……みなさん、何話でエタるのか予想してみましょう!(開き直り)
ひどく、血生臭い場所だった。
ここは薄暗く、そして鉄の匂いが充満している。
一軒家、それは住宅街にあるごくありふれた建物で。
誰も注目などするはずもない、一軒家に過ぎない。
しかし、中に足を踏み入れれば、また話は違ってくるであろう。
一歩踏み入れた先、そこは……、
――そこは異界であった。
鉄の匂いが充満し、どこからか爛れて腐った臭いもする。
床には、血と共に横たわる少年の肢体。
動かない、目から光は失われている。
薄暗い部屋、この部屋にあって今まで生きて帰ったものなど、一人もいない。
今日、この時までは……。
この場にいて、意識があるものは二人だけ。
一人は少年。
茶色がかった赤毛が、暗闇でも然りと確認できる。
浮かぶ表情は安堵と信頼。
視線の先へと、それを向けている。
一人は男、白い男。
その服装は、どこか旧時代の海の制服を思わせる。
漠然とした表情をしているようで、されども不快さが滲んでいる。
その意識は、動かない血だまりへと向けられていて。
「惨い真似を」
吐き捨てるようにして、彼は血だまりに近づく。
そうして、光を無くした目を、静かに閉じさせて。
彼は、立ち上がった。
視線の先には、意識のない青年。
この空間を作り上げた、先天的な殺人者。
白い彼ならば、一撃を持って殺害できるのであろう。
しかし、彼は生きている。
殴打されても、人はやすやすとは壊れない。
心臓は動き、呼吸をし、そして時期に目も覚めもする。
「なぁ、えっと」
そこで、ようやく声が発せられた。
赤毛の少年の声。
どこか困惑したような、そんな含みを持った声。
「先生、とでも呼べばいい。
立場的には、あべこべな事この上ないのだがな」
少年が何を困っているのか察した白い彼は、端的にそう告げた。
少年は喜色を滲ませて、先生、と何度か口の中で転がす。
そうして、少しドキドキする感覚を伴いながら、少年は彼を呼ぶ。
「先生っ」
「何だ、士郎」
自分の名前、きちんと呼んでくれただけで、嬉しく感じる。
少年、つまりは士郎は昂ぶっていた。
この人に、自分は認識されているんだ、と。
だからその勢いで、白い彼、先生に訊くのだ。
「そいつ、やっつけなくて良いの?」
士郎は指を指す。
意識の消えている殺人鬼へ。
目の前で子供を殺した、狂気の人物へ。
それは子供らしい、単純な理屈。
――悪い人は成敗される。
単純明快、一種のお伽噺を物語るような感情で、士郎は訊ねたのだ。
しかし先生――ニコラ・テスラは首を横に振る。
「確かに、こいつが行った所業は許されないだろう。
裁かれて然るべきの人間だ」
彼の言葉は士郎の価値観とも一致する。
罪人は罰せられるべき。
それは二面世界、正義と悪しか持たぬ少年だからこその思考ロジック。
でも、だからこそ、そうしない彼に何故? と困惑を覚えるのだ。
「だが、裁かれるには罪人が罪を自覚しなくてはならない。
そうして償う気持ちを持たねば、再び繰り返すだけだ」
不快そうな視線を、未だに意識を失っている彼へと注ぐテスラ。
ひどく嫌そうで、面倒そうでもあるが、しかし士郎には分かった。
まだ先生は、こいつを見捨てていないんだ、と。
「納得いかないか?」
「……分からない。
でも、モヤモヤする」
先生の言う理屈は分かる。
だが、コイツは危ないと、そう理解している自分もいて。
だから士郎は、余計にモヤモヤする。
彼の理屈が正しいのか、自分の感情が正しいのか。
それは思考の袋小路にも似ていて……。
「すぐに理解しろとは言わん」
「え?」
見透かしたように、先生は士郎に言う。
驚いて顔を上げた士郎は、そこに、確かな彼を見て。
「お前はまだ幼い。
故に、私の言葉を忘れないだけで、今は良い。
お前の感情、湧き出るものとしては、正しいものだからな」
先生の言葉、既に尊敬さえ覚えている彼。
しかし、どちらが正しいか、先生は教えてくれなかった。
だからせめて、何時かは分かりたいと、士郎は思う。
貰えないなら、見つけるしかないのだから。
ひとつ、自分へと、そう約束して。
「そうだ、それでいい」
先生は、それを肯定した。
これはきっと、自分で理解しなくちゃいけない事なんだと、僅かながらに察しながら。
士郎は、心に灯るものを感じて、大切なものが自分に滲むのを感じたのだ。
そうして決意を一つした時……どこからか、うめき声が聞こえた。
――地に伏してた彼が、目覚めようとしていたのだ。
例題です。
ここに、一人の青年がいました。
好奇心旺盛な青年です。
中でも、死、という概念には、飛び抜けた興味を示していました。
彼は死とは何か、生きているとは何か、それが実感できていません。
だからそれを強く、強く、感じたいのです。
だから人を殺しました。
最初に姉を殺して、それから歯止めが効かなくなりました。
何故ならば、誰もそれを止める人は居らず、そしてなにより、彼の見た姉の腸は何よりも美しく輝いていたのです。
それを見た彼は、死とは芸術だと、そんな解釈を下します。
――美しい輝き、確かに彼はそれを見たのですから。
だから、止まれるはずも無かったのです。
彼は、更なる美しいものを、芸術を求めて。
……解体を続けてきました。
彼は
中でも、女の子や子供が、何よりも芸術性があると思ったので、彼らを積極的に
そのことに、彼は輝きは確かにあると、そう思っていました。
それは何を感じての輝きだったのでしょうか?
自分の才華を発揮できる解体に対しなのか。
若い命の脈動を感じることに対してなのか。
自分の愉悦を、そう感じているだけなのか。
青年には、判断がつきませんでした。
だから、彼は解体を続けて、続けて――続けて。
そんな、ある日のことです。
彼は何時もの通り、少年達を捕まえて、綺麗な芸術を生み出そうとしていました。
美しいもの、在りし日に見たモノを空想しながら。
しかし、思わぬ事が起きました。
捕まえた少年が、想像以上に抵抗したのです。
それ自体は、思わぬことではありません。
これまでにも、何度かあったことなのですから。
では何が?
それは、一冊の本が齎したもの。
人智の物でない、紫電を見たのです。
彼は、それに魅入られて……。
――どうするべきですか?
青年は、今まで通りに解体を続けますか?
青年は、自分を見つめ直しますか?
青年は、紫電に手を伸ばしますか?
青年は――
「あんた、誰?」
青年は――手を伸ばしました。
光り輝く紫電へと。
感じずにはいられない輝きへと。
ゆっくりと、視線を上げて。
彼を見たのです。
どうなりましたか?
輝きは答えましたか?
どうにもなりませんでしたか?
輝きは消えてしまいましたか?
――それは
「ニコラ・テスラ、71歳、一応は正義の味方だ」
「……はぁ」
目の前の白い男、ニコラ・テスラと名乗った奴。
71歳と自称した彼、たぶん頭がおかしいと思われる人物。
正義の味方を名乗っているあたり、すごく意識の高いやつなんだろう。
笑えばいいのか、馬鹿にすればいいのか、それとも間に受ければいいのか。
どれも阿呆らしくて、選びづらいものがある。
しかし、厳然たる事実として存在するのは、目の前の男に、俺が殴られたという事実。
自称正義の味方は、この場においては確かに正義を執行しているのだろう。
……こちらの迷惑なんて、顧みずに。
「悪魔じゃないんすか?」
「そう見えるか」
一応、申し訳程度に聞いてみたら、案の定の答えである。
面白くない、実に面白くない。
だって、あの本を用意したのは、悪魔を召喚するためだったから。
そしてその本から召喚されたものは、光り輝くもので。
決して、悪魔の類ではなかったのだから。
故に、面白くないのだ。
「せ、先生が悪魔のはずないだろっ!」
どこからか、甲高い声が聞こえた。
それは声変わりする前の、少年の声。
純粋であろう、染まっていない綺麗な声。
――何よりも、美しい
目を向ける、声の方角に。
……そこには、見覚えのあるシルエットが。
「よ、僕、さっきぶり」
「な、なんだよお前」
フランクに話しかけると、どこか引き気味に、警戒するように俺を睨んでくる。
何を怖がっているのであろう。
もう、何もするつもりはない、しようがないのに。
白い彼が、この場にいる限りは。
「別に取って食ったりなんかしないって」
「嘘言うなっ! さっき殺そうとしてた!!」
「実際殺されてないだろ?」
「先生が助けてくれたからだっ」
赤い子から、視線が強くなる。
どうにも、意地っ張りで面倒くさい子のようだ。
まぁ、散々怖がらせてしまったのはあるだろうけど。
だけれど若いくせに、頭がどうにも固いらしい。
「将来ハゲるか白髪だな、君」
「んなっ、ハゲって言ったほうがハゲるんだからなっ!」
子供は、ハゲとかウンチとか、そんな言葉にばっかり反応する。
さっぱり理解できないけど、まぁ、子供らしいのだろう。
「士郎、落ち着け」
「先生は落ち着きすぎだよっ」
ひとり気を吐くといった体で、よく叫んでいる少年。
どうやら士郎君という名前らしい。
そんなに叫んで、そんなに俺のことが嫌いなのか。
「士郎君、飲み物でもいるかい?」
「……毒でも入ってそうだからいい」
あっそう、残念。
折角、トマトジュースを出してあげようとしたのに。
子供は素直な方が可愛げがある、睨んでくる彼を見ていると、特にそう思える。
まぁ、仕方無いところはあると思うけれど。
おやまあと士郎君を眺めていると、すぐ近くから視線が飛んできた。
「お前は……」
「なんすかね」
白い正義の味方さんが、俺を睨んでたのだ。
何かを言いたげに、そして気付けるように、俺を見ていた。
何を、と思ったが、下を見れば大体言いたいことは容易に想像がついた。
――紅い床が、何よりも雄弁に語っていて。
あぁ、面倒くさいと、心の底から、そう思った。
要するに、この如何にも説教臭そうな目の前の奴は、俺に物申したいのだろう。
大方、どうして殺した、とかそのあたりのことを。
……理解、できない。
何故、そんなに忌避することがあるのか。
こんなにも綺麗なのに、それなのにそれを否定するような目で見て。
作品になった子供達のことを考えたことがあるのだろうか?
そんな目で見られたら、子供達も不愉快に決まっている。
「お前は、勘違いをしている」
「はぁ?」
憤然としていた俺に、こいつはそんな事を言ってきた。
何が勘違いなのか、それはそっちの感性の話じゃないのか。
訥々と、そう思ったのだけれど。
「決して、輝きを奪うことが、お前の輝きに繋がるわけではない」
やっぱり、勘違いしているのは、向こうの方だ。
別に俺は自分に酔っている訳じゃない。
ただ、綺麗なものを作りたくて、子供達が大好きだからしているだけなのだから。
「俺は子供達を、あんた風に言うなら、もっと輝けるようにしてるだけだよ。
それが俺の喜びだし、するべきことなんだよ」
そう告げると、正義の味方サンは露骨なため息を吐いて、そうして俺の目を見て言うのだ。
「お前がどこで間違ったのか、まずはそこから探る必要があるようだな」
「……変に干渉されても、鬱陶しいだけなんすよ」
本音を、彼に、正義の味方を語る白い男に、そう告げる。
俺は、ただ静かに愉しんでいたいだけなのに。
それを邪魔するこの男が、気に入らなかったから。
しかし……、
「干渉せねば、続ける気だろう」
「そりゃ、ね」
平穏を乱す奴が居て、そいつを追い払ったのならば、そりゃ普段の生活に戻るのは道理でもある。
その為に、俺はこいつに出て行けと言っているのだから。
「ならば、尚更やめるわけにはいかんな」
……こいつは、俺が考えを改めるまで、ここに居つくつもりだろうか。
それは、想像するだけで……。
「うへぇ」
えげつないこと、この上ない。
そんなことをされたら暴れる自信がある。
「先生、こいつ反省なんて全くしてないよ」
そしてそんな俺を、どこか怯えた表情で、士郎君が見上げていた。
何をそんなに怯えているのやら。
もう手を出さないって、何度も言ってるのに。
「悪いと少しも思ってないなんて、おかしいよ」
「変なことを言うね、士郎君」
変なこと。
そう、変なこと。
何が悪いのか、意味がわからない。
人を解体すること?
これが悪とされるなら、世の中の芸術も総じて悪だ。
その程度、どうして皆わからないのか。
それが俺には、本当に心底理解できない。
俺が疑問を抱いていると、白い男が溜息を吐いた。
顔には、言葉もないと言わんばかりに、酷く面倒くさそうな表情。
「イドが剥き出しでは、人は生きては行けん。
まずは知れ、話は全てそこからだ」
「……何を知れって言うんすか」
鬱陶しい、本当にイライラさせられる。
一々お前は間違っていると、そう言われるとムカっとする。
正義の味方なんてモノの方が、頭が沸いてるとしか思えないのに。
「お前が知るべきは……」
彼は俺の目をジッと見ていた。
暗い目、しかしどこか引き込まれそうになる目。
……俺はこの目を見たとき、何を感じたんだっけ?
「人が生きる意味だ。
そして、何故死にたくないのか。
それを理解せねば、お前は永遠に人ではない」
生きる意味、死にたくないのは何故?
……不思議な感触があった。
どうしてだか、好奇心が疼かせられる。
そう言えば、と俺は今、思い出す。
姉を解体したのは、それを知りたかったからだからと。
でも、俺が知れたのは、人間とは、本当に綺麗なものなんだということだけ。
――だけれど
この白い男は、その答えを知っているのだろう。
彼の確信じみた表情と、蔑みに近い視線が、それを俺に分からせる。
……腹が立つ。
勝手に介入してきて、あれこれと文句を付けてきて。
そうして、俺が引っかかるような餌をばら撒く。
何とも巧妙な手口、だからこその怒りなのだが。
「分かった、あんたは知ってんすね、そのことを」
「あぁ、しかし見つけるのはお前自身の役割だ」
「魚は上げないから釣れってことか」
したり顔で頷く彼。
思わず腹を裂いて、中身がどんな色をしているのか、見てやりたい衝動が湧いてくる。
きっと綺麗なピンクの中に、何か別の色が混じってそうだ。
でも、だからこそ、興味深い。
「OK、あんたの口車に乗ってやるよ」
「口車などではない、教育的指導だ」
さしずめ、俺は新進気鋭の生徒といったところか。
「なら、俺も先生って読んだほうが良いかな?」
「よかろう」
一発快諾、気持ちの良いくらいに簡単返事をもらえた。
まあ、コイツの中では、規定事項なのかもしれないが。
「先生、本当に大丈夫なのかな」
そう零すのは、赤毛の士郎君。
いい加減、君もしつこい。
「何、私が見張っておこう。
殺しなど、もうさせはせんよ」
「っげ」
思わず漏らしてしまうが、彼の生徒になるということは、つまりはそういうことなのだろう。
面白くないが、今はそれよりも興味の対象がある。
故に、少しの間だけ我慢するだけのこと。
「よろしく、士郎君」
できるだけ爽やかに、俺は士郎君に話しかける。
が、彼はひどく胡散臭いものを見る目で俺を見ていて。
「悪いことしたら、先生に言いつけるからな」
拗ねたような口調で、そう呟いただけだった。
素直でない、しかし少しの可愛げは感じる。
「……ツンデレ?」
「違うっ」
髪だけでなく、顔まで真っ赤にして、士郎君は俺に叫んだ。
元気だなぁ、今更ながらに、解体し損ねたことを後悔している自分がいることに気が付いた。
「これ、余計なことは考えるな」
「……心まで読めるんすね」
「お前は分かりやすく、顔に出ているだけだ」
「そっすか」
正直者は辛い。
鷹のような目をしているだけあって、先生は結構鋭いようだ。
しかし、しかし……。
「ちょっといいっすか?」
「何だ」
最後に、質問しときたいことがある。
それは、どうして……。
「どうして、俺に死がうんちゃらとか、教えてくれようとするのかなって」
確かに、俺はそれが非常に気になる。
始まりがそれだったのだから、真理でもある。
だけど、それは他人が知ったことではないはずだから。
この人が、何を思っているのか、気になったのだ。
「罪人は」
白い彼、先生は答える。
それが義務だとでも言うように。
俺の目を、貫くように見つめながら。
「裁かれなくてはならない。
たとえどんな理由があっても。
それが罪を犯すという行為に対する、贖罪となりうるのだから」
ごく当たり前の理屈。
一般人がよく唱えそうなもの。
しかし、と彼は続ける。
目の力が、強まって。
「罪人が裁かれるとき、無知であってはならない。
如何な時にも、己が罪業を識らなければ、贖罪などできないのだから」
これが犯罪だなんて知っているけれど。
俺には罪とは思えない行為だってことを、見抜いているかのように、彼は語る。
知っているのだと、彼は俺を見透かすように
「……難しいっすね」
「ごく簡単なことだ。
理解できたのならば、すぐにでも自首することだな」
でなければ、と彼は、感情のない目で俺を見ていた。
おそらくは、殺される。
そう、本能で理解した。
「まぁ、それもアリかな」
どうしようもなく死に触れられるのだから。
その時になったら、溺れてみるのもアリかもしれない。
そんな風に、思えてしまう。
「まず、お前へ課題を与えよう」
「いきなりっすね」
唐突に、俺は先生に告げられる。
どこか冷めていた目は、強い光を帯びていて。
「その子の体を、どこか落ち着ける場所に返してやらねばならん」
彼が見ていたのは、もう動かなくなった少年の体。
紅を飛び散らせていて、全てがこぼれ落ちたように感じる姿。
「埋めるのじゃダメっすか?」
「親元に返してやらねばならん。
それは義務でもある。
全てが終わった時に、残酷な真実を告げなくてはならない」
ひどく、止めどなく不快そうに、彼はそんなことを言って。
俺はどこか、不思議な気持ちになりながら、二回の使われてない書斎へ、その男の子を運んでいった。
――その子の体は、とても重たかった。
「先生」
どこか不安を滲ませてしまいながら、俺は先生に話しかけた。
「本当に良いのかな、あいつ」
絶対、また繰り返す。
そう思える程に、あの殺人鬼は何も理解していなかった。
さっさと警察につきだしたほうが、皆の為だと確信できる。
でも、先生はどこか遠い目をしていて。
「あいつの目に、確かに紫電は煌いた。
ならば、まだ救いはある」
「そう、かなぁ」
先生がそう言うならば、そうかもしれないけれど。
俺は、やっぱり納得できなかった。
そうしていると、クシャりと、先生は俺の髪の毛を触って……。
「もう、殺させなどしない。
雷電の名にかけて、約束しよう」
先生は俺を安心させるように、そんなことを言った。
……あいつは、まだ、信頼できない。
――けど、先生がそう言うなら、もうちょっとだけ見ていようと、そう思った。
「先生のことは、信用するよ」
「それで、いい」
良くないけど、今は妥協する。
先生を、あまり困らせたくないから。
だから……、
「俺も、あいつを監視するから」
「ほぉ」
強い目でそう宣言すると、先生は目を細めた。
何か、眩しいものでも見るかのように。
「今度ひどいことをしようとしたら、絶対に俺が止めるからっ」
激昂に近い感覚で、俺はそう宣言して。
先生は、見守るように、俺を上から見ていたのだ。
この人がいるなら、きっと大丈夫。
そう思わせる雰囲気を纏いながら……。
『おまけ』
「ところで先生」
「何だ」
俺は、先生の顔をまっすぐに見て、そうして問うのだ。
気になること、聞いたときは驚いて、何も喋れなかったけど。
落ち着いた今だからこそ、聞きたいこと。
「ななじゅう……いっさい?」
「そうだ、そう言っただろう」
平然と、そんなことを先生は真顔で答えた。
俺は、思わず先生をじっと見つめてしまう。
「もしかして、先生ってお爺ちゃん?」
そうして、恐る恐るそんなことを聞いてみると……先生の目は、どこか光って。
「――私を年寄り扱いするか、士郎」
俺を見下ろす……いや、睥睨する先生は、どこか威圧感があった。
輝きが、俺を焼き付くさんとしているかのような、そんな錯覚すら覚える。
「イエ、ソンナコトナイデスヨ」
カタコトでそう答えると、先生はジッと俺を見ていて。
そうして、小さくこんな事を漏らしたのだ。
「年寄りは、90代になってからだ。
私はまだまだ働ける」
「……大して変わらないと思うけどなぁ」
思わず零すと、何時の間にか先生に肩を掴まれていた。
――そのあと、無茶苦茶『お話』された。
ウン、カガヤイテルナラ、ネンレーナンテ、カンケイナイヨネ。