「サインが欲しい???」
それは夏休みを終えた新学期のとある一コマであった。
クラスの1人が不意に色紙と黒ペンを持ってやって来たのだ。
それには周りの生徒も言われた咲もポカンとした空気に包まれていた。
しかし、目の前の女の子は色紙と黒ペンをお辞儀と共に差し出して来たのだ。
「サインぐらい書いてやっても構わないけど、芸能人でもないヤツのサイン貰って嬉しいのかねぇ~・・・」
ぶつくさと愚痴をこぼすもサラサラっと色紙にサインを描く。
慣れた手つきでサインを描く姿にみんなは驚きを隠せずにいた。
「これでいいかな・・・はい、アタシのサイン・・・・・って、どうかしたの?みんな」
描き終わったと同時に他のクラスメイトも我慢していたのかサインを要求し始めて来たのだ。
クラスメイトの変わりように驚く咲ではあったが、慌てずに1枚1枚丁寧に対応していた。
そんな姿を目の当たりにしていた1年生3人組は話し合っていた。
「最近咲ちゃん凄い人気にゃ~♪」
「それはそうだよ!私達μ'sのRANKが19位になる前から咲ちゃんだけは女性に人気のスクールアイドルとしてずっとTOP3になるぐらい人気なんだよ!」
「そうね、あの子だけ私達よりも1つも2つも飛び抜けているのは事実ね」
「でもでも!咲ちゃんは昔と比べたらすっごく楽しそうにしてるって凛は感じるなぁ~♪」
「授業中は変わらないけど、変わったと言えば変化はあったわね」
「私達もなんだか嬉しいよね♪」
と話しているといつの間にかサイン会を終えた咲が鞄を持って立っていた。
「それじゃあバイトがあるから今日はさいなら~・・・」
「今日は学園祭の話し合いがあるって絵里が言ってなかったかしら?」
「えっ?そんな事言ってたっけ?」
「ちゃんと連絡されてるはずにゃ~!!まぁ、凛もかよちんから教えてもらったけどにゃ~」
「・・・・・今日はイベント日だから後でまた連絡くれぇ~!!」
「あぁ・・・行っちゃった」
少し考える素振りを見せたが、軽く敬礼すれば脱兎のごとく速さで廊下を飛び出していったのだ。
その後ろ姿にはもう何度目か忘れたのか呆れたように見送るだけであった。
いつものようにたこ焼きを作っているのだが、目の前では怪しすぎる変装をした常連客の1人が美味しそうにたこ焼きを頬張っていた。
「お前、ハムスターみたいになってっぞ?」
「ふぇ?ふぉんとに~?」
両頬にたこ焼きを頬張り首を傾げる女。
そう・・・A-RISEのリーダー綺羅ツバサの姿である。
ファンが見たらどう思うかは知らないが小動物みたい・・・だとは言っておこう。
いつものように『アイドルたこ焼き』を頼むツバサはあるモノ狙いで通っている。
「今日で天宮咲グッズをコンプさせるわ!!」
「本人を目の前にしてその台詞はすっごく恥ずかしいから止めてくれねぇか?」
「嫌よ、私は咲しか欲しくないの」
「はぁ・・・そんな真顔で言わないでくれっての」
愛の告白っぽく言い放つツバサに対して少し照れ気味に咲はくじの入った箱を手渡す。
すると真剣な表情で咲を凝視した直後に気合いを入れてくじを引く!!のがツバサのルーティンらしく恐る恐るくじを確認するツバサ。
「E賞!!E賞よ!!」
「そんなに喜ぶモノでもねぇからそんなにはしゃぐなっての!」
「あっ、あの男装してる咲のタペストリーが欲しいの!!」
「はいは~い・・・毎度あり~」
言われた通りの景品を手渡すとツバサは嬉しそうに飛び跳ねる。
ちなみにくじ的にははずれ枠であり、天宮 咲グッズが1つ貰えるだけなのである。
「これで咲をコンプリート出来たわ!!」
「だから本人を前にしてそんな事言うなっての」
「どうして?私は咲が好きなんだから別にいいじゃない」
「・・・・・その好きはどっちの意味で?」
「咲は・・・どっちの好きがいい?」
問い掛けに対して咲の唇に人差し指を当てて問い掛けるツバサ。
見つめ合う2人の間にしばらく静寂が包まれる。
「こほんっ!仕事中に堂々とファンの娘をナンパなんてどうかと思うわよ?」
「え、絵里っ!?!?」
不意に現れた絵里。
彼女の表情はどことなく怒っているようにも見える。
「学園祭でのステージなんだけど・・・屋上でやる事になったわ」
「野外ライブか・・・いいんじゃないの?」
「それと今回は新しい曲で挑むみたいだからまたハードレッスンになると思うわ」
「ラブライブ!出場枠決定までもう2週間切ってるしな・・・本腰入れなきゃいけねぇって訳か」
「そうね・・・それにしても穂乃果が凄いやる気だったわ。μ'sの集大成的なライブにしよう!!ってね」
「・・・・・ったく、張り切り過ぎて身体壊さなきゃいいけどな」
「その気持ちも解るけど、私達は進むしかない・・・夢の舞台に向かって・・・・・」
「あぁ・・・そうだな」
「それじゃあ私はこれで失礼するわね」
「あっ!作り置きだけど・・・ほれっ」
「ありがと♪お代は・・・」
「サービスだから貰っとけ」
「そ、そう・・・それじゃあ頂いておくわね♪また明日」
絵里はそう言って手を振って去って行く。
その後ろ姿を見送ってから仕事再開させようとしたが、とある視線に気付く。
そこには完全に無視され続けていたツバサが頬を膨らませて拗ねていた姿であった。
「・・・・・彼女?」
「どうやったらそう見えるんだよ・・・メンバーの1人さ」
「咲の所もやる気満々みたいで嬉しいわ。是非、ラブライブ!で闘いたいわね」
「その期待に応えられるように努力するよ」
「それじゃあ私も失礼するわ。家に帰ってコンプリートした咲を満喫したいの」
「ははっ・・・・・おつかれさん」
ウィンクをしてから嬉しそうに帰って行くツバサを見送ると気持ちを切り替えるように大きく背伸びをすると仕事を再開した。
しかし、咲が知らない裏で嫌な歯車が動き出したのは誰も知らないでいた。
「・・・・・これはどうゆう状況?」
学園祭までもう数日となったある日。
日直の仕事で遅れてやって来た咲は目の前の光景に苦笑いを浮かべて呟く。
「さっちゃん遅いよ~!!」
「真姫にちゃんと伝えたじゃねぇか・・・日直で遅れるってさ」
「あれ?そうだっけ?」
「そうですよ、ちゃんと真姫が言ってたじゃないですか」
「・・・・・」
「そ、そんなに睨まないでよ~2人共」
穂乃果の情けなさに溜め息をつく。
そして、練習の為にストレッチをしていたのだが、ふと見慣れない振り付けに首を傾げる。
「花陽!そんな振り付け新曲にあったか?」
「えっ?・・・あっ・・・こ、これは・・・・・」
「私が昨日家で新しく考えた振り付けなんだ!!こっちの方がカッコよくて新曲にピッタリなんじゃないかって・・・いやぁ~私って天才なのかも~♪」
「・・・・・ちっ」
上機嫌な穂乃果とは裏腹に舌打ちをした咲はストレッチを中断したと思えば、いきなり穂乃果の胸ぐらを掴んだ。
「咲っ!!」
「他の曲のおさらいだって完璧じゃない!新曲だってまだ一回くらいしか合わせてない!不安に思ってる奴が1人でも居るかもしれねぇ中でお前が搔き乱してどうすんだっ!!」
「違うよ!さっちゃん!!これはμ'sがより一層ラブライブ!の舞台へと近づく為の私なりのアイデアなんだよ!!信じてよ、さっちゃん!!」
咲は穂乃果の意見に対して何も言い返さずに軽く突き飛ばすと踵を返して距離を開けると無言でストレッチを開始した。
そんな雰囲気に全員がピリッとしていたが、穂乃果はいつもの笑顔でまた他のメンバーと会話を始めた。
咲は無表情でストレッチをしていたが、不意に視界に絵里を見つける。
「いつも怒らない咲が怒るなんて珍しいじゃない」
「・・・別に」
「私達の為にしてくれたんでしょ?」
「・・・・・」
「けど、大丈夫よ。一緒にやって来てもう気付いているんじゃないかしら・・・みんなでならやれるって」
「・・・・・どうだろうな」
その日穂乃果と咲が会話を交わすことはなかった。
練習も終わり各々帰り支度をしている中で珍しい人物に声を掛けられる。
「咲ちゃん・・・この後時間あるかな?」
「ことりがアタシに話なんて珍しいな」
「あっ・・・うん・・・そのちょっと・・・ね」
「それじゃあお気に入りのお店があるから一緒に行こうぜ♪」
「・・・ありがと」
「ことり!私も一緒に行っても・・・」
「なんだぁ~ことりをアタシに取られるのがそんなに嫌なのかぁ~?」
「そ、そそ、そう言う訳ではありません!ちょっと気になる事があるからことりと話がしたいだけです」
「冗談だっての!・・・っで、海未のヤツも一緒でいいか?」
「・・・うん、海未ちゃんにも言おうとしてたから大丈夫だよ」
どことなく元気のないことりに不思議そうに思う咲ではあったが、ここでは深く聞くことはしないがとある疑問に気付く。
何故、長い付き合いでもある穂乃果を誘おうとしないのか・・・と。
しかし、それは彼女が内に秘めていた内容で理解するのであった。
「やっぱりココのパンケーキはうめぇぇぇっ!!」
行きつけの喫茶店。
3人は窓際の席に座っていた。
「咲っ!行儀が悪いですよ」
「思った事を口にするのがどうして悪いんだよ・・・なぁ?ことり」
「・・・・・そうだね」
元気のない返事のことり。
そんな彼女の姿に咲はコーヒーを飲んでから頬杖をつく。
「好きな事の為に海外留学ねぇ~・・・アタシも海外デビューしたいな・・・・・」
「本当に貴女はことりの話を真面目に理解しているのですか?」
「失敬なっ!こう見えてもちゃんと理解してるから羨ましいと思えるんだろ?自分のやりたい事の為に行動する事は悪い事じゃないんだから」
「でも・・・そうしたらみんなとの・・・μ'sとしての・・・・・」
「ことり」
「は、はい!」
ぼそぼそと話すことりだったが、真剣な表情で名前を呼ばれるとビシッと背筋を伸ばして返事をしてしまう。
「アタシ達の事を考えてくれるのは本当にありがたい。けど、そのせいで自分のやりたい事が出来なくなっちゃうのは違う話なんだよ。ことりがやりたい1番を自分で決めるんだ・・・出来るよね?」
「・・・・・うん」
「私もことりを応援します。たとえ誰が何と言おうとも私はいつまでもことりの味方です」
「海未ちゃん・・・さっちゃん・・・・・」
今にも泣きだしそうなことりではあったが、親切にも咲がハンカチを渡してくれたのを受け取ると嬉しそうに笑顔を見せた。
「はぁ・・・にしてもこの雨はいつまで降るのかねぇ~明日のライブには止んでくれてる方がいいんだけどさ」
降り止まない雨を窓際で眺めながら咲はポツリと一言漏らす。
彼女の言葉に他の2人も心配そうに外の天候に表情を曇らせる。
そんな最中1人の少女は明日の為に雨の中最後の練習に励む。
最高のステージを目指す・・・ただ、その1つの想いの為に・・・・・。
「結局・・・雨じゃねぇかよっ!!!!」
「てるてる坊主も無意味だったにゃ~」
「凛ちゃん・・・残念だったね」
「こうなれば・・・晴れ乞いの儀式を・・・・・」
「・・・・・い、意味わかんない」
学園祭ライブ当日。
あいにくの雨にもかかわらずライブ衣装で待機をしているメンバー達。
このままでは中止ムードか・・・と思ったその時。
「やろう!ここで諦めたらファーストライブの時に諦めなかった私達に笑われちゃうよ!!」
「そうね・・・泣いても笑ってもこのライブの先に私達の未来が決まっているんだもの。やるしかないわね」
「・・・・・まぁ、ぐだぐだ言っててもしゃあねぇか!!お前らっ!行くぞぉぉぉ!!!!」
「「「おぉぉっ!!!!!」」」
咲が拳を前に出す。
すると釣られるように1人ずつ拳を出す。
咲の掛け声と同時にぶつけ合うとその拳は天井に掲げて全員が屋上のステージへと旅立つ。
大雨の中にも負けないぐらいのお客様の前でのライブ。
これまでのすべてをぶつけたステージ。
『No brand girls』
演奏が終わり、みんなが達成感を感じていた最中に悲劇は起きた。
「穂乃果っ!!」
海未の叫び声にみんなは目の当たりにしてしまう。
崩れ落ちて倒れてしまっている穂乃果の姿を・・・・・。
「至急、保健室に連れて行く!絵里、希!!この場は任せたっ!!」
「さ、咲っ!?」
「・・・っ!?全身がすっげぇあちぃじゃねぇかよっ!!無茶しやがって!!」
「・・・・・さっ・・・ちゃん」
「んぁ?なんだ」
「次の曲・・・・・折角ここまで・・・来たんだから」
「・・・っんなの言ってる場合じゃねぇんだよ!!お前が無茶したらなにも始まんねぇだろうがっ!!!!」
弱々しくも言葉を発する穂乃果。
そんな彼女を背負うと咲の表情は鬼のような形相だったとその時のメンバーは語る。
頬を伝うは、無惨にも降り注ぐ雨か・・・それとも想いの詰まった涙なのか・・・誰も気付くことはない。
当然、アクシデントにより学園祭ライブは中止。
残されたメンバーはなんとも言い表せない気持ちと共にその日を終えたのであった。