そして、fate/zeroの原作の流れは覚えていても、セリフは局所的にしか覚えていないので、割と好き勝手に書きました。
故に、何かえらいことになってますが、あまり気にしないでください。
今回は、基本原作をなぞるだけ、です。
それは、夜のことだった。
夜空からは一等煌めく星以外は消え、代わりに地上のビルディング群が星の代替を務める夜。
現代、文明華やかりし二十世紀。
――その場所で、激突するは二つの影。
一人は剣を構えていて、一人は槍を振るいながら。
激しく、激烈に、互いの得物で打ち合っていた。
一見、時代錯誤にも思える光景。
その者達が振るうものは、太古の武器であるのだから。
その場所だけが、時代を逆行しているようにも感じる。
――しかし、しかしだ。
見るがいい、刮目せよ。
彼らが振るう一撃は、重く、鋭い。
常人の目では捉えることのできない攻防。
それは明らかに、人知を超えていた。
時代に取り残されたものではない。
これは即ち、神話の再生でもあるのだ。
剣士の剣は重く、圧殺を齎すもの。
槍兵の槍は鋭く、刺殺を齎すもの。
一撃でも受ければ、互いに致命傷となる血戦。
その綱渡りを、軽やかに、舞うように、されども力強く。
二人の戦士は、綱の上を駆けていく。
「見事だ、セイバー」
剣と槍の演劇、その間のほんの僅かな余暇。
互いの戦闘領域を離脱して、互いの間合いから離脱しているこの瞬間。
槍の使い手、聖杯戦争に置いて三騎士に連なるサーヴァント、ランサー。
彼は、相対する相手の技量に感嘆の念を零した。
目の前の相手は、その一撃が自身を砕くに足るものだと、認めざる得ないものだから。
さりとてその剣は、決して重鈍ではなく疾風の如き剣捌き。
眼前の剣使いが、優れた英霊の証左であることが、僅かに剣を交わしただけでも伝わってきたのだから。
「どの口が言うか、ランサー」
口角を上げたのは剣使い。
聖杯戦争最有のサーヴァントであり、それ以上に自身の実力を示している者。
セイバーの名を冠する英霊は、ランサーの賞賛を一蹴する。
何故か、それは先の攻防が明確に示している。
「この剣戟、見事に受け流すとは」
彼女の振るう軌跡、その後に残るは圧壊のみ。
だが、彼は、ランサーは未だに健在だ。
頬の擦り傷ひとつ以外、何処にも傷を負っていない。
それが示す事実。
それは、彼もまた、英霊であり、英雄であるということ。
「なに、この程度で敗北しようものならば、マスターに汚名を帰すことになる。
そのようなこと、断じて認められるはずもない。
俺は主の期待に応え、騎士道を貫徹する」
「その心意気や良し!」
身が滾る。
セイバーは己が高揚を、しかと感じていた。
眼前の騎士との戦い、これはつまり決闘であると、そう判断したのだから。
「行くぞ、ランサーっ」
「来い、セイバー!」
束の間の休息は終わり、二人は互いに視線を交わす。
――それが、合図だった。
互いに闘気を纏い、次の瞬間には、既に戦いを再開していた。
踏み込むはセイバー、迎え討つはランサー。
迫る蒼銀に、ランサーは長槍、短槍で迎撃する。
長槍でセイバーの一撃を逸らし、リーチの短い短槍での反撃。
連続での短槍の連撃、その連続攻撃は並であれば直撃は免れない。
されど、セイバーは未だ一つの傷もない。
迫り来る槍の連続を、セイバーは己が直感のみで回避してのけているのだ。
そうして、槍に押されるようにセイバーが一歩後退したその時。
ランサーが長槍を一瞬だけ、力を溜めるように引いた瞬間を、セイバーは逃さなかった。
「はぁっ!」
彼女、セイバーは回転する。
見えない剣を持って、全力を振り絞って。
するとピタリと合ったように、ランサーの長槍とセイバーの剣が重なり合う。
ギンッ、と甲高い鉄の摩擦音が響き、ランサーの長槍は大きく弾かれた。
ランサーは槍から手を離しこそはしなかったが、それは大きな隙として、セイバーは更に回転を重ねる。
加速を載せて、更なるもう一撃を。
「っ」
ランサーは咄嗟に、短槍を迫り来る見えない剣へとかち合わせた。
――その瞬間、ランサーは大きく吹き飛ばされる。
嵐を具現化したかのような一撃、それ程の衝撃。
ダイヤモンドでさえ、亀裂を入れられる加速の回転。
その一閃は、美しい流線と共に、受けうるものに死を与える。
されど……。
「やってくれるな、セイバー」
「な、に?」
取った、確実に。
セイバーは瞬間、そう思っていた。
だから立ち上がった彼が、少なからずともに彼女に衝撃を与えていたのだ。
短槍ごと両断した、それ程の勢いであったのに。
しかして、彼の槍は砕けていない。
つまりは……、
「よもや、アレまで受け流すとは」
ランサーは咄嗟に吹き飛ばされることで、衝撃を分散した。
力に逆らうのではなく、乗ることで波を乗り越えたのだ。
故に、ランサーは多少の擦り傷を見せつつも、極めて無傷に近い状態である。
さて、ここで驚愕を受けたのは誰だったのか。
致命的に隙を晒したランサー?
それとも、仕留められなかったセイバー?
――否、どちらもその様な隙など、晒してはいない。
セイバーはランサーの技量に感心すれど、心に罅など入るはずもなく。
ランサーも、見えない剣に惑わされこどしたものの、逆にそれがランサーを更に慎重かつ大胆にして、冴えを漲らせる事になっていた。
よって、どちらも戦闘継続は可能であり、勝負はこれからだと思っていた。
二人の武人の、共通の認識。
それらは互いに思っており、故に本当の事であるのだ。
だからこそ、それを分からぬものが取り乱す。
『ランサー、何をしているのだ』
どこからか、敢えて言うならば天から、声が聞こえる。
苛立ってる声、焦っている声。
それはセイバーには聞き覚えのない声であったが、ランサーには覚えがあったようで。
「我が主……」
声の主たるはランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
風と水の二重属性を併せ持つ神童と名高い彼が、その声を震わせていた。
その理由は、考えるまでもなくランサーの戦いぶりであった。
決して、ランサーがセイバーに劣っている訳ではない。
むしろ防勢に立って、あれだけの猛攻を捌くのだから、その実力はよく理解できると言うもの。
しかし、戦いを素人目で見ると、ランサーが劣勢に立っているように見えるのもまた事実であった。
『貴様が自信があると言ったから、私は出陣したのだ。
それが何だというのだ、圧倒されおってからに』
声に、不快さが滲んでいた。
ランサーは、一切の反論をしない。
あるがままに、主人の言葉を受け入れている。
『負けことなど、罷りならん。
……よって、宝具の開帳を許す。
速やかに始末しろ、ランサー』
「承知しました、我が主よ。
貴方に、勝利を」
『勝つべきは私だ。
故に、貴様に負けは認められない』
それは傲慢であった。
自身は勝利が約束されていると、そう宣言したにも等しい言葉なのだから。
がしかし、その主人の傲慢さが、ランサーにとっては活力となる。
――我が主、御身は勝者に成るべき人物。
――その騎士たる俺は、絶対に負けられぬ。
活力は自信へと変化し、自信はランサーの神経を、より研ぎ澄ませていく。
セイバーも、それに反応する様に、己を引き締めた。
ランサーが、より死角がなくなり、より手強くなったから。
「では一つ、我が槍の姿を見せるとしよう」
ランサーが、厳かにそう告げた瞬間。
――彼の槍、その色を現して。
彼の槍は一つは赫く、一つは黄色い。
長槍の血を帯びたが如き色は、魔を感じさせ。
短槍の黄金が如き色は、正を感じさせる。
「それが貴様の宝具か、ランサー」
「そうだ、この二槍こそが主と我が道を切り開く。
セイバー、お前には早々に退場願おう」
「その言葉、しかとそのまま返そう」
二人は、笑っていた。
しかし、それは見るものを凍らせるような笑み。
――狩人が、獲物を狩る表情なのだから。
「では、第二戦目を始めることにしよう。
今度は、先のようには行かぬ」
「次こそ、首を取るっ」
剣を構えるセイバーに、猛然とランサーが駆け出した。
だが、今度はセイバーが己の目を疑う事となった。
「っな!」
「ッフ」
早い、目では追えない。
ランサーのスピード、風に乗った韋駄天の如き素早さ。
瞬時にセイバーの間合いに飛び込み、そして槍を振るったのだ。
「さあさあ、受けきれるか? セイバー!」
「貴様、速度を落としていたなっ」
苦虫を噛み潰したかのようなセイバーの声に、ランサーは微笑を浮かべただけで。
短槍の乱れ突きが牽制として飛び、僅かの隙さえも見せなくなった長槍が、セイバーを刈り取ろうとする。
ランサーはセイバーに正面からの奇襲に成功していたのだ。
「ック」
「動きが鈍いぞ、セイバー。
それで我が槍を捌ききれるかな」
ランサーは言葉と共に、槍を突き出す。
それはさっきまでの光景とは違い、両者の攻守は逆転していた。
防戦に回りランサーの猛攻を受け流すことに腐心するセイバーと、一心不乱の一転攻勢に出たランサー。
セイバーの身は、確かな直感の元に、全ての槍を受け流している。
しかし、彼女は焦っていた。
何故なら……。
「ランサー、貴様の槍、それはっ」
「そのような色をしているのか、お前の剣は!」
ランサーの長槍。
剣で受け止める度に、姿を晒して。
そして、遂に――。
「成程、お前の剣、その全容を把握したぞ、セイバー!!」
「やってくれる、ランサーっ」
剣戟を交えながら、ランサーは確かめたのだ。
セイバーの剣、その長さから、存在までを。
その存在は、あまりにも有名であったから。
一目見るだけで、その幻想を、看破できるモノであったから。
「はぁっ!!」
その真実を、ランサーごと叩き切らんと、絶妙なタイミングでセイバーは反攻した。
ランサーの突き出した長槍に剣を滑空させながら、その身を両断せんとす。
長槍を短槍の両方を使用する場合、力が分散する為、セイバーの攻撃の方が勢いが強い。
だから、攻撃は確かに届こうとしていた。
だが、それすらも、ランサーは読んでいたのだのだ。
「焦りは戦いに禁物だぞ、セイバー!」
ランサーは躊躇なく、長槍を手放した。
それ故、赫の槍は遠くに弾き飛ばされた、が。
攻撃目標を失った剣は、空振りに終わって。
今、セイバーの懐には、黄色の短槍を有したランサーの姿が――。
「取ったかっ」
「まだだっ!」
セイバーは己の魔力と脚力を存分に生かして、その場から後ろに飛んだ。
セイバーだからこそ出来る強引な力技だが、この場合に置いては有効であった。
お陰で、短槍は左腕を抉るだけに終わって、セイバーは離脱に成功したのだ。
「形勢逆転だな、ランサー」
「さて、どうかな?」
結果として、左腕を負傷したセイバーと、長槍を失ったランサー。
しかし、セイバーには宛があった。
「アイリスフィール、回復を」
「任せて、セイバーっ」
セイバーの後ろに立っている女性。
白い雪のような髪に、ルビーのような赤い瞳。
アイリスフィール・フォン・アインツベルンが、セイバーの期待に応えるべく、治癒の魔術を行使する。
だが、しかし……。
「どうしてっ」
それは、まるで効いてない。
悲鳴のようなアイリスフィールの声が、その場に木霊する。
セイバーは、鋭くランサーを睨みつけた。
「その短槍、それも魔槍の類か。
それも与えた傷に、呪いを残す」
「その通りだ。
身を持って体感したか、セイバー。
いや、騎士王と呼ぶべきであるのかな」
余裕を持っているランサーの表情に、セイバーは歯噛みせずにはいられない。
自分は、焦りから隙を産み、治らない傷を負った。
それがセイバーにとっての屈辱であり、そして頭を冷やす要因ともなっていた。
「お陰で頭が冷えた。
フィオナ騎士団の誉高き戦士、輝く貌のディルムッド」
「ほう、我が真名を探り当てたか」
「その槍と泣きボクロ、そして実力を鑑みるに、それ以外にはありえまい」
「彼の騎士王にそう評してもらえるとは、感慨深きものがある」
愉快そうに、ランサーが哄笑した。
それ程までに、この状況が何よりも愉快だったから。
「さて、どうする騎士王。
続けるか、それとも引くのか」
「舐めてもらっては困る。
私は騎士王、キャメロットに座するブリテンの守護者だ。
この程度で敗走など、出来ようものか」
互いに消耗は激しい。
このまま戦いあっても、確かな勝利などは覚束無い。
しかし、互いに思っていること、それは一つだった。
――この機会を逃せば、これ以上の好奇は訪れないということ。
「流石、とだけ言っておこう」
「貴方にそう言われるとは。
ますます撤退ができなくなった」
互いに、武器を構える。
両者ともに、危ういものがある。
しかし、この場で背を見せる方が危険だと。
相手の闘志を感じている二人は、そう確信していて。
いざ、戦いの再開……というところで。
――異変が、起こった。
「そろそろ頃合か」
そう呟いたのは、冬木に跨る巨大な鉄橋に座する、大柄な男。
どこかの民族衣装を思わせるような出で立ち。
威圧感を貫禄を持って発する、大きな男。
「え、何がだよ?」
一方で困惑気味に呟いたのは、少年。
線の細い少年、どこか賢さと小心さが入り混じって見える少年。
その彼に、大柄な男。
聖杯戦争に置いてライダーのサーヴァントとして現界した男は少年、ウェイバー・ベルベット言うのだ。
「そろそろ行かねば、奴ら共倒れしかねん」
「はぁ?」
ライダーの視線の先には、相対する二人の戦士。
セイバーとランサー、その両騎士の姿。
だからこそ、ウェイバーは意味が分からない。
「何でだよ、アイツ等どっちかくたばってから、横合いを殴りつけるのが一番だろ?」
正直に、自分の思ったままに、ウェイバーは述べる。
が、しかし、だ。
ライダーは首を振って、マスター、ウェイバーを見る。
その目、どこか無邪気さと興奮を内包していて……。
「分かっとらんなぁ。
あれ程の猛者、滅多に目に掛かれるものではない。
うむ、是非とも我が旗下に欲しい」
「お前巫山戯んなよっ!!」
頭が沸騰してるのか。
それがウェイバーの所感だった。
とういうか、そもそもルール自体をコイツは事故か何かで把握できてないのか。
そうも思ってしまっていた。
「こ・れ・はっ、殺し合いなんだぞ!
それなのに、何で仲間にしようとしてんだよぉ!」
ウェイバーの言葉、至極尤もなもの。
しかし、それに対する返答は、デコピンであった。
ライダーにしてみれば、撫でるような力で。
ウェイバーにしていれば、バカみたいな力で。
「あひぃ!?」
結果、見事吹っ飛ぶ。
あぁ、滑稽なりや。
しかし、それを笑うものはこの場にはいない。
その場に残るは、仁王立ちするライダーと、風に吹かれてブラブラ漂っているウェイバーのみ。
「征服の真髄、いずれ坊主にも分かる時が来るか」
「それって要するに阿呆になるって事だろうがっ。
絶っ対、僕はそんなもん分かってやるもんかぁ!」
ウェイバーの返答を聞いたライダーは、にやりと一つ、笑って。
「おうよ、余はあほうも阿呆、大うつけよ。
故に行くのだ。
あー、それとも何か?
坊主はここに残るか?」
「連れていけよ、このバカヤローっ」
ライダーの押しの強さに、ウェイバーではとても対応できるような物ではなかった。
そもそも、風荒む鉄橋の上に残されるなど、ウェイバーにとっては、悪夢に違いないのだから。
「うむ、我がマスターに相応しい返事だ」
そうライダーが決断すると、彼は徐ろに愛刀を取り出して。
そうして、宙を剣で撫で付ける。
それは、合図だった。
ここにはないものを、呼びつけるための。
空間に亀裂が入り、そこから飛び出すものが一つ。
それは馬車であった。
雄々しく、猛々しい馬車であった。
「では、参じるとしよう。
何やら嵐が近づいているようでもある。
乗り遅れるわけには行かん、この大波に」
「お前、無茶苦茶なんだよォー!!」
鉄橋からの絶叫。
さりとて、それは風に飲まれて、誰の耳にも届くことのない叫びであった。
「なぁ、先生」
「なんだ、龍之介」
「いやさぁ、俺、思うんだけど」
雨生龍之介が、すごく困った声で、先生に声を掛けていた。
……何が言いたいかは、分かる。
こいつと同じ意見だなんて、すごく嫌だけれど、でも分かってしまう。
――それだけに、これは、と思ってしまっているのだ。
「この移動方法って斬新すぎるんじゃないかなぁって」
「仕方があるまい。
徒歩ならば時間がかかりすぎる。
これが一番早い」
「で、でもさぁ」
「クドいぞ、龍之介」
反論しようとした雨生龍之介を、先生は見事に黙らせてしまった。
うん、さすがは先生。
普段であれば、俺もそう思っていたんだと、そう思う。
……だけれど、今回に限ってはもう少し頑張って欲しかった。
「先生、少し疲れてきたんだけど」
「あともう少しだ、我慢しろ」
俺は先生の首に手を回している。
そして、彼の背中に、背負われている。
――要するに、おんぶの形なのだ。
「せんせー、俺も俺もー」
「心配するな、落としなどせん」
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ」
雨生龍之介が、どこか釈然としないように、小さく呟いていた。
そんな彼は、どんな状態なのか。
まず、彼の襟首は、先生によってガッチリと握られている。
――以上。
何か、色々と酷かった。
見た目から、そして移動方法まで。
「もうすぐ、だ」
先生は言葉を発すると共に、大きく飛び上がった。
ビルから、ビルの間を。
大きく、ひとっ飛びで。
……やっぱりおかしいと思っているのは、俺達だけなのだろうか?
「早く付かないかなぁ」
どこか、現実逃避するように、雨生龍之介が暗い空を見ていた。
――うん、今は、今だけは、お前に同調する。
――早く付かないのかなぁ、目的地に。
「何?」
そう呟いたのは、セイバーか、ランサーか、それともマスター達の言葉であったか。
端的に、しかし絶対の事として、感じたのだ。
――空から、何かが轟音と共に来ることを。
「ALaLaLaLaLaie!」
それは凱歌のような雄叫びであった。
天から、世の法則を乱す戦馬車が、現れる――
「双方、武器を収めよ。
王の御前であるぞ!」
それはセイバーとランサーの間に割って入り、その騎手たる大男は、戦いを始めていた二人を制する。
そうして、堂々たる自身と覇気を持って、宣言したのだ。
「我が名は征服王イスカンダル。
此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」
高らかに。
高らかに。
かの戦馬車に乗りしものは宣言した。
自らが、マケドニアの覇者にして、世界を手に入れかけた男であることを。
聖杯戦争においては、真名を隠すという法則を、そのまま無視して。
――誰もが、その光景に呆気を取られていた。
――この場にいるサーヴァントとマスターも。
――影に潜んでいる魔術師殺しと、アサシンまでもが。
「な、なっ」
声を出しているものは存在していた。
誰もが呆気に取られている中で、唯一、慣れというものを覚えてしまっていた少年。
ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットその人である。
「何を考えておりますか、このバカチンがァーー!!」
絶叫、憤慨、嘆き。
様々なものを含んだ、ウェイバーの叫び。
されど、ライダーはそのようなこと、全く微塵も気にしていない。
「セイバー、ランサー、主らの死闘、しかと目に焼き付けた。
それを踏まえて、余は言うぞ。
主らをここで失うには、実に惜しい。
どうだ? 我が軍門に降らぬか?」
……正しく、妄言であった。
もしそれで降るとあらば、それはトロイの木馬以外の何者でもないであろう。
そして、この場にそのような策を弄するものは、一人たりとも存在していない。
「何を馬鹿な」
困惑したように、吐き捨てたのはセイバー。
「我が主を裏切るわけが無かろう」
呆れたように、切って捨てたのがランサー。
どちらにしても、取り付く島がないのは確実である。
困ったように、しかしとって付けたように、ライダーはこう続けた。
「……待遇は応相談だが?」
「「くどいっ」」
それは、二人のサーヴァントの声が重なったもの。
もそ、話になるはずが無かったのだ。
とりわけ、聖杯戦争に呼び出された英霊などには、特に。
「あ、あのなぁ」
声が、震えていた。
ウェイバーは、自分が今までにないくらい、キているのを自覚していた。
「何で、真名をバラしたんだ?」
ドスの効いた声、それ程までに怒りを彷彿としているのだ。
しかし、ライダーは己がマスターの怨嗟の声を一顧だにすらしない。
「モノは試しと言うのであろう?」
「ばかやろう、明らかに致命傷だよ!!!」
真名、一度バラしてしまっては、致命的ですらあるそれ。
ウェイバーは頭を抱えずにはいられなかった。
――その時、だ。
『ほう、中々に癖の強いものが集まっている。
流石は、聖杯戦争と言ったところか』
どこからか、声がした。
それは先ほどのライダーの時と同じように、空からの声であった。
『では、私も彼の征服王に習い、一つ宣言をしよう』
――紫電、高らかに轟いて。
――彼の姿が、顕になる。
「冬木市聖杯戦争に参加せし7人のマスター並びに、冬木市一般市民の諸君」
その背中には子供が。
その右手には青年が。
「――私が、この手で、救ってやる」
倉庫の上にて、彼は声を上げて宣言をした。
絶対の自身と、確かな存在を醸し出して。
その場に居る者は、全て。
現れた彼に目を奪われていた。
ライダーと同じような衝撃を持って。
様々な思いを、複雑に絡ませながら。
――白の男は、この戦いに舞い降りたのだ。
はい、先生の出番。
本格的には、次回からでした。
……誰かこっちに石投げようとしている人はいませんよね?
まぁ、それは置いといて。
マスター・テスラ、皆の前に登場しましたが、結構アレな姿での登場。
背中に士郎、右手に龍之介を持っている状態。
皆、またけったいな奴が増えたとか、内心思っておるに違いないです。