Fate/Shining Night   作:ペンギン3

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第5話 インターバルⅠ

 暗がりに、一人の男がいた。

 ここは怪蟲蔓延りし、暗き地下室。

 間桐邸の暗部。

 そこに木霊するのは、唯一人の笑い声。

 

「クククッ、アハハハハッ!

 やったぞ!

 時臣のサーヴァントめ、尻尾を巻いて逃げ出しやがった!!」

 

 間桐雁夜。

 間桐家の次男坊にして、バーサーカーのマスターである男。

 その彼は、自分以外の人間がいない地下室で、哄笑を続ける。

 何故ならば、こんなに愉快なことはなかったからだ。

 

「あれだけ不遜でっ、時臣そっくりのサーヴァントがなぁ」

 

 クク、と声が漏れる。

 その原因は、あの黄金のサーヴァント。

 金色のアーチャーは、正に傲慢な時臣そっくりだったから。

 それが捨てゼリフを吐いて敗走するなど、心躍らずにはいられないのだ!

 

「お前はすごい、バーサーカー!」

 

 故に、それを成した己のサーヴァントを褒め称える。

 雁夜の目の前に立っている、漆黒のサーヴァント。

 バーサーカー。

 狂化してもその剣の冴えは衰えなかった、雁夜の切り札。

 だが、その能力は……、

 

「ハハハ、ハハ、ハ――ッグ、ウ」

 

 確実に、雁夜を蝕む。

 込み上げてくる嘔吐感。

 全身から何かを吸い上げられていく感覚。

 ……それらは、雁夜の体内に潜む蟲が脈動しているのだ。

 

「ハ、ハハハ。

 俺の体の方が、バーサーカーに付いていかないのか」

 

 蟲達が、バーサーカーが消費した魔力を回収しようと、雁夜を蝕む。

 雁夜の僅かな魔術回路から、搾り取るような形で吸い上げて。

 それでも足りない分は雁夜の体を、文字通り貪ることで魔力を補填する。

 

「ッガァ!?」

 

 鋭い痛み、雁夜の体を貫いて。

 手、足、胴、全てから力が抜けていく。

 

「……ックソゥ」

 

 だが、雁夜は未だに死ねない。

 彼の気力と、複雑な感情がそれを止めているから。

 

「俺、は」

 

 果たさなければならない、目的があるのだから。

 

「時臣の野郎をぶっ殺して、それで、桜ちゃんを……」

 

 今も、桜は苦しんでいる。

 自分の責め苦よりも、酷いものを味あわされながら。

 だからこそ、雁夜は誓うのだ。

 こんな状況に桜を追い込んだ遠坂時臣だけは、この手で殺すのだと。

 

「こんな不幸なことがあるか。

 あって、堪るか。

 絶対に、俺、は……」

 

 意識が、乖離していく。

 現実から、現へと旅立ちを始める。

 薄れゆく意識の中で、誰かが、雁夜を受け止めた。

 どこか冷たい鉄の感触が、雁夜を満たして、夢へと堕ちていったのだ。

 

 

 

 

 

 冬木ハイアットホテル、上階フロアの一室。

 そこでケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、グラスに注いだワインを眺め、先の戦いの事を思い出していた。

 そして堪えきれずに、微笑を漏らす。

 

 聖杯戦争初の戦闘、そこで彼は戦果を挙げたのだ。

 ほかならぬ、自身の手によって。

 七騎のサーヴァントの一角。

 アサシンを、彼の手で鏖殺した。

 それが彼の自尊心を、これ以上なく満たしていたのだ。

 

「今宵はアサシンを葬り、セイバーに手傷を負わせた」

 

 彼は確かめるように独語し、また微笑を漏らす。

 自身が望んだ青写真通りに、事は運びつつあったのだから。

 故に、彼は自身のサーヴァントに声を掛ける。

 

「宝具を晒して仕留めきれなかったのは失態だったな、ランサー」

 

「……申し訳ございません、我が主」

 

 頭を垂れて、ケイネスの言葉を聞き入れているのはランサー。

 主の傍に控えて、今回の戦いの事を反芻していたのだ。

 だからこそ、主人の叱責を静かに受け止める。

 戦闘の結果が、最善のモノで無かったからだ。

 

「ですが、次こそは騎士の誇りにかけて、必ずやっ」

 

 それでも、ランサーには自信があった。

 それを裏打ちする、有利な環境も。

 だからこそ力強く、絶対の誓いとして、彼はマスターに宣言する。

 

「必ずや、セイバーを討ち果たしてみせます」

 

「……その言葉、違えることがないように」

 

 ケイネスはこの時、ひどく寛大な気持ちであった。

 だからこそ、自らの度量でランサーを許す。

 但し、次こそはと言質を取って。

 そこにはケイネスの暗い優越感と、誇りが入り混じった、複雑な感情が存在していた。

 

 だが、それには誰も気づかない。

 皆が、己が内のみを見ていて、盲目であったから。

 だけれども、それでも今は歯車は回る。

 今のところは、上手く噛み合っているから。

 

「ケイネス、ランサーは良くやっているわ」

 

「……ソラウ」

 

 だけれども、歯車を不安定にする要素は確かにあった。

 その名は――情動。

 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは、ケイネスの婚約者は、黒のホクロに魅入られている。

 それは……心の裏側で、ケイネスもひっそりと認識していること。

 

「ソラウ、無論私も承知している。

 ただ、今のは誓いを新たに表明していたのだけのこと。

 次こそはセイバーを打倒するという、な」

 

 今この時、ケイネスは心の余力を持って、余裕を婚約者に見せつける。

 見せつけれる程に、今のケイネスは自信が漲っていた。

 

「……そうね、流石はロード・エルメロイ。

 降霊科の神童と謳われただけはあるわね」

 

 それ故に、ソラウもそれ以上は何も言えない。

 だから、まだ、歯車は回り続ける。

 

 歪んだ音を響かせながらも。

 歪な音を奏でながらも。

 この三人は、未だに一つであり続けれるのだ。

 

 だけれど、ケイネスの眼。

 ――確かに、黒子を、捉えてて。

 

 

 薄い氷壁の上を歩くが如き会話。

 互いが互いを強烈に意識し合っている空間にいる彼ら。

 直後に……彼は、彼らは、悲劇に襲われる。

 それは、サイレンから始まった、悲劇で喜劇の序章。

 

 ――この日、冬木ハイアットホテルは爆散する。

 

 

 

 

 

 スイッチ一つ。

 コードキーさえ入力すれば、木っ端微塵。

 それが冬木ハイアットホテルの現状である。

 衛宮切嗣は、自身の思い通りの状況に、僅かな笑みを浮かべた。

 

 手口としては、初めに放火し、攻め入る事をランサーのマスターに伝える。

 それで工房に固く引き篭った所を、爆破。

 単純ではあるが、十中八九、脳筋でない限り罠にかけれる。

 そしてケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、戦いにおいては、後方で座視をするであろう存在であることは、先の戦いで分かりきっている。

 故に、これは勝ちの決まった戦いであったのだ。

 

 ――そして、それは、爆発した。

 

 ハイアットホテルに設置されたC4プラスチック爆弾は、正確に起動したのだ。

 爆破解体の余技を持って成された、現代技術の欠片。

 切嗣は、それを無感動に眺めていた。

 ホテル内のケイネスがどうなったかは……まだ、分からない。

 

「どうだ、舞弥」

 

 電話で、ハイアットホテルを監視していた舞弥に連絡を取る。

 結果を確かめるために。

 

『最後まで標的に動きはありませんでした』

 

「そうか」

 

 報告を受けて、切嗣はそれがもたらす結果を、口ずさんでいた。

 

「150mの高みからの自由落下。

 どんな魔術結界で防備を固めていても、助かるすべはない」

 

 そこで、ようやく切嗣は微笑を洩らした。

 ケモノが狩りを成した時のような、本能的な笑みを。

 

「分かった舞弥、撤退しろ」

 

「了解」

 

 そこで電話は途切れる。

 後には、切嗣の後ろ姿があるだけ。

 その背中は、覚悟と郷愁が入り混じっていて……。

 だけれども、彼は強く、自分で自覚させる。

 衛宮切嗣は今宵、在りし日の機械に戻ったのだ。

 

 

 

 

 

『アサシンはケイネス・エルメロイ・アーチボルトの魔術礼装により、脱落しました。

 私はこれより、教会へと向かいます』

 

「うむ、了解した綺礼君。

 ……他の、アサシン達はどうしているかな?」

 

 遠坂邸の一室。

 そこで遠坂時臣は、魔導通信機を通じて、言峰綺礼と対話をしていた。

 会話の内容は、言峰綺礼の今後について。

 彼は、全てのマスターが見守る中で、アサシンのサーヴァントを失った。

 それにより、言峰綺礼は教会に駆け込む大義が出来たのだ。

 つまりは、彼はマスターではないと、認識されたということ。

 

 ――但し、彼はまだ脱落していない。

 

 彼の召喚したサーヴァント、アサシンは幾つもの顔を持つ。

 それは、彼が召喚せしアサシンは、人格を使い分ける。

 故に、百の貌を持つハサンであるのだ。

 

『はい、まずはキャスターであろうサーヴァントを追跡していた者達ですが――』

 

 この戦い、遠坂時臣と言峰綺礼は同盟している。

 そして、アサシンに与えられた役割は、敵サーヴァントの偵察。

 他のサーヴァントの能力を、余すことなく観察し、報告する。

 それがアサシンの使命であるのだ。

 

『キャスターは何らかの手段を使用し、その行方を眩ませました』

 

「やはり、そのサーヴァントはキャスターであろうな」

 

 そのような芸当、他の武辺者のサーヴァントでは不可能であろう。

 目を眩ませるとか、視界から消えるなどと、そう言う芸当は特に。

 

『また、その行動から、アサシンに気付いていた可能性が大きいと思われます』

 

「……今後も、彼らの動きには注視する必要があるな」

 

 戦闘能力が相当なものであるのは、バーサーカーを止めたので確認している。

 そして細やかな芸当も可能であるとすれば、難敵であるのには間違いないのであるから。

 

『以上で、報告を終わります』

 

「ご苦労、これからも気をつけて行動するように」

 

『はい』

 

 そこで、通信は途切れる。

 静かになった部屋。

 そこで、報告を受けたキャスターについて、遠坂時臣は考え始める。

 

「確か、輝きとやらに、拘っていたな」

 

 そこから、時臣は思考を巡らせる。

 正体不明なサーヴァントについて。

 多くのサーヴァントが、愚かにも真名を明かした戦いに置いて、彼は強かにも自身の名を明かさなかった。

 しかし、多くの判断材料が揃っている。

 そこから推察できる彼の名は――。

 

 輝きに拘り、またバリツなども使用する。

 そこから、彼は近代の英霊であることが十分に理解できる。

 また、現代の魔術師で輝きといえば……。

 

「マグレガー・マイザース、か」

 

 大いに可能性はあると、時臣は考える。

 

 マグレガー・メイザース。

 隠秘学結社、黄金の夜明けに所属し、イギリス生まれの魔術師。

 彼なら、どのような魔術書(グリモワール)を持っていてもおかしくはない。

 それならば、と考えたのだ。

 

「まぁ、情報収集を密にするほかあるまい」

 

 断定はできない。

 だから自分にできるのは、まずそれからだと、時臣は結論づける。

 結論づけて、ふと、何気なく外を見渡すと夜の闇が見える。

 それが、何故か全てが暗中模索の中にあると、時臣には感じられ。

 ……ワイングラスに映った自身の顔は、どこか難題を前にしたようであった。

 

 

 

 

 

 マッケンジー邸の二階にある、自分に宛てがわれた部屋で、ウェイバーはゆっくりと目を覚ました。

 慣れ親しんできた部屋で、すっかりと安心感を覚えて睡眠を貪れたのだ。

 その睡眠から覚めた理由は、ピーンポーンという間延びしたインターフォンが鳴り響いたため。

 のっそりと、ウェイバーは起き上がる。

 が、部屋からは動こうとはしなかった。

 インターフォンが鳴ったからといっても、マッケンジー夫妻が対応するであろうから。

 事実、これ以上、間延びした音が鳴ることはなかった。

 だからウェイバーは、二度寝しようかと考え始めたのだが……。

 

「おい、坊主っ!」

 

 勢いのよい元気な、元気すぎる声に揺さぶられて、ウェイバーは目を覚まさざるを得なくなったのだ。

 

「……何だよ、一体」

 

 不機嫌さを隠さずに、ウェイバーは問いただす。

 入ってきた人、いや、サーヴァント・ライダーに向かって。

 

「いやぁな、これを見よ!」

 

 しかし、ライダーはウェイバーの機微を、一向に気にしない。

 何時ものこと、だからウェイバーも諦め気味だ。

 溜息一つで済ませて、ウェイバーは億劫そうにその巨体を見上げた。

 見上げた先の顔は……無茶苦茶笑顔であった。

 

「それは……宅配物か?」

 

「おう、余の荷物だ」

 

「ふーん…………え?」

 

 適当に流そうと思ったのだけれど、その言葉に凍りついてしまった。

 余の……荷物?

 

 ――なんだよそれ、どういうことだ!?

 

 一瞬で、混乱に陥ってしまうウェイバー。

 しかし、ライダーは全くそんなことを気にしない。

 むしろ、得意げな顔をして語り始めたのだ。

 

「通信販売というやつであるな」

 

 いやはや、現代は実に便利だ、などと供述するライダー。

 そしてライダーの格好を見てみると、何時もの戦装束。

 異国の、民族衣装を思わせるそれ。

 ……ウェイバーは、自然と顔が乾いた表情になっていくのを、自覚せずにはいられなかった。

 

「その格好で、荷物を受け取ったのか?」

 

 恐る恐ると尋ねると……。

 ライダーはこれも、笑顔で然りと頷いた。

 

「あのなぁ」

 

 思わず、ウェイバーは苦言を呈す。

 というか、マッケンジー夫妻はどこに出かけているんだ。

 

「んん? あぁ、あの二人ならば出かけておるぞ」

 

 訊ねれば、呆気カランとそう答える。

 ……頭、痛くなってきそうだ。

 

「金、どうしたんだよ」

 

 どうにかなりそうな頭を抱えて、ウェイバーは問いかける。

 すると、ライダーは無言で懐から財布を取り出した。

 ――ウェイバーの、財布を。

 

「お、お前えぇぇ!」

 

 悲鳴のような声を上げて、ウェイバーはライダーから財布をひったくる。

 中身を確認すれば、消えているのは夏目さんが数枚だけ。

 さらば諭吉! という事態だけは、避けられていたようだ。

 それにホッとして、だけれども憮然とした表情をライダーに向ける。

 

「で、何を買ったんだ」

 

 これ以上、何かを言っても無駄だと分かっていたから、ウェイバーはそれを訊いた。

 買ったもの、それが気になったというのもある。

 

「ふふ、これよ!」

 

 ライダーが小包から取り出したのは、デカデカとしたTシャツであった。

 一瞬、”冬木市深山町中越二ー二ー八マッケンジー宅・征服王イスカンダル様宛”などと巫山戯た記述が小包に見えた。

 が、きっと気のせいに違いない、うん。

 と、取り敢えずウェイバーは思い込むことにした。

 そうでなくては、到底耐えられそうになかったから。

 

「お前、Tシャツなんて買ったのかよ」

 

「おうよ、昨日見たセイバーの姿がな、当代風の衣装であったのだ。

 ならば、この征服王たるものが、遅れを取るわけにも行くまい?」

 

「あぁ、そう!」

 

 半ギレなのを隠しもせずに、ウェイバーは叫ぶ。

 そうしてなければ、頭が痛くて倒れてしまいそうだから。

 

「うむ、これで外を堂々と歩けるものだ」

 

 そう言って立ち上がったライダーは、Tシャツを来て部屋を出ていこうとする。

 ……Tシャツだけを着て。

 

「おいっ! ズボンはどうした!?」

 

 下はパンツのみ。

 その様な惨状で外に出ようとするライダーを、ウェイバーは全力で止める。

 けれど、ライダーは良く分かっていない顔で、こんな問いかけをするのだ。

 

「必要であるのか?」

 

「必要不可欠だよっ、バカ野郎っ!」

 

 立ち上がって、ウェイバーは叫んだ。

 無論、既に眠気などは吹き飛んでしまっている。

 その中で、ウェイバーは思ったのだ。

 

 ――駄目だこいつ、何とかならないのか、と。

 

 

 

 

『臨時ニュースをお伝えします。

 本日未明、冬木市ハイアットホテルが倒壊しました。

 消防庁からの報告によりますと、ガス漏れによる引火が原因として――』

 

 ぼぉっとした頭に、音が入ってくる。

 上手くは理解してない。

 ただ、勝手に入ってくるだけだから。

 ……だけれど、意識は段々と覚醒していく。

 

 だって仕方がない。

 俺、いま起きたばっかりなんだから。

 時計をぼんやり眺めると、丁度昼過ぎ。

 ……先生の背中で寝てから、かなりの時間が経っていたようだ。

 

「へぇ、爆発かぁ」

 

 誰かの、声が聞こえた。

 聞き覚えのある、男の声。

 

「死体有るかなぁ。

 いや、あったとしてもバラバラか黒焦げか」

 

 面白くないねぇ、と呟いているそいつ。

 ……瞬間、俺の目はバッチリと開いた。

 だって、そんな阿呆なことを言う奴は、俺の知っている限りでは一人しかいないんだから。

 

「う、雨生、龍、之介?」

 

「や、おはよう士郎君」

 

 人の良さそうな笑みを浮かべて、不道徳さ丸出しの発言をしている彼。

 ――シリアルキラー、雨生龍之介。

 

「な、何でお前が俺の部屋に!?」

 

「君の部屋っていうか、俺ん家だし。

 そもそも、ここ、居間」

 

 床を指差して、にこやかに言う雨生龍之介。

 慌てて周りを見回すと、ここは確かに雨生家の居間であった。

 

「せ、先生……」

 

 思わず、呟いてしまう。

 きっと俺は、微妙な顔をしているだろう。

 何故か、それは答えが明白だ。

 

「まだ怯えてんだ、キミ」

 

「べ、別にそんなことないっ」

 

 巫山戯た事を言う雨生龍之介に、俺は声を荒げてしまう。

 違う、怯えてなんていない。

 だって、一応は言葉を交わしあって、今はこいつが俺を殺さないって、分かっているから。

 

 ……でも、だ。

 安全であるからといって、それが認め、受け入れるとなる訳じゃない。

 それだけの悪事、コイツはしっかりと働いてきたんだから。

 そんな悪い奴が寝起きに、よぅ、何て声をかけてきたら、びっくりするに決まってる。

 少し考えれば、そんなの分かることなのに……。

 

「――――」

 

「ん? 何、そんなに熱い視線を向けて」

 

 でも、コイツはきっとそんなことは気付かないんだろう。

 らしいといえばらしいのだろうけれど、そんなコイツらしさなんて全力でぶん投げてしまいたい。

 ……全く。

 

「先生はどこ?」

 

 だから、一旦ここを離れよう。

 落ち着かなきゃ、何にしても頭に血が上ってしまうから。

 

「ん、あぁ」

 

 雨生龍之介は億劫そうな声を出して、庭の方を指を指す。

 

「何か、ごちゃごちゃとしてるよ」

 

「ごちゃごちゃ?」

 

「行けばわかるって」

 

 妙な事やってると興味なさげに、雨生龍之介は言った。

 

 ……気になる言い方だ。

 先生が変わっているのは元からだけれど、それでも、だからこそ何をしているのかが気になった。

 だから俺は、その好奇心に従って、靴を履いて庭を向かって。

 そこで、俺が見たものは……。

 

 

「ん、起きたか、士郎」

 

「先生、おはようございます」

 

 ――いつもの白い服に、スパナを持っている先生の姿だった。

 

 ……待って、ちょっと待って。

 一体どういうことなんだ。

 どうして、よりによって先生がスパナなんて持っているんだ。

 混乱する、訳が分からないから混乱してしまう。

 

「何、してるの?」

 

 聞かずにはいられない。

 むしろ、どうして無視できる訳がない!

 

「見ればわかる」

 

 しかし、先生は明確な回答はせずに、視線を下に向けるだけ。

 それに従って、俺も先生の視線の先を見たのだけれど……。

 

「自転……車?」

 

「そうだ」

 

 そこには、バラバラに解体された自転車の姿。

 サドルや車輪から、辛うじて推測できた残骸が、そこにはあった。

 

「この二輪車を改造して、今後の移動手段とする」

 

「へ?」

 

 平然と、先生はおかしなことを言った。

 自転車を……移動手段?

 この広い冬木市で?

 

 そんな疑問が湧き出してくる。

 でも、先生はとてもマイペースで。

 一つ頷いてから、こんな事を言ったのだ。

 

「テスラマシンへの、改造だ」

 

「……テスラ、マシン?」

 

 また、分からない単語。

 でも、名前からして、大体予測がつきそうだ。

 

「先生のマシンだから、テスラマシン?」

 

「その通りだ」

 

 先生は表情を変えず、だけれど満足げに頷く。

 成程、名前通りなんだ。

 

「どんな風に改造するの?」

 

「ふむ……」

 

 訊くと、先生はちょっと考えて。

 それから、真顔でこう答えたのだ。

 

「できてからの、お楽しみというやつだ」

 

 そっか、そっか。

 うん、うん……。

 な、なんでだろう、急に不安になってきた。

 

 自転車いじりに戻った先生を眺めて、俺は何だか胸騒ぎを感じてしまう。

 だから、俺は空を見上げてお祈りするのだった。

 

 ――どうか、マトモな機械でありますように。

 

 それが、俺にできる唯一の事であった。




世間ではFate/Grand Orderがすごく評判になっております。
賛否両論、始まったばかりなので様々ですが、楽しいという声も大きく聞こえてくる現状。

し・か・し!
そもそも僕はスマホを持ってないという現状!
――悲しい、実に悲しくあります。

おのれおのれおのれおのれおのれ!(ギル様並感)。
み、皆様が羨ましくあります(血涙)。


あ、それからソナーニル、買ってプレイ中です。
リリィ可愛い(悲しみをこれで中和している感覚です)。

あと、取ってつけたようですけれど、先生はアサシンからは光の屈折の原理で見えなくなりました。
丁度、日が出てきましたからね。

では、無駄にクソ長くなった後書きは置いておいて。

――皆さんに良き青空を!
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