「此度の聖杯戦争、雁夜程度では降って湧いた僥倖にしては弱過ぎる。この触媒は後の桜への切り札にしておくかの」
────もし蟲爺がランスロットの触媒を出すのを躊躇ったら
「バーサーカーは魔力の消費が多く通常の魔術師では維持が難しく自滅する、だと?クソッ、臓硯め何が「バーサーカーを召喚しろ」だ。俺を自滅させる気だったな!」
────もし雁夜が家にある書物で聖杯戦争についての学習をしたら
「……行ってくるよ、桜ちゃん。続きはまた明日ね」
────もし、雁夜が召喚前に桜と遊んでいたら
これは、たくさんのifが重なって生まれた物語。
「召喚の呪文はちゃんと覚えたか?」
「ああ。だがバーサーカーはゴメンだ。それなら縁召喚の方がまだマシだ」
「クク……いいじゃろう。では始めるかの」
深夜、間桐の家の地下に存在する蟲蔵に雁夜の声が響く。
素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
―――――Anfang(セット)。
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――――――――告げる。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
雁夜はサーヴァントを召喚する呪文を唱え切り、それに呼応して設置された魔法陣から光が溢れる。
眩しさのあまり雁夜は咄嗟に目を覆い、光が収まるのを待った。
「う〜、いてて」
臓硯でもない、雁夜でもない第三者の声が地下に広がる。
光が収まった魔法陣の中で雁夜が見たのは、現代に近い身なりをした一人の青年だった。
「眼鏡眼鏡……お、あったあった」
召喚の際に落としたのか、魔法陣の中に落ちていた眼鏡を拾うとそのサーヴァントと思われる青年はこちらに向き直り改めて口を開いた。
「君が、僕のマスターかい?」
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「どうしてこうなった」
最低最悪の爺から想い人の娘、桜ちゃんを守るため実家である間桐家へとんぼ返りし聖杯戦争に参加した男、間桐雁夜はそう呟いた。
聖杯戦争に参加し聖杯を持ち帰ることで桜ちゃんの解放を臓硯に頼み、そのために聖杯戦争で戦ってもらうサーヴァントを召喚したのだが……
「すごーい!本物の”のび太”だぁー!」
「あはは、照れるなぁ」
目の前でマイラブリーエンジェル桜ちゃんと戯れている眼鏡の青年。こいつこそが召喚したサーヴァント。その光景を見てため息をついた。
「桜ちゃん、少しいいかい?おじさんはのび太くんと少しお話があるんだ」
「えーっ」
「また後で遊ぼう」
桜ちゃんに部屋を外してもらい、のび太と呼ばれていた眼鏡の青年と二人きりとなる。
「未だに信じられないんだが……本当にお前は”野比のび太”なのか?」
「はい。僕の真名は野比のび太。
雁夜の問いにのび太は頷く。
臓硯が本来用意する筈だったランスロットの触媒を用意しなかったこと、雁夜は触媒を用いたバーサーカーの召喚を止めて縁による召喚に切り替えたこと、直前まで桜ちゃんとドラえもんの漫画を読み聞かせ漫画をポケットにいれたまま召喚に臨んだこと。
その様々なきっかけにより彼は間桐雁夜に召喚された。
「いや……それならいいんだ。まさか漫画のキャラクターが召喚されるなんて思いもしなかったからな」
「詳しい説明をしましょうか?」
「……大丈夫だ」
英霊やサーヴァントや聖杯の仕組みに疎い雁夜は、まさか漫画のキャラクターが召喚されるとは思ってもいなかったようでひどく困惑していたが、喜ぶ桜ちゃんを見てどうでもよくなったのが本音だ。
「俺の願いは聖杯戦争で勝ち残り、聖杯を臓硯に捧げて桜ちゃんを解放すること……の、筈だったんだが……」
「すみません、あの蟲みたいなのは既に僕が……」
「大丈夫だ!むしろ助かった!感謝してるから!」
のび太と雁夜の会話から分かるように、間桐を裏で牛耳っていた臓硯は既にこの世に居ない。なんでものび太が「こいつ悪者だ」と直感的に判断し《宝具》を以って倒してしまったのだ。
「あとは個人的な復讐で時臣をぶちのめしたいが……のび太は聖杯に望むことはあるのか?俺はのび太に願いがあるなら全力で助けたい」
本当は桜ちゃんをこんな目に遭わせた時臣を殺してやりたいし葵さんにも会いたいが、最悪それは聖杯戦争中でなくとも良い。なので、雁夜が聖杯戦争に参加する理由は消えてしまったのだ。故に、雁夜はのび太が聖杯に望む願いを訊いた。
「……願いは、ありませんよ」
願いは何か、と訊かれてのび太は少し悩むが願いは無いと口にした。
「でも、召喚されたからには戦争が終わる最後までお付き合いしますよ。桜ちゃんと遊ぶ約束もしましたし」
「そうか……なら、短い間だがよろしく頼むよのび太」
「はいっ!」
────本来の歴史とは違った主従は、この歪んだ戦争に参加し何を為すのか。
ギャグとシリアスの狭間
続きは気が向いたら