「いらっしゃい!いらっしゃ~い!美味しい、美味しいたこ焼きはいかがっすか~!!」
秋葉原では名の知れているたこ焼き屋さん「愛Doるん♪」
たこ焼き屋にもかかわらずスクールアイドルのグッズや雑誌が取り揃えられている人気店。
男性客だけではなく女性客も入りやすい空間を作り上げている。
そんなたこ焼き屋の焼き機の前に赤色のバンダナをした咲がたこ焼きをひっくり返しながら客呼びをしていた。
小遣い稼ぎに音ノ木坂に入学してから始めたアルバイトだ。
今日は試験勉強で長期間休ませてもらっていたので、メンバーにお願いをしてお店に出ているのである。
「アイドルたこ焼き、ひとつ下さい!!」
「はい!500円になりま~す!この箱からくじ引いてください!!なにが当たるかお楽しみに~♪」
この店の人気メニューは『アイドルたこ焼き』。
10個入りのたこ焼きとスクールアイドル達のオリジナルグッズなどが手に入るアイドルくじと言うのが引けるスクールアイドル好きには堪らないメニューである。
数量ではあるが、咲のグッズも最近では作られており、用意されている様子である。
この前の出待ちの一件から制服を着ていたら一発でファンの子達にはバレてしまうのだが、こう言った仕事場ではオーラが出ていないのか間近で話し掛けても気付かれないので咲は気楽に仕事を楽しんでいた。
数日前にはA-RISEの一行が人気スポットと言う事で訪れた際にもアタシが対応したのだが、ツバサには完全に気付かれず、あんじゅには口説かれ、英玲奈には良い声だと褒められたぐらいのレベルである。
周りからアタシはどう見えてるんだろうね?
「天宮さん、アイドルたこ焼きをお、おひとつ頂けないでしょうか?」
「はい、500円・・・って、園田!?なんでお前がココにいんだよ!!」
いつもの営業スマイルで振り返った場所にきょろきょろと周りを気にしながら500円を持って立つ園田がいた。
だが、そんな事よりもこの格好なのにアタシに気付いた園田にアタシは驚いていた。
「い、いえ・・・ちょっと人気のあるお店のたこ焼きを食べてみたいなと思っていたんです!そ、そしたら・・・天宮さんが売っていたので・・・・・」
「な~る~・・・それにしてもだ!よくアタシの事がわかったな?」
「・・・・・?天宮さんは天宮さんではないのですか?」
「お、おう・・・そうだな。ほれ、毎度あり~♪」
天然で言っているのかわからない園田にたこ焼きとくじの入った箱を手渡す。
くじを引く彼女の表情はわくわくしている子供のようだった。
「あっ、天宮さん!!お話があるのですが・・・・・」
「んぁ?この後休憩入るからその辺で待っててくれないか?」
「わかりました!あのベンチで待ってます」
そう言って園田がベンチに座ってたこ焼きを楽しんでいるとバンダナを外した咲が缶ジュースを2本手に持ってやって来た。
「景品忘れてたぞ」
「あっ、すみません・・・これは?」
「アタシのブロマイドだよ」
「やっぱりここでも男物の服装なんですね」
「はぁ・・・スカートは気に入らないんだよ」
「では、今度ことりに長めのスカートを・・・」
「今の話を聞いてたか?園田」
「・・・ふぁい」
園田の両頬を掴むように黙らせて怒りに満ちた笑みを見せると小さな返事が帰って来たのを確認すれば、解放してやった。
「それで、アタシに相談ってなんなんだ?」
「生徒会長にダンスを教わろうと思うんです」
「ほぅ・・・それで?」
「驚かないのですか?」
「この前のテストは生徒会長の所で世話になっていたからな。その時に昔の話題になった時、絵里がアタシの前でバレエを披露してくれたよ」
「はい、生徒会長の踊りを観ていたら私達の踊りなんてまだまだだって・・・・・」
「でも、あんなに毛嫌いされてるのにダンスレッスンとかお願いできるのか?」
「そ、それは・・・難しい所ではあると思いますが・・・・・」
親指の爪を噛み締めながら必死にどうして生徒会長に取り繕うか懸命に悩む海未。
そんな彼女を横に缶ジュースを開けて一気にそれを飲み干すと咲は海未の頭をポンポンと叩く。
「よっしゃあ!生徒会長にお願いする件はアタシに任せとけって」
「天宮さん・・・・・」
「お前はあいつらにこの件を伝えてくれ」
「みんな・・・どう思うでしょうか?」
「う~ん・・・あのバカは必ず賛成って言うと思うぜ」
「穂乃果・・・ですか?それは、どうして?」
「勘だよ、勘!!アイツの性格だとノリノリでやりたいって言うと思うよ!」
「ふふっ・・・天宮さんも穂乃果の事がわかって来たんですね」
「チッ・・・知りたくもねぇけどな」
「それではバイトの方頑張って下さい!」
「おう!園田もしっかり説得しとけよ~」
一礼してからこの場から去って行く海未。
1人残された咲はすぐに携帯を取り出すと用件だけを生徒会長に伝えたのであった。
「これがさっちゃんのメニューだって!!」
「うへぇ~・・・コレはなかなかにハードメニューですなぁ~」
「当ったり前よ!にこなんて筋肉痛になっちゃったんだから!!」
「もうそれ今日会ってから6回目だからNGワードね」
「ひどっ!?NGワードってなによそれ!!!!」
絵里のダンスレッスン2日目。
1日目はバイトで参加出来なかったが、にこ辺りからのLINEでのやり取りで相当ハードメニューなのは想像が出来た。
だが、今日渡されたメニューを見た感じでは絵里なりに本気でやっている事は理解出来た。
それでも彼女達は屈せずに今日もダンスレッスンを願い出たと言う。
不意に扉が開くと凛に背中を押されながら絵里が到着した。
「おはようさん」
「・・・・・えぇ」
「まずは柔軟ですよね?」
「辛くないの・・・昨日あんなにやって今日も同じことをするのよ?第一上手くなるかどうかもわからないのに・・・・・」
「やりたいからです!!」
穂乃果のまっすぐな言葉に絵里は驚いたように固まってしまう。
「コイツらは本気なんだってさ」
「さっちゃん・・・」
「絵里のメニューがキツイ!!って、こいつら言ってるけどさ、どっかの誰かさんみたいに廃校を阻止したい気持ちで動いてるんだって」
「・・・・・っ!!」
「だから、今日も面倒見てくれないか」
「「「よろしくお願いします!!!!」」」
全員が頭を下げる中で絵里と咲だけが目を合わせていた。
なにも言わず、ただじっと見つめ合う。
すると下唇を噛み締めた絵里はそそくさと屋上から出て行ってしまう。
いきなりの事にメンバー全員が追えずにいた。
だが、咲はなにも言わずに彼女の背中を追った。
絵里の姿が見えた咲は声を掛けようとしたが、先客がいたのに気付くと話が聞こえる位置で隠れて耳をすませる。
いつもアイツがしているように口出しはせずに見守るだけ・・・。
絵里と先客の言い合いが静かな廊下に響く。
そして、涙を浮かべて走り去る絵里を追うことはせずに咲は先客の元に向かった。
「アレが絵里の本当の気持ちねぇ~」
「・・・不器用で素直になれへんかったからえりちはずっと自分のやりたいことが出来へんかったんよ」
「誰かの為に頑張るのは良いことなんですけどね・・・ほれ、鼻水出てるぞ」
「・・・・・ありがとう」
「絵里はアタシに任せとけ!お前はあいつらを・・・なっ?」
「お願い・・・な」
手渡したハンカチで涙を拭った希は咲に絵里のことを託してあの子達の元に向かう。
そんな彼女を見送りつつ、ポケットから棒付きの飴を取り出すと口の中に放り込んで絵里を探す。
「私の・・・やりたいこと」
親友である希とぶつかってしまった。
亜里沙にも言われた私自身でも少しは気付いていた。
本当に自分がやりたいと思っている事。
希に強く言われて私は確信した。
本当は・・・私・・・・・。
「おっ!こんな場所に居たんだぁ~え~りち♪」
彼女の笑顔が目に入って来るとさっきまでの辛い気持ちがちょっと和らぐような気がする。
彼女はいつも笑顔で私の前にやって来てくれる気付いてるのか気付いてないのかわからないけど、私には些細な事でしかない。
スッと前の席に背もたれに前のめりになるように座って私の顔を見つめて来る。
けど、彼女は一言も喋ろうとはしない。
そんな彼女だけど、私も何も言わずに外の景色を眺めていた。
「絵里、泣いてたでしょう?」
「えっ?」
「ほれ、アタシのお気に入りの飴ちゃんあげる♪」
「・・・ありがと」
やっぱり彼女は優しい。
いつも、私の些細な事に敏感に気付いてくれる。
希が連れて来て初めて逢った時からそうだった。
ガラの悪い子だと見た目でそう思ってたけど、希だけじゃなく私にもいつも優しかった。
でも、この常夏サンシャインサワー味って美味しいのかしら?
「なにかあったんなら言ってみ」
「希に怒鳴っちゃったの、私・・・つい、希に言われた事にカァーッとなっちゃって・・・・・」
「希はなんて?」
「私の本当にやりたい事は・・・・・って」
思い出してしまう。
さっき怒鳴っていた時の聞いている希の顔を・・・。
自分ではわかってた・・・本当はやりたいんだって!
けど、認めたくない自分が居て、不器用にも頑固になって私は親友にあんな言葉を・・・。
後悔でいっぱい・・・・・。
「じゃあ教えてくれるか?絵里の本当の気持ち」
「アイドルを始めたい・・・いや、私もスクールアイドルを始めたいの!!!!」
「・・・そっか、じゃあどうしましょうか?皆様方?」
本当の気持ちを打ち明けた。
何も隠す事のない本当の私の気持ち。
そして、彼女はギュッと両手を包んでくれた・・・そして、彼女の視線の向こうにはみんながいた。
「はい、絵里先輩!一緒にスクールアイドルしましょう!!」
「い、いまのは・・・・・」
「やりたい気持ちに理由なんていらねぇ・・・やりたいんならやった方が幾分か増しだぜ?」
「そうやね、本当にやりたい気持ちって言うのんはそんな感じで始まるんとちゃう?」
みんなの視線が絵里に向けられる。
そんな彼女に穂乃果は手を差し出すとガシッと握手する形になって周りからは歓声が響く。
「これで9人か」
「いや、うちを入れて10人や」
「えっ!?希先輩も?」
「ほほぅ、爆乳ガールが加われば人気も急上昇間違いなしだな!!」
「咲ちゃん、それはどう言う意味なん?」
「いや、嘘です、マジで、あの、えっと・・・すまん」
ドヤ顔で自分を人数に入れる希に茶々を入れる咲だったが、満面の笑みから滲み出る怒りのオーラを素早く感知するとロボットのようにぶつ切りで謝罪をする。
希はある一枚のカードを取り出す。
そこに描かれているのは、『天使』。
「占いで出てたんや・・・このグループは9人になった時未来が開けるって、だから付けたん9人の歌の女神「μ's』って」
「じゃ、じゃあ・・・あの名前付けてくれたのって希先輩なんですか!?」
「でも、ちょっと待って下さい!今の話だと残った1人はどうなるんですか?」
「それは・・・コレや」
μ'sの名付け親である希の話に海未はすぐに気付く。
そう、彼女が口にしたのは9人の歌の女神。
10人居る現状では可笑しい話である。
だが、その疑問に対しても希はある一枚のカードを全員に見えるように出した。
そこには白と黒の羽を持った女性が自分を抱くようにして涙を流す一枚のカード。
「コレはな・・・・・」
「堕天使・・・主なる神の被造物でありながら、高慢や嫉妬がために神に反逆し、罰せられて天界を追放された天使、自由意志をもって堕落し、神から離反した天使」
「さっちゃん?」
「もう何度も聞かされてるよ・・・耳にたこが出来るくらいにな」
「じゃあ、咲ちゃんがその堕天使になるのかにゃ?」
「そうや、咲ちゃんはうちらを導く為にこの世界に降りて来た堕天使なんや」
「バーカ、深く闇に堕ちた天使が10人目の歌の女神として降臨すんだよ!」
バッと立ち上がって先に屋上に向かって飛び出した。
それにすぐに付いて行ったのが、なんと絵里だった。
彼女はさっきまでの暗い顔ではなく、すべての想いが吹っ切れたような表情だった。