより原作ヴァルキューレ同様、SRTへの口出しが可能な状況に持って行かれかねない危機感」「それを静止・牽制できる連邦生徒会長の不在が更に響く」など。

SRT特殊学園
 連邦生徒会長直属の学園組織にして、保有する唯一の武力。
 原作では責任者不在を切っ掛けに閉鎖が発案され、FOX小隊の連邦生徒会襲撃とRABBIT小隊の閉鎖反対のデモ。学園から大量の装備武器弾薬を持ち出し。D.U.の子ウサギ公園を占拠立て籠もりなどの暴走が後押しとなり、閉鎖が決定していた。
 本作では公権力以外で事実上キヴォトスを支配可能な野郎の存在への危機感から、連邦生徒会長失踪直後の第一回会議で閉鎖案が出される事に。
 尚「ウチの企業が損害受けるんだが?」「『カルバノグの兎編』? 知らんなぁそんな『革命のイワン·クパ〜ラ』のイメージしか記憶に無い乱痴気騒ぎ」という本音から会議室殴り込んだ野郎によって存続が決定した。マッチポンプである。
 とはいえシャーレの先生との責任分散後は、防衛室長であるカヤに指揮権の半分が渡っている為、彼女がその気なら野郎が介入しない場合『カルバノグの兎編』が始まる。
 その場合、普通にカヤが第二のベアトリーチェ(汚いハンバーグ)となることが決定する模様。

防衛室長・不知火カヤ(糸目ピンクまな板凡愚チビ)
 原作『カルバノグの兎編』にて独自の『超人論』でクーデターを起こした、連邦生徒会防衛室長。
 あるいは、数少ないほぼ『先生』に見放される一歩手前まで行ってる生徒とも。
 自身を『超人』と妄想し、一度は連邦生徒会を掌握するも事務処理能力が足らず破綻した凡人とも。
 とはいえ、ほぼほぼ唯一の「連邦生徒会でマトモな政治的手回し」が行える人材。
 逆に言えば、三日天下の権化と言える程に見通しが甘いとも。
 連邦生徒会長失踪で二番目くらいには動揺し、ブルーの焚き付け時にショックを受けていた。
 他の役員達と一緒くたに無能扱いされたから、とも。
 その後SRTの指揮権をシャーレの先生に二分されるも、ブルーに釘を指(脅迫)された為に『カルバノグの兎編』がほぼほぼ無くなる。
イキナリ『捌』とやらの理論と、如何にヘイローを貫通するかを説明された上でクーデターなんかする訳ないじゃないですか!? アレ要は『三枚に卸すぞ』って事じゃないですかヤダー!

ブルー
 引退することを決めていた為、SRT存続の為にかなり越権行為したマッチポンプ野郎。
 尚、この時点で既にDU全域を「『伏魔御廚子』の領域範囲内(意訳)」に出来た為、本気で連邦生徒会長が気を揉んだ(一敗)

シャーレの先生
 今回筆者が「ホントは『シッテムの箱』確保まで行きたかったのに……」などと供述することとなった、未登場キャラ。
 プレイヤーネームは『矢羽々 弥勒(ミロク)』。勿論、弥勒菩薩と神聖四文字(YHWH)モチーフ。
 外見イメージは今でも「物腰柔らかな女性らしい女先生(アークナイツのプリースティス)」か「女にモテる王子様系女先生(アイマスの白瀬咲耶)」か悩んでいる。勿論ソレに沿ってキャラ付けするから。
 ちなみに前者の場合、無意味に滅茶苦茶ブルーに警戒される。その上ゲヘナ風紀委員会の好感度補正に当初やや下方補正が行われる(CV:浅川悠)

シッテムの箱のメインOS
 失踪した連邦生徒会長に瓜二つの外見的特徴を持った、小学生ほどの童女である。
 本来、所有者であり生体認証を行った先生にしか聞こえない筈の彼女の声が、何故かブルーに聞こえているし録音さえされている模様。
 とある手段でその言動をブルーに記録され、脅しのネタにされる事が決定している可哀想な娘。
 ちなみにブルーの脅し文句は「クラフトチェンバーに突っ込んでやろうか」。
 突っ込んで出てくるのは、果たして童女か連邦生徒会長か。

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