しばらく更新できずに、誠に申し訳ございませんでした。
……でも、クッソ話が進まないです(白目)
何かグダグダですが、許してくださいね!(開幕土下座)
あと、何故か三人称で書いてたのでそのまま書きました(士郎視点の便利さを思い知りました)。
冬木市新都、書店にて。
二人のマスター、二対のサーヴァントはそこに居た。
戦闘をするでもなく、逆に友好的な雰囲気の二組。
今もまた、この二組は愉快に、痛快に、その場に然りと存在していた。
……その原因、それは今も話している内容も、要因の一つに成りうるのだろう。
「え? ここに書いてあるの、お前なの?」
呆然とした士郎の声。
見上げている先に居るのは、偉丈夫というよりは巨漢と称した方が正しいであろう男。
その人物、ライダーは快活に笑いながら、おうよ、と士郎の問いを肯定したのだ。
「世はこのマケドニアから、大いなりしペルシアを征したのだ!」
ウムウム、ダレイオスの奴は強敵であった、などと回想する彼に、士郎は少々ばかりであるが、感心した視線を向けた。
この広大で分かり易い領土は、幼子である士郎の目から見ても巨大な成果と、一目で分かるものがあったのだ。
――一方、その隣で。
「アレイスター・クロウリーとか?」
「違うな」
「なら、マグレガー・メイザース?」
「それも違う」
「……そもそもの問題、お前って黄金の夜明けに所属していたのかよ?」
「知らんな、その様なもの」
白い男に、一つずつ人名を訊ねていくウェイバー。
しかし彼、テスラはその言葉を一つずつ否定していく。
その度にウェイバーの血圧が上がっていることを、彼は気付かないフリをしている。
遊んでいるのか、それとも面倒なのか。
普段の彼を知りうるものならば後者だと断定できるだろうが、ウェイバーは残念ながらその道の玄人ではない。
故に、その内ファックだとか、シットだとか叫びそうなくらいにフラストレーションが溜まりつつあった。
「じゃあ何なんだよ」
「教えると思うか?」
「あーっ、もう!
そうだよな、こっちのバカじゃないんだから、漏らすはずはないんだよな!」
頭を掻き毟るウェイバーを横目に、テスラは淡々と本のページを捲っていた。
成程、ふむ、などと活字に没頭する姿は、ウェイバーの事など歯牙にも掛けていない気がして、更に火に油を注ぐ事になっている。
尤も、分かっていたとしても、テスラは一向に変えようとは思わなかったであろうが。
ただテスラは、ウェイバーなどにも構わず、何か確信を得たような表情をしながら、本を読み進めていた。
ペラリペラリと、ただひたすらに。
気になったウェイバーは本のタイトルを覗き込むと、そこには単純に”歴史年表本 完全版”と題されたモノであった。
サーヴァントでも、自分が死んだ後の事とか、そういうの気になるのか? とウェイバーは推測してみせるが、その実を理解することは難しい。
なので今は、そっとテスラが呼んでいるページを覗き込む。
合っているかどうかも分からない過程をするより、僅かでも実がある行動をしようと考えたから。
だからウェイバーはその本を覗き込み、そこに書かれている年表を目に入れる。
そして目に入ってきた情報、それは近現代のこと。
産業革命、大フランス戦争、諸国民の春、第二次産業革命、帝国主義運動、一次大戦、世界恐慌、二次大戦、冷戦。
教科書に書いてある様な文字の羅列、そこからテスラは何を読み取ったのか。
ウェイバーには理解できないが、分かったことも確かにあった。
それは何かというと、彼はやはり読んでるページ通りの近現代の人間である可能性が高いという事。
でなければ、わざわざ気にしたりなどしないという単純な思考であったが、有り得なくはないとウェイバーは考えたのだ。
尤も、その為にウェイバーの思考は近現代の魔術師、というモノに捕らわれて、答えになどたどり着けるはずもない状況になっているのだが。
知らぬは仏、今も彼はアレコレ考え続けるのだ。
「ねぇ、先生について、何か分かったのか?」
そんな悩みぬいているウェイバーを見て、士郎が彼の顔を覗き込む。
ずっと悩んで、頭を掻き毟っているウェイバーに、少々の心配を覚えたから。
名前は教えちゃダメだと思っても、声を掛けてしまっていた。
「……分からない。
多分近現代の英雄って事は分かっても、それ以上が分からないんだ」
対するウェイバーも、イラついているからとはいえ子供に怒鳴り散らす程に理性を失っていた訳でもない。
嘆息気味に、そう返事をするのが精一杯なのだった。
彼の頭に渦巻くのは、白の男が何者かという思考の迷路。
まるで抜け出せない螺旋迷宮。
そうまでして悩んでいるウェイバーに、士郎としても困ってしまっていたのだ。
先生の正体を知られるのは困る、だけど何時までも悩んでるのは可哀想、といった風に。
なので気付けば、テスラの白い袖を、士郎は掴んでいた。
テスラは分かってて放置している気があるから。
「そーゆーのは、良くないと思う」
特別気が利いた言葉ではなかった。
だが、イジメは良くないと明らかに士郎は訴えていた。
分かるけど、でも、と非難を込めて。
それにテスラは、パタンと本を閉じて答えた。
ポンと、士郎の頭を手を置いて。
何時もの、心配するなという意思表示。
テスラがこうする時、士郎は無条件に信用する事にしている。
無垢な雛鳥にも似た信頼であるが、それも相手がテスラだから、というもの。
子供故の純真、そしてテスラも、それを裏切る程に捻ては居なかった。
「時に少年」
「……何だよ」
だからテスラは、響くような声でウェイバーに声を掛けた。
それに対して返ってきたのは警戒するような声。
何のつもりだ、と言わんばかりの探りを入れる様な目をしていた。
先程までの邪険にあしらっていた事を考えれば当たり前の反応。
ただ、テスラはウェイバーのそれを気にするでもなく、一つの疑問を投げつけた。
何かを、まるで試すが如く。
「お前は、何を思い戦いに身を投げた。
何が為に、今ここにいる」
まるで意図が見えない質問。
ウェイバーからすれば、何かを試されていると感じて思わず反発しそうになるモノ。
だが、半ば反発したからこそ、逆に答えなくては、と思ってしまっていた。
無視をしても白い奴の鼻は明かせない。
ならば、と思ったのだ。
「……僕は、僕の為にここにいる。
聖杯なんていらない、僕にはこの戦いで勝ったという、その栄光だけが欲しいんだ」
考えたのは最初だけ。
後はスムーズに、詰まることなく言葉は紡がれる。
それは、思いが溢れたものだから。
ウェイバーの意地、執念、それらが垣間見えた一瞬。
テスラは、ほぅ、と小さく声を漏らした。
感心というよりかは、確かめるように。
ジィッと見つめてくるテスラにウェイバーは怯みそうになるが、だけれども意地でそれを覆い隠す。
そうして逆にテスラを睨み返すなど、決して自分が矮小ではないと誇示していたのだ。
「成程、な」
不意に、ウェイバーから視線が外れる。
飽きた、などという理由ではなく、確かめたい事は確かめた、といった風情だ。
「今ので何か分かったのか?」
しかし、士郎から見てみれば、全く何がなんなのかが分からない。
だから首を傾げながら自らの先生に尋ねると、テスラは頷く。
けれども士郎に答える訳でもなく、ただ頷いただけであったが。
「少年」
だが、ウェイバーにはまだ言うべき事があったのだろう。
顔は真っ直ぐ、心すらも射抜くようにテスラはウェイバーを視線で射抜く。
その威圧すら感じる眼力に怯みつつも、意地と気力でウェイバーは視線をそのままテスラに返していた。
それにテスラは一つ頷いて、こう語り始めたのだ。
「その意気や良し。
男であるのならば、それくらいの気概はあっても良いものだ」
思わぬ言葉に面食らった顔をしているウェイバーに、テスラはだが、と続ける。
続く言葉はやや辛辣、大人だからこそ言える反感を買う言葉。
「それが、背丈に見合っているかは別にしてな」
言った瞬間、ピキリとウェイバーが音を立てて止まった。
一瞬浮かびかけていた喜色は、言葉を理解した瞬間赤の色に変化して。
でも、テスラはそんな事を気にせずに、話を進めるのだ。
「気骨は認めるが、だがそれだけでは子供と変わらん。
なればこそ、釣り合いを取らねばならんという事だ。
背伸びもまた、成長の糧なのだからな」
淡々というテスラ、相手が士郎ならば頭を撫でていただろう。
だが、ことに相手はウェイバーである。
認められる為に奮闘する、一人の少年だ。
……だからこそ、テスラの上からの言葉には、反発してしまう。
「余計なお世話も良いところだ。
第一、敵であるお前にそんな事を言われる謂れなんてないっ!」
怒っている、というのは一目瞭然で理解できる。
それは傍から見ている士郎にも理解できた。
そして、その気持ちも確かに分かるものがあったのだ。
認めて欲しいのに、まだまだだと言われると悔しくなる。
そういう気持ちを、士郎は確かにウェイバーと共有していた。
だからこその子供で、その共感は幼さの裏返しなのであろうが。
故に、だ。
「些か説教臭さが抜けんなぁ」
そう、ライダーが介入してくるのも、ある意味での流れであった。
彼は大人で、そして見守る者でもあったから。
「楽しいから生きているのであろう。
なればこそ、自分を高めるに必死な我がマスターは、そこいらの奴よりかはよほど真面目であろう」
「……お前」
驚いた様にライダーを見ているウェイバー。
髪から覗いている目は、複雑さの中に感じ入っているものがあって。
嬉しような、悔しいような、一口では言い表せない切なさの様なもの。
「ま、主の言う通りに、家のはまだまだ尻が青い小僧であるがな。
まずは形から入るために、聖杯で背でも伸ばして貰おうかな」
「……余計な、お世話だ」
本日二回目の、同じ言葉。
だけれど、先ほどのテスラに向けられたものとはまた別の響きが存在した。
それは自分を誤魔化すような、照れを隠すかの如き気恥かしさがあったのだ。
お陰で、ウェイバーは知らないフリをしていた気持ちに、目をやってしまった。
自分の足りないところや、自分の弱さを。
みんなに認めてもらいたいという気持ちは、つまりは自分にはまだまだ足りていないものがあるという裏返し。
不当な評価をされたと言ってここに立っているが、直視すれば周りこそが正しいという事。
つまりは、自分はまだまだ未熟者と言うことだ。
不愉快極まる、とウェイバーは思わずにはいられない。
……けれども、そこで思うことも、またあるのだ。
そもそも、自分に見切りを付けられるならば、こんな所まで来るなんてしなかった。
ただ自分の事を、ウェイバーは認められたかったのだけなのだ。
だから、とライダーに振り向いて、彼は決めた。
反骨心も、彼は多量に持ち合わせていたから。
「まずはお前だ、ライダー」
「うん?」
先程までは揺れていた目が、今では真っ直ぐにライダーへと向いていた。
迷う事はないと言わんばかりに、前を向いている。
「お前に、僕を認めさせてやる!
そうして、その後にはあのケイネス先生にだって認めさせてやるんだ!!」
若さ故の気炎、だがそれだからこそ眩しい。
士郎は、さっきまで自分と同じだと思っていた人物が、確かに前に一歩進むのを目にした。
素直にすごいと思い、また羨ましいな、とも思う。
テスラも、その眩しさに目を細めていた。
そして認めさせると言われたライダーは……。
「ガハハハハハハ、良くぞ言った!
それでこそ余のマスターにふさわしいっ!
当然の事とは言え、口にされると中々に響く。
良いぞ、良いぞ!」
「わわ!?
ビシビシ叩くな、痛いだろうが!」
愉快極まりないと、己がマスターの背中をコレでもかと叩いていた。
ライダーとしても、戦列を並べる者が成長すれば、それは喜びに値することなのだ。
だから彼は思うがままに少年を激励する。
これからも、自分の隣で駆け抜けさせると、そう決めて。
「ところで、だが」
そんな中で、テスラは口を開いた。
それに合わせて、ビシビシと叩かれていたウェイバーは赤面してむせ返っている。
だが何時も通りに気にせず、テスラは至って普通に告げたのだ。
「私のクラスはキャスターではない。
故に、お前の考察の大半は無駄だ」
「……は?」
唐突に告げられた爆弾発言。
テスラとしては傲慢にも輝きを見せてくれた若人への返礼だ、と考えているのだが告げられた方はそれどころではなかった。
ライダーが、やはりそうだったか! などと言って、ウムウム頷いているのなんて耳に入ってこない。
どういうことだってばよという思考が、ウェイバーの頭の中で渦巻き始めていた。
キャスターでない、ということはつまり召喚される筈の七騎から外れているということ。
だが、ウェイバーの目の前にいるのは、雷の異能を操る男。
サーヴァントとも引けを取らない、人を超えし力持ちしモノ。
だからサーヴァントで間違いはないはずなのに……でも、あるべき七騎から外れている。
意味が分からない、とウェイバーが唸っている時、隣から救いの手が差し伸べられた。
「なんだ坊主知らんかったのか?
サーヴァントは通常クラスの他に、エクストラクラスなる野暮ったいモノがあるそうだ」
「エクストラクラスだぁ?」
何だそれは、と分かりやすく態度で示すウェイバーに、然りと言ってライダーは解説する。
「通常のクラスに当てはまらないサーヴァント、もしくはおかしな召喚のされ方をした奴は通常にはないクラスになることがある……らしいぞ?」
「どうして先にそれを言わなかったんだっ!
あと、何で疑問形なんだよ」
「余も聖杯から渡された知識故な」
顔を真っ赤にするウェイバーに、ライダーは飄々と答えていく。
ウェイバーがこの大男にいつ勝てるのか、そんな事を士郎は考えていた。
成長しても難しそうだな、というのはこっそりと心のポケットに隠して見せないようにしておくのだけれど。
「で、一体そのエクストラクラスってのは何があるんだよ?」
「分からん」
「は?」
「そういうクラスがあるというのを知っているだけなのだ。
具体的に何があるというのは知らん」
「……使えない」
がっくりと肩を落とすウェイバーに、ライダーはあっけからんとしている。
人生経験の差か、それとも単なる人間性の違いか。
後者であることはほぼ確定的ではあるが、ウェイバーにしてみればさして変わりはない。
今は悩み事が増えた事の方が、問題であったのだから。
「……はぁ、またこれでコイツの真名が分からなくなった」
今ある情報が、恐らくは近現代の英霊ということだけに戻ってしまったウェイバーからすれば余計な情報であったが、それでも彼は諦めてはいなかった。
何時かこの気に入らない、憎ったらしい白野郎の真名を明かしてやる、と決意を新たにする。
何だか負けた気分にさせられて、それが彼の反骨心に火を着けたからだ。
やれやれ、と思っているテスラに、士郎はこっそりと礼を告げた。
悩んでいるウェイバーが気になって先生に頼んだら、結果としてそれを解決してくれたのだから。
流石は先生、と盲目の雛の様に、更に信頼を深めていく士郎。
テスラはそんな幼子の頭に、ポンポンと手を置いた。
恐らく、この光景もこの二人が別れるまで変わらない光景だろう。
だが、それで良いと士郎は思っていた。
この、少し冷たい手が、士郎は好きだから。
「さて、これからどうするか」
ある意味で一段落着いたところで、ライダーは唐突にそんな事を言いだした。
何をするか……通常では聖杯戦争中に出会ったマスター達は闘争するのが習わしであるが、今は丁度昼。
一目につく為に戦う事なんて、出来そうにない。
士郎はテスラを見上げ、ウェイバーは溜息を吐いた。
そしてテスラは、ライダーに便乗して、こんな提案をしたのだ。
「ならば、昼食でも食べに行くか?」
は? と困惑したのはマスター達。
士郎とウェイバーは思わず顔を見合わせて、そして其々己のサーヴァントを見上げる。
そしてその表情を見た時、あ、と察してしまったのだ。
これはきっとこうなるだろうなと、予測が付いてしまったから。
「おぉ、良案であるな。
早速、店をどこにするのかを決めねば」
ライダーが即座に了承し、テスラも決まったことの様に動き出している。
二人のマスターは程度に度合いがあるとはいえ、感じていた事は共通であった。
……諦めという名の諦観である。
「では、行くとするか」
そのテスラの言葉を切っ掛けとして、マスター達は己のサーヴァントに引きづられながら本屋を後にする。
どこからか、誘拐だ! とか聞こえてきた気がするが、きっと気のせいだ。
赤毛と黒髪の少年たちは、どこか遠い目をしていたことだけは、ここに記しておく事とする。
移り変わって、場所はファミレス。
特にというべき場所が見つからず、己の財布を憂慮したテスラとウェイバーの妥協が生んだ産物。
入店した時に、日本人(男の子)一、外国人三のカルテットは大いに店員の度肝を抜く事に成功していた。
尤も、小器用に日本語をマスターしている外国人達だった為、訝しげな視線を送りながらも席に案内してもらえたのであるが。
「で、主の事は何と呼べば良い?」
「好きに呼べば良いだろう」
「何は拘らぬと?
名乗れぬ名なのか?」
「これは聖杯戦争だ、意味は分かっているだろう?」
「存外、肝っ玉の小さな奴よな」
先程から仲良さげなテスラとライダー。
どうしてここまでマイペースなのだろうと、ウェイバーは二人のサーヴァントを見て思わずにはいられない。
それは士郎も同様で、居心地悪げにオレンジジュースを啜っていた。
「で、結局どうすればいいのだ?」
「だから好きに呼べと」
「ふむ、ならば正義の味方か?」
「そのまますぎる」
「贅沢な奴よな」
もう勝手にしろ、とウェイバーは二人から目を離す。
ふてくされた気持ち、とでも言い表せようか。
そして必然として、二人から目を話せば、目の前の小さな赤毛が目に入ってくるのは必然と言えた。
「なぁ、そこのお前」
その姿は幼くて、ウェイバーからしても戦いに参加しているという事について異質に映る。
だからか、自然と声を掛けてしまっていた。
戦いが似合うとか似合わないの問題ではなくて、相手が子供であったから。
「えっと、俺か?」
首を傾げている士郎に、ウェイバーはあぁ、と言って頷く。
不思議そうにして、チビチビと飲んでいたオレンジジュースから口を離し、士郎がゆっくりとウェイバーを見上げる。
真っ直ぐ目を見られると何を言えば良いか分からなくなるが、それでも何とか言おうとしてた事を、ウェイバーは口から捻り出す。
「お前、何でこんな戦いに参加してるんだよ」
口から零れたのは、心の隅で思っていたこと。
相手が敵だと思って口は閉ざしていたが、目の前に相手がいて、それに戦っていた時よりも心の距離は近い。
この機会だからという気分でウェイバーが洩らした質問は、士郎の耳にキチンと届いていた。
どうしてそんな事を聞くのかと思ったが、先の本屋での出来事が思い浮かんで、聞いてしまった分だけ真面目に答えようか、という気持ちになってきた。
だから士郎は、未だ足りない語彙の引き出しを漁り、少しづつだが述べていく。
「俺の理由はな、別にお前みたいにカッコイイもの何かじゃないないな」
お前、という言葉に引っ掛かったが、それ以上にカッコイイという言葉が心に響き、思わずウェイバーは頬を掻いてしまう。
ズケズケという子供だな、と士郎の事を心の日記帳に記しながら。
「何て言えば良いんだろうな……先生の手伝い?
あ、いや、どっちかといえば、先生みたいに成りたいからかな?」
「先生ってコイツだよな」
士郎の隣でライダーと駄弁っている白い男に視線をやると、士郎はそうだ、と答える。
どうにもウェイバーが胡乱な目をしてしまうのは、率直に言って胡散臭いと思っているから。
だけれども、士郎は臆することなく語っていく。
自分の所感と、その思いを。
「先生はさ、俺が一番ピンチだった時に助けてくれたんだ。
どうにもならない、でも、どうにかしたい。
そんな時に、来てくれて、俺を助けてくれた。
だから好きだし、尊敬してるし、こんな風に成りたいって思える」
何考えてるか分からないけど、とオチをつけるように言う士郎だが、目は全く嘘の色を持っていない。
その為に、ウェイバーは静かに聞き入っていた。
この続き、士郎がどう語るのかに、耳を澄ませて。
「何ていうかさ、先生が何考えてるか分からないって言ったけど、でも、それでも一目で分かるくらいに輝いてるんだ。
先生は頑張ってる奴を見ると眩しいって表現するけど、俺は先生が眩しい。
うん、簡単に言うと、カッコイイって思う」
それも一番、と言い、士郎は少し笑った。
カッコイイから先生みたいに成りたいんだという士郎が、ウェイバーからしてみれば眩しい。
子供の純真さは、何時だって目を細めてしまう。
微笑ましいってこういう事か、とか似合わない事を考えてしまうくらいに。
だから、と続ける士郎に、ウェイバーは最後まで静かに耳を傾け続けた。
「だから俺は先生と一緒に歩いて、先生の隣にいる。
なんにも出来ないことが悔しいって思うし、これからもそれは代わりようがないと思うけど、それでも一緒にいたいんだ。
先生を見てたら、頑張るって気になるし、俺だってこうなりたいって思うから。
嫌々なんかじゃない、自分で決めてる事なんだ」
全部言い終わって、士郎はふぅ、と息を吐く。
一気に喋って疲れたからか、オレンジジュースを再び飲み始める。
さっきまでの真剣さは霧散し、そこには普通の子供である士郎がそこにいる。
ウェイバーはそれがギャップに感じて、不思議な気分と共に、何だか少し笑ってしまった。
それにムッとした士郎であるが、ウェイバーはそれだけでは終わらない。
言葉まで続けて、こう言ったのだから。
「お前、お子様だな」
何だよ、と不機嫌顔になっていく士郎。
だがそれに、ウェイバーはもう一言だけ付け足した。
「でも、そういうのがカッコイイんだって、思うよ」
んん? と不可解げな表情を、士郎は浮かべる。
馬鹿にされたと思ったら、直ぐに手のひらを返して褒められたから。
だからウンウンと、思わず唸ってしまう。
「何だよ、それ」
意味が分からない、と返す士郎に、それが大人さ、と答える。
「自分だって、子供の癖に」
「はぁ? 少なくともお前よりは大人だよ」
それは僅かな火種だったけど、お互いにカチンと来たのだろう。
そこから少しづつ小競り合いが始まって、注文した品が来るまで、お互いに言い争いが始まったのだ。
二人が正気に戻った時には、互いにバツの悪そうな顔をしていたが、それを二人のサーヴァントが微笑ましげに見守っていたことは、ついぞ若者達は気付くことはなかった。
でも、お互いに、ちょっと楽しかったと思ってることだけは、何気なしに気付いていたのだけれど。
フフ、と笑ったのは、誰だったのだろうか。
「と、もうこんな時間か」
時間は早いなぁ、と呟くウェイバーに、士郎も同意と頷く。
外を見れば、もう既に暗く、昼から夜へと空が落ちていた。
それだけ楽しかったのかな? と思うけれど、互いに癪だからそんな事は考えない。
尤も、士郎からすればウェイバーとは同レベルで遊んでいたと思っていて、ウェイバーからすれば遊んでやっていたと思っている。
そこら辺の認識の齟齬はあれど、互いに相手を近くに感じていた、というのは真実だ。
「おぅ、主達も終わったか。
余達も随分と白熱した議論を交わし終わったところよ」
「流石は征服王、稀有な意気を持っている」
「うむ、それでこそ正義の味方。
ところで、余のところで働く気はないか?」
「今日だけで、七十二回目だな。
そろそろ無駄だと気付かないものか」
士郎達だけでなく、テスラ達も長くに渡り会話を続けていた。
お陰で何度も飲み物をお代わりし、追い出そうと虎視眈々と狙っていた店員達に隙を与えなかったのは、ある意味で快挙なのか。
だが、恐らくは満足の行くまでに、言葉を交わすことは出来たのであろう。
少しばかり弛緩した空気。
誰もが、相手に親しみを持ったであろう
だけれど、そんな中で、急にサーヴァント二名が顔を引き締めた。
マスター達は何だろうとボンヤリ考えていると、急に二人はこう言ったのである。
「士郎、行くぞ」
「坊主、新しい会場が設置されたらしい」
二人のサーヴァントが感じ取ったのは、闘争の匂い。
普通のサーヴァント同士の戦いならば気付かない程度のモノであるが、それは大きなモノ同士のぶつかり合いであったから。
鋭いサーヴァント達は鋭敏に、その気配を感じ取ったのだ。
「あ、先生待って!」
「おい、詳しく説明しろよ!」
マスターは立ち上がったサーヴァント達に慌ててついていく様に店を出る。
レジカウンターのお姉さんが怒っていた気がするが、きっと全ては気のせいなのである。
「おう、雷電王よ、乗っていくか?」
「……良いのか?」
「どうせ行き先は同じなのだ、遠慮することはない」
「では、ありがたく」
マスター達は手を引かれるようにして、街中の外れた広間で
その中で、ウェイバーはライダーに疑問を呈した。
「雷電王?」
「それがコイツの呼び名よ」
雷の頂点に立つからこその呼び名。
イスカンダルは王と名付ける程に、テスラの事を気に入っていたのだ。
話せば話すほど愉快なやつよ、と認識を強めて、またその実力も認めた為だ。
「では、行くぞ。
ハイヤァ!!」
勢い良く手綱を握り、飛蹄雷牛へと鞭を打つ。
さすれば雷が迸り、戦車は空へと向かい出す。
その勢いは、まるでジェットコースターのようだと、士郎はたなびく風の中で感じた。
「さて、どうやら派手にやっておるようだがな」
手綱を握りながら、ライダーは己の戦車を制御する。
向かうべき、気配が感じるその場所へと、誘導させていく。
その場所とは……。
「どうやら、金ピカと何かが暴れておるようだな」
――冬木始まりの御三家が一角、遠坂邸。
――彼の地で、既に新たな先端は開かれていたのであった。
この話を書いてて思ったのは、やっぱり士郎は女の子にTSさせておくべきだったか、という謎の衝動。
ヒロイン属性を持っているだけに、妙に惜しいなぁ、と思ってしまいます。
スチパンはやっぱり、ヒーローとヒロインがセットでこそ輝くんですなぁ……。