Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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第4話 全騎集結 下

 その場は、混沌に満ちていた。

 互いに警戒し、動いた者が不利になる戦場。

 総数は6騎、その全てが人間を凌駕するサーヴァント。

 彼の者たちが発する武威は、正真正銘の研ぎ澄まされたモノ。

 一瞬の隙が、即ち己の命取りになる事は、その場の皆が承知していた。

 

 ――故に、動けない。

 

 三つ巴でも警戒し合う相手だろう者達が、6騎も集結しているのだ。

 それも道理というものである。

 だからこそサーヴァント、そしてマスター達も誰も声すら発せない。

 だが、その中で、全く動じていない者も居た。

 

 泰然自若、いや、傲岸不遜としている男だ。

 金の鎧を身に纏い、全てを睥睨する瞳を持って、高みより下界を眺めている。

 

 ――そして、彼の背後にある歪みは18。

 ――その全ては、白い男に向けられていた。

 

「道化に興じさせようと思っていたのだがな」

 

 彼の言葉には、不快さが満ち満ちていた。

 視線の先には白の彼でない――黒のサーヴァント。

 バーサーカーのクラスを持って現界せし、黒の騎士。

 勇壮なりし気配と比例するように、理智を感じさせない鎧越しでも感じる能面さ。

 その全てが……黄金の彼、アーチャーは気に喰わなかった。

 

「狂犬、その目で何時まで我を見ているのだ」

 

 ――彼の言葉に連動して、背後の18もの歪みも、脈動し始める。

 ――白の彼から、黒の騎士へ、その照準がすり替えられるのだ。

 ――そして、遂に。

 

「控えろ、下郎っ!!」

 

 遂に、解放される。

 背後の歪みから顔を覗かせているモノ。

 その一つ一つが、サーヴァントを撃砕できる威力を内包している必殺宝具であることを、この場の皆が理解している。

 それが、今。

 黒の騎士、バーサーカーに放たれたのだ!

 

 総数にして12。

 その内訳は、槍もあれば剣も存在し、中にはハンマーまで掃射されていた。

 古今東西、様々な武具が入り混じった混成群。

 統一性の無い群勢。

 本来、あり得ざるべき集合群。

 唯一、理解出来ることといえば、直撃すれば身が砕けることのみ。

 それらの宝具郡が、圧倒的な、暴風的な速度と衝撃力を持って、バーサーカーに迫る――

 

 ――しかし、それらは届かない。

 ――否、届いてはいる、がその悉くを叩き落とされているのだ。

 

「ほぅ」

 

 白い男、セイヴァー、ニコラ・テスラは嘆息する。

 

「何ともまぁ、あやつは本当にバーサーカーであるのかなぁ」

 

 それに続いて、ライダーも感心したように、バーサーカーが手にしているモノをその目で捉えていた。

 それは……。

 

「貴様、如きが――」

 

 怒り、荒れ狂うほどの怒り。

 その気配を、然りとその場の皆は感じた。

 アーチャーが、あの傲岸で全てを見下している男が、その怒気の源である。

 彼の怒りは、バーサーカーへと全てが向けられている。

 それ以外のものなど、一切合切が雑種に過ぎない。

 今は、彼の手に握られている……アーチャーの宝具に全ての意識が行っていた。

 

「――我の宝物に触れるか、雑種ぅ!!」

 

 憤怒を携えた彼は、更に宝具を出現させる。

 その数、20、30、いや、それ以上――。

 他のサーヴァントへの牽制用に留めておいた宝具さえも、全てをバーサーカーに向ける。

 

「なん、だとっ」

 

 その光景に、セイバーは一人独語する。

 それだけの衝撃、彼の者は何処から来た英雄であるというのか。

 理解できないほどの圧倒さ。

 荘厳にして壮麗、剛健でもあるその数々。

 煌めく流星の様に、バーサーカーに降り注いでいる。

 まるで現実感のない、サーヴァントからしてもそう思えてしまう戦況。

 

 この中では、誰も動けないはずだった。

 しかし、それは誤りであったのだ。

 アーチャーの従える矢は軍勢だ。

 己が動かなくとも、指示を出し突撃させるだけで良い。

 綺羅星の様に、瞬き消費されていくモノなのだ。

 しかもそれらは一騎当千、巫山戯た話である。

 

 ――しかし、その姿に、確かに王者の風格は存在した。

 ――暴君としての存在であるが、確かに名を知らぬ彼を、王として感知したのだ。

 

 それに気付き、セイバーは頭を振る。

 これは王のあるべき姿ではないと、民を導く王ではないと、否定しながら。

 

「――――――――っ!!!」

 

 だが、その猛攻、流星群の数々を受けてさえ、バーサーカーは健在である。

 今だ死せず、叫び、躍動している。

 ――彼を砕くには、未だ武威が足りていない。

 

 どれほどの修練を課したのか。

 どれほどの才能に恵まれているのか。

 バーサーカーにあるまじき技術と才能。

 それらが、宝具の掃射の悉くを凌駕する!

 

「――――――――――――っ!!!!!!」

 

 バーサーカーは叫ぶ。

 声高に、己の有り様を訴えるようにして。

 彼の雄叫びは、瞬時に力へと変換される。

 バーサーカーの身でありながら、彼は確かに集中し、掃射された宝具の一つを掴み取る。

 中華文化の一つである青龍刀、その大剣を、アーチャーの座する電柱へと投擲する。

 その威力は、電柱を破砕するには十分なものがあって。

 ガンッ、という鈍い音と共に、柱は砕け、地に落ちる。

 それは即ち、アーチャーも地に堕ちるということで――。

 

「貴様――」

 

 腸が煮えくり返る。

 視線で鏖殺せんとばかりに、アーチャーはバーサーカーを睨みつけていた。

 

「ここで死にたいようだな、雑種」

 

 彼の背後、そこには、最早数えられない宝具の数々。

 恐らくは100以上もの宝具――

 これが、本気。

 これが、狂気。

 本気の怒りが、アーチャーを駆り立てている。

 天に座する我が身を、地に落とすとは不敬千万。

 万死に値する、彼はそう思っているのだ。

 

「奴の輝きは、ケレン味が多すぎる」

 

 テスラは酷く面倒な顔で、アーチャーを見ていた。

 誰もが息を呑む中で、彼は感嘆を覚えつつも、それを驚異だとは思っていなかったからだ。

 

 ――アーチャーの技は、道具頼りの力任せに過ぎない。

 

 それでは道具を従えられても、使いこなすことはできまい。

 これがテスラの結論であり、静観している要因でもあった。

 

 本当に脅威となる時は、それは彼が本気で剣を握った時となるだろう。

 直感的に、テスラはそれを感じていた。

 だからか、テスラの眼はもう片方へと向けられる。

 黒の騎士、勇壮なるバーサーカーへと。

 

「さて、お前は何を抱えているのだ」

 

 彼は視る、バーサーカーを。

 その姿を、鎧を、剣技を。

 そしてそこから漏れ出す感情を。

 

「何をして、そこまでの激情に駆られている」

 

 バーサーカーを包む黒の霧に阻まれて、その素顔も、感情も読み取れない。

 だが、その霧から漏れ出す激しい思いは、テスラの紫電が感知する。

 それは恨みにも似て、懺悔にも感じられるもの。

 己を苛む強烈な嫌悪と後悔。

 それが、彼の原動力となっているのであろう。

 

 ふむ、とテスラは思考する。

 あれ程の武技に到達していながら、彼は後悔している。

 事を成せなかった事をなのか、それとも生前の行いをか。

 素直に、手を差し伸べねば、とも思う。

 が、私の言葉は届かない、とも理解しているのだ。

 何故ならあの身はバーサーカー。

 言葉を弄しても、その身には届くまい。

 ならば――

 

 彼がそこまで考えた時、とうとうアーチャーの掃射が止まった。

 弾切れ……という訳でもなさそうである。

 背後には、未だ呆れるほどの武具の数。

 正に宝の持ち腐れと化しそうな程の、大きな総量。

 だが、アーチャーはこれ以上の攻撃は行っていない。

 

「ッチ、時臣め。

 我に指図するか」

 

 一瞬の逡巡、ひどく億劫そうな顔をしている。

 が、それでもアーチャーは不承不承に踵を返した。

 バーサーカーを睨みつけて、そして周りの者共を睥睨して。

 一言、アーチャーは言った。

 

「次までに、有象無象共を間引いておけ、雑種ども」

 

 吐き捨てるようにそれだけ言って、彼はこの夜の舞台を降りてゆく。

 薄らとその存在感が消えてゆく。

 霊体化して、その場を離れたのだろう。

 ……あとに残ったのは、彼の齎した破壊の痕だけであった。

 

 

 

「舞弥、アーチャーは引いたな」

 

『えぇ……恐ろしい相手です』

 

「ああ、そうだな。

 だが、これで奴の手の内は明かされたも同然だ。

 周到に用意ができる」

 

 潜んでいる彼と彼女、衛宮切嗣と久宇舞弥。

 通信機を通して、二人は先程までの事について会話をしていた。

 二人は、アーチャーとバーサーカーの狂乱的な戦いに目を奪われていた。

 だが、その内に暗殺などしようものならば、アーチャーの不興を買い、大いに宝具がこちらに飛んできたことは想像に難くない。

 忌々しいことだが、それは確実であろうと思われる性質のサーヴァントであった。

 

 だからこそ、切嗣も舞弥も息を殺してその一挙一動を観察し、戦術を分析していた。

 アーチャーの攻略法、それもこの場から帰れたのならば、大いに研究が捗る事であろう。

 だが、それは生きて帰れたらのこと。

 まず、この場での最適解を紐解かねばならない。

 ――即ち、誰を消すかということだ。

 

「この場にいる敵マスターは3人。

 その内2人はサーヴァントが張り付いている」

 

 一人はライダーのマスター。

 彼はライダーの戦車(チャリオット)に騎乗しており、とてもではないが狙えるものではない。

 もう一人……正体不明のサーヴァント、恐らくはキャスターのマスター。

 こちらも、すぐ傍にキャスターがついており、狙撃は容易ではない。

 しかも子供と青年、二人の人物が居り、どちらがマスターなのかが判別つかない。

 当てずっぽうで狙撃してハズレだった場合の事を考えると、目も当てられない。

 ――ならば、安全に狙撃できる人物はただ一人。

 

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト」

 

 彼の名前を口にし、失笑が漏れるのを切嗣は隠しはしなかった。

 この場には誰もいない、自分以外には、誰も……。

 彼は確かめるように、周りを見て、そして頷こうとした、その時……。

 ――何か、おかしな者を見た。

 

「何?」

 

 それは、あまりにも自然に風景に溶け込んでいて、早々に気付かない者であった。

 切嗣よりも上層の場所に位置し、物陰からサーヴァント達の戦闘を監視している者。

 闇夜に溶け、すっとそこに居るようにも、忽然と姿を現したようにも見えるサーヴァントの姿。

 

「――アサシン」

 

 自らその名を口にして、切嗣は背筋が寒くなるのを理解した。

 そう、人間ではサーヴァントには勝てないのだから。

 狩りをするつもりでいたが、何時の間にか自身が狩られる立場に立っていたのだ。

 

 ――冗談じゃない!

 

 それが、切嗣の心の底からの本音であった。

 もしここで、無理にケイネスの暗殺を図るのであれば、確実にアサシンに自身の居場所が発覚するであろう。

 サイレンサーが付いているとは言え、発砲の僅かな火薬の瞬きが、その居場所を知らしめてしまうから。

 だから、切嗣は動けなくなったのだ。

 

「舞弥」

 

『はい、何でしょう切嗣』

 

 だから、至急に手段を講じる。

 下手に動こうものならアサシンに発覚する。

 ならば、後は息を潜めるか、アサシンを排除するかの二択しか存在しない。

 

「アサシンを発見した」

 

『アサシンを……』

 

 舞弥の息を呑む声が聞こえる。

 だが、そんな事は気にしていられない。

 最善の、そう、最善の選択肢を自分は選ばねばならぬのだから。

 

「舞弥、ケイネスを狙撃できるか?」

 

『……ここの位置からであるならば、可能です。

 しかし、通じますか?』

 

「気を逸らさせるだけで良い。

 アサシンも気付くだろう。

 ――だから、アサシンが舞弥に気が向いた隙に、僕が狙撃する」

 

 端的に言えば、囮になれと切嗣は言っているのだ。

 アサシンと、ケイネスを相手取って。

 それは、一歩間違えれば、死に直結する至難の事柄だ。

 しかし、彼女は……。

 

『了解しました』

 

 一秒の迷いもなく、即決する。

 それが自分のあり方だと、自らは切嗣の道具だと理解しているのだから。

 

「頼む」

 

 切嗣はそれだけ言い、ライフルをアサシンへと構える。

 後は、タイミングを図って狙撃するだけ。

 舞弥が用意できる、その時に。

 

 

 

「ふぅむ、まるで嵐の様な奴だったな」

 

「確かに、雷雨の如き激しさを持っていた」

 

 ライダーがボヤくのに便乗して、テスラもそれを肯定する。

 それ程に、彼は場を荒らした。

 地面は抉れ、穿たれ、陥没していた。

 その光景があちらこちらに散見される。

 まるで、砲兵の鉄の暴風にでも曝された跡と化していた。

 アーチャー、彼は古代の人物でありながら、その火力は近代をも凌ぐ勢いである。

 

「ふむふむ、奴も欲しいのぅ」

 

「諦める方が無難だと思うがな」

 

「諦めるには、あまりに惜しい財力よな」

 

 ライダーがまたおかしなことを言い始め、隣でウェイバーが頭を抱え始めて、そしてテスラは達観したようなことを言う。

 この間にある空気は、何とも言い難いものがあった。

 

「先生、あいつ、もう帰ってこないよね……」

 

 テスラの横には、先程のアーチャーの猛攻を間近で見た士郎の姿もあった。

 怯えてはいない、逆に剣に魅入られていたといっても良いだろう。

 可能性だけとは言え、十分に魔術師の素養があると言える。

 

「あぁ……残念か?」

 

「ううん、別に。

 あいつ自体は怖いからいらない」

 

 子供らしく、辛辣に回答する士郎。

 彼が見ていたのは、剣や武具の方だったのだろう。

 アーチャーの怒りも、バーサーカーの武威も目には入っていない。

 ただ、煌めく財宝にのみ目がいっていた。

 それは欲からではなく、何か真理を探るような目で。

 

「あまり魅入られすぎるな、取りつかれるぞ」

 

「え?」

 

 理解できずに聞き返してくる士郎に、テスラはそれ以上説明する気にもならなかった。

 いずれ、自分で分かる時が来るであろうから。

 その時に、自身で判断すれば良い事だと思って。

 

「うわぁ、さっきの剣、全部なくなってるよ。

 一個くらい、土産がわりに欲しかったのになぁ」

 

 そして全く空気を読んでいない発言をしているのは龍之介。

 輝く笑顔に、高いテンション。

 最早ピクニック気分である。

 ……サプレスすら掛けていないのにこれであるのだから、始末に負えない。

 テスラは、溜息が出そうになっているのに気が付く。

 面倒くさいと、龍之介のことを思ってしまっているからだ。

 

「お前が持っても使いきれんだろう」

 

「でも、切れ味は良さそうだったけど?」

 

「そういう問題でもない」

 

 そうだ、そういう問題ではない。

 この場にいて、こうであるのだから、緩いのか馬鹿なのか……どちらにしても変わらないが。

 

「さて、ところで……」

 

 テスラは視線向ける。

 そこには、バーサーカーの姿。

 小さく呻きながら、葛藤するようにセイバーを見ていた。

 

「ふむ、知り合いか?」

 

 テスラはセイバーに尋ねる。

 バーサーカーの尋常じゃない様子に、そう思わずにはいられなかったからだ。

 

「……鎧の下、それを覗かねば分からない。

 正気を逸しているのだから、雰囲気などでは分かりようがない。

 ただ、もし私の知り合いであるのならば――」

 

 セイバーは、そこまで言いかけて、言葉を止める。

 何かを言おうとして、しかし沈黙を保つ。

 代わりに、バーサーカーへと、真摯な視線を向けた。

 それが、自分に出来ることの、最大のことだと言わんばかりに。

 

「ッッッ――――――――――――!!!」

 

 だけれども、それがバーサーカーの何かに触ってしまったのか。

 彼は、猛烈なまでの憤怒を表す。

 それはどうしようもないことへの、憤りのようなもの。

 彼は叫び、憤慨し、嘆きと共に――疾駆を始める。

 落ちていた街灯を拾い、それを武器とし全力で駆ける。

 目標は、彼の拘りであろうセイバーへと。

 だが、それは届かない。

 

「――待て」

 

 そう、届かない。

 何故ならば、それを阻む者がいるのだから。

 バーサーカーの前に立ち塞がった男。

 白い服に、紫電を纏わせた男。

 ――サーヴァント・セイヴァー、ニコラ・テスラだ。

 

「――――っ」

 

 短く唸り、手にしている街灯でテスラを殴り飛ばそうとする。

 が、しかし……。

 

「芸達者とはいえ、思考は稚拙な様だな。

 身に染み付いた技を頼りにしても、見たことのないものは対処できまい――」

 

 テスラは、そう断言して彼は自然体で、しかし奇妙な動きをする。

 それは彼が、遠い昔に友人に学んだ術であった。

 

「!?」

 

「ふんっ」

 

 バーサーカーの振るう街灯が、彼の両腕に受け止められる。

 振り払おうと、バーサーカーが渾身の力を入れるが、力の力点を抑えているのか、ピクリとも動かない。

 

「少しばかり、痺れるぞ」

 

「っ」

 

 テスラの声に危険を感じたのか、バーサーカーは街灯を離し、離脱しようとする。

 だが、しかし――。

 

「――遅い」

 

「――――!」

 

 テスラの右手が、バーサーカーを捉える。

 そこから発せられるは、紫電の輝き!

 バチリ、と音を立てながら、紫電を纏った右腕は、バーサーカーに到達する。

 

「――――!?」

 

 衝撃と共に黒の鎧が、一つ、二つ、と痙攣する。

 流れてくる電流が、その身を焼いている。

 

「ほう、見事な体術だ」

 

「バリツって事は……同郷かよ!

 しかも比較的最近の!!」

 

 テスラの手際に、ライダーは感心し、ウェイバーは驚愕の声を上げる。

 そして他の者達も……。

 

「成程、胡乱ではあるが、確かに一角の英雄に相応しい実力だ」

 

 ランサーもライダーに続き、感嘆を顕にする。

 その体術、紫電の威力、それらはテスラの実力を裏打ちするのに、等しいものであるのだから、当然のものでもあった。

 

「……何故」

 

 庇われたのか?

 セイバーは思わずそう思ってしまった。

 バーサーカーの狙いは自分であったはず。

 それなのに、白い奴は前に躍り出て来た。

 だから、何故、と思うのだ。

 もし、本当に庇われたのだとしたら……。

 

「余計な、お世話だ」

 

 屈辱以外の何者でもない。

 その時は、自分が彼を切ろうと、そう誓う。

 だが、その前の自分とバーサーカーの中を気にかけていたのが、少しばかり気になって。

 ただ、庇ったのではないと、そうも感じていた。

 だからただ、今は不思議に思うばかりであったのだ。

 

 

「――――――」

 

 バーサーカーに声はなかった。

 沈黙して、目の前の白い彼を見つめているだけ。

 だけれども、その様子は何かを考えているようにも見える。

 ――バーサーカーの身でありながらだ。

 

「どうだ、少しは目を覚ましたか?」

 

「――――――」

 

 バーサーカーは、無言なれど頷いた。

 あの、狂化されたバーサーカーがだ。

 皆が、その光景に驚愕を覚える。

 あり得ざる光景、それを目の当たりにしているのだから。

 

 彼がしたこと、それは紫電を介しての心理学(メスメル学)であった。

 バーサーカーの深層意識に語りかけるように、彼に輝きを見せたのだ。

 

「では、お前はどうする」

 

「――――――っ」

 

 小さく唸り、だが彼はセイバーを一瞥して、そのまま姿を翻した。

 黒の鎧は闇に溶けていく。

 段々と、一体となってゆくかの様に。

 

「嘆きに浸る者よ。

 尊さを忘れられぬ、求道者よ。

 お前に我が名を伝えた。

 ならば、呼べ。私は正義の味方だ」

 

 ここから去りゆくバーサーカーに、テスラは声を投げた。

 返答など、望んではいない。

 回答など、求めてもいない。

 ただ、助けを求められた時に、駆けつけるのみ。

 

「――――」

 

 バーサーカーが消え行く間際に、何かを呟いた。

 理性のない彼が、一言だけであったが、言葉を――

 だが、それは誰にも聞こえることなく、消えゆくものであった。

 

「――今は、それでいい」

 

 テスラは、そう納得した。

 それが、この場ではそれ以上求める必要はないと。

 そして、バーサーカーが消えて、残った場には弛緩した空気が倦怠のように充満していた。

 皆が、暴走馬車どもが去っていった事に気が抜けていたのだろう。

 

 

 

 ――そんな時であった。

 

「何?」

 

 それはランサーのマスター、ケイネスの声。

 唐突に彼の魔術礼装、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の自律防御が発動したのだ。

 何が起こったのか、何に攻撃されたのか、それを理解することはケイネスには出来なかった。

 その一瞬の理解の空白の間、奇襲されたのだと思い至るまでの数秒の間に、事は起こった。

 

「取ったっ」

 

 鋭く、切嗣は引き金を引く。

 一射、二射と連射で、確実に仕留めるために。

 目標は、アサシンのサーヴァント。

 

 そしてその目的は、切嗣が作り出した状況と彼自身の腕が合わさって、ものの見事に成功した。

 アサシンを、切嗣の放った弾丸が貫く。

 一発、二発と、魔術的処理が施された特殊弾頭がアサシンを穿ったのだ。

 

「――――馬鹿なっ」

 

 貫かれたアサシンは、己が分野で遅れを取ったことに驚愕を隠せなかった。

 この状況はまずい、そう思いアサシンはこの場を離脱しようする。

 その先には――

 

「先ほどの奇襲、成程、姑息なアサシンのサーヴァントであったか。

 ふんっ、己の矮小さを呪いつつ、此処で果てよっ!」

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、水と風の二重属性を操る時計塔の神童。

 その彼が、アサシンの目の前に礼装を構えて存在していたのだ。

 

 ――ケイネスの魔術礼装が脈動する。

 ――主人の魔力を糧に、全力でその効率を計ってゆく!

 

「ック、このようなところで!!」

 

 冗談ではないと思いつつ、離脱しようとするアサシン。

 しかし、彼は切嗣の銃弾で負傷している。

 それ以前に、分体として分けられた身であるのだ。

 能力は、大きく低下している。

 だから、避けられるはずも……無かった。

 

 ――月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)がその水銀でアサシンを取り込む。

 ――その身を砕き、撃砕し、八つ裂きにしてゆく!

 

「あ、あああああああああああああああっ!!!」

 

 ――絶叫、あまりの苦痛から。

 ――しかし、それも続かない。

 

 瞬時に、聞こえなくなる。

 つまりは、アサシンが消滅したということである。

 

「ふん、これで英霊なのか」

 

 心底、小馬鹿にしたようにケイネスは吐き捨てた。

 これでは、アーチャーの言っていた有象無象を間引いたのとさして変わらぬと思いながら。

 アサシン、最弱と聞いていたがこれ程までとは、と呆れているのだ。

 

 だが、これで彼の自尊心は満たされたといって良い。

 自らの手で、サーヴァントを一騎屠ったのであるのだから。

 ケイネスは、十分な戦果と思っても間違いはないものであった。

 

「ランサー、今宵はもう良い。

 引き上げるぞ」

 

「了解した、我が主」

 

 ランサーも、さしてその意思に逆らうきなど無かった。

 それ程に、今日の戦場が無秩序だったということもあるのだろう。

 

「ま、待て、ランサーっ!」

 

 慌てたように、セイバーが彼を呼び止める。

 それは彼女の左腕の事もあるし、純粋に決着の事もあった。

 

「悪いが主命でここまでだ、セイバー。

 その腕の傷、それこそが我が決闘の証として、何れ再び相見えよう」

 

「……承知した、ランサー。

 決着の時に、何れは」

 

「あぁ、我が誇りにかけて、誓おう」

 

 セイバーとランサーは頷き合う。

 確かに、何れ決着を付けようと約束を交わして。

 ――ランサーもまた、この場より消えていった。

 

 

「さて、我らはどうしたものか」

 

「ふむ、これ以上今日は戦うつもりなのかな」

 

 ライダーが思案顔をするのに対して、テスラはもう切り上げようと言わんばかりであった。

 だが、確かに今更戦いを続けるつもりにもなれない。

 それは事実である。

 

「結局、お前達は何をしにこの場に現れたのだ」

 

 どこか呆れたような声で、しかし柔らかく、セイバーが二人に声をかけた。

 結局、この二人がした事といえば、場を引っ掻き回したことだけ。

 まだ、アーチャーにしろバーサーカーにしろ、戦いをしていただけマシに思える。

 

「さて、何をしに来たのだったかなぁ」

 

「お・ま・え・はっ!」

 

 どこか虚無的な顔をしていたウェイバーは、ライダーの言葉を聞いて、急に正気に戻った。

 お前ふざけるなよと、そう顔に書いてある。

 すると案の定、デコピンを喰らい床に沈む運びとなった、哀れ。

 

「私は、ランサーの誘いに乗ったまで。

 あれ程の純粋な闘気、武道を嗜んだ者ならば、誘いに乗らぬ手はあるまい」

 

「へぇ、まるで漫画みたいだなぁ」

 

「そういえば先生って、アメコミに出てきそうだよね」

 

 龍之介が茶化して、しかし士郎も何故か納得して頷いている。

 どうにも、脱力せざる得ない組み合わせである。

 

「まぁ、何にしろセイバー、お主はランサーとの因縁を先に片付けるべきであろうな」

 

「うむ、挑んでくるのであれば拒みはせんが、積極的にこちらから攻勢を掛けるつもりもない」

 

「……その配慮に、感謝を」

 

 ライダーとテスラ、両方にランサーとの決着を進められて、セイバーもその方向に決意を固める。

 万全の決闘の為に、そして何よりも、ランサー自身との決着のために。

 

「では、今宵はこれにて失礼する。

 ゆくぞ坊主、何時までも伸びてないでシャキっとせんかっ!」

 

「だ~れ~のせーだと思ってるんだ~」

 

 ヨレヨレのマスターを叩き起して、ライダーはテスラ達に振り向く。

 その顔は、快活な笑顔であり、見る者を気持ちよくするものであった。

 

「ではな、お主達もまた会おう!」

 

「ああ、その時はいずれ、だ征服王」

 

「そうであるな」

 

 そっけなく、だがしっかりとテスラは返事をする。

 それを確認して、満足そうにライダーは戦車(チャリオット)の手綱を握る。

 

「では、さらばっ」

 

 彼の戦車は動き出す。

 空へと駆けて、行方を晦ます。

 

「ふむ、では、我らも戻ることにしようか」

 

「うちに帰るの?」

 

「ああ、帰って寝る時間だ。

 一日、ご苦労であった」

 

「まだ早いって」

 

 テスラの声に反応して、龍之介と士郎がそれぞれ声を出す。

 その声は、疲れを多分に含んでいるが、それでも興奮したままであった。

 

「ふむ、これは歩いて帰った方が良さそうだな」

 

「いや、もうあんな八艘飛びみたいな真似されても困るんだけどさ」

 

「俺も、先生には悪いけど、今度はやったら吐くと思う」

 

「……そうか」

 

 何か、移動手段を用意せねば、と真剣な顔をして、テスラは呟いていた。

 それに、士郎も龍之介も何故か嫌な予感を感じずにはいられない。

 ……出来るだけ、まともな手段を用意するように、祈ることしかできないのではあるが。

 

「では、我らも帰ることにする。

 ランサーとの決着後に、また会おう」

 

「あぁ……ところで、バーサーカーなのだが」

 

 セイバーに別れの挨拶をかけたテスラであったが、少し呼び止められる。

 バーサーカーのことについて、ほんのすこしだけ。

 

「ありがとう。

 何故だか、そう言わねばならぬ気がした」

 

「ふむ、感謝であるのならば、受け取っておこう」

 

「そうしてくれ」

 

 セイバーの直感が、そうしろと告げていたのだ。

 それを鷹揚にテスラは受け取り、士郎と龍之介を連れてその場から歩き始める。

 ……今宵の決着、それが付いた瞬間でもあった。

 

「セイバーっ!」

 

「お疲れ様でした、アイリスフィール」

 

 慌ただしく飛んできたアイリスフィールに顔を綻ばせつつ、終わりの空を見上げる。

 一等輝く星以外には見えない空。

 だが、自分はそれに手を伸ばそうとしている。

 

「大願成るか、我が願い」

 

 ぼそりとつぶやいた言葉は、アイリスフィールの耳に入るでもなく、やはりどこかに消えていったのだった。

 

 

 

 

 

「先生……ちょっと眠い」

 

 帰り際、俺達は歩きながらの帰り道であった。

 でも、こんな時間だからか、既にまぶたが重くて……。

 油断すると、直ぐに意識が飛びそうになる。

 

「子供は寝る時間、なのだがな。

 無理をさせすぎた、済まない」

 

「ううん、先生が悪いわけじゃないから」

 

 首をコクリコクリと揺らしながらだけれど、俺はきちんと答えた。

 あと、物欲しそうな顔でこっちを見るな、雨生龍之介。

 怖いから、お願いだから違う方向を向いて欲しい。

 

「龍之介、今日で何か分かったか?」

 

「ん? ああ、英雄達の戦いでしょ!

 むっちゃ興奮したねぇ。

 いやぁ、たまんないね、ああいうの!」

 

「そうではなく、死を感じれたか、ということだ」

 

 でも、先生は雨生龍之介の視線に気付くことなく、話を振っていた。

 そしてそれは、あいつにとっての宿題みたいなもので。

 それにあいつは、ヘラヘラと笑いながら答えたのだ。

 

「んなの、あんなので感じる訳ないじゃないすか。

 逆にあの戦いは芸術チックだったねっ」

 

「……そうか、確かにそうでもある。

 ままならんものだな」

 

 無感情に、先生はそれだけ言って黙ってしまった。

 だから、俺たちも静かに、沈黙しながら歩き続ける。

 ……だけれど、やっぱり。

 

「――っうわ」

 

 意識がぐらついて、思わず転けそうになる。

 情けないけれど、割と満身創痍。

 夜ふかしするだけで俺はボロボロになっていた。

 

「ふむ、士郎」

 

「え、何? って、うわぁ!?」

 

 先生に呼びかけられたかと思うと、いきなり背中に背負われた。

 びっくりするけど、先生が気を使ってくれたんだって、直ぐに分かって。

 

「ありがとう、先生」

 

「礼には及ばん」

 

 端的に、先生らしくそう返して、俺達は帰路を歩き続ける。

 ……そうしている内に、空が明けてきて、俺は段々と眠くなってきて。

 

「今は、寝ろ。

 起きたのならば、また動けば良い」

 

「う……ん」

 

 先生の言葉に導かれるようにして、俺は段々視界が閉じていく。

 頭がぼぉとして、何も考えられなくなる。

 そんな中で、最後に見たものは……。

 

「――良き青空だ」

 

 昇りゆく朝日、瑠璃色に染まりゆく空。

 それを見た先生が、何かをひどく感じいっているような……静かな姿であった。




さて、今回は新しいスチパンが出ると聞いて、筆が本当に捗りました。
素晴らしい、喜ばしいことです。
もうこれは喝采なり、何なりを叫ぶしかないですね!

緋星のバルトゥーム、最新作の名前だそうです。
アメリカ西部が舞台らしいですが、流石にまだ西部劇やってたりなんてしませんよね……しませんよね?(確認の為、二度目)

まぁ、良いです。
何でも面白ければ良し、です。
これからスチパンに入る人も、ぜひぜひです!

では、これにて。

――喝采せよ! 喝采せよ!(やっぱり堪えきれずに叫ぶの巻)
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