Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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第9話 インターバルⅡ

 

 夜の暗がりが明けゆき、朝日が登り始める頃合い。

 双子館の一室には鉄の臭いが立ち込めていた。

 おびただしい程の血臭、大きな流血を伴ったであろう物が酷く鼻に付く。

 そのあまりの生々しさに、ソラウは息を呑んだ。

 何が起こったのか、正確に理解したがために。

 

「ねぇ、ケイネス?」

 

 ランサーが運んできた彼、隻腕となったケイネスに声をかける。

 苦しそうに呻きながら、けれども僅かながら意識を取り戻していたようで。

 ケイネスは苦しげにではあるが、ゆっくりとソラウの方へと顔を向けた。

 

「大丈夫?」

 

 一言、そう声をかける。

 何気ない一言に感じるが、そこにソラウが思う全てが込められていた。

 このまま何も手を打たねば、ケイネスはずっと血を流しつつける。

 生きてはいられるが、それは魔術刻印が彼を生かしているだけ。

 このまま放置すれば、彼はここで永遠の苦痛を味わうであろう。

 つまりは、ソラウにとってそれは本意ではない。

 ケイネスは、この地にいる彼女の手綱なのだから。

 

「……無事とは、言い難いな」

 

 プライドの高いケイネスとはいえ、この状態で強がれはしない。

 自身が瀕死であるということは、彼とて承知しているのだ。

 だからこそ、手短に用件を告げる。

 

「蒼、崎……橙子に、連絡を取ってくれ」

 

 途切れ途切れに、彼はその名を告げた。

 蒼崎橙子、赤の称号を持つ稀代の人形師。

 ケイネスが口に出した人材が必要なのは、ケイネスが何よりも分かっていた。

 彼女の手さえ借りられれば、自らの腕は再び繋げられる、動けるのである。

 借りを作ってでも、彼は彼女を頼るしか選択肢が無かったのだ。

 

「ロードの、名さえ告げてくれれば、引き受けるだろう……」

 

 そう言い切ると、ケイネスは静かに目を閉じた。

 これ以上体力を使う訳には行かないから、魔術刻印が彼を眠りの世界へと誘ったのだ。

 そうして、その場にはソラウと沈痛な顔をして一言も発さないランサーが残されるのみ。

 ジッと立ち尽くすソラウに、ランサーは気遣わしげに声をかけた。

 

「ソラウ様、思うところは有るでしょうが、今は早く行動に移りましょう。

 でなければ、主は……」

 

 顔を伏せて、悲壮さを滲ませるランサーを見ながら、ソラウの目は一箇所に固定されていた。

 ケイネスの残っている腕、令呪が残されている手の甲をだ。

 死を感じているケイネスを傍目に、ソラウは計算する。

 もしここで、ケイネスの令呪をソラウが受け継いだのならどうか、という仮定である。

 

 自身がランサーの主になる。

 ソラウにとって、それはとても甘美な響きを持つ誘惑であった。

 ……けれども、だ。

 

 ソラウは目を、ランサーへと向ける。

 どうしようもない程、落ち込んで沈んでいる槍兵を。

 恐らくは、このままケイネスからマスターが変われば、彼にとっては自害するに等しい屈辱となるであろう。

 それほどに、彼が忠義に掛ける思いは重い。

 そしてそれを押しのけてまでソラウが主になっても、ランサーとの中には不和しか漂わないであろう。

 そこまで考えて、彼女は決断した。

 ランサーに告げてから、外に出て、近くの公衆電話にまで向かう。

 そこで、彼女はある場所へと電話を掛けたのだ。

 

 数回の甲高いコール音後に、電話は繋がる。

 相手の僅かな息遣いを感じながら、ソラウは一気に述べ立てる。

 

「ロード・エルメロイより、貴方に依頼があります」

 

 ほぅ、と面白そうな、それでいて面倒くさそうな声が返ってくる。

 女の声、それも食わせ者であろうことを伺わせるような。

 

『用件を聞かせてもらおうか』

 

「貴方に、ロード・エルメロイの治療を依頼したいの」

 

『生憎と、私は医者では無いのだがね』

 

 鼻で笑われる屈辱に耐えながら、それでもソラウは続けた。

 

「それを押しても、貴方に頼みたいのよ」

 

『……まあいい、具体的に告げてもらおう』

 

 彼女、蒼崎橙子は意外なほどあっけなく了承した。

 それは、時計塔のロードに貸しを作るのも悪く無いと考えたからか。

 何にしろ、ケイネスは無事に助かる流れがきていた。

 

「部位欠損よ、片腕がモゲたの」

 

 それから、二三会話を重ねて、早急に彼女達は会合する事となった。

 場所は、冬木の外。

 彼らは、一時この街から離れることになったのだ。

 しかし、これは彼女達の脱落を意味することではない。

 一時の離脱に過ぎず、何れは舞い戻るための準備に過ぎない。

 

「……この闘い、是非ケイネスには勝ってもらわないと」

 

 そんな中で、ソラウは一人誰も見ていない所で呟く。

 胸の内には、泣き黒子の彼の姿。

 彼には願いが無いと言っていた。

 ならば彼には、私の願いを聞いて貰いたい。

 彼が現代(いま)に残るという、そんな選択を。

 それが、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの幸いなのだから。

 

 

 

 

 

 森の中にそびえ立つ古城。

 アインツベルンの所有の城には、僅かながらに灯りがあった。

 灯り、ぼんやりとした人の営み。

 

 その明るみの一室にいる男、衛宮切継は手を組んで椅子に座り、どこか遠くを見ていた。

 ……いや、彼はどこも見ていない。

 彼の意識は、自らの内に沈んでいるのだから。

 

 ――正義の味方、白い男はそう名乗った。

 

 それを聞いた時、切継は唾を吐きつけてやりたい衝動に駆られた。

 よくも英霊にもなった存在が、その様な言葉を口に出来ると、本気でそう思った。

 

 だか、どうであろうか。

 あの男を、あの輝きを見たとき、確かに切継は感じたのだ。

 

 ――暖かい、目映い、と。

 

 どうしようも無いほどに、切継の中で何かが崩れそうになる。

 まるで絵本の、いや、コミックの中から登場した様な彼に思ってしまったのだ。

 これが、正義の味方か、と。

 

 そう僅かに思ってしまったところで、彼は頭を振るう。

 己の正義、矜持、歴史が、それを拒絶しているのだ。

 アレの在り方で、一体どれだけの人間が救えるのだと。

 自己満足の為に、一体どれだけの人間を見捨ててきたのだと。

 そう考える事で、切嗣は己を確固たるものとする。

 

 ――だけれども、それでも彼の言葉が頭を過る。

 

 まるで呪いのように、何度も、何度も。

 

 ――冬木市聖杯戦争に参加せし七人のマスター並びに、冬木市一般市民の諸君――

 

 輝きを宿した言霊が、切嗣に纏わりついて。

 

 ――私が、この手で、救ってやる――

 

 あぁ、何て傲慢(眩さ)

 アレには、救う意志と覚悟がある。

 正真正銘、人を助けるが為の幻想(超人)であろう。

 在り方が人間としては、ズレているのだ。

 代償行為ではない、使命として彼はそこに在った。

 

 完全無欠の正義の味方。

 僅かに彼を見ただけで、切嗣にはそれが分かってしまっていた。

 自分と同じで、全く違う者が故に、理解してしまったのだ。

 

 ――だから、どうだというのだ。

 

 切嗣は買ってあった”おいしい水”のペットボトルを頭から被った。

 自分を取り戻す為に、今までを思い出すために。

 自分の軌跡、後悔に満ちていたとしても、間違っていたとは思っていない。

 今までの自分があるから、悲劇を繰り返させないと強く思うのだ。

 

 だからこそ、衛宮切嗣は負ける訳にはいかない。

 背負っているもの、歩んできた道があるのだ。

 屍で舗装してきた道、そうまで出来たのは己が正しいと信じていたから。

 だからもしも負けたのならば、

 

 ――それは、衛宮切嗣の存在自体が間違いだったという事に他ならない。

 

 故に負けられないと、切嗣は強く思った。

 己が経験を持って、彼は理解している。

 この世には、様々な不条理があることを。

 ならば、それから人は救われなくてはいけない。

 でなければ、本当に救いがない。

 

 心に湧いた気持ちが、誰にとっての救いか切嗣も理解している。

 だが、だからと言って、彼は自分が間違っているとは思っていない。

 もうこれ以上、衛宮切嗣(哀れな被害者)を量産などさせたくないのだ。

 

 だから、勝とう。

 どこか淡い目で、切嗣は気持ちを固めた。

 そこで、どこからか妻の声が聞こえてきた。

 アイリが、自分を探しているのだと即座に理解する。

 

 彼女の為にも、負けられない。

 彼は強く、手を握り締めた。

 爪を立てて、己に刻み込むように。

 

 ――衛宮切嗣は、やはり正義の味方である。

 

 それが、彼にとっての変えられない在り方。

 孤独な、彼一人の道であった。

 

 

 

 

 

「せんせー」

 

「何だ、龍之介」

 

 あの夜が明けて、俺達は無事に三人で帰って来れた。

 帰った、と言っても雨生龍之介の家だけれど。

 でも、確かに三人揃って今ここにいるのだから、俺達は何とかなったと見るべきなのだろう。

 急に雨生龍之介があんな事言うから、ちょっとびっくりしたけれど。

 結果的に、先生を助けることができたのかなぁ、とは思っている。

 思っているから……ちょっと納得いってない気持ちもある。

 

「何時まで正座しとけば良いんですかー」

 

「反省するまでだな」

 

「もうしてまーす」

 

「嘘をついたな、もう一時間だ」

 

「えぇー」

 

 そう、俺達は絶賛正座中。

 座り始めてもう三十分であり、足は痺れて感覚はなく既に座っているのも辛い状況。

 悪い事なんてしてないはずなのに、この状態。

 雨生龍之介も、すごく嫌そうな顔をしている。

 俺としても、この処遇には思うところがある。

 どうして? とか、何で? といっぱい思ってしまっているから。

 

「先生、何を反省すれば分かりません」

 

 だからちょっと生意気かもと思ったけれど、俺は先生にそう言った。

 先生の目を真っ直ぐに見て、生意気かもしれないと思いつつも視線を鋭くして。

 すると先生は正座をする俺の前に来て、睨み返すように俺の事をジッと見つめてきたのだ。

 

 絡み合う視線と視線。

 自分は悪くないと思ってるのに、何故だか疚しさを感じてしまう。

 そんな、よく分からない居心地の悪さを覚えたのだ。

 

「士郎、一つ言っておこう」

 

 そして先生は、俺をジッと見たまま語りだした。

 その目は、どこか深く、底が見えない。

 だけれども、どこか暖かさを感じて。

 怖いとは、微塵も思わなかった。

 

「私はお前を守る、何があってもだ」

 

 どこか誠実さを感じさせて、静かなのに力強い宣言。

 だから自然と聞き入ってしまっていて。

 気付けば、痺れる足を無視して、背をしっかり伸ばしていた。

 

「だからといって、好き勝手されては守れるものも守れない。

 自ら死地に飛び込まれてはな。

 お前達は、私の後ろに居ればいい」

 

 確かな自信を持って、先生はそう告げた。

 それは恐らく真実で、先生一人の方が上手くやったのかもしれない。

 そう分かって、心が重く感じて。

 でもっ、と強く思ってしまう。

 だってそれは……、

 

「先生、俺に出来ることって、何もないんですか?」

 

 つまりは、そういう事になるのだ。

 何も出来ない子供で、役に立たない。

 それは先生が良くても、俺が嫌だった。

 

 だから、あの時は役に立てたと喜びを感じたのに。

 もう、俺は何もせずに、先生の後ろに隠れることしか出来ないのであろうか?

 そう考えると、虚無感にも似た感覚に襲われて。

 

 そんな俺に、先生はポンと頭に手を置いて。

 雑に俺の頭を撫で回したのだ。

 

「先生……」

 

「聞け、士郎」

 

 何か言おうと思って見上げた俺に、先生は語る。

 言葉に力を込めて、染み込ませるようにして。

 

「私には、輝きが必要だ。

 何者にも消されること無き、黄金の如き輝きが」

 

「輝き?」

 

 聞き返す俺に、先生はそうだ、と返事をして。

 頭に手を置いたまま、言ったのだ。

 

「人は、誰しも輝きを持っている。

 どんな色でも、その者特有の輝きをだ。

 なれば、己の輝きこそを見つければいい」

 

 然すれば、と先生は頭に置いていた手を退けて。

 代わりに、両手を使って俺を立ち上がらせる。

 正座の痺れで横転しそうな俺を支えながら、先生はサラリと告げた。

 

「だが、お前は私のマスターで、だからこそ輝きを持たねばならない。

 私のマスターである、お前にだからこそ出来ることだ。

 それがあれば、私はどこまでも戦える。

 お前が、私を固定する軸になっている」

 

 無表情なのに、どこか優しく見える表情で先生は言って。

 穴の空き掛けた心が、塞がっていくように感じた。

 自信なんて無いし、先生の言うことの半分も理解できていないと思う。

 だけれど、俺はまだ先生の傍に居てもいいんだと思えて、それがどこか誇らしい。

 何も出来ない不安も、どうしようもなく感じる焦燥も、どちらも消えた訳ではない。

 けれど、自分で考えられて、出来る範囲でやっていこうと思えたから。

 

「良く分からないけど、頑張ってみるよ」

 

「そうか」

 

 先生はやっぱり無表情でそう呟いて、ポケットの中に手を突っ込んだ。

 ポケットの中から出てきたのは、何故かゼリービーンズの入った瓶で。

 

「いるか?」

 

「……貰う」

 

 キュポン、とコルクの蓋を抜いて二三粒もらった。

 赤、青、緑と色んな色がある。

 色は薄くて、つい玩具じみてるな、と思ってしまう。

 そんな事を考えつつ、それらを口の中に放り込んだ。

 何回か咀嚼した後に飲み込み、そして感じたこと。

 それは……、

 

「……甘い」

 

「ゼリービーンズだからな」

 

 後味の甘さにちょっと引きつつ、先生を見上げる。

 すると先生は、何故だか得意そうな顔で。

 つい、ちょっと気になった事を、俺は尋ねてしまっていた。

 

「先生は、ゼリービーンズを食べるのか?」

 

「いいや、食べない」

 

 即答であった。

 なら、何で持ち歩いてるんだろう。

 何て疑問がムクムクと湧いてきて。

 先生に対する疑問が、ちょっとばかり大きくなった瞬間であった。

 

「なー、先生。

 士郎は許されたってことは、俺も同じく許されても良い頃じゃないか?」

 

 だけれど、そんな疑問はどこか情けない声を上げて不平不満を垂れ流してる奴のせいでどっかに行った。

 雨生龍之介が、どこか死んだ目で俺と先生を見ている。

 よく見ると、既に脚がプルプルとしていた。

 限界です、先生! と訴えているみたいだ。

 

「教唆犯と実行犯、お前は両方だ。

 なれば、それを自覚せぬと成らんだろう」

 

「はい、してます。

 もうしてますって!

 そもそも、俺だって無意味にあんな事した訳じゃないですしー」

 

 反省の”は”の字も見せずに、堂々とそんな事を述べ立てる雨生龍之介。

 こいつの丁寧語は、正しく慇懃無礼を地で行き過ぎて、先生じゃなかったらこめかみがピクつくと思える態度である。

 それも、こんな状況でも一切怯んでないのだから図太い事この上ない。

 まあコイツが怖がったり反省したりする姿など、想像すら難しいのだけど。

 

「あの時、確かお前は先生の助けになるって言ってたよな?」

 

「事実そうなってるって」

 

 思い出したことを訊ねると、実に饒舌に雨生龍之介は語る。

 聞いてもいないのにベラベラと。

 俺としても、そこら辺は聞きたいから黙っていたけれど。

 

「俺があんな事をしたのは、あの水銀を先生から引き離すってのがまず第一の目的だった訳だよね。

 結果、俺達は弱っこいから相手は調子に乗ってこっちを追いかけてきた、大成功って訳」

 

 まあ、ランサーとかいう奴が先生に苦戦してたのもあるけど、と注釈まで付ける。

 確かに、と思った。

 確かに、こいつの言う通りランサーのマスターは誘いに乗ってきた。

 こいつは何ら能力は持っていないが、その鬱陶しい行動力と胆力で、それを成功させたのだ。

 続けて、こいつは語っていく。

 

「でも、そのままじゃあ俺達は死んでしまう。

 先生も強いけれど、相手もそれなりにしぶとい。

 時間だって掛かるし、俺達的にはそれが問題だったのさ」

 

「どういうことなんだ?」

 

 よく分からずに尋ねると、雨生龍之介は待ってましたと言わんばかりに口を動かしていく。

 楽しげに、子供が書いた絵を親に自慢するかのように。

 

「だってあそこ、敵のマスターが近くにいたんだろう?

 ランサーのマスターは最初に、お前達もアインツベルンが狙いかって言ってた。

 ならそれは、そこから近距離に、アインツベルンって奴らのアジトがあることを意味している。

 だってじゃなきゃ、あいつらは正反対の道から来た俺達に、そんな事を尋ねる訳がない。

 あの立地的に、恐らくアインツベルンさん家は森の中なんだろうし」

 

 目を丸くして、俺は話に聞き入っていた。

 驚いた事に、すごくそれっぽく聞こえる。

 マスターも感心したように、ほぅ、と小さく声を漏らしていた。

 つまり、こいつの言っていることは間違っていないという事なのだ。

 

「ならさ、あんな所でグダグダやってたら、玄関先で暴れている奴らを襲撃するのにアインツベルンがやって来る。

 そうなれば、奇襲を受けた方は相当不利だろ?

 なら俺達はあの場から離れるのが最適解だし、銀色を引き剥がされたランサーのマスターの方にアインツベルンが攻撃するのは道理とも言える。

 マスターに攻撃しても直ぐに受け流すだろうし、何ら俺達に害はない。

 むしろ勝手に潰しあってくれて万々歳!」

 

 どう? わかった?

 そう無邪気に訊ねてくる雨生龍之介に、今度こそ俺は本気で感心していた。

 絵に描いた餅そのものだけれど、事態が確かにそんな風に推移したのは間違いがない。

 机上の空論だったそれを、こいつは見事に実戦の場で形にしたのだ。

 間違いなく、何も考えてなさそうに見えて、こいつは頭を回している。

 それが恐ろしくて……でも、今はちょっぴり頼もしかった。

 

「成程、確かな戦術眼だ」

 

 先生も、そう頷いて。

 認められてすごい、と今だけは珍しく雨生龍之介に尊敬の視線を送っていた。

 ……が、しかし。

 

「だが、それはお前が愉悦を覚える為に行動して件とは、また別だろう。

 口だけは達者だが、心から滲み出る衝動は隠せてはいない。

 お前の楽しみの為に士郎を巻き込んだ。

 一歩間違えれば、死と向き合わねばならぬ舞台にだ」

 

 そう言って、座っている雨生龍之介に近づいていき、先生はおもむろに拳の形を作った。

 そして、それを振り上げて。

 

「反省しろといったはずだ、龍之介」

 

 軽く、あいつの頭の頂点に落としたのであった。

 

「うげぇ、響いてるよ、これ」

 

 頭を揺らしながらそういう雨生龍之介。

 軽く落とした拳骨でも、結構なダメージが入るらしい。

 まるで二日酔いをこじらせたお父さんみたいだ。

 苦しんでいる様子を見るに、ありありとそれが伝わってくる、

 そして拳骨を落とし終えた先生がこちらに向いて一言、

 

「士郎、お前はこうには成ってくれるな」

 

 そう言ったのに対して、俺は静かに頷いた。

 一瞬でもすごいと思ったのは、もしかしたら錯覚だったのかもと思いながら。

 何気なしに、誤魔化すように窓から見上げた空は青く、何だか出かけたくなる様な陽気であった。




多分、次も続いて日常回的な何かだと思います。
具体的には、街に出かけたらライダー主従と出会った的な。
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