Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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第1話 知らぬ者たち

 明るみに居た。

 あの連れ込まれた家とは違う、開けた優しさがある空間。

 慣れ親しんだ場所、見慣れた人達がいる場所。

 

 ――俺の家、だけど。

 

 

「それでは先生、息子をよろしくお願いします」

 

「うむ、任されよう」

 

 先生が、平然とした顔で、お母さんとお父さんに頭を下げているのを見ていた。

 何が起こってるのか、イマイチ理解できない。

 全てがいきなり過ぎて、自分の頭が追いついていないのだ。

 これの始まりは、今から少し前のことだった。

 

 

『士郎、お前の家に案内しろ』

 

 いきなり、先生がそんなことを言った。 

 何だろうと思いつつも、俺は先生を連れて自分の家へと向かた。

 先生が俺の家に来る! という期待が多く含まれていもしたから、それなりに楽しみに。

 それで家に到着した時、先生は俺の両親に話を始めたのだ。

 

 俺が武術……確かバリツ? を習いたい為に、弟子入りしてきたこと。

 2週間ほど、修行のために先生が俺を預かりたいということ。

 危険からは、必ず守るということ。

 それらのことを、先生はお父さんとお母さんに告げた。

 

 とても胡散臭かった。

 俺でも、妙な目で見てしまいそうな怪しさだった。

 これで頷くはずなんてない。

 ……そう、思っていたんだけど。

 

「先生、今晩からなのですか?」

 

「その通りだ。

 今から準備をして欲しい」

 

 何故か、両親は先生に全幅の信頼を置いていた。

 だからこそ思うのだ。

 意味が、分からない、と。

 

「先生、何したの?」

 

「ふむ、メスメル式は好かんが、しかし便利ではある」

 

 俺が訊ねても、先生は独りごちるだけで言ってる意味が分からなかった。

 これは俺に答えてくれているのか、それとも単なる独り言なのか。

 ……先生の考えてることは、良く分からない。

 

 でも、決して無視はされてないと、そう思っている。

 先生は言っていたから。

 お前の声は届くって。

 だからきっと聞こえてる。

 

「答えてよ、先生」

 

 だから、先生を睨む。

 聞こえてるのに答えないのは、いけないことだと思ったから。

 

「なに、小手先の技術を使っただけのことだ」

 

 先生は簡潔に、それだけ答えた。

 ただ、それ以上は答える気が内容で。

 ふむ、などと言いながら、再び考え事を始めてしまっていた。

 ……結局、俺が分かったことは、先生が何かをしたことだけ。

 それも、何をしたのかは分からなかったけど。

 

 ――まぁ、いいけど。

 

 何だか釈然としない。

 けど、先生が答えた以上、俺もこれ以上は聞けなかった。

 だって、先生、難しいことをブツブツと呟いてるから。

 さっきしたことも、その難しいものの中に入ってるって、そんな直感がしたから。

 

「士郎、しっかり先生のところで学んできなさい」

 

 お父さんが、少し厳しい顔をしてそんなことを言って。

 

「将来は格闘家にでもなるのかしら」

 

 お母さんが、トボけた調子で笑っていて。

 

 何だかとっても不可思議で。

 それでも、両親は何時も通りだとも思っていて。

 何かに化かされてるんじゃないかと、変な考えが頭に過る。

 

「才能の善し悪しなど、どうということはない。

 挑戦すること、それこそが輝きなのだから」

 

 先生は、どこか分けしり顔で頷いて。

 やっぱり、先生はタヌキなんじゃないか? と感じた俺がいた。

 

「先生、度重ねて申し上げますが、息子をよろしくお願いします」

 

「あなた、何度も言われなくても、先生も分かっていますよ」

 

 ヘコヘコと、お父さんが頭を下げ続ける。

 何時も頭の低い人だけれど。

 今日は一段と低いようだった。

 そしてマイペースなお母さんは笑っているだけ。

 

 何時もの風景、何時もの日常。

 でも、それとも暫くはお別れしなきゃいけない。

 ……それが、少し寂しかった。

 

「失礼、少々トイレを借りる」

 

「あ、どうぞ、左の方にあります」

 

 先生が、急にそんなことを言う。

 お父さんが指をさしながら、先生に案内をしている時に、先生が目配せをしてきた。

 何だろう、と思っていると、先生の目は次に俺の両親に目を向けていて。

 

 ――それで、先生の言いたいことが分かった。

 見透かされていて、恥ずかしいけど、それでもありがとうって思うのだ。

 俺が頷くと、先生は微笑を浮かべてくれた。

 

「それでは、失礼する」

 

 先生は、トイレのある方向へ、足を進めていった。

 そして、ちょっとして扉の閉まる音。

 ……じゃあ、挨拶をしよう。

 

「ねぇ、俺、ちょっと家に戻らないけどさ」

 

 口にしようとすると、照れくさくあるけれど。

 

「帰ってきたら、いっぱい話すから」

 

 でも、きちんと口にしておきたかったから。

 

「二人とも、元気でいろよな」

 

 少しの間の、お別れをする。

 

 先生が、どうして現れたのか、それを語ると言っていた。

 あの暗い部屋で、何かに憑かれた殺人鬼と一緒に。

 恐らく、俺が家を離れなくてはいけないのは、そのせい。

 

 何が起こるのかは分からないけど。

 何かが起こっているのは、俺にも分かるから。

 全部終わったら、また二人の顔が見れるから。

 

「士郎こそ、しっかり学んできなさい」

 

「怪我はするにも程ほどにね」

 

 二人は、何も知らないふたりは、ニコニコ笑いながら俺を励ます。

 これから、何がどうなるかなんて俺には分からないけど。

 家族の励ましが、何より俺を頑張れるようにしてくれる。

 

「終わったようだな」

 

「……先生」

 

 ひょっこりと、先生が戻ってきた。

 何時の間にか、俺達の傍に立っていて。

 俺の両親へと、顔を向けた。

 

「お前達の息子は、しかと私が守り抜こう。

 そして、お前たちもまた、私が守ってみせよう」

 

 先生は、超然としながら、そんな誓言を発した。

 それには、俺も、お父さんも、お母さんも、キョトンとしていたけど。

 それでも、その言葉に、どこか安心感を覚えていて。

 

「まぁ、頼もしいですわね」

 

 お母さんが手を合わせながら、そう微笑んでいて。

 

「私達がお力になれることがあれば、何なりとお申し付けください」

 

 お父さんは、やっぱり頭を下げていて。

 

 何時も通りと、やっぱり思って。

 

「では、行くぞ、士郎」

 

「はい、先生」

 

 俺の着替えとかが入ったリュックを背負って、そして二人に、俺は振り向く。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 ごく自然に。

 ごく普通に。

 何時もの風景のように。

 俺は、両親にそう告げれたのだ。

 

 

 

「先生、一体何があるの?」

 

 俺の家からの帰り際、俺は尋ねずにはいられなかった。

 だって、絶対に何かが起こっていて。

 先生は、それが何なのかを知っていて。

 そして、きっと、先生はその為に現れたのだから。

 

「焦るな、龍之介を交えて話をする」

 

「……先生が、そう言うなら」

 

 あいつ、雨生龍之介。

 薄暗い部屋に住んでる、生粋の殺人狂。

 名前は、適当にあいつが名乗ったもの。

 そのあいつに、俺は殺されかけた。

 恐らくは面白半分で。

 ……だから、正直不満しかないけど、それでも先生が決めたことなら、それに従うしかない。

 

 俺の分からないことを、先生は沢山知ってるだろうから。

 俺の見えないものを、先生は沢山見えてるだろうから。

 だから俺は委ねている。

 あの時助けてくれた、命の恩人である先生に。

 

 半ば諦めの境地で、俺は先生に従う。

 すると、先生は俺の頭に手を置いて、グチャグチャと粗雑に撫でる。

 乱暴だけど、安心できるような頼もしさがあった。

 

「不安なら、私の傍に居るが良い。

 それに――」

 

 どこか深い目をして、先生は俺を見る。

 きっと、何かヒントをくれようとしていると思ったから、俺は必死に耳を傾けて。

 

「龍之介と、ひとつ話をしてみるが良い。

 私は口を出さんから、存分にな」

 

「――――」

 

 ……俺、顔が引き攣っている自信がある。

 あいつと話?

 無意味に違いないと、そう思う。

 価値観がズレてるって、感じたから。

 だから、無駄だと、拒否を起こしそうになる。

 

「嫌なら、無理強いはせん。

 だが、それで分かることもあるだろう。

 無論、隣に私も居よう」

 

 でも、先生が言うなら、きっと意味があると思う。

 それならば、と湧き上がってくる嫌悪感を抑えて、俺は先生に言った。

 

「――分かった、頑張ってみる」

 

 

 

 

 

「せいはい、せんそう?」

 

「そうだ、私はそれを行う為に呼び出された」

 

「へー」

 

 先生が、あの家に到着して、そして早々に説明を始めた。

 いま街で起こっていること、戦争……戦いだ。

 

「でも、そんなことやってたらニュースになるんじゃないかな?」

 

「魔術師共も、抜かりはないのだろう。

 隠匿された儀式、という訳だ」

 

 何で魔法を使えるのに隠すんだろ、と気になったが、続きの話が気になったので、そのまま静かに聞き入る。

 一方で殺人鬼、雨生龍之介が興味深そうに聞き耳を立てている。

 それ、バラすの、合法なの? と聞きたげである。

 ……やっぱり反省なんて、ひと欠片もしてないと思う。

 

「全てで七騎、全てを倒せば願いが叶う……と、言われてはいるがな」

 

 さてはて、と先生はどこか何も読み取らせない瞳で。

 それでも、あまり信じていないのが伝わってくるように。

 先生は胡乱げな雰囲気を醸し出していた。

 

「要するに、そいつらを殺して回れば勝ちってことでしょ」

 

 ほうほう、と楽しげに雨生龍之介が呟く。

 が、先生は釘を刺すように、雨生龍之介を睨んだ。

 

「言っておくが、召喚されるものは誰も彼もが一騎当千の猛者ばかりだ。

 迂闊なことをしようものなら、早々にあの世行きだと心得るが良い」

 

「でもでも、それはそれで怪獣大バトルみたいな感じがして、すげぇ楽しそうじゃん?」

 

 ははは、と愉快そうに、雨生龍之介が言う。

 頭がお花畑なのか、ネジが足りてないのか。

 ……多分両方だと、そう思うけれど。

 

「さて、時の英雄達の演舞。

 伊達では無いであろうがな。

 ともすれば、私の首が断ち切られかねん」

 

「……先生が負けるところ、全然想像できないんだけど」

 

「あ、それ言えてる。

 世紀末になっても、ケロっと正義の味方を気取っていそう」

 

 ここで、始めて雨生龍之介と意見が一致した。

 ……別に、嬉しくともなんともないけど。

 

「私も本調子ではない。

 接続が、イマイチでな。

 ――充電が足りていない状態だ」

 

「充電?」

 

「コンセントならそこっすよ」

 

 意味が分からず首を傾げると、雨生龍之介が指を指す。

 その先には、充電器とコンセント。

 

「鼻か尻にでも挿せば、充電できそう」

 

 ……雨生龍之介が言っていることを、想像してみる。

 先生が鼻と尻に充電器を挿して、紫電を散らしている姿……。

 ――ない、絶対に。

 というか、そんな姿の先生は嫌すぎる。

 

「馬鹿者、輝きは己が内から湧き出すものだ。

 そのような下らん手段を取るまでもない」

 

「自家発電っすか」

 

 つまらなさそうに、見たかったのに、と言っている雨生龍之介。

 俺は絶対に嫌だったから、これで正解だけど。

 でも、心の片隅では少し……。

 

「何を考えている、士郎」

 

「イエ、ナニモカンガエテマセン」

 

「そうか、ならば良し」

 

 鋭い、流石は先生だ。

 そして、雨生龍之介がこっちを見てニヤニヤしてんのが鬱陶しい。

 

「では、話に戻る。

 聖杯戦争は原則として夜、一般人に見つからぬように行われる。

 互いのマスター、サーヴァントと共に戦うことになる」

 

 先生は何事もなかったかのように、普通に話に戻る。

 俺も慌てて、背を正して真っ直ぐにする。

 集中して、耳を傾ける。

 

「最後の一騎になるまで戦い、戦い抜いたものに、聖杯は現れると言われている」

 

「だから……聖杯戦争」

 

 願いを叶える為の殺し合い。

 そこまでして、叶えたい願いでもあるのか。

 ……何か、嫌だな、そういうの。

 

「理解したようだな。

 では、これからの行動方針を伝える」

 

 さっきと変わらぬように自然体で。

 しかし耳を傾けさせられる不思議な声で。

 先生は言う、これからの事を。

 

「拠点はこの家を使う。

 構わんな、龍之介」

 

「良いっすよ、別に」

 

 事もなしげに答える雨生龍之介に、何か反発したくなる感情が湧いてくる。

 だって、この家は……。

 

「不満そうだが、決定事項だ」

 

 即座に先生に見抜かれるが、それでも一言くらいは、何かが言いたかった。

 自分でも生意気と思うが、それでも抑えられない。

 

「……ここって人の住める場所なのかよ」

 

 床には血みどろ、鉄と腐った臭いが混じって、悪臭を漂わせている。

 そして何より、死んでる人だ転がっている家でもある。

 全然、住む場所として失格だと、そう思うのだ。

 

「酷いな、士郎君」

 

「確かに、ひどい有様ではあるが、片付ければ何とかならん事もない」

 

「っでも!」

 

 あくまで、ここに居座るつもりの先生に、何か言おうとして。

 でも、その前に先生が、こんなことを言って。

 

「それとも、お前の家に逗留して、そして家族を戦火に巻き込むか?」

 

 ――言われて、ハッとした。

 下手に人がいる場所に居を構えると、周りの人を巻き込みかねない。

 そんな、事実に。

 

「……分かった、ここでいいよ」

 

 そうだ、それならここでいい。

 掃除すれば、もしかしたら何とかなるかもしれないし。

 それに、この家なら、潰れちゃっても良いかと思ったから。

 

「よろしい、では次だ」

 

 サラリと、流すように先生は続ける。

 だから俺は、ため息を小さく零す。

 そうして、自分を納得させる為に。

 

「基本、戦いに赴く際、お前達は私の傍に居てもらうことになる。

 それは良いか?」

 

 戦い、聖杯戦争……殺し合い。

 正直に言えば、怖い。

 だって、死というものを見てしまったから。

 雨生龍之介に、見せられてしまったから。

 でも、それでも、それ以外にも、湧いてくる感情があって。

 

「分かった、先生」

 

 俺は頷いた。

 だって、先生はきっと俺を守ってくれるだろうから。

 

「イイネェ、盛り上げって来たぜっ」

 

 一方、間近で戦いを見れると分かった雨生龍之介は喜びを露わにする。

 でも、俺はそれに対して、口を噤んでしまう。

 

 ――だって、俺にも、そういう気持ちはあるのだから。

 

 先生の活躍を見られる。

 それを考えると、確かに気持ちが高ぶるのだ。

 

「遊びではないのだぞ、お前達」

 

「分かってる分かってるって」

 

 馴れ馴れしく先生の方を叩く雨生龍之介。

 だが、先生は鬱陶しそうにそれを見ているだけで、取り分けて拒否する様子は見せなかった。

 

「……戦いに赴くにあたって、少々の解説を入れねばならんようだな」

 

 どこか溜息をつきたげに、先生は俺たちを一瞥する。

 ……雨生龍之介は兎も角、俺もなんだ。

 ちょっとショックである。

 

「まず、一つ目に」

 

 先生は、淡々とだが、俺達の目を見て話し始める。

 俺は真剣に、雨生龍之介は興味深げに、先生を見返していた。

 

「敵サーヴァントに、アサシンと呼ばれる者がいる。

 奴はその名の通り、暗殺に特化したサーヴァントだ。

 故に、この家にお前達を置いておくと、場所が露見した時に危険である。

 だから、私はお前達から離れる訳にはいかんのだ」

 

 ――暗殺、という言葉に、背中に冷たいものが走る。

 

 だって、正々堂々とした戦いを想像していたから。

 英雄達の決闘。

 そうした中に暗殺者が混じっているのは、ひどく恐ろしく感じる。

 戦いに見とれている間に、殺されそうな気がしたから。

 

「心配をするな」

 

 どこか背筋が寒くなっている俺を、先生は見抜いたらしい。

 そうして、どこか安心させる声音で、続ける。

 

「お前達を、私は害させなどしない」

 

 そう言ってくれるだけで、ホッとするのだから不思議だ。

 いや、先生の保証なのだから当然なのだろうか?

 

「っま、なるようになるさ」

 

 一方で、雨生龍之介の楽天さは目を見張るものだある。

 よくそこまで図太くなれる、感心するばかりだ。

 

「二つ目は……龍之介、お前に意味を教えるためだ」

 

「……成程、そういうことっすか」

 

 次に先生が述べたのは、雨生龍之介のこと。

 短く、互いに理解したように、すぐに会話を打ち切った二人。

 生と死についての約束だと、話を聞いていたから、とりあえずは理解できた。

 ……こいつに、分かるとは思えないけど。

 

「ふむ、まあ、この二つ位だろうか。

 細かいことは追々話す」

 

 先生は考える素振りをしてから、そう呟いた。

 あまり多くても、覚えきれないだろうから助かった気持ちを覚える。

 でも、先生の次の言葉で、俺は凍りつくことになった。

 

「では、士郎。

 語らいの時間だ。

 存分に話し合え」

 

 そう、そうだった。

 俺は雨生龍之介と、話し合うんだった。

 自分で、そう決めたのを思い出す。

 

「あ? なになに?」

 

「士郎と、お前の話し合いだ」

 

 どこか不思議がっている奴に、先生は明瞭に答える。

 嫌な汗が、タラリと流れるのを自覚する。

 

「へぇ、俺も勘違いされたままは嫌だし?

 ちょっと話そうか、士郎くん」

 

 妙に爽やかげに言う奴に、きっと俺はうへぇ、と嫌な顔をしてる。

 でも、必要なことだから。

 ……だから、俺は雨生龍之介と向かい合う。

 

「話が聞きたい」

 

「良いよ、何でも」

 

 軽く言うあいつに、背中に汗が流れていくのを感じるが、それでもしっかりとあいつの目を見る。

 ……どこか楽しげな、あいつの目を。

 

「どうして……殺しなんかしてたんだ」

 

「ゲイジュツってやつ?

 みんなどうしてだか、分かってくれないけど」

 

 ……この時点で、心が折れそうになる。

 あまりにもズレているから。

 けれど、それを抑えて俺は続ける。

 

「俺は……先生が来なきゃ、殺されてたのか?」

 

「そうだねぇ、解体(バラ)してたと思うよ。

 今はそんな気は、ちょっとしかしないけどね」

 

 ――少しでもあるのか、そんな気持ちが!?

 

 戦慄を隠せない。

 危ないという心の警笛が、鳴り響き始める。

 でも、そんな中でも一つ。

 気になる気持ちが湧いてきた。

 それは、こいつが求めている物で、とても重要なもの。

 

「お前は……自分が死んだ時のこととか、考えないのか?」

 

 人を殺す……とても恐ろしいこと。

 どうしてそんな感覚を得てしまったのか、俺には到底及びもつかない。

 だけど、人の死と自分の死を一致させることが出来るのならば、それでこいつは答えを得れると、俺はそう思う。

 俺の言葉に、雨生龍之介はどこか目を丸くして、そうして次には淡々として、こう言った。

 

「わからないなぁ」

 

 やっぱり……と強く思ってしまう。

 でも、こいつは言葉を続けて。

 

「だから、先生に教えてもらうんだよ。

 今は俺は、先生の生徒だからさ。

 色々と教えてもらうんだよ、これから」

 

 どこか、遠い目をする彼。

 果てにあるモノを見つめようとしているようにも思える。

 ……何を見ているのか、何を見つめようとしているのか。

 

「なら」

 

 その様子が、少し……ほんの少しだけ、理解できた気がするから。

 分からないものを探す、それにちょっとだけ共感したから。

 

「その間、お前はどうするんだ」

 

 もう一度だけ、俺は尋ねる。

 答えを探すお前は、その間にどういう風に行動するのかということを。

 

「そうだなぁ」

 

 一つ頷いて、雨生龍之介は俺を見る。

 そうして、こいつはどこか抜け落ちた表情で答えた。

 

「探してる間は、忙しいから芸術活動は休止するしかねえよなぁ。

 それも知る内の一つに入ってるし」

 

 ――そうか、と分かった気がした。

 多分、こいつは残忍だけど、嘘は言わないと思うから。

 だから、油断はしないけど……信じることにした。

 

「目は離さないからな」

 

「ま、しょうがないかなぁ」

 

 あ、そう、と言わんばかりに。

 興味なさげに、雨生龍之介は答えた。

 どうでも良いと、思ってるのがまるわかりだけれど。

 腹は立つけど、俺が納得するためだったから。

 

 ――俺は、こいつを許容する、ことにした。

 

「終わったようだな」

 

 ずっと隣に居た先生が、ようやく口を開く。

 先生は、確かに隣にいてくれた。

 一言も口を挟まなかったけど。

 それでも、俺が最後まで話しを出来たのは、先生が居てくれたお陰だから。

 

「ありがとう、先生」

 

「お前は一人で話をした。

 お前が立ち向かっただけの話だ」

 

 ただただ事実を告げるように、何の感情も乗せることなく先生は言った。

 それが、どこか誇らしく感じた。

 だけれど、先生は感慨に浸る暇などなく、こんなことを呟いた。

 

「……ふむ、成程。

 どうやら、剛の者が入るようだな。

 誘っているのだろう」

 

「え?」

 

「どゆこと?」

 

 訳が分からなかった俺達に、先生はどこか真剣な声音で、告げた――。

 

「出るぞ、戦争の始まりだ」

 

 

 

 それは夜。

 何時の間にか落ちた陽に、夜の始まりを教える星が瞬き始める時間。

 魔術師達の、活動を始める時間であった。




ペンギン特有の、話が進まない何か。
次に、ようやく戦闘に入れそうです(汗)。
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