Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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 今回、作者の戦闘シーンの練習会と化しています。
 そして、fate/zeroの原作の流れは覚えていても、セリフは局所的にしか覚えていないので、割と好き勝手に書きました。
 故に、何かえらいことになってますが、あまり気にしないでください。
 今回は、基本原作をなぞるだけ、です。


第2話 戦いの夜

 それは、夜のことだった。

 夜空からは一等煌めく星以外は消え、代わりに地上のビルディング群が星の代替を務める夜。

 現代、文明華やかりし二十世紀。

 

 ――その場所で、激突するは二つの影。

 

 一人は剣を構えていて、一人は槍を振るいながら。

 激しく、激烈に、互いの得物で打ち合っていた。

 

 一見、時代錯誤にも思える光景。

 その者達が振るうものは、太古の武器であるのだから。

 その場所だけが、時代を逆行しているようにも感じる。

 

 ――しかし、しかしだ。

 

 見るがいい、刮目せよ。

 彼らが振るう一撃は、重く、鋭い。

 常人の目では捉えることのできない攻防。

 それは明らかに、人知を超えていた。

 

 時代に取り残されたものではない。

 これは即ち、神話の再生でもあるのだ。

 

 剣士の剣は重く、圧殺を齎すもの。

 槍兵の槍は鋭く、刺殺を齎すもの。

 

 一撃でも受ければ、互いに致命傷となる血戦。

 その綱渡りを、軽やかに、舞うように、されども力強く。

 二人の戦士は、綱の上を駆けていく。

 

 

 

「見事だ、セイバー」

 

 剣と槍の演劇、その間のほんの僅かな余暇。

 互いの戦闘領域を離脱して、互いの間合いから離脱しているこの瞬間。

 

 槍の使い手、聖杯戦争に置いて三騎士に連なるサーヴァント、ランサー。

 彼は、相対する相手の技量に感嘆の念を零した。

 目の前の相手は、その一撃が自身を砕くに足るものだと、認めざる得ないものだから。

 さりとてその剣は、決して重鈍ではなく疾風の如き剣捌き。

 眼前の剣使いが、優れた英霊の証左であることが、僅かに剣を交わしただけでも伝わってきたのだから。

 

「どの口が言うか、ランサー」

 

 口角を上げたのは剣使い。

 聖杯戦争最有のサーヴァントであり、それ以上に自身の実力を示している者。

 セイバーの名を冠する英霊は、ランサーの賞賛を一蹴する。

 何故か、それは先の攻防が明確に示している。

 

「この剣戟、見事に受け流すとは」

 

 彼女の振るう軌跡、その後に残るは圧壊のみ。

 だが、彼は、ランサーは未だに健在だ。

 頬の擦り傷ひとつ以外、何処にも傷を負っていない。

 

 それが示す事実。

 それは、彼もまた、英霊であり、英雄であるということ。

 

「なに、この程度で敗北しようものならば、マスターに汚名を帰すことになる。

 そのようなこと、断じて認められるはずもない。

 俺は主の期待に応え、騎士道を貫徹する」

 

「その心意気や良し!」

 

 身が滾る。

 セイバーは己が高揚を、しかと感じていた。

 眼前の騎士との戦い、これはつまり決闘であると、そう判断したのだから。

 

「行くぞ、ランサーっ」

 

「来い、セイバー!」

 

 束の間の休息は終わり、二人は互いに視線を交わす。

 ――それが、合図だった。

 

 互いに闘気を纏い、次の瞬間には、既に戦いを再開していた。

 踏み込むはセイバー、迎え討つはランサー。

 迫る蒼銀に、ランサーは長槍、短槍で迎撃する。

 

 長槍でセイバーの一撃を逸らし、リーチの短い短槍での反撃。

 連続での短槍の連撃、その連続攻撃は並であれば直撃は免れない。

 されど、セイバーは未だ一つの傷もない。

 迫り来る槍の連続を、セイバーは己が直感のみで回避してのけているのだ。

 

 そうして、槍に押されるようにセイバーが一歩後退したその時。

 ランサーが長槍を一瞬だけ、力を溜めるように引いた瞬間を、セイバーは逃さなかった。

 

「はぁっ!」

 

 彼女、セイバーは回転する。

 見えない剣を持って、全力を振り絞って。

 するとピタリと合ったように、ランサーの長槍とセイバーの剣が重なり合う。

 ギンッ、と甲高い鉄の摩擦音が響き、ランサーの長槍は大きく弾かれた。

 ランサーは槍から手を離しこそはしなかったが、それは大きな隙として、セイバーは更に回転を重ねる。

 加速を載せて、更なるもう一撃を。

 

「っ」

 

 ランサーは咄嗟に、短槍を迫り来る見えない剣へとかち合わせた。

 ――その瞬間、ランサーは大きく吹き飛ばされる。

 嵐を具現化したかのような一撃、それ程の衝撃。

 ダイヤモンドでさえ、亀裂を入れられる加速の回転。

 その一閃は、美しい流線と共に、受けうるものに死を与える。

 されど……。

 

「やってくれるな、セイバー」

 

「な、に?」

 

 取った、確実に。

 セイバーは瞬間、そう思っていた。

 だから立ち上がった彼が、少なからずともに彼女に衝撃を与えていたのだ。

 短槍ごと両断した、それ程の勢いであったのに。

 しかして、彼の槍は砕けていない。

 つまりは……、

 

「よもや、アレまで受け流すとは」

 

 ランサーは咄嗟に吹き飛ばされることで、衝撃を分散した。

 力に逆らうのではなく、乗ることで波を乗り越えたのだ。

 故に、ランサーは多少の擦り傷を見せつつも、極めて無傷に近い状態である。

 

 さて、ここで驚愕を受けたのは誰だったのか。

 致命的に隙を晒したランサー?

 それとも、仕留められなかったセイバー?

 

 ――否、どちらもその様な隙など、晒してはいない。

 

 セイバーはランサーの技量に感心すれど、心に罅など入るはずもなく。

 ランサーも、見えない剣に惑わされこどしたものの、逆にそれがランサーを更に慎重かつ大胆にして、冴えを漲らせる事になっていた。

 

 よって、どちらも戦闘継続は可能であり、勝負はこれからだと思っていた。

 二人の武人の、共通の認識。

 それらは互いに思っており、故に本当の事であるのだ。

 だからこそ、それを分からぬものが取り乱す。

 

『ランサー、何をしているのだ』

 

 どこからか、敢えて言うならば天から、声が聞こえる。

 苛立ってる声、焦っている声。

 それはセイバーには聞き覚えのない声であったが、ランサーには覚えがあったようで。

 

「我が主……」

 

 声の主たるはランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 風と水の二重属性を併せ持つ神童と名高い彼が、その声を震わせていた。

 その理由は、考えるまでもなくランサーの戦いぶりであった。

 決して、ランサーがセイバーに劣っている訳ではない。

 むしろ防勢に立って、あれだけの猛攻を捌くのだから、その実力はよく理解できると言うもの。

 しかし、戦いを素人目で見ると、ランサーが劣勢に立っているように見えるのもまた事実であった。

 

『貴様が自信があると言ったから、私は出陣したのだ。

 それが何だというのだ、圧倒されおってからに』

 

 声に、不快さが滲んでいた。

 ランサーは、一切の反論をしない。

 あるがままに、主人の言葉を受け入れている。

 

『負けことなど、罷りならん。

 ……よって、宝具の開帳を許す。

 速やかに始末しろ、ランサー』

 

「承知しました、我が主よ。

 貴方に、勝利を」

 

『勝つべきは私だ。

 故に、貴様に負けは認められない』

 

 それは傲慢であった。

 自身は勝利が約束されていると、そう宣言したにも等しい言葉なのだから。

 がしかし、その主人の傲慢さが、ランサーにとっては活力となる。

 

 ――我が主、御身は勝者に成るべき人物。

 ――その騎士たる俺は、絶対に負けられぬ。

 

 活力は自信へと変化し、自信はランサーの神経を、より研ぎ澄ませていく。

 セイバーも、それに反応する様に、己を引き締めた。

 ランサーが、より死角がなくなり、より手強くなったから。

 

「では一つ、我が槍の姿を見せるとしよう」

 

 ランサーが、厳かにそう告げた瞬間。

 

 ――彼の槍、その色を現して。

 

 彼の槍は一つは赫く、一つは黄色い。

 長槍の血を帯びたが如き色は、魔を感じさせ。

 短槍の黄金が如き色は、正を感じさせる。

 

「それが貴様の宝具か、ランサー」

 

「そうだ、この二槍こそが主と我が道を切り開く。

 セイバー、お前には早々に退場願おう」

 

「その言葉、しかとそのまま返そう」

 

 二人は、笑っていた。

 しかし、それは見るものを凍らせるような笑み。

 ――狩人が、獲物を狩る表情なのだから。

 

「では、第二戦目を始めることにしよう。

 今度は、先のようには行かぬ」

 

「次こそ、首を取るっ」

 

 剣を構えるセイバーに、猛然とランサーが駆け出した。

 だが、今度はセイバーが己の目を疑う事となった。

 

「っな!」

 

「ッフ」

 

 早い、目では追えない。

 ランサーのスピード、風に乗った韋駄天の如き素早さ。

 瞬時にセイバーの間合いに飛び込み、そして槍を振るったのだ。

 

「さあさあ、受けきれるか? セイバー!」

 

「貴様、速度を落としていたなっ」

 

 苦虫を噛み潰したかのようなセイバーの声に、ランサーは微笑を浮かべただけで。

 短槍の乱れ突きが牽制として飛び、僅かの隙さえも見せなくなった長槍が、セイバーを刈り取ろうとする。

 ランサーはセイバーに正面からの奇襲に成功していたのだ。

 

「ック」

 

「動きが鈍いぞ、セイバー。

 それで我が槍を捌ききれるかな」

 

 ランサーは言葉と共に、槍を突き出す。

 それはさっきまでの光景とは違い、両者の攻守は逆転していた。

 防戦に回りランサーの猛攻を受け流すことに腐心するセイバーと、一心不乱の一転攻勢に出たランサー。

 セイバーの身は、確かな直感の元に、全ての槍を受け流している。

 しかし、彼女は焦っていた。

 何故なら……。

 

「ランサー、貴様の槍、それはっ」

 

「そのような色をしているのか、お前の剣は!」

 

 ランサーの長槍。

 剣で受け止める度に、姿を晒して。

 そして、遂に――。

 

「成程、お前の剣、その全容を把握したぞ、セイバー!!」

 

「やってくれる、ランサーっ」

 

 剣戟を交えながら、ランサーは確かめたのだ。

 セイバーの剣、その長さから、存在までを。

 その存在は、あまりにも有名であったから。

 一目見るだけで、その幻想を、看破できるモノであったから。

 

「はぁっ!!」

 

 その真実を、ランサーごと叩き切らんと、絶妙なタイミングでセイバーは反攻した。

 ランサーの突き出した長槍に剣を滑空させながら、その身を両断せんとす。

 長槍を短槍の両方を使用する場合、力が分散する為、セイバーの攻撃の方が勢いが強い。

 だから、攻撃は確かに届こうとしていた。

 だが、それすらも、ランサーは読んでいたのだのだ。

 

「焦りは戦いに禁物だぞ、セイバー!」

 

 ランサーは躊躇なく、長槍を手放した。

 それ故、赫の槍は遠くに弾き飛ばされた、が。

 攻撃目標を失った剣は、空振りに終わって。

 今、セイバーの懐には、黄色の短槍を有したランサーの姿が――。

 

「取ったかっ」

 

「まだだっ!」

 

 セイバーは己の魔力と脚力を存分に生かして、その場から後ろに飛んだ。

 セイバーだからこそ出来る強引な力技だが、この場合に置いては有効であった。

 お陰で、短槍は左腕を抉るだけに終わって、セイバーは離脱に成功したのだ。

 

「形勢逆転だな、ランサー」

 

「さて、どうかな?」

 

 結果として、左腕を負傷したセイバーと、長槍を失ったランサー。

 しかし、セイバーには宛があった。

 

「アイリスフィール、回復を」

 

「任せて、セイバーっ」

 

 セイバーの後ろに立っている女性。

 白い雪のような髪に、ルビーのような赤い瞳。

 アイリスフィール・フォン・アインツベルンが、セイバーの期待に応えるべく、治癒の魔術を行使する。

 だが、しかし……。

 

「どうしてっ」

 

 それは、まるで効いてない。

 悲鳴のようなアイリスフィールの声が、その場に木霊する。

 セイバーは、鋭くランサーを睨みつけた。

 

「その短槍、それも魔槍の類か。

 それも与えた傷に、呪いを残す」

 

「その通りだ。

 身を持って体感したか、セイバー。

 いや、騎士王と呼ぶべきであるのかな」

 

 余裕を持っているランサーの表情に、セイバーは歯噛みせずにはいられない。

 自分は、焦りから隙を産み、治らない傷を負った。

 それがセイバーにとっての屈辱であり、そして頭を冷やす要因ともなっていた。

 

「お陰で頭が冷えた。

 フィオナ騎士団の誉高き戦士、輝く貌のディルムッド」

 

「ほう、我が真名を探り当てたか」

 

「その槍と泣きボクロ、そして実力を鑑みるに、それ以外にはありえまい」

 

「彼の騎士王にそう評してもらえるとは、感慨深きものがある」

 

 愉快そうに、ランサーが哄笑した。

 それ程までに、この状況が何よりも愉快だったから。

 

「さて、どうする騎士王。

 続けるか、それとも引くのか」

 

「舐めてもらっては困る。

 私は騎士王、キャメロットに座するブリテンの守護者だ。

 この程度で敗走など、出来ようものか」

 

 互いに消耗は激しい。

 このまま戦いあっても、確かな勝利などは覚束無い。

 しかし、互いに思っていること、それは一つだった。

 

 ――この機会を逃せば、これ以上の好奇は訪れないということ。

 

「流石、とだけ言っておこう」

 

「貴方にそう言われるとは。

 ますます撤退ができなくなった」

 

 互いに、武器を構える。

 両者ともに、危ういものがある。

 しかし、この場で背を見せる方が危険だと。

 相手の闘志を感じている二人は、そう確信していて。

 いざ、戦いの再開……というところで。

 

 ――異変が、起こった。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ頃合か」

 

 そう呟いたのは、冬木に跨る巨大な鉄橋に座する、大柄な男。

 どこかの民族衣装を思わせるような出で立ち。

 威圧感を貫禄を持って発する、大きな男。

 

「え、何がだよ?」

 

 一方で困惑気味に呟いたのは、少年。

 線の細い少年、どこか賢さと小心さが入り混じって見える少年。

 その彼に、大柄な男。

 聖杯戦争に置いてライダーのサーヴァントとして現界した男は少年、ウェイバー・ベルベット言うのだ。

 

「そろそろ行かねば、奴ら共倒れしかねん」

 

「はぁ?」

 

 ライダーの視線の先には、相対する二人の戦士。

 セイバーとランサー、その両騎士の姿。

 だからこそ、ウェイバーは意味が分からない。

 

「何でだよ、アイツ等どっちかくたばってから、横合いを殴りつけるのが一番だろ?」

 

 正直に、自分の思ったままに、ウェイバーは述べる。

 が、しかし、だ。

 ライダーは首を振って、マスター、ウェイバーを見る。

 その目、どこか無邪気さと興奮を内包していて……。

 

「分かっとらんなぁ。

 あれ程の猛者、滅多に目に掛かれるものではない。

 うむ、是非とも我が旗下に欲しい」

 

「お前巫山戯んなよっ!!」

 

 頭が沸騰してるのか。

 それがウェイバーの所感だった。

 とういうか、そもそもルール自体をコイツは事故か何かで把握できてないのか。

 そうも思ってしまっていた。

 

「こ・れ・はっ、殺し合いなんだぞ!

 それなのに、何で仲間にしようとしてんだよぉ!」

 

 ウェイバーの言葉、至極尤もなもの。

 しかし、それに対する返答は、デコピンであった。

 ライダーにしてみれば、撫でるような力で。

 ウェイバーにしていれば、バカみたいな力で。

 

「あひぃ!?」

 

 結果、見事吹っ飛ぶ。

 あぁ、滑稽なりや。

 しかし、それを笑うものはこの場にはいない。

 その場に残るは、仁王立ちするライダーと、風に吹かれてブラブラ漂っているウェイバーのみ。

 

「征服の真髄、いずれ坊主にも分かる時が来るか」

 

「それって要するに阿呆になるって事だろうがっ。

 絶っ対、僕はそんなもん分かってやるもんかぁ!」

 

 ウェイバーの返答を聞いたライダーは、にやりと一つ、笑って。

 

「おうよ、余はあほうも阿呆、大うつけよ。

 故に行くのだ。

 あー、それとも何か?

 坊主はここに残るか?」

 

「連れていけよ、このバカヤローっ」

 

 ライダーの押しの強さに、ウェイバーではとても対応できるような物ではなかった。

 そもそも、風荒む鉄橋の上に残されるなど、ウェイバーにとっては、悪夢に違いないのだから。

 

「うむ、我がマスターに相応しい返事だ」

 

 そうライダーが決断すると、彼は徐ろに愛刀を取り出して。

 そうして、宙を剣で撫で付ける。

 それは、合図だった。

 ここにはないものを、呼びつけるための。

 

 空間に亀裂が入り、そこから飛び出すものが一つ。

 それは馬車であった。

 雄々しく、猛々しい馬車であった。

 

「では、参じるとしよう。

 何やら嵐が近づいているようでもある。

 乗り遅れるわけには行かん、この大波に」

 

「お前、無茶苦茶なんだよォー!!」

 

 鉄橋からの絶叫。

 さりとて、それは風に飲まれて、誰の耳にも届くことのない叫びであった。

 

 

 

 

 

「なぁ、先生」

 

「なんだ、龍之介」

 

「いやさぁ、俺、思うんだけど」

 

 雨生龍之介が、すごく困った声で、先生に声を掛けていた。

 ……何が言いたいかは、分かる。

 こいつと同じ意見だなんて、すごく嫌だけれど、でも分かってしまう。

 ――それだけに、これは、と思ってしまっているのだ。

 

「この移動方法って斬新すぎるんじゃないかなぁって」

 

「仕方があるまい。

 徒歩ならば時間がかかりすぎる。

 これが一番早い」

 

「で、でもさぁ」

 

「クドいぞ、龍之介」

 

 反論しようとした雨生龍之介を、先生は見事に黙らせてしまった。

 うん、さすがは先生。

 普段であれば、俺もそう思っていたんだと、そう思う。

 ……だけれど、今回に限ってはもう少し頑張って欲しかった。

 

「先生、少し疲れてきたんだけど」

 

「あともう少しだ、我慢しろ」

 

 俺は先生の首に手を回している。

 そして、彼の背中に、背負われている。

 ――要するに、おんぶの形なのだ。

 

「せんせー、俺も俺もー」

 

「心配するな、落としなどせん」

 

「いや、そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ」

 

 雨生龍之介が、どこか釈然としないように、小さく呟いていた。

 そんな彼は、どんな状態なのか。

 

 まず、彼の襟首は、先生によってガッチリと握られている。

 ――以上。

 

 何か、色々と酷かった。

 見た目から、そして移動方法まで。

 

「もうすぐ、だ」

 

 先生は言葉を発すると共に、大きく飛び上がった。

 ビルから、ビルの間を。

 大きく、ひとっ飛びで。

 

 ……やっぱりおかしいと思っているのは、俺達だけなのだろうか?

 

「早く付かないかなぁ」

 

 どこか、現実逃避するように、雨生龍之介が暗い空を見ていた。

 

 ――うん、今は、今だけは、お前に同調する。

 ――早く付かないのかなぁ、目的地に。

 

 

 

 

 

「何?」

 

 そう呟いたのは、セイバーか、ランサーか、それともマスター達の言葉であったか。

 端的に、しかし絶対の事として、感じたのだ。

 ――空から、何かが轟音と共に来ることを。

 

「ALaLaLaLaLaie!」

 

 それは凱歌のような雄叫びであった。

 天から、世の法則を乱す戦馬車が、現れる――

 

「双方、武器を収めよ。

 王の御前であるぞ!」

 

 それはセイバーとランサーの間に割って入り、その騎手たる大男は、戦いを始めていた二人を制する。

 そうして、堂々たる自身と覇気を持って、宣言したのだ。

 

「我が名は征服王イスカンダル。

 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」

 

 高らかに。

 高らかに。

 かの戦馬車に乗りしものは宣言した。

 

 自らが、マケドニアの覇者にして、世界を手に入れかけた男であることを。

 聖杯戦争においては、真名を隠すという法則を、そのまま無視して。

 

 ――誰もが、その光景に呆気を取られていた。

 ――この場にいるサーヴァントとマスターも。

 ――影に潜んでいる魔術師殺しと、アサシンまでもが。

 

「な、なっ」

 

 声を出しているものは存在していた。

 誰もが呆気に取られている中で、唯一、慣れというものを覚えてしまっていた少年。

 ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットその人である。

 

「何を考えておりますか、このバカチンがァーー!!」

 

 絶叫、憤慨、嘆き。

 様々なものを含んだ、ウェイバーの叫び。

 されど、ライダーはそのようなこと、全く微塵も気にしていない。

 

「セイバー、ランサー、主らの死闘、しかと目に焼き付けた。

 それを踏まえて、余は言うぞ。

 主らをここで失うには、実に惜しい。

 どうだ? 我が軍門に降らぬか?」

 

 ……正しく、妄言であった。

 もしそれで降るとあらば、それはトロイの木馬以外の何者でもないであろう。

 そして、この場にそのような策を弄するものは、一人たりとも存在していない。

 

「何を馬鹿な」

 

 困惑したように、吐き捨てたのはセイバー。

 

「我が主を裏切るわけが無かろう」

 

 呆れたように、切って捨てたのがランサー。

 

 どちらにしても、取り付く島がないのは確実である。

 困ったように、しかしとって付けたように、ライダーはこう続けた。

 

「……待遇は応相談だが?」

 

「「くどいっ」」

 

 それは、二人のサーヴァントの声が重なったもの。

 もそ、話になるはずが無かったのだ。

 とりわけ、聖杯戦争に呼び出された英霊などには、特に。

 

「あ、あのなぁ」

 

 声が、震えていた。

 ウェイバーは、自分が今までにないくらい、キているのを自覚していた。

 

「何で、真名をバラしたんだ?」

 

 ドスの効いた声、それ程までに怒りを彷彿としているのだ。

 しかし、ライダーは己がマスターの怨嗟の声を一顧だにすらしない。

 

「モノは試しと言うのであろう?」

 

「ばかやろう、明らかに致命傷だよ!!!」

 

 真名、一度バラしてしまっては、致命的ですらあるそれ。

 ウェイバーは頭を抱えずにはいられなかった。

 

 

 ――その時、だ。

 

 

『ほう、中々に癖の強いものが集まっている。

 流石は、聖杯戦争と言ったところか』

 

 どこからか、声がした。

 それは先ほどのライダーの時と同じように、空からの声であった。

 

『では、私も彼の征服王に習い、一つ宣言をしよう』

 

 ――紫電、高らかに轟いて。

 ――彼の姿が、顕になる。

 

「冬木市聖杯戦争に参加せし7人のマスター並びに、冬木市一般市民の諸君」

 

 その背中には子供が。

 その右手には青年が。

 

「――私が、この手で、救ってやる」

 

 倉庫の上にて、彼は声を上げて宣言をした。

 絶対の自身と、確かな存在を醸し出して。

 

 その場に居る者は、全て。

 現れた彼に目を奪われていた。

 ライダーと同じような衝撃を持って。

 様々な思いを、複雑に絡ませながら。

 

 ――白の男は、この戦いに舞い降りたのだ。




 はい、先生の出番。
 本格的には、次回からでした。
 ……誰かこっちに石投げようとしている人はいませんよね?

 まぁ、それは置いといて。
 マスター・テスラ、皆の前に登場しましたが、結構アレな姿での登場。
 背中に士郎、右手に龍之介を持っている状態。
 皆、またけったいな奴が増えたとか、内心思っておるに違いないです。
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