Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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取り敢えず、上下で一ヶ月も開けるのはどうかと思い、早めに更新しました。
まぁ、品質は保証しないのですが(白目)。


第8話 蒼き稲妻の煌めき 下

 蒼き稲妻が轟く。

 圧倒的な存在感を持って、紫電がバチリと弾けていく。

 まるで雲の中の様に、まるで雷が落ちたかの様に。

 その場の主たる、雷電王が発する煌き。

 それは周りの者が、気付けば肯定するであろう大いなる輝きであった。

 

「――スゲェ」

 

 思わず彼、龍之介は呟く。

 自然と、口から言葉が漏れたのだ。

 この尊き蒼光を前に、感じいらずには居られなかったから。

 

 龍之介は、自分の血が騒いでいるのが手に取るように分かる。

 気分が高揚している。

 気紛れな自然が、意思を持って現れたかの様な錯覚すら抱いてしまう。

 思わず、電磁自転車(テスラバイク)のハンドルを強く握る。

 自分が抑えられなく成りつつ有るのを、彼は理解したのだ。

 だから、この場で自分が出来ること、その思索に耽り始める。

 その間にも続く戦いに魅入りながら。

 彼の思索は止まらなくなっていて。

 

 ――静かに、森の木々がざわめき始めた。

 

 

 

 

 

 テスラは、静かにランサーを見つめる。

 先ほど語った言葉が、どう響いてるかを見極めんとする為に。

 

 独り善がり、テスラはランサーの忠義をそう断じた。

 見方を変えれば無私の心で主に仕えてるといえるが、それはどの様な主人にも召喚されれば尽くすという事でもある。

 魔術の才が優れているから?

 大いに結構、才能に魅せられるのも一つの忠義の在り方であろう。

 

 しかしだ、ランサーは言った。

 曇りなき忠義を捧げるために、召喚に応じたのだと。

 それはつまり、忠義を捧げられる相手であるのならば、誰でも良かったという事。

 ケイネス本人を見ていない。

 彼の環境がそうさせなかったのだとしても、忠義の対象の中身を彼が見ていると、果たして誰が言えようか?

 

「俺は」

 

 ランサーが、僅かに口を開く。

 声はどこか緊張を帯びていて。

 目が、覚悟を帯びた色として、強く強く意思を持ち始める。

 それは、決意の色か。

 

「俺はっ」

 

 二槍に、力が籠る。

 ランサーが握り締めた力が、そのまま行き渡っていて。

 

「決して、主を裏切らない!」

 

 出てきた言葉は、ランサー個人の決意。

 例え何を言われようと、これだけは通すという鉄の意志を持った響き。

 今のランサーには、それしか誓えるモノがないから。

 勝利と忠誠をマスターに捧げるという決意は、揺るがないという証しであると言わんばかりに。

 

「そうであろうな。

 だが、それが独り善がりだというのだ」

 

 テスラが半ば断言すると同時に、ランサーは疾駆を開始する。

 これ以上の問答は要らぬと、自分の中に湧き上がるものを殺して。

 これは戦いであり、今は敵の言葉に動かされるわけには行かない。

 それは全てが終わってから考えれば良い事だと、自分に言い聞かせながら。

 ――彼は切り替えて、テスラ目掛けて疾走するのだ。

 

「ふむ、訓練された戦士というのは、やはりやりづらいものだな」

 

 テスラは、僅かに呟いて。

 先の攻防のごとく、発雷が開始される。

 それと同時に、今度は光り輝く五つの剣が、ランサーへと殺到していく。

 弧を描くような軌道を辿りながら、雷電の剣はランサーの四方に突入していくのだ。

 

「フンッ」

 

 ランサーは迫る雷を躱しながら、雷電の剣と自らの槍をかち合わせる。

 剣はテスラが直接振るっている訳もなく、ランサーの腕力に押されて跳ね返される。

 ――まずは一つ。

 

 一歩踏み込むと、剣は左右から飛来する。

 だが、二槍使いのランサーに死角はない。

 時間差で、長槍と短槍が剣を両方退ける。

 ――二つ、三つ、共に迎撃。

 

 迎撃の隙間を縫って雷はやって来る。

 それには一歩後退し、俄かに生じた空間的余剰を持って、赫の長槍で雷をなぎ払う。

 ――重いが、収束されてないだけ随分と軽く感じる。

 

 最後の一つ、これは上方向からの襲撃。

 雷での足止めで、回避不能のスピードで剣が迫る。

 ランサーは短槍を持って、これを穿つ。

 ――全ての剣が、迎撃をされた。

 

 けれど、弾かれ、穿たれ、退けられた筈の剣達は、再びテスラの下に集いその光を輝かしめている。

 数歩進むのにこの攻防、切りがない。

 まるで塹壕戦の如き泥沼な様相を呈している。

 その事実に、ランサーは段々と戦いへと集中していく。

 僅かな失敗が、己の死に直結すると理解しているから。

 二槍の槍を持って僅かに前進していくしか手がないのも、彼からすれば歯がゆい事であろう。

 

 しかし、ここで堅実さを失っては負ける。

 ならば牛歩の如くでも、着実に前進するのが吉なり。

 そう考え、ランサーは二槍で道を切り開いていく。

 迫る雷撃、射抜く光剣、それらの悉くをいなして、一歩二歩と進んでいく。

 そこには、主に勝利をという、ランサーの執念が垣間見えていた。

 彼の矜持が、そうさせたのだ。

 

「成程、その剣は切り落としたとしても再生するのか」

 

 苦々しく、ランサーはそう呟く。

 剣の柄の部分、そこを槍で切り裂いた時には確実に剣の光は消えていた。

 しかし、気が付けば再びテスラの傍で浮かんでいて。

 限りはたったの五つであるというに、ランサーは軍勢にでも臨んでいる気分になってくる。

 そう、これは消耗戦なのだ。

 ランサーが擦り切れるか、テスラが肉薄されるかという。

 ……だが、それはこのまま戦いが推移すればの話。

 どちらかが違う行動を取れば、また違ってくるのだ。

 

「何?」

 

 六度目になるテスラの波状攻撃。

 ランサーの体が慣れてきた時、何故かその攻撃が止む。

 何故だ、そう思って……気が付く。

 ――テスラの姿が、その場より掻き消えていることに!

 

「どこだっ!」

 

 辺りを見回すが、彼の姿はない。

 目では、見えない。

 ――テスラは、己の能力を行使したから。

 

 テスラの能力。

 それは自らが雷の化身になること。

 その技能を要入れば、それこそ光の如く移動する事も可能になる。

 人知を超えた技、幻想そのものと化しているからこそ、成せる諸行。

 テスラは超高速で回り込んだ……ランサーの、背後に。

 

「なっ」

 

 それをランサーが気が付けたのは、経験と才能、後は自身が最初に取った戦術であったからか。

 跳躍する、背後から迫る雷電纏いしバリツに砕かれない為に。

 一瞬の雷鳴が轟き、ランサーは背中が冷えたのを自覚する。

 

「これも躱すか、見事だ」

 

「貴殿、今のはどういう種だ」

 

 命拾い、一瞬の隙をついての攻撃。

 持って行かれそうになったのを、ランサーは嫌でも感じたから。

 答えるはずもない愚問を、そう訊ねた後に恥じ入る。

 

 けれども、テスラは口を開く。

 なに、簡単なことだ、と前置きをした上で。

 

「単に、素早く移動したに過ぎんさ。

 お前と同じだ、槍兵」

 

「……馬鹿な」

 

 見えなかった、感じなかった。

 だからこそ、そのような事は、とランサーは思わずにはいられない。

 最速であると自負していた身が捉えられないのであれば、それはつまり。

 

「光の速さで、移動したとでも言うのか……」

 

「流石にそこまでは無理だ、精々亜光速と言ったところか」

 

 思わず、ランサーは顔を顰める。

 馬鹿げたことだが、今の事象より本当だと、分かってしまっているから。

 戯けた話だと、そう思わずにはいられない。

 

「だが、原理さえ分かれば、戦えぬことはない」

 

 けれども、ランサーは一廉の英霊である。

 先も、雷を切り裂くことに成功した。

 決して、戦えぬ相手ではない。

 ただ、通常の相手よりも難易度が高くなるだけの話。

 強大な敵こそ、戦士として相対するには誉なのだ。

 

「なればこそっ」

 

 ランサーは、更に一歩を踏み出す。

 その場に留まれば、何れは雷電の渦に飲み込まれるであろうことを理解して。

 テスラの襲撃を受けるリスクを考慮しても、踏み出す他に手はないのだから。

 

「いざ、勝負!」

 

「良いだろう、来いっ」

 

 二人の決闘は、更に灼熱していく。

 もっと燃え上がる……その、筈であったが。

 

「何?」

 

 今度、声を上げたのはテスラの方であった。

 それは、感じたから。

 この場から、去りゆく気配を。

 ――自らが、守ると確約した二人の気配。

 

「一体、何のつもりだ。

 ……士郎、龍之介」

 

 初めて、テスラから余裕が消え始める。

 守るべきものが近くになくば、テスラとてどうしようもないからだ。

 二人より別に、また違う戦いは始まっていた。

 ――士郎と龍之介、それからケイネスの戦いが。

 

 

 

 

 

 

 士郎と龍之介、彼らがテスラから離れていったのには理由があった。

 切っ掛けは龍之介、士郎はそれに同調しただけに過ぎない。

 

「なぁ、士郎君」

 

 テスラとランサーの攻防の最中、龍之介は士郎に声を掛けた。

 テスラの輝きを見てから考え始めたこと、自分に出来ることは何かという思索に、出口を見つけたから。

 だから彼は同じ船、テスラという大船に乗っている士郎へと語り始めたのだ。

 

「なんだよ、雨生龍之介」

 

 士郎は、テスラの輝きに見入っていた。

 それ故に、それを邪魔してきた龍之介に不機嫌な目を向けたのだが。

 でも、龍之介はそんな事は丸きり無視して、面白そうに笑っていた。

 

「俺たちさ、先生が必死に戦ってるのに、ここで黙って見てるだけで良いのかな?」

 

「え?」

 

 それは、士郎にしては埒外の思考であった。

 自分は無力で、ただ先生を応援するしかできない。

 そんな歯がゆさを抱いても、先生の邪魔にならないようにいようという分別は持っていたから。

 でも、それは……。

 

「俺たちにも、ちょっとは出来ることがあるんだぜ?」

 

 揺さぶられる、これでもかという程に。

 困惑と共に、少しづつ興味が士郎を蝕んでいく。

 自分だって、先生の役に立ちたいという願望があるから。

 

「……どうするんだよ」

 

 だから、士郎は耳を傾けてしまっていた。

 まるでメフィストフェレスと契約するファウスト博士の様に。

 

「追いかけっこをするのさ」

 

 龍之介が指を指す。

 その先には、ランサーのマスターであるケイネスの姿が。

 

「アイツの水銀、見てたけど中々に凄かった。

 たまたま見えたんだけどさ、黒づくめの奴を八つ裂きにしたんだ」

 

 龍之介は、アサシンがケイネスに裂かれる所を、たまたま目撃していた。

 夜の影が、龍之介の意識をたまたま上へと向けていたのだ。

 そして裂かれたサーヴァントが、テスラの語っていたアサシンであるという事も予想はつけていて。

 

「俺達がこの場から離れれば、あいつは追ってくる。

 でも、逆にそれは先生の助けにもなるんだ。

 なんたって、あの水銀さえ引き剥がせば、先生の電撃一発であいつはイチコロなんだからな」

 

 自分達には電磁自転車がある。

 これさえあれば、足で追いつけるはずもない。

 ならば追いかけてくるのは、あの水銀以外に有り得ない。

 人の足では、機械に追いつけないのだから。

 だからこそ、良い陽動になるのだ。

 

「なぁ、士郎君。

 やってみる価値はあるとは思わないか?」

 

 悪魔の如き囁き、耳から流れ込んで。

 士郎は、胸に光が灯ったように感じた。

 自分達にも、出来ることがある。

 そう考えるだけで、胸に湧き上がるものがあるのだ。

 

「先生の役に立てるんだよな?」

 

「あぁ、そうさ。

 先生の役に立てるさ」

 

「……なら、それなら」

 

 先生の役に立てる。

 そんな甘露の如き囁きに、士郎は対抗する術を持っていなかった。

 全ては、龍之介の思うがままに。

 

「行くぞ、士郎君はよく掴まってくれ」

 

「分かった」

 

 こうして、龍之介はギアを全開にする。

 士郎は龍之介の背中に移動し、強くその背を抱きしめる。

 ――そうして、電磁自転車は発進したのだ。

 

 

 

「どういうつもりか」

 

 ケイネスは、発進した電磁自転車を冷ややかな目で見ていた。

 如何にこれがケイネスであっても、罠の香りは感じ取れたから。

 行動の裏には、何か理由が存在する。

 ごく当たり前の思考ロジックであり、当然の判断。

 

 だが、これはこれでチャンスでもあった。

 あの忌々しき白のサーヴァントはランサーに掛かり切り。

 何が待ち受けているのかは知らないが、魔術の香りが全くしない子供達が何をしようとも、それは悪戯に過ぎない。

 ケイネス・エルメロイ・アートボルトは砕けないと、確信があった。

 だからか、彼は冷ややかな目を嘲笑で染める。

 

「良いだろう、乗って進ぜよう」

 

 彼は己が礼装である月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を展開する。

 彼からすれば、龍之介と士郎は無知な子羊に過ぎないのだから。

 

「些かに興は乗らんが、狩りを始めるとしよう」

 

 ランサーは思っていたよりも劣勢であるから。

 ケイネスは、必死に挑むランサーの姿があまりに頼りなく見えたから。

 自身で、何とかすることを決めたのだ。

 彼は、本質的にランサーを信頼せず、信用も薄れてきたから。

 テスラの声は、ランサーだけでなくケイネスをも蝕んで。

 

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに敗北など、ありはしない」

 

 強い決意と共に、彼は追跡を始める。

 気分は、狐を追い詰めてゆく猟師のものであった。

 

 

 

「士郎君、追いかけてきてるかい?」

 

「いいや、今は姿が見えないな」

 

 俺達は走っていた。

 電磁自転車を駆り、宵闇の中を。

 時速は大体30kmで、雨生龍之介がいう相手のマスターの水銀が追いつけると思われるスピードで走行している。

 相手がどんなスピードで追ってくるかなんて分からない。

 だから様子を見て、このスピードなのだけれど。

 ……それも、どうにも怪しく感じてしまう。

 

「来ないっていうか、そもそも来るのか?」

 

 コイツの言葉、信用したのが間違いだったかな。

 そう感じてしまう位に、静けさが今は目立っていた。

 

「その時はその時さ。

 空回りはしても、失敗はしてないって事だろ?」

 

「無駄足って素直に言えよ」

 

 やっぱりダメそうか、とため息を吐く。

 たまたま具合が悪かったのか、それとも本当に狙ったようにダメだったかのか。

 そんな邪推をしている、そんな時の事であった。

 ――目の前のマンホールが、不気味に蠢いていた。

 

「おい、雨生龍之介、あれは何だよ」

 

「ん、おぉ、何だろうな」

 

 間抜けな答えが返ってきて。

 下水が溢れかけてるのかなって、そう思ったんだけれど。

 でも、違った。

 揺れは段々と大きくなっていって。

 ――マンホールが弾け飛び、その中から銀色が飛び出してきた!

 

「おおっと、そんな所からお出ましか!」

 

「どうするんだよっ」

 

 楽しそうに叫ぶ雨生龍之介に、俺は訴えて。

 コイツは楽しそうに、こう言ったのだ。

 

「まぁ、任せときなって」

 

 ギアを使って減速し、銀色の鞭が殺到してきた場所を手前に急ブレーキをかける。

 裂くような銀色は、目の前の地面を抉り、その代わりに電磁自転車を傷つける事はなかった。

 それを確認するよりも前に、雨生龍之介は悠々と電磁自転車を走らせ始める。

 速度を、50kmまではね上げて。

 電磁自転車は、準備加速なんて必要とせずに、あっという間にトップスピードに乗る。

 

「うわっ!?」

 

 思っていたよりも早い。

 思わぬスピードに驚き、振り落とされないようにしっかりと抱きしめる。

 ……何でコイツになんか抱きしめないといけないか、分からないけど。

 

「ほらほら、来てる来てる!」

 

「お前の頭、あれだな本当に!」

 

 時折後ろをチラリと見ては、楽しそうに声を上げる雨生龍之介。

 まるで本当に追いかけっこを純粋に楽しむ子供の様に。

 きっとコイツは、これをしたいが為に声を掛けてきたのだと、そう理解できる。

 先生の為とか、口だけじゃないか!

 

「お前やっぱり嫌いだぁーっ!」

 

「良く分かんないけど楽しいぞ、士郎君!

 ハハハハハッ、最っ高にクールだぜっ!」

 

 そこはかとなくウザい。

 あと、全力で自転車を漕げ!

 ほっといたら追いつかれる。

 銀色はまだ追ってきてるんだから!

 

「これで死んだら、一生恨んでやるぅ!!」

 

 先生がいないということに、急に不安を感じてきて。

 だからか、叫んで誤魔化してしまう。

 俺達の逃避行は、まだまだ続きそうになりそうだった。

 

 

 

 ……因みにではあるが。

 士郎達の叫び声は、キチンと月霊髄液を通してケイネスにまで届いていた。

 半ば呆れつつ、罠などの存在を、もはや信じてなどもいない。

 馬鹿なやつらだと思いながらも、追撃の手は緩めない。

 それこそが、慈悲だと疑ることもなかった。

 士郎の苦難は、まだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 稲妻が奔る。

 光剣が舞う。

 大いなる雷の放流が、槍兵を包んでいく。

 

 けれども、未だ槍兵は砕けない。

 二槍を持って、駆け続ける。

 衣服は焦げ、血が滲んでも、確かな力強さがそこにはあった。

 

「……心中は察するが、それでは俺は倒せない。

 このままマスター達を追うのであれば、俺は追撃はしない」

 

 ランサーは気遣う様に言う。

 テスラに取っても、それは有難い提案であった。

 後方に不安が残るのでは、とても戦いなどしていられないから。

 ランサーとしても、戦士として今の状況は遺憾であるのだから。

 だから互いに取っても、これは有益な提案であるのだけれど。

 

「勝手は許さんぞ、ランサー」

 

 一人、ここにそれを許さない者がいる。

 狩りの最中である、ケイネスだ。

 ランサーは想像通りに押されている。

 ならば、今この機会にテスラを打倒せねば、後の災禍となるのは明白。

 ケイネスはそう考えていたのだ。

 

「わかっているな、ランサー」

 

 ケイネスは、己の令呪を撫でる。

 それだけで、十分意味は伝わってくる。

 逆らえば、令呪の使用も辞さず。

 令呪のその様な使い方は、ランサーにとって不名誉な事この上ない。

 故に、苦渋の表情でランサーはテスラを見るのであるが。

 

「構わん。

 私の作りしテスラマシンは、如何な魔術礼装も及ばない。

 それに今は、他にすることもある」

 

 テスラは言い終えるや否や、ランサーとその後方のケイネスに視線を定める。

 彼の視線は、鋭く輝く。

 成すべきことがここにあるのだと、そう信じている目。

 

「お前は、考える必要がある」

 

「……今でなくとも良い話だ」

 

「そうかな?」

 

 テスラは、ケイネスを睨む。

 だが、彼へと向けた視線を同様にランサーへと向けて。

 ケイネスは顔を顰め、ランサーはまた別の意味で顔を歪める。

 両者共に、表情にどのような意味合いが込められているのかがハッキリしている。

 ケイネスは蔑みと疑念、ランサーは傷を抉られたかの様な傷心。

 どちらも共通して言えるのは、信じなければならないモノを信じられなくなっている事。

 僅かな困惑は、確実にテスラに穿たれたものであった。

 

「お前は叫ぶべきだ。

 耐え忍ぶだけが忠誠にあらず。

 理解し合う事でこそ、本物は芽吹く」

 

「知ったような事を言う」

 

「言うさ、少なくともお前よりかは長生きだ」

 

 睨み返されても、悠然とした態度は崩さず。

 泰然とした態度で、ランサー達に挑む。

 そして、テスラは告げる。

 ランサーに、ケイネスには聞こえない声量で。

 

「だからこそ分かる。

 お前のマスターは節を曲げる輩ではない、天性の頑固者だ。

 故に、暗がりに歩みを進めるならば、引き戻さねばならん。

 お前は、ただ追随すれば良いというものではない!」

 

「……そうして、油断を誘うか!」

 

 テスラからのきつけの一撃。

 紫電が奔るが、それはランサーのひと振りにて霧散する。

 重いが、慣れてしまえばどうという事はない。

 最良の力具合で槍を振るうだけ。

 

「成程、戦いの最中であるのならば、私の言葉に耳を傾けんか」

 

「何を今更!

 騎士たる身である俺に、戦いの場で思考は不要。

 成すことを成した時こそに、考えるのだ」

 

「そうか……ならばっ!」

 

 ランサーの言葉を聞いた瞬間、テスラの姿が掻き消える。

 否、超高速で移動しているのだ。

 ランサーはそれを警戒して、動きを止める。

 どこから来るかを予測して、迎え撃つ。

 

「そこだっ」

 

 そしてランサーは、接近してくる風を感知して、その方向に黄槍を突き立てる。

 すると響くは撃鉄の様な音。

 鉄と鉄とが擦れ合う奏。

 ランサーの黄槍とテスラの機械の籠手の激突。

 何度繰り返されたか分からぬ光景。

 ――けれども、

 

「はぁっ!」

 

 ランサーは二槍使い。

 大振りで近接では使い辛い赫槍だが、この瞬間は外しようもない。

 彼の一撃が、テスラに迫る!

 

「甘いっ」

 

 けれど、それすらもテスラは防いでしまって。

 両槍は、テスラに掴まれて動けない。

 テスラも、両槍を掴んだことにより膠着する。

 両者動けず、拮抗したまま動かない。

 ランサーが引き剥がそうと槍に力を込めるが、僅かに震えるだけで。

 

「膠着、か」

 

 苦々しい表情がランサーを覆う。

 が、しかし、テスラは笑った。

 嫌な予感が、彼を襲う。

 ――敗北の、予感が。

 

「手が使えずとも」

 

 ――テスラの脚が、輝いて。

 

「バリツは脚でも使える、憶えておくが良い!」

 

 ――ランサーの腹部を強打する。

 ――雷電の輝きを持った一撃が、今彼に炸裂したのだ!

 ――雷鳴轟く、黄金の蹴りが!

 

「ガァッ!?」

 

 ランサーの口から、反射的にくぐもった悲鳴が漏れる。

 確実な一撃、並ならば死を垣間見るほどの。

 全身が麻痺し、体が鈍くしか動かない。

 勝負は、付いた。

 そう、ついてしまった。

 

 ――一発の、銃弾によって。

 

 

 

 

 

「ん、あれ?」

 

「どうしたんだ、士郎君」

 

 月霊髄液と地獄の徒競走を開始していた、士郎と龍之介。

 だが、それは士郎の声によって終わりを告げた。

 追いかけてきた水銀は、その場にぶちまけられる。

 それは水溜りになって、遂に動かなくなったのだ。

 

「先生が、やったの?」

 

 自転車を止めた龍之介に、士郎は尋ねる。

 けれど、龍之介はさぁ、と肩をすくめる。

 分かんなさいさ、と適当に答えて。

 

「どういうことだよ」

 

「まぁ、現場に戻れば分かるって事さ」

 

 首を傾げる士郎に、龍之介は笑顔を一つ寄越して、再び自転車を漕ぎ始める。

 逃走を始めた地へと、テスラの元へと。

 

 

 

 

 

「ガ」

 

 目を見開いたのは誰か。

 ランサー? テスラ?

 あぁ、彼らも確実にソレには注目していた。

 だが、一番信じられないのは、確実に彼であろう。

 

「ガアアアアアアッ!!!」

 

 彼、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは絶叫する。

 己の前に落ちている、己の令呪が刻まれた手を見て、だ。

 

「随分と、無粋な事をする」

 

 もう一撃、飛来した銃弾を機械の籠手で叩き落として、テスラはその方角を睨む。

 方角、アインツベルンの森と呼ばれる場所を。

 

 狙撃手は二発目を放った後に、早々と離脱を開始している。

 ずっと、千載一遇の機会を狙っていたのだろう。

 ランサーが倒れた今こそが、その時だと思ったのだ。

 けれど狙撃手、衛宮切嗣はまさかランサーと交戦していた白のサーヴァントに邪魔されるとは、微塵も思っていなかったのだろうが。

 

「あ、主!?」

 

 悲鳴とも付かない声を上げて、ランサーはケイネスに駆け寄る。

 ケイネスの姿、片腕が千切れていて肉と骨が露出している。

 周りには肉片が四散しており、重症であるのは一目瞭然。

 恐らくは肺にもダメージが届いているだろう。

 常人ならば、数分で死亡していてもおかしくは無い傷。

 だが、ケイネスはロードと呼ばれる程の魔術師。

 一族の魔術の結晶たる魔術刻印は、彼を活かそうと体を活性化させる。

 死ではなく、生かす方向へと天秤を傾ける。

 それは魔術師という、一族の執念の結晶がこそ成せる技であった。

 

「主! お気を確かに!!」

 

「やめておけ、恐らくは魔の法理がお前のマスターを仮死状態に誘っただけだ。

 死が遠ざかれば目も覚まそう」

 

 目を瞑ったケイネスに悲痛な声を上げていたランサーだが、テスラの言葉により、その口を閉ざす。

 そして主からテスラへと、視線を映す。

 彼の目には、黒の襟巻も、機械の帯も籠手も見当たらない。

 戦闘は終了したと、テスラは暗に告げていたのだ。

 彼は語る。

 ランサーへと、今だからこそ。

 

「今後、お前とマスターの在り方は形を変えることだろう。

 今まで以上に当たられる事も多くなるに違いない。

 だが、それでいてもなお、お前が忠誠を捧ぐというのであれば」

 

 ――彼の瞳、深い色を湛えて。

 ――思慮と意志が、そこにはあった。

 

「お前が、マスターを救うのだ。

 主としてでなく、そこに蹲っている一人の人間を見てだ」

 

 言い終えるや否や、テスラは行け、と指示する。

 ケイネスは魔術刻印で生き延びてはいるが、重症には違いないのだ。

 適切な治療を施すことで、目が覚める時間は、大きく進むであろうから。

 

「情け、ありがたく頂戴する。

 忠告もまた、然りである」

 

 そう言うと、彼は痺れる体を引きずって、ケイネスを抱える。

 両手で、傷つけない様に留意しながら。

 

「では、御免!」

 

 ランサーは跳躍する。

 一刻も早く、治療を施せるであろうケイネスの相棒たるソラウのいる双子館へと向かう為に。

 その後ろ姿を確認して、彼は一つ溜息を吐いた。

 

 

 

「今宵の戦いは、これで終わった、か」

 

 さて、後は馬鹿どもを回収に。

 そう考えた傍から、声が聞こえてきた。

 おーいとか、先生とか、そんな声が。

 

「全く、帰ったら絞らねばならんな」

 

 どの様に雷を落としてやるか。

 そんな事を考えながら、テスラは猛スピードで接近してくる自転車に手を振り返す。

 それに笑みが帰ってきた事で、実感はより深まった。

 

 ――今夜の決戦、それが終了したのだと。




マスターのバリツは最強なんだ(雁夜おじさん並感)。

そしてケイネス先生、無事に狙撃された模様。
そりゃアインツベルンの森の近くで戦闘なんて始めた日には、切嗣に嗅ぎつけられます。
でも、幸いなことに、森の中からの狙撃だったからか、ケイネス先生が無駄に大仰な仕草で動いてたからか、無事に心臓は逸れた模様。
龍之介の奇行については、次の話で本人がマスターに釈明するでしょう(適当)。
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