時の流れって残酷です(言い訳)。
とある古びた屋敷、場所を知る者からは、双子館と呼ばれる洋館。
その暗い一室で、声が聞こえる。
一つ、二つと、響いている。
「この遣り口、魔術師ならぬ外道の仕業よな」
「はい、手馴れた者の犯行と思われます」
「ふんっ。
なればこの所業、紛れもなく奴の仕業であろうよ」
「奴、とは?」
声の主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、非常に不快そうに顔を歪めながら会話を交わしていた。
彼の側には、ランサーのサーヴァントの姿。
ケイネスは木製の古びた、しかし趣味の良い椅子へと腰を下ろして。
ランサーは、ケイネスの足元に傅いている。
主と侍従の姿が、そこには然りと存在していた。
彼らが交わしているのは問答。
ここに、彼らが転居する事になった理由をだ。
だが、ランサーに答えを返したのはケイネスでは無かった。
そこにもう一人いた、彼女が答えたのだ。
「衛宮切嗣、フリーランスの魔術師ね」
部屋の窓辺に立っていた女性。
ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが、ランサーを見つめていた。
麗しい瞳、その中には熱が見え隠れしている。
それにランサーは気が付かない。
気が付かないふりをしている。
もう、二度と間違えない事を誓ったが故に。
「成程、単独行動であるからこそ、手段を選ばぬ者ですか」
「あぁ、そうだ。
此度、奴はアインツベルンに雇われたと聞いている。
傭兵稼業を生業にしている、卑俗な魔術師。
どこまでも汚い、まるでドブネズミの様な輩だ」
ケイネスはソラウに自ら語った情報を肯定し、そして衛宮切嗣を悪し様に罵る。
それ程に、彼の工房は完璧であったから。
正面から来たのであったならば、彼は存分に客人を持て成せたであろう。
けれど実際に起こったことは、遊戯相手にチェス盤をひっくり返されたという事実のみ。
全てを台無しにされたのだ。
不愉快ここに極まる、といったところであろうか。
「でも、これからどうするの、ケイネス。
このまま、引き下がる?」
怒りを露わにしているケイネスの傍らで、ソラウの表情は冷めつつあった。
けれど、ケイネスへの言葉は、まるで挑発するようでもあって。
それは彼女も、今宵のテロリズム的行為には、十分に立腹していたからだ。
故に、彼女の声は、どこまでも試すようであって……。
「侮ってもらっては困る。
無礼者には、躾をせねばなるまい
巣を、間引きに行くとしよう」
そしてケイネスも、ここで引き下がれる程にプライドを抑制出来ていない。
動機、機会、実力、全てが揃っているのだから。
むしろ、抑える方が難しいといえるであろう。
「じゃあ、行くのね?」
「あぁ、行くとも。
ソラウ、君はここで吉報を待ってるがいい」
「えぇ、流石はロード・エルメロイね。
……頑張って」
ソラウは、自分の思い通りに事が運んで、微笑みさえ浮かべた。
そして最後にポロリと出た言葉。
それはケイネスを大いに驚かせ、そしてやる気を駆り立てる。
……しかし、その言葉が誰に向けられたものか。
彼女はそっと、心に仕舞込む。
ケイネスには笑顔を浮かべながら、意識はそっと彼を想って。
ケイネスとランサーが部屋を出て行っても、彼女は笑ったままだった。
何を思って笑っているのか、それは彼女の己が内にのみ、存在する。
――故に、今日も今日とて彼らはすれ違う。
――故に、想いが重ならない。
――まるで、空虚なお人形遊び。
どこからか、嗤い声が聞こえてくるような、そんな一幕。
嘲笑を音にするならば、恐らくは……。
「士郎、ショウユを取ってくれ」
「はい、先生」
夕食時、俺と先生と雨生龍之介でご飯を食べている。
食卓に並んでるものは、スーパーなどで買った出来合いのもの。
電子レンジでチンすれば、それなりに食べれるのが良いところ。
「ふむ、やはりトウフというのは、醤油で食すのが最良か」
「それ以外でどうやって食うんすか」
不思議そうに尋ねる雨生龍之介。
確かに、豆腐は醤油くらいしか掛けるものが思いつかない。
なので、俺も黙って先生が何て答えるかに、耳を傾けていた。
すると先生は、ひとつ頷いてこう答えた。
「掛ける、ではないが、かつて食べたユズドウフなる物は中々であった。
風味が良い。
まぁ、味は薄くあるのだがな」
ゆず豆腐、そういうのもあるんだ。
聞いて、ちょっと感心してしまう。
何か面白い、沢山種類とかあるみたいで。
むぅ、雨生龍之介のやつ、家にふりかけ置いてないのか。
「それにしても……揚げ物が多いな」
「はい? ダメなんすか?」
「揚げ物には、スープを付けるものだ」
「へー」
興味なさげに、黙々と唐揚げを食べていく雨生龍之介。
その様子に、さしもの先生も鼻白んだようで、白米を無言で口に運んでいた。
あ、イカの揚げ物美味しい。
「ところで、今夜はどうするの?」
丁度、食卓に静けさが訪れたので、チャンスと思って先生に訊ねる。
昨日は凄かったから、必然的に今日の事も気になっていたのだ。
うわっ、豆腐に醤油を掛けすぎてしまったらしい、主張が激しい。
「今夜か、今夜は巡回に行く。
聖杯戦争、昼間はともかく、夜は何が起こるか分からんからな」
「てことは、またエキサイティングな夜が訪れるんだな!」
さっきまで、静かにご飯を食べていた雨生龍之介が、急にうるさくなる。
まぁ、昨日のあれは凄かったから、ほんのちょっぴりだけ気持ちは分かってしまうのだけれど。
「自重しないと、死ぬぞ」
「分かってる分かってる、先生の傍からは離れないって」
雨生龍之介に警告を促す先生。
けれど、雨生龍之介は全然答えてないように、にへらとした笑いを浮かべているまま。
逆に、俺は思わず背を伸ばしてしまっていた。
ちょっとでも、共感を覚えてしまっていたから。
それにしてもこのサラダ、家にドレッシングが無いから味気ない。
塩かけないと。
「じゃあ今夜は、見回りなんだ。
……アレ、使うの?」
「無論だ」
ふと、思い出したことを尋ねると、想像通りの答えが返ってきた。
嬉しくともなんともない。
むしろ、どうしようかと考えてしまう。
アレ、つまりは昼間に先生が整備していた自転車のこと。
時速100kmで走る、高速二輪車……らしい。
どこか自慢げに説明していた先生が、脳裏によぎる。
因みに、ヘルメットも付いてるキワモノ。
ギアで速度調整ができるらしい。
ギアを見た先生は、これが21世紀の自転車か、などと感慨深そうに言っていた。
でも先生の技術力は、多分22世紀から来たどら猫型ロボットに匹敵すると思う。
「でもアレ、二人乗りじゃん?」
雨生龍之介が、ごく当たり前の正論を言う。
あ、いや、そもそも自転車は二人乗りしちゃダメなんだけど。
「ん、乗れないことはない、三人でな」
「どうやって?」
雨生龍之介が首を傾げているのに対して、先生は意味深な笑みを浮かべていた。
……何でだろう、すごく嫌な予感がする。
あ、このお茶、なんか渋い……。
夕食後、先生に従って、俺達は中庭に出た。
そこで見たもの、それは魔改造された自転車の姿だった。
色んなパーツを組み合わせたのか、どこか大型化している自転車。
パーツはジャンクから剥ぎ取ってきたとは先生談。
怪しい駆動音のする箱や駆動系の複雑化、自転車の各部を装甲化されているところが非常に目立つ。
見た目的には、自転車とバイクの中間みたいなやつだ。
「で、どう乗るんすか?」
どこか胡乱な目で、雨生龍之介が先生を見ていた。
それ程に、この自転車は、何だか怪しかったのだ。
けど、先生は全く表情を変えない。
むしろ、自信アリげに、俺と雨生龍之介を見ていた。
「まず、私がここに座る」
そう言って、先生がサドルに座る。
それからと続けて、俺の手を先生は掴んだ。
「へ?」
「お前は、ここだ」
先生に導かれるままに、俺は先生の膝の部分に乗せられた。
混乱している俺を他所に、先生は雨生龍之介を後部に乗っける。
そうして、こう言ったのだ。
「うむ、無事に三人乗れたようだな」
「これで、良いのかなぁ」
良い訳あるかぁ!
そんな感じの気持ちだけど、先生が相手だし強く出られない。
だから妙に脱力した感じで、力なくボヤくしか無かったのだ。
けれど、それも先生にはキチンと聞こえてきたようで。
「問題はあるのか」
「……ありません」
結局、欠点を特に思いつかなかったから、俺は何も言えなかったのだった。
そして、雨生龍之介はというと……。
「ふーん、まぁ、良いんじゃない?」
そのやる気のない態度を改めて欲しい。
いや、要らない時には非常に活動的なのだけれども。
思わず溜息を履いてしまうと、後ろから声が飛んできた。
「士郎君、溜息を吐くと幸福が逃げてくらしいよ?」
「うるさい」
何時もならもっと噛み付くのであろうが、今はその気力はない。
これからどうなるのか、それが今の俺の意識の焦点であったから。
「何とか、なるかなぁ」
「安心しろ、どうにかしてやる」
ボヤき癖が付いたのか、口からポロポロと勝手に言葉が溢れていく。
それを拾った先生は、何時もの如く安心させるように自信を示してくれた。
根拠はないのだけれど、それでも、それだけが非常に心強く感じたのであった。
「では、行くとしようか」
「はいっ」
「はいはい」
そして時刻は23時を回った頃。
自転車の最終調整を終えた先生と共に、俺達は外に出る。
遂に巡回へと出発する事となったのだ。
――先生作の、この
正直、不安さはまだ拭えない。
これが自転車である事と、スクラップの山から出来たものである事が、それに拍車をかけていて。
俺は、申し訳程度に用意されたヘルメットを被る。
これについては、今は先生を信じるしかないのだから。
これが空中分解しても、先生は助けてくれる。
……きっと、多分、めいびー。
「
先生の声に従って、自転車が動き出す。
動き始めはゆっくりと、段階的に加速していく様に。
「さぁ、楽しい夜の始まりだ!」
雨生龍之介が、はしゃいだ声を出す。
俺もそれに釣られて、かは分からないが、何か予感の様なものを感じていた。
きっと、今夜も騒がしくなる、そんな予感を……。
先生が踏んだペダルと共に、俺達は夜の冬木市へと飛び込んだのだ。
そして自転車、俺は先生の膝の上に乗っている。
そこで感じる感触があった。
風、心地よい風が凪いでゆく。
おそらく今は、時速30kmくらいの速度。
体感速度では、結構早く。
でも、実際の速度ではそこそこのスピード。
けど、この乗り心地は、想像以上に安定していたのだ。
「すごい」
思わず、感嘆に言葉を漏らしてしまう。
自分でも、とても都合の事を言っているのは分かっている。
あれだけ怖がってたのに、いざ乗り始めると心地よいなどと。
でも、何よりの事実だったから。
これよりスピードが早くなるなら、そんな余裕は感じてなくなるだろうけれど。
それでも、今は風の感触と、流れていく夜が何よりも素敵で、面白い。
「このマシンは、テスラマシンだ。
不安がることなど、最初から皆無だ」
先生の、どこまでも自信に満ちた声が聞こえる。
傲慢そのものの言葉だけれど、今は素直に同意できる。
すごい、すごい、先生は伊達じゃないんだ!
「うんっ、すごいよ、先生!」
「そうか」
ふと、笑ったような気配がした。
それは先生の微笑か。
暖かな感触、俺も何故だか嬉しくなってしまうものがあった。
そうして、俺達はこの自転車で色んな所を回った。
例えば、洋館だらけの住宅街だったり。
例えば、深山と新都を繋ぐ大きな橋だったり。
例えば、古びたお寺の周りだったり。
兎に角、この自転車の性能に物を言わせて、色んな所を回った。
でも、今回は中々に暴れているサーヴァントとか、そんな奴らは見当たらない。
むしろ、街は何時も通りの活気がある。
「ふむ、やはりもっと人気のない場所が――っ」
先生が何かを言おうとして、急にブレーキを掛けた。
その勢いは凄まじく、キィィ、と甲高い音を出しながら、自転車は静止する。
「うわ、ぁ」
「うおっと」
俺は先生の膝にいたから何事もなかったが、雨生龍之介はうっかり落っこちてしまったようだ。
尻餅をついて、いてててて、と尻を摩っていた。
「先生、一体何が……」
訊ねようとして、顔を上げて、そして気付いた。
――目の前に、誰かがいることに。
「ほぅ、貴様は」
目の前の、誰かが言葉を発する。
槍を構えた、素早そうな男が。
見知ったような、思い出すような声。
……この声、そして姿には、俺にも覚えがあった。
「ランサーとそのマスターか」
「そういう貴様は、キャスターのサーヴァントで相違ないかな?」
「さぁ、どうであろうな」
先生の返答に、ランサーと呼ばれた彼は笑みを深くした。
ランサーのマスターは、顔を顰めながらこちらを見ている。
何かを考え込むようにして、顔に皺を寄せて。
そしてマスターに、こんな事を訊ねたのだ。
「まさかこの様な所で出会うとはな。
貴様も、アインツベルンが狙いか?」
「いや、単なる巡回活動だ。
無論、巡回する理由はあるのだが……」
先生が、チラリとランサーに視線を向ける。
確かめるように、見透かすように。
ランサーもそれに応じる様に、一歩前に足を踏み出す。
「言葉通り、主と俺はこれよりセイバーに急襲を掛ける。
巡回とやら、恐らくは外道を探しての行為だろうが、主はその様な事を為さるお方ではない。
分かるな? 正義の味方殿」
「あぁ、それはな」
ランサーの言葉を肯定し、先生は頷く。
けれど次に、先生はランサーのマスターへと視線を投げかけた。
「だが、お前の主はどうかな?
無論、外道がどうこういう話ではない。
事の優先順位、その変動についてだ」
先生に言葉を掛けられたランサーのマスターは、どこか考え込むようにして、視線をこちらによこした。
観察するように、警戒するように。
だが、その表情は、段々と嫌な表情に変わっていく。
……人を、馬鹿にしたような笑みに。
「子守をするサーヴァントなどとはな。
貴様らはこの儀式の本質を理解していないと見える」
彼、ランサーのマスターが浮かべている表情。
それは紛れもなく、嘲笑と呼ばれるものであった。
先生ではなく、俺を見てあいつは笑っているのだ。
「な、何を……っ」
それが、何よりも悔しかった。
小馬鹿にされているようで、でも俺には何も出来なくて。
「……御託は、その程度か」
「ふんっ、その様な格好で、何を言うかと思えば」
静かに、先生と敵のマスターの間に、相手を威圧しあう視線が交わされる。
相手を圧倒しようと、互いに威嚇し合うような睨み合い。
それが始まろうとしていた、その時であった。
「あー、先生?
もう面倒くさいから、こいつらヤっちゃえばいいんじゃないすかね?」
「何?」
雨生龍之介、今まで黙っていたこいつが、急に嬉しそうな顔をしながら、先生にそんな事を言った。
多分、コイツは間近でまた昨日みたいな戦いが見たいのだ。
そのチャンスが、すぐソコにあるのだから、ただ単に手を伸ばしただけ。
……けど、コイツの言葉で、確かに場の空気が変わった。
チリチリとしていた空気が、更に張り詰めていったのだ。
敵のマスターも、ランサーのサーヴァントも、二人とも好戦的に顔になっていたから。
「……こやつらを野放しにしていたら、後ろから襲撃を受けかねん。
ランサー、まずはキャスターと排除する」
「御意、我が主」
鋭い槍、赤と黄色の両方が、こちらへと向けられた。
一切の慈悲がないと告げるように、殺気を感じさせられるそれが。
「やれやれ」
一方、先生が然も困ったといわんばかりに、雨生龍之介を見ていた。
が、それも一瞬のことで、直ぐに目の前の敵へと意識を集中させる。
「今宵も、長い夜になりそうだな」
ぼそりと呟かれた先生の言葉が、この現状の全てが詰まっているように、俺は感じられたのだ。
「ランサーのサーヴァントか」
声が、聞こえる。
冬木市高層ビルディング群の、その頭上。
そこで、事態を見守る男がいていた。
まるで、鷹のように鋭い目を持つ人物であった。
外套に身を包み、下界の全てを眺めている。
構造物と一体化したように、高高度から彼は俯瞰していた。
見つめるはとある一角、巨大な結界が張り巡らされている森の近辺。
男は哂っていた。
ここから、見えるものを。
これから、起こるであろうことを。
己のことさえ、自嘲しているかの様な嗤い方であった。
ただ、鷹の目の鋭さだけは変わらずに。
獲物を狙うかのような、気迫を感じる目をしたまま。
彼は、語り始める。
「奴は素早い、疾風の如くに獲物を狩る。
貴様一人ならば、また話は別なのであろうが……」
視線を、白い彼から、赤毛の少年と茶髪の青年へと変える。
浮かぶ表情は複雑怪奇。
憎悪している様にも、安堵しているようにも見える。
「守るべき対象がいるならば、さて、どう変わるかな?」
試すように、嗤う様に、彼は続ける。
言葉が向けられる主は、ただ一人――
「さてはて、どうするのかね?
――狂気なりし、雷電王」
一人ごちる声は、夜の帳に、静かに消えて――
ソナーニル、無事にプレイ終了しました。
何だろう、リリィとAを見てると自然とにやけてきました。
だってリリィ、驚いたことに恋愛してたんだもの!
スチパンで、あの世界の中での事なので、すごく驚き。
あと、Aの謎の童貞感に、何故だか笑ってしまう。
どうしてカウントダウンなんかしたし。
とまぁ、戯言はここまでとして、下に僅かばかりの雑文が書いてあります。
ソナーニルのテンプレっぽいのです。
何か、ソナーニル終わった後に、ノリノリで本編にぶち込もうとしたら、それっぽい機会がなくて、白目を向いた物体です。
まぁ、お暇があれば供養がわりに見てください(どうせ、500文字程度ですので)。
では皆さん、良き青空を。
――空が見える、夜。
月下に街は照らされる。
月は、何者にも侵されずにそこにあった。
遮る雲は無し。
夜に犯されても、それは余計に月を際立たせるだけ。
空に月はあった。
空に星はあった。
月は爛々と、星は僅かに瞬くだけ。
しかして、夜の美しきに変わりはない。
まるで、夜の世界を祝福している様で。
まるで、夜が微笑んでいるようで。
月は、夜の世界では一番の輝きであった。
月は、夜の世界では一番の宝石であった。
母の様な暖かさで。
父の様な寛大さで。
抱擁するかの様に、確かにそれは存在していた。
月は祝福する。
月は喝采する。
地上の全てを見渡しながら。
いま、ここに。
暗がりを照らす光になっていた。
ならば、ではあるが。
ここに一つ、問いを投げよう。
この月の光の下、ここでは何者も祝福されるのであろうか?
――例えば、これから人を傷つける人でも。
――例えば、これから人を殺す人でも。
けれど、何も聞こえない。
……月は、何も答えない。
返事はない、己に問いかけよと微笑むように。
返事はない、己で探せと導くように。
なれば、求道の道を歩もうか。
問への答えを探しに行く為に。
――さぁ、今宵の戦いを始めよう。