Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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皆様お久しぶりです。
まさかここまで投稿出来ないとは、自分でも思っていませんでした(言い訳)。


第14話 随の退き

 雷鳴の猛り、其は最果て(オケアノス)まで轟く凱歌の調べ。

 遠き日に夢見た、軍神たる者が駆け抜けた嵐の具現化。

 台風の如く、彼は訪れる。

 

 だが、しかしである。

 彼だけではない、彼の名高き征服王以外にも、最早趨勢が確定した場に訪れる者がいる。

 雷鳴と共に、稲妻と共に、彼は来る――

 

 

 

「無頼の輩め、ハイエナの如くに嗅ぎ付けたか」

 

 黄金の王が独語する。

 不快さを隠しもせずに、天駆ける戦車(チャリオット)を睨みつけながら。

 王の中の王である自信に挑む不遜ですら、許されざる暴挙であるのに、彼らはそれ以上に王の住まう場所に跋扈し、跳梁するのだ。

 彼は、微塵もそれを許容するつもりなどなかった。

 

 彼の背後が揺らぐ、蔵の鍵が回される。

 遠きバビロニアへと繋がる、大いなる宝物庫より幾つかの宝物が引き出される。

 およそ、名槍と謳われる業物が五本。

 容赦なく、それ等が飛翔する戦車へと射出された。

 愚かなる者には、張り付けが良く似合うと憤怒の情を込めて。

 

 疾走する槍は、何者にも止められない。

 逆に、スピードを落とす事なく、粉砕せんとすらして戦車は更なる加速を始めて。

 迫り来る戦車が串刺しにされる様を、誰もが幻視していた。

 

 ――しかし、しかしだ。

 ――それを許さない者が、ここには居る。

 ――紫電が舞い散る、雷が迸る。

 

 ――そうして――

 

 

 

 

 

「先生……」

 

 天駆ける戦車の上、そこに不安に揺れる瞳が一つ。

 小さな声で、か細く呟かれたそれは、今にも消えそうな幼子の声。

 赤毛の少年の、怖さの表れ。

 

「怖いか、士郎」

 

「うん」

 

「それで良い、怖いと認められるのも強さの一つだ。

 だが、安心しろ。

 私は、お前に、お前達に、一つとして傷を負わせる気はない」

 

 言葉数少ないそれに、テスラは是と認める。

 その上での言葉に、士郎は僅かに微笑んだ。

 僅かな言葉の交流、それだけでテスラを信じる事が出来たから。

 彼のそれは、信頼となり、勇気へと代わり、輝きとなる。

 なれば、と電力が張るのをテスラは感じた。

 これこそが、眩き輝きであると。

 

「坊主共、しっかり掴まっておれっ。

 突っ込むぞ、良いな雷電の王よ」

 

「委細承知、任せてもらおうか」

 

 加速する戦車、帯電する両腕。

 ――雷電が迸る。

 ――雷が手足を覆う。

 

「なに、如何な名槍たれど、主人の手から離れれば恐るるに足らん。

 ――それに」

 

 素早く前に出たテスラの手足が躍動する。

 穂先でなく、柄を穿つ。

 一つ、二つ、三つ、四つ――

 軌道をずらし、戦車への直撃を避ける!

 

 されど、五つ目はテスラにはどうしようもなくて。

 しかし、彼は泰然と後ろへと下がる。

 士郎とウェイバーの首根っこを掴んで。

 

「お、おいっ!」

 

「先生っ?」

 

「目利きをしたつもりかも知れんが、見積が甘い。

 些か、見込み違いと言えよう」

 

 驚愕を貼り付ける二人を他所に、テスラは横目でライダーに目をやる。

 その横顔に、荒々しい笑みが張り付いているのを見て、一つ頷く。

 

「おうともさ!

 この戦車の主は、征服王イスカンダルである。

 それを嘗めるなど、片腹痛いわぁ!」

 

 そう言いつつ、ライダーは避ける動作もなく、そのまま剣を抜刀する。

 何故? 無論、斬りつける為だ――

 

「ぬぅん!」

 

 一閃、剣と槍が交わり、衝撃が戦車を揺らす。

 常人には耐えられない風圧。

 英霊成らざる身には、耐えることができないであろう衝撃。

 例え、強力な魔術刻印を持つ魔術師であってさえも。

 

 しかし、生きている。

 士郎とウェイバーの二人は、まだ。

 傷ひとつなく、存在している。

 衝撃波がもたらしたのは、激しい揺らぎのみ。

 

「チッ、雑種めらが」

 

 黄金の王が睨む先に、然と戦車は疾走していた。

 雷電王が彼らを守る、征服王が手綱を握る。

 故に、死にはしない。

 正面からぶつかった槍は、征服王たる彼に切り落とされて、夜の奈落へと落ちていく。

 後は、障害なく奔る戦車がもう、直ぐそこへ……。

 

 

 

 

 

 僅かな風が凪いだ。

 ライダーの戦車が、減速して着陸した為のものだ。

 雁夜と時臣を区切る様に、その合間へと割り込んだ戦車のもたらしたものだ。

 それを時臣は、苦々しげな顔で見つめる他になかった。

 

 故にか、彼の代わりに声を発した者がいた。

 傲岸な声が、テスラ達の上方より響く。

 何者にも侵される事のない不遜な声だ。

 自らを王の中の王であると自負する男の声だ。

 遠坂邸のベランダにて、彼は剣を手に、忌々しそうにテスラ達を見下ろしている。

 

「王手ずからの斬首を求めてきたのか、雑種共。

 だとしたら、忌まわしいが賢明な事だ。

 しかし、不敬が過ぎたな」

 

 苛立ちを隠さずに、怒りを滲み出させながら、彼、アーチャーは剣を突きつける。

 それは鎖に繋がれた者だ、既に囚われた、刑を待つ咎人の如き姿の彼。

 ――バーサーカー、彼の漆黒の騎士の首元に剣は撫でるようにして当てられていた。

 

「狗にも劣る無頼の雑種ども、しばし待て。

 何事にも、順番というものが存在する。

 まずはコレを、次に貴様らだ。

 我自らの斬首を賜われるとは、思わん事だがな」

 

 喜悦はない、愉悦もない。

 ただ、王の庭を踏み荒らされた怒りと、責務のみが彼にはあって。

 

 喝采はない。

 喝采はない。

 ただ、王としての彼がそこにいるだけだ。

 英雄王の名の下に、今こそ処断の時が来た。

 喝采はない、喝采を叫ぶ民はそこには居ない。

 ――故に。

 

「民の居ない王、か。

 それは、昔に読んだ童話を思い出す」

 

 テスラの声が、その場を支配した。

 王の舞台たる居城で、その胆力たるは豪胆と称する他にない。

 しかし、それを咎める民衆はそこには居らず。

 王もまた、眉を僅かに潜めたのみで。

 図らずしも、テスラは続きを話す事ができた。

 

「確か、デンマークの童話作家が書いたモノだったか。

 表題は確か――」

 

「……裸の王様、かな?」

 

 テスラの思索を、少年の声が遮った。

 赤毛の少年、邪気のない声音、士郎の声だ。

 思わず、といった感じで、つい口から漏らした言葉。

 見えない服を身に纏った王、誰もそれを指摘しなかった周囲、当て擦りとも言える童話の一つ。

 民の居ない王への、ある意味で皮肉とも言える指摘。

 それをしたのも、少年であったのだ。

 

 ――瞬間、緊迫した緊張が走る。

 視線が集まるのは、金色の王たる彼に。

 ある種、王にとって気の利かない童の戯言であるが、だからこそ暴君の素質を持つ彼への注視へと繋がった。

 半ば、この場にいた人物の半数はこう考えていたのだ。

 正気か、お前ら……と。

 

 だが、彼らの予想は裏切られた。

 怒らない、起こらない。

 何も、そう、何も。

 ただ、彼の王は鼻で笑ったのみ。

 馬鹿馬鹿しく思ったのか、それともそもそも耳に足る言葉ではなかったのか。

 真実を知るのはアーチャーのみ、彼の奥底にこそ答えはある。

 だからこそ、空気の読める者は発言をしない。

 それこそが、身の保全に繋がると理解しているが故に。

 ……だから、

 

「そうだったな、そんな題名だ。

 中々にウィットに冨んでいる、些か性格の悪さが滲み出てもいるがな」

 

「そうかな?

 確かに間抜けっぽい話だけど、皆騙されたって事は少なくともバカには見えない服があるって全員が信じてるんだよ。

 それって、全員が素直だったって感じがするけどな」

 

「なるほど、面白い。

 明らかに意図から逸れてはいるが、その物の見方は良い。

 そう思える事は大切だ、士郎」

 

 あまりに何時も通りな二人に、周りから突き刺さる視線は鋭い。

 これも全て、泰然自若の生き字引に責任はあるのだろう。

 少年には、些か恐怖麻痺(サプレス)が効きすぎていた。

 

「それで――」

 

 不機嫌な声が響いた。

 些か、呆れの色を交えてもいるように聞こえる。

 一瞬、誰の声なのか、判断できたのはこの場では少数であった。

 それは、黄金の王の言葉だったが為に。

 

「茶番は、終わりか?

 些か飽いた、詰まらぬ故にな。

 宮廷ならば、即刻首を刎ねているところだ。

 我を笑わせたくば、大言を吐いてみせよ。

 以前の様に、正義の味方と騙ってみせるが良い」

 

 興が削がれたと言わんばかりに、アーチャーは庭で屯する者達を見下ろしていた。

 先程までに纏っていた殺気は、格段に柔らかくなっている。

 その代わりに、彼の表情は、詰まらない、どうでも良い、阿呆らしい……などのモノが露骨に見えていて。

 滑った芸人に対する苛立ちだけが、二人に向けられている感情だった。

 ある種、二人は幸運だったであろう。

 または不運だったか。

 これが、口先が切れる話者だったら、喝采と共に放免されたやもしれぬのだから。

 

「よい、まずは貴様らからだ。

 ここで去ね、雑種。

 笑わせられぬ道化など、笑われる道化以上に何の意味もない」

 

 やる気は削がれていて、如何にも面倒くさげに号令を掛けた。

 明らかに戦意に掛けて、されども未だに存在する殺気は先ほどの二人に……いいや、テスラにのみ向けられていて。

 ここで、王の笑おうとした愚か者を、誰よりも先に処断すると決めたのだろう。

 バビロンの門が開き、その背後から数多の宝具が現れる。

 その数、およそ三十以上。

 少なくともアーチャーは、ここに居る彼らの、彼の命の重さを今度は見誤っていなかった。

 故に、ある者から意識が外れたのでもあるが――

 

「では、逝け。

 子供を前線に連れてきた不幸を悔いながら、な」

 

 僅かに、アーチャーは士郎へと目をやって。

 されども、直ぐに興味ないとテスラに視線を向けた。

 当て付けか、本心からの言葉かは本人にしか分からない。

 だが、その宝具の掃射には、何ら慈悲がなかったのも確かであった。

 飛来する武具の数々、それらはその場にいる何者に対しても平等に降り注ぐ流星。

 然れど、砲火が集中するのは、やはりテスラに対してであった。

 

「ふむ、征服王よ。

 士郎と、そうだな、バーサーカーのマスターを任せる」

 

「え? 先生!?」

 

「ちょ、おまっ」

 

 それを即座に判断したテスラは、そのまま士郎を手鞠の様に、そして倒れ臥していた雁夜すらもライダーに投げ渡す。

 一方で、士郎と雁夜を受け取ったライダーも、任されたと受け取って。

 それらは、ある種の協調関係が故の行動。

 何れは戦うにしても、それはまだという二人の関係性の表れ。

 口を挟もうとしたウェイバーは、戦車が動き出したせいで舌を噛みそれどころではないのが彼の行動にとっての幸いだったのだろう。

 手綱を握ぎられた戦車は飛翔し、テスラはそれを横目に自らに対する攻撃を捌き始める。

 変幻自在に、避けて、いなして、受け流す。

 

 前から二つ、余裕を持って右へと避ける。

 追撃に来る三つの槍、間隔毎にバリツで弾く。

 上方よりの曲射、踏み込む様に前進し、掠りそうな剣を流していく。

 

「如何な名剣、名槍たれ、当たらなければどうという事はない」

 

「大道芸はお手の物という事か。

 成程、道化らしい芸だ。

 ――中々に面白い、少しばかり興が乗ってきた」

 

 増えていく、バビロンの門は拡大し、その威容たる宝具の数が増えていく。

 百より多く、湯水の様に流れ出していく。

 圧倒的で破滅的な包囲の展開。

 どう足掻いても飲み込まれそうな衝撃が、テスラを襲う。

 ――だが、テスラは倒れない。

 雷電の化身たる彼は、未だ滅びる事を知らず。

 僅かなかすり傷のみで、未だそこに立っている。

 未だ形態変化も行えてない彼が、何故――?

 それには、無論理由があって。

 

「王よ、我が王よ!

 どうかご寛恕を!

 私の方にも、流れ弾が!!」

 

 雁夜との戦闘を勝勢のままで中断された時臣。

 彼はその後、ベランダに上がる事が出来ず、不幸にもそのまま巻き添えを喰らう羽目になってしまっていた。

 既に十本以上の流れ弾が彼に流れて、命懸けで避ける事に専念していた。

 この程度では死なないというアーチャーのある意味での信頼であるが、彼からしてみれば悪夢以外の何者でもない。

 だが、それでも未だに生き延びられていた。

 ――英雄王の、興が乗ってきた等という発言の前までは。

 

「おぉっ!?

 お待ち、ください!

 このままでは、私、はっ、死にます!」

 

 最早、家訓たる”余裕を持って優雅たれ”はこの場に置いては死んでいた。

 血の代わりに汗に塗れながら、王に対する嘆願を行わざるを得ない状況。

 どうしてこうなったのか、やはり雁夜か、雁夜が原因なのか!? などと、思考を巡らせずにはいられない。

 故に、疎ましく思いつつも、ギルガメッシュも火力の空白地帯を作らざるを得ず、そこをテスラは利用している。

 それが、未だにテスラがそこに立てている理由であった。

 

「チッ、時臣め。

 貴様は我のマスターであるのだ。

 節度を弁え、自重する事ができずして、何が臣下か」

 

 どの口で言うのかというセリフを吐きながら、ギルガメッシュの意識はテスラと時臣に囚われていた。

 無論、牽制用に、ライダーに対する対空弾幕を張るのも忘れずに。

 あらゆるタスクを消費し、殺すため、殺さないため、近づけないため、などの矛盾した行動を並列していく。

 しかし、だからか。

 彼は留意しておかなくてはいけない者からも、意識が外れていた。

 

 多くの宝具が着弾し、爆音が響き渡る中で、僅かな音が響く。

 じゃらじゃらと、鈍い音を鳴らしている。

 それは鎖が擦れる音、囚われた者が抗う音だ。

 

「何――」

 

 その音に、親友の声に気が付いたのは、勿論アーチャーで。

 だが、その虚は一瞬なれども、確かに隙になっていた。

 それは、最初に処刑しようとしていた、彼の虜囚。

 黒鉄の鎧を纏った騎士、バーサーカーの反撃。

 ――鎖が、砕ける――

 

「Gaaaaaaaaaaa!」

 

 何者も反応できないスピードで、彼は跳躍した。

 狙いは眼前にいるアーチャーの背中。

 

「Gaa!」

 

「何ぃ!?」

 

 彼はアーチャーの背を踏み台にし、勢い良く飛び上がる。

 目指す先は――天駆ける戦車、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)

 一直線に、そのまま勢いよく肉薄する。

 

 

 

「お、おい、ライダー!」

 

「分かっておる、狙いは其奴であろう」

 

 ライダーは僅かに雁夜へと視線をやり、僅かに面白そうに笑う。

 尤も、ウェイバーからしてみれば、何が面白いのか微塵も分からずに、頭を掻き毟るしかないのであるが。

 隅っこにいる士郎は、機動する戦車が為に舌を噛んで、口を挟むどころではなくなるという状況に陥っていた。

 幸か不幸かで言えば、背中の泡立つ感触を感じないで済んだだけ幸運だったかもしれない。

 

「馬っ鹿、何で乗せたんだよぉ!」

 

「違うぞ、坊主。

 余はこのマスターを略奪したのだ。

 丁度、雷電王から預かったが故にな」

 

「知ってたけど、本当にこの馬鹿やろう!

 もしかしなくても、こいつも勧誘しようって腹だろ。

 バーサーカーなんだぞ、言うこと聞くわけないだろ!」

 

「さあて、どうかな。

 案外、話の通用する余地があるやもしれんぞ」

 

 あの時、倉庫街でテスラに触れられたバーサーカーは、確かに理性を取り戻していた。

 それ故の発言であったが、弾丸の様に迫り来るバーサーカー相手はあまりに迫力がありすぎた。

 所詮、理性が戻ったのも一瞬の事で、狂犬の様にこちらに飛びかかってくる今の姿を見れば、会話が出来るようには微塵も思えないのだ。

 そう考えたウェイバーは、横目で雁夜を見やると、ライダーへと話しかける。

 

「躱せるか?」

 

「そうさな、危ういが轢いてしまった方が確実やもしれぬ」

 

「だったら……」

 

 もうすぐそこまで迫っているバーサーカーに、ウェイバーの決断は早かった。

 雁夜の体を渾身の力で持ち上げて、バーサーカーを睨む。

 

「お前のマスターなんだ、しっかり受け止めろぉ!」

 

 高速で移動する戦車の上で、恐怖に震えながらもウェイバーは事もあろうに雁夜を投げつけたのだ。

 本人はそれで態勢を崩したが、慌てた士郎に引き戻されて強かに戦車に頭を打ち付ける程度の傷で済んでいた。

 落なかっただけ幸運といえよう。

 

「うがぁ、痛い痛い頭が痛い!」

 

「……肝が据わっておるのか、間が抜けておるのか。

 分からぬが、坊主にしては上出来だ」

 

 己のマスターを受け止め地上へと落ちていくバーサーカーを確認し、ライダーは呆れ気味の視線をウェイバーへと向ける。

 だが、その視線には幾分かの愉快さが滲んでいた。

 こういう馬鹿みたいな行動は、実にライダーの望むところであったが為に。

 

「だいひょうぶか?」

 

「喋んなくて良い、また舌を噛むぞ」

 

 頭を抱えて涙目なウェイバーと、噛んだ舌がまだ痛い士郎。

 この二人はやはり、この場に置いては場違い感が否めない。

 だが、怯懦に挫けないその様は、ライダーから見た主観でだが少し男振りが上がったかの様にも見えて。

 楽しげに、力強く、ライダーは手綱を握っていた。

 

 

 

 

 

 ライダーがマスターの成長を実感する一方で、この場にはあまりの事態に震えるサーヴァントも存在していた。

 ……そう、踏み台にされたアーチャーである。

 

 震えるだけでなく、握り締められた手には、溢れ出る屈辱が握られていた。

 これで庭にでも落ちていた日には、この冬木が灰燼と化しても宝具での掃討戦を始めた事だろう。

 今ここで耐えているのは、辛うじて王の矜持が自身の失態を責めているから。

 遊び混じりに吊るし上げるのではなく、さっさと処して置けば良かったのだという結論がそこにはあって。

 それが、アーチャーに楔となって突き刺さる。

 慢心が果ての惨状、しかし雑種ごときにと考えてしまうが彼であった。

 

「潮時、だな。

 ああいう手合いは、こういう時は声すら聞こえない届かない」

 

 テスラは、一時的に止んだ宝具の掃射を見て、そう判断せざるを得なかった。

 嵐の前の静けさ、爆発する前に空ぶらせるが吉。

 下手に対話しようものならば、八つ当たりの対象になるだけである。

 それが自分一人だけなら付き合うのも吝かではないが、ここには士郎もいる。

 戦う意思もない幼子をこれ以上巻き込むのは、テスラとしても望むところではない。

 故に、ここで退く事を決意する。

 その判断は、一目散に遁走しているバーサーカーも支持する事だろう。

 テスラは天へと発雷し、ライダーへ合図を送る。

 

「征服王、撤退する。

 これ以上、ここにいても何ら意味はない」

 

「やむを得ぬな、ここで消耗するのは得策ではない」

 

 降下してきた戦車にそのまま飛び乗ると、一行を乗せてそのまま空の果てへと逃げ去っていく。

 邪魔する者は居らず、見事なまでの手綱さばきでライダーは一目散へと天駆ける。

 その様子は、潰走というには鮮やかで、鮮烈に記憶に残る流れ星の様であった。

 

 

 

 

 

 結果、その場所に残されたのは、半壊した遠坂の庭と草臥れ切った時臣、それとアーチャーのみで。

 

「許さんぞ、雑種――」

 

 その言葉だけが、その場に重々しく木霊する。

 時臣は言葉なく、深く深く頭を伏す。

 それが、この場に置ける時臣の拝礼であった。




どちらかといえば繋ぎの話なので、テスラ先生が何を思ってるのか、雁夜おじさん達の動向などは次回をお待ちください。
ただ、次の投稿が何時になるかは分かってませんが……(書き方がイマイチ思い出せなくて、地金が出てしまいました、すみません)。
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