とある放課後。
咲は思いがけない状況に陥っていた。
それは・・・・・、
「あの・・・写真いいですか?」
「サインお願いします!!」
「良かったらこれ受け取って下さい!!」
「なんなんだよ・・・これ」
「あ、握手して下さい!」
「あっ!?抜け駆けなんてズルいわよ!!」
「私だって握手したいもん!!」
「おい!お前ら一旦落ち着けっての!!」
たくさんの出待ちである。
アルバイトの為に練習を少し早めに切り上げて帰ろうとしたらたくさんの女の子に取り囲まれてしまったのだ。
制服を見るからに色々な学校の子達が集まっているのは言わなくてもわかる。
だが、いきなりの急展開に咲は頭の中が混乱しそうになっていた。
ファンサービスを終えた頃には力尽きて四つん這いになって呼吸を整えている咲の姿があった。
「・・・大丈夫?」
「あぁ・・・ヒデコか、それにフミコにミカ」
「いやぁ~・・・見ていたけど、やっぱり注目アイドルにもなると凄いみたいね」
「んぁ?注目アイドル?」
「あれ、知らないの?今週のアイドル雑誌にピックアップされてるよ?」
彼女達3人組は穂乃果の同級生で友人。
ショートヘアの女性がヒデコ、ポニーテールの女性がフミコ、おさげで小柄の女性がミカである。
ひょんなことからPV撮影の時もサポートしてくれた頼れる3人である。
そして、ミカから手渡されたのはスクドルマガジンである。
「なになに・・・・・『注目アイドル!クールアイドル爆誕!!』・・・・・クールアイドル?」
「そうだよ、咲ちゃんって可愛いアイドルって言うか大人っぽくてカッコイイ感じのアイドルだもん」
「有名なクールアイドルって言ったらA-RISEの統堂 英玲奈って人みたいだよ?」
「A-RISEか・・・」
「やっぱり前回のタキシードかな?咲ちゃんだけ男装してたけど、かなり似合ってたもん」
「そうね!思わず見惚れちゃったもん」
「お世辞言ってもなんも出ないからな!」
「ざんね~ん」
彼女達の言う通り前回のPV『これからのSomeday 』の時だった。
ことりの提案と言うか欲望であろうか何故か咲の衣装はタキシードだったのだ。
最初はみんなも驚いていたのだが、いざ試着をしてみると顔色がごろっと変わってしまい花陽に関してはとろんとした表情で見惚れていた始末だ。
と言う経緯もあって咲だけがタキシードだったのが目立ったのだろうこうして特集されてしまっているのだ。
口では嬉しそうな素振りを見せないが内心でははしゃいでいた。
そんな彼女の携帯が鳴り出した。
着信相手を確認すると咲は眉を潜めた。
今まで噂をしていた統堂 英玲奈、本人からである。
「はい?」
『私だ』
「わかるかよ、名前ぐらいちゃんと言え」
『・・・英玲奈だ』
「OK、それでアタシに何か用?」
『雑誌に君の名前があったから・・・』
「アタシはそのせいで今まで修羅場の中にいたけどな・・・」
『そうなのか?良くわからないが、おめでとう!ツバサが君がアイドルになった事に驚いていたよ』
「スクールアイドルが好きでなったんだよ、悪いか?」
『いや、君の考えは道理的だよ』
「そりゃあ、どうも」
他愛もない話をしていた矢先に英玲奈があるワードを口にした。
『それならラブライブで会えるのが楽しみだな』
「ラブライブ?」
『んっ?知らないのか』
「全く、知らん」
『そうか・・・ラブライブと言うのは簡単に説明すれば、スクールアイドルの甲子園だ』
「アレか!?優勝を目指す系か!?」
『ネットのスクールアイドルランキングの上位20位までが本選に進出し、優勝を目指して競い合うモノだ』
「ほぅ・・・参加するのも面白そうだな」
『但し、エントリーの条件として、ちゃんと学校に許可を取る必要がある』
「・・・・・マジで?」
『本当だ』
翌日、咲は部室で行われている珍しい光景を目の当たりにしている。
全員が机にかじりついて期末テストの勉強に励んでいる事に・・・・・。
「あっ、天宮さん!」
「なんで勉強してるんだ?コイツら」
「ラブライブのエントリーの為に欠かせない事なのです!」
「ははっ・・・伝える前にもうラブライブのエントリーまでこぎつけたのかよ。それで、その欠かせない事ってなんなんだ?」
「次の期末テストで赤点を回避する為よ」
真姫の一言にピシッと音が聞こえる。
「理事長が言うには今度の期末で誰一人赤点を取らなければ許可をもらえるのです」
「だから、こうやってみんなで勉強会を・・・・・んっ?」
「天宮さん?」
「おわぁ!?さっちゃんの頭から煙が出てるよぉぉぉ!?」
「し、しっかりしてください!!」
急に活動停止したように倒れ込む咲に全員が慌てたように駆け寄った。
当の本人はポカンと口を開けたまま動かずにいた。
そんな雰囲気にその場にいたメンバーもある不安がよぎった。
だが、その予想はしばらくしてから目を覚ました咲の口から告げられた。
「「「えええっ!?全教科赤点!?!?!?」」」
まさかの真実に全員が前のめりになって口を揃えて叫んでしまう。
「・・・・・だ、だって・・・勉強なんてくそつまんねぇし、授業聞いてたら眠くなるしよ」
「そうだったにゃ~!咲ちゃんはいつも寝てるか、屋上で寝てるんだったにゃ~!!」
「まぁ、雨の日は保健室だけどな!」
「ナニソレ、イミワカンナイ」
「そんな自信ありげに言ってもダメなんです!赤点を取ってしまうとラブライブに出場出来なくなるのですよ!?」
「あはは・・・海未ちゃん、そんなに怒んなくてもさぁ~」
「誰のせいでこんなに怒っていると思っているのです?」
「・・・アタシです」
鬼になった海未には頭も上げられずにしょんぼりとする事しか出来ずにいた。
「まったく、3人だけでも一苦労だと言うのに・・・・・」
「3人?」
咲が振り返ると穂乃果と凛が申し訳なさそうに手を挙げており、離れた席では問答無用でわしわしされているにこを見てなんとなくだが理解出来た気がする。
「こうなったら・・・アタシは奥の手を使うぞ!!」
「奥の手・・・ですか?」
「咲・・・貴女、なにか考えでもあるの?」
「ふふっ・・・スペシャルな家庭教師にお願いする!!んじゃ、またな!!」
「あっ、天宮さんが逃げた!?」
鞄を脇に挟んだかと思うと敬礼をした瞬間に部室を飛び出して行ったのだ。
ワイワイガヤガヤと騒ぐ部室でにこをわしわししていた希だけは意味ありげに笑みを浮かべていた。
「絵里、お願いだから勉強教えてくれ!!!!」
「えっ、ちょ、ちょっと・・・天宮さん!玄関前で土下座をされたら困るわ!」
そう、咲が頼りに来たのはなんと・・・生徒会長・絢瀬 絵里。
彼女の後をストーカーして辿り着いた家の呼び鈴を押して、最初の台詞と共に土下座をする咲に急展開過ぎて絵里は慌てて咲を立たせた。
「アタシはっ!・・・絵里がっ!・・・承諾してくれるまで!・・・土下座を止めない!!」
「そんなに暴れなくても勉強ぐらいなら見てあげるから落ち着きなさい!!」
「本当か!?!?」
「・・・えぇ」
「やったぁぁぁぁ!!!!」
嬉しさのあまり今度は後ろに倒れるように大の字に寝そべると周りからの視線に絵里が顔を真っ赤にして咲の手を引っ張り上げて家の中へと強引に招き入れた。
そして、絵里の部屋で珈琲を飲む2人はやっと落ち着いて来たのか絵里が口を開いた。
「貴女が勉強を教わりたいだなんて明日は雨が降るんじゃないかしら?」
「いんや、異常気象で雪が降るかもな」
「ふふっ・・・でも、どう言う風の吹き回しなの?」
「そりゃあ、このままじゃアイツらの足を引っ張っちゃうみたいだからな」
「それは・・・スクールアイドルの人達のこと?」
「良くわかったな!でも、どうして絵里が知ってるんだ?」
「理事長と・・・そんなやり取りしてるのを聞いたのよ」
「生徒会長だもんなぁ~そりゃそうか!」
咲はなにも気付かずに机に向かって勉強をしていた。
そんな彼女の姿を絵里は悲しそうな目で見つめるだけ・・・。
「・・・ねぇ」
「んっ?どした」
「スクールアイドルは・・・楽しい?」
「絵里も興味あるのか?」
「いいえ、妹が興味を持っていたから少し気になっていたの」
集中して問題を解いている咲に絵里はそっと尋ねた。
嘘をついてまで知りたいことに・・・。
「楽しい・・・かな?」
「どうして疑問系なの?」
「アタシ1人だったら楽しくなかった・・・けど、あのバカや他のみんなと歌って踊ってたらいつの間にかアタシは楽しんでた。スクールアイドルが楽しいと言うかアイツらとスクールアイドルを出来ているのが楽しいな」
「そう・・・なんだか天宮さんの新たな一面を見れて嬉しいわ」
「の、希には言うなよ!アイツはいつもアタシで遊びやがるからな」
「わかってるわ、私と天宮さんの秘密よ」
「ありがとな!!」
互いの小指を結んでから2人はゆっくりとおでこを合わせると嬉しそうに笑っていた。
だが、その時絵里の小指には強い力が帯びていた。
パッと手を離すと咲は勉強を再開し、絵里は珈琲を啜りながら眺めるだけ。
そんな時間がゆっくりと2人の中を過ぎて行く。
「絵里」
「んっ?なにかしら」
「なにかアタシに隠し事してな~い?」
「・・・・・っ!?!?」
静かだった空間に咲の一言が絵里の心を揺さぶった。
恐る恐る絵里は咲の様子を伺うが、問い詰める様子もなく机に視線を向けたままだった。
絵里はそんな彼女の背中に背中合わせをするように移動して座るとゆっくりと口を開いた。
「そうね・・・咲には話していなかったけど、私はスクールアイドル部を認めてないの。あの子達の活動が学校にとってマイナスになってると私は思っている・・・だって、いきなりアイドル部を設立したい!廃校を阻止したい!よ?真剣に廃校を免れようとしていた私をバカにしてるとしか思えないわ」
「・・・・・」
「そんな彼女達のライブは貴女も見たでしょ?数えられるくらいしか観客を集められないグループなの・・・・・それなのにあの子達は・・・諦めなかった」
「・・・・・」
「挙句の果てには・・・私の・・・私の大事な人まで・・・あ、あの子達は・・・・・奪って行ったのよ?わかる、咲?」
「・・・・・」
「貴女よ!!!!」
「ええっ!?!?」
いきなり大声を出した絵里にビクッとして振り返ると今にも泣きそうになってしまっている絵里。
まさかの出来事にあたふたする咲だったが、そんなことなど気にせず絵里はガシッとしがみついて来た。
「希だけじゃなくて・・・貴女まで私から遠ざからないで・・・」
「遠ざかるもなにも・・・アタシはいつも絵里の味方だぞ?」
「本当・・・?」
「マジだ」
「・・・わ、わかったわ。珈琲淹れるわね」
落ち着いたのか珈琲を淹れる絵里の後姿に咲は大きく溜め息を吐いた。
彼女が自分の事をここまで思ってくれているなんて想像すらしたことがなかった。
「絵里」
「なに?」
「スクールアイドルに本当に興味はない?」
「・・・っ!さっきも言ったじゃない私はあの子達を認めてないの。そんな私がスクールアイドルを興味を持つなんて思う?」
「そうだよねぇ~・・・忘れてくれ」
「もぅ・・・まったく」
2人は勉強を再開するも咲は見逃さなかった。
あの一瞬の驚いた絵里の表情に咲は理解出来た。
あのスピリチュアルが言っていた・・・絵里の本当にしたいことがなんとなくわかった。
だが、これは自分で言い出さなきゃならないと思った咲は黙って勉強に励んだ。
この日から絵里の家に毎日通った咲は見事赤点を回避することには成功した。
赤点ボーダーラインギリギリのロイヤルストレートだ!!
自分でも言っていて意味がわからないがなんとか難所は突破出来た。
だが、その先に立ち塞がっていた壁にまだメンバーは気付いてはいなかった。