ヨーテ嬢は一人ぼっちで地獄を歩み続ける?私はそんな趣旨の小説を書いた覚えはありませんよ
ヨーテリアが校長室を出た後、教員二人はただお互いを酷く冷たい目で見つめていた。
ダンブルドアは冷静を保っていたが、その目には例えようもない怒りが炎となって灯っていた、原因は勿論ヨーテリアに下した処罰だ。
闇祓いはまだ良い、彼らは対闇の魔法使いのエキスパートであるが、あくまで信念を持った個人、しばらく関われば彼女への偏見も消える筈だ。
しかし吸魂鬼だ、ディメンターと呼ばれる彼らは理性など持たない、あるのは餌である幸福の感情と人の魂に対する欲望、ただそれだけだ。
そんな物をホグワーツに置くなどありえない、やりすぎなのだ、ヨーテリア一人に、厳しすぎる。
校長をまっすぐ見つめ、否定の意思を示す、すると校長は、額を押さえてため息をついた。
「アルバス、わしは君を信頼しておるしある種の尊敬すら抱いておる、本当じゃ。
しかしな、わしは君の有り様を心配しておる」
先程の怒りは鳴りを潜め、憂いの目を向ける校長。
その目を見て不快そうに鼻を鳴らしてから、ダンブルドアは目を一切背けず口を開いた。
「校長が心配なさる事などありませぬ、わしはあの子を救いたいだけ、それだけじゃ」
「罪滅ぼしの為、そうじゃろう」
ディペットの一言に、ダンブルドアは呻いた。
「ゲラートを止められず、家族を守れんかった。君はそれを引き摺っている、わしには分かる。じゃから、あの子を庇い、救おうとしておる」
気遣っているとしか思えない口調だった、そしてそれは図星であった、ダンブルドアはディペットに何も言い返せず、黙って目を閉じる。
「あの子は魔法省が管理するという決定を法廷に赴いて捩じ伏せ、あの子を養子にしホグワーツの入学まで認めさせた。
その後もこの五年間、君は健気とすら言える程あの子を庇い守って来た、じゃがなアルバス、正直今の君は異常じゃ。まともじゃない。
罪滅ぼしに身を捧げすぎて、完全に周りが何もかも、見えなくなっておる。
のうアルバス、そこまでする事は無いじゃろう、あの子はあやつの娘なんじゃ、あの男のな。その残忍な血統の本能には逆らえんのじゃ。
もう、あの子を諦めても良いのではないかね?罪滅ぼしの為にと世話を焼かれたところで、あの子からすれば、ありがた迷惑じゃろうに」
ダンブルドアは底無し沼にはまった気分だった。
罪滅ぼしの為にとヨーテリアを救おうとした、家族と友の分まで守り導き救おうとした、しかし自分は結局、彼女を日の元に晒しただけで救えもせず、ただ追い詰めただけでは無いか。
ありがた迷惑、正しくそれだその通りだ、だが彼には、罪滅ぼしとは別の理由がある。
「しかしっ、わしはあの子を、わしはッ」
「もういいじゃろう、アルバス、君は努力した、本当に頑張ったよ。
しかしあの子はどうにもならんよ、あやつの娘に生まれた時から、こうなる事は決まっていたんじゃ」
校長に静かに諭され足取り重く退室した、言って何になる、出来もしないくせに。
こんな状況になるのを防げなかった時点で自分が役立たずなのはハッキリしている、彼女自身にも迷惑だと吐き捨てられたでは無いか。
自分が彼女の為に出来る事など、何も無いのだ。
頭が真っ白だ、いや、真っ暗なんだろうかね。
俺は多分自室に居る、ベッドに座っている。
フィルチは退学する、俺は次なにかやらかせば闇祓いとディメンターに引き渡され人生初のアズカバン送りだ、死ぬだろうな。
でも大丈夫、リドルを引き剥がしたから俺には大事な物が無い、だから怒りはしない。
「・・・ぅぐ、うう・・・」
リドルとは一緒に居たかったなぁ、残念だなぁ、でも仕方無いよな、俺は事件の黒幕なんだから。
英雄様と一緒に居たらアイツは何て思われる?下手したらフィルチより酷い目に遭うかもな。
「あ″あ″っ、ちく、しょう、クソ、なんで、だよ」
あぁ、最悪だよ、何で俺がこんな目に遭うんだ。
でも仕方無いか、グリンデルバルドなんだから。闇の魔法使いの娘なんだから、当たり前だよな、俺も闇の魔法使いなんだ、この扱いは当たり前だよ。
だからさ、早く立ち直れよ、ヨーテリアさんよ。いつも通りスパッと切り替えろ、出来るだろ?こんなの社畜時代に比べりゃ屁でも無いってさ。
「アーガスッ・・・リドルゥ・・・」
未練がましいんだよ、泣くんじゃねぇよ、大体リドルは自分で引き剥がしたんだろうが、嫌なら巻き込みゃ良かっただろ、甘ったれ。
ああ糞、最高に最悪な気分だ、なんなんだよ、しかも励ましてくれる家族も今は居ないんだ。
「もう嫌だ・・・誰か・・・ァッ」
「ほほほォーオオ?ほほォーゥッ、イィーヒヒッ!」
・・・は?
突然聞こえた癪に障る笑い声にトロ臭く顔を上げると、そこには男が居た。
底意地の悪そうな目にカラフルな服装、そんな奇妙で小さな男が、逆さまに宙に浮いてニヤニヤしながら俺を眺めていた。
「聞ィーいちゃったァ、聞いちゃった!
強がりへそ曲がり泣きみそヨーテリアちゃん!喧嘩して落ち込んでブルーで真っ白!みんなに見られちゃおっしまっいだぁぁ!
ダンブルドアを呼ぼぉぉぉ、呼ばなくちゃ!ウィィィーーーッ!」
男はゲタゲタ笑いながら壁に突撃し、溶けるように消えた。何だったんだ、あれ・・・
ダンブルドアは私室の椅子に座り込み、額を押さえただ静かに思案していた。何を、と言うほどの物ではない、正直な所気を紛らしているだけなのだ。
校長に諭された内容、ヨーテリアからの拒絶、それが頭から離れない、忘れられない。自分の無力さが憎い、憎くて仕方がない、結局ヨーテリアに何もしてやれなかった。
「何が、偉大な魔法使いじゃ、何が・・・
そこに居るのは誰かね?出てきなさい」
ふと、壁から何かの気配を感じ、穏やかな口調と共に杖を引き抜くダンブルドア、すると壁の中からゲタゲタ煩い笑い声と共に、カラフルな服装の摩訶不思議な小男がするりと、ゴーストのように飛び出した。
「新入りのゴースト、では無いのう」
「お初にお目にかかりますダンブルドア先生。
オィラはゴーストなんてつまらん物じゃあ無い、愉快で楽しい毎日がお祭り、ピーブズ様!
昨日ホグワーツに住んでやりましたのよ!追い出すなんて出来ないから、ヨロシクー!」
ピーブズと名乗ったこの小男は、奇声を発しながらダンブルドアの私室の天上付近を躍り狂い飛び回る。
「金ぴか頭の女の子、のっぽなヨーテリアちゃん!
みんなは強がり泣きみそお嬢ちゃんが大嫌い、おっきな騒ぎもみーんなヨーテリアのせいだ!お友達とも喧嘩してサヨナラバイバイ!
ああ可哀想可哀想!良い事無しだねぇーッ!このままじゃ真っ白けになっちゃう~!」
愉快そうに飛び回るピーブズはゲラゲラと笑いながらヨーテリアの不幸を歌い、沈みきったダンブルドアの精神を酷く逆撫でした。
「何が言いたいのかね、愉快なピーブズ君」
低く、静かな怒りを籠めてダンブルドアは呟いた。
するとピーブズは、逆さまの状態で彼に向き直り、酷く真面目くさった表情で大きな口を開いた。
「励ましてやった方がいいんじゃねぇの?」
その言葉にダンブルドアはよろめいた、ピーブズは逆さまのまま胡座をかいてくるくる回りながら言葉を続ける。
「ピーブズ様はお祭りが大好きなのよ。
お通夜なんて大嫌い、祭りに変えたくなっちゃう。
だけど今にも死にそうなチビッ子見ると、胸糞悪くてお祭りできないのよね~」
「しかし、わしには彼女に声をかける資格は無い。
わしは無力じゃ、彼女の為に何も出来ん、じゃから彼女に合わせる顔も持ち得ない」
「へぇ、励ますのに資格って必要なんだ?」
思わずダンブルドアは目を見張った、この摩訶不思議な小男は、今一体何と言った?
ダンブルドアの反応を見て笑みを深めたピーブズは身体を逆さまから正位置に変え、腕を組んだ。
「あんたお嬢ちゃんが大事なんだろぉ?だったら今すぐ会って慰めてやんなよ、そんくらい耄碌ジジイでも出来るっしょー?」
癪に障る笑い声を上げながら、ピーブズはふわふわとダンブルドアへと顔を寄せて、彼の鼻面を実に優しく、不愉快に小突いた。
「あんたがしたい事をしな、それでいい」
ピーブズにそう諭されたダンブルドアは脇目も振らずに姿あらわしを行使した、目的地は勿論ヨーテリアの部屋だ、そこしか無い。
風景がぐにゃりと歪む、狭苦しいパイプへと捩じ込まれるような、いつもの不快な感覚は無視し、ただ彼女の部屋をイメージし続けた。
不快感から解放されると、ダンブルドアは乱雑に古本の積み上げられた薄暗い部屋に、見慣れたヨーテリアの部屋に立っていた。
そしてベッドには、ヨーテリアが歯を食い縛ってボロボロと零れる涙を止めようとしていた。
「何、しに来た、ダンブルドア」
彼女は声を震わせながらダンブルドアを睨み付ける、涙を堪えて歪ませたその顔は、もはや凶相であった。
「友達と、縁を切ったと聞いてのう。
泣いておるのかね、ヨーテリアや」
「黙れ、世話を焼くんじゃ、ない、放っておけ。
私は、大丈夫だ、大丈夫なんだよ」
錫杖に手をかけ、彼女は凄まじい殺気を放つ。ピリピリと肌を焼くそれを感じながらも、彼にはヨーテリアが怯える子犬にすら見えた。
独りぼっちで震えて、ただ近寄る者に吠える子犬だ。
ーーこんな状態の子を、わしは放置しようとしたのか。
「さっさと、出ていけ、目障りなん、だよ」
「否じゃ、わしは出ていかんよヨーテリアや。お主が一般で言う大丈夫、に入るとは思えん」
「〈エンゴージオ〉」
彼女が左腕に錫杖を当て呪文を唱え、そのまま驚くべき速さでダンブルドアに近付き、彼の胸ぐらを掴み近くのベッドに放り投げた。
「ぐ・・・ッ」
「出ていけと言っただろう、ん?」
仰向けに倒れて呻くダンブルドアに馬乗りになり、首もとに錫杖を押し付け低い声で呟いた。
無表情に彼を見つめ、その硝子玉のような目は堪えるのを辞めた涙が止めどなく溢れていた。
「このままエンゴージオを発動すればお前の喉は破裂するか潰れる事になる、私は確実にお前を殺せる、分かるか?
私はグリンデルバルドなんだよっ!ゲラート・グリンデルバルドと、同じなンだよ!
だから放っておけ、私に世話を焼くなァッ!」
途中からの言葉は最早悲鳴にしか聞こえなかった、なんの感情故かも分からずに、息を荒げてただダンブルドアへと絶叫するヨーテリア、しかしダンブルドアは優しく彼女に語りかける。
「君は、あやつとは違う」
「黙れ」
「君はあやつのように残忍ではない」
「黙れよ・・・ッ」
「君は人を殺す事など出来はしない」
「黙れ、黙れェッ!」
「あやつならば友を大事になどしない」
「あ″あ″あ″ッッッ!黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!
〈エンゴージ・・・ッ!〉」
「あやつならば、友を失って悲しみなどしないよ」
ダンブルドアの一言に、鬼の形相をしていた彼女は呪文の詠唱をやめ、歯を食い縛って彼を見た。
涙を止めることもせず鼻水すら垂らして、歯の間から情けないうめき声を漏らしながら錫杖を力無く取り落とし、左手で顔を覆った。
「悲しい・・・?当たり前だろッ!何で、アーガスがあんな目に遭うんだよ!?何で私が犯人なんだよ、おかしいだろッ!
アイツだって本当は引き剥がしたく無かった、でも仕方無いだろ!?私は黒幕なんだから!
グリンデルバルドの娘、闇の魔法使いッ!そんな名前抱えてちゃ、仕方無いんだよッ!」
衝動的に振り下ろした左腕が、ベッド脇にあった小さな戸棚を粉砕しただの資材へと変える、その間も彼女は猫の威嚇の様に呼吸を荒げていた。
「だから・・・ッ、納得するしか無いんだ。
泣いて、悲しんだって、無意味なんだ・・・ッ」
食い縛りすぎた口から血すら流して、苦悶の表情を浮かべ目元を押さえるヨーテリア、ダンブルドアはそんな彼女を上半身だけ起こして、頭を己の胸に当てさせ、力強く抱き締めた。
「・・・ダンブルドア?」
「アルバスと、呼びなさい。ヨーテリアや。
君はわしの養子じゃ、わしの娘じゃ、じゃから、わしの事は、アルバスと呼びなさい」
ダンブルドアは、俺に、何て言ったんだ?目の前にあるこの柔らかい壁は、何だ?
「わしは、君を罪滅ぼしの為に救おうとしていた。
しかし初めて君の目を見た時、考えが変わった」
ダンブルドアが俺の頭を撫でながら、まるで子供をあやすみたいに語りかけてくる。
「君のその、全てに絶望した、悲しい目じゃ。
その目を見た日、わしは誓ったのじゃ、必ず君を幸せにしてみせる、君をその絶望から解き放ってみせる、とのう。
ホグワーツに招いたのも、君に友を作って欲しい、その一心での事なのじゃ。しかしわしは結局、君が孤独になるのを止められなかった」
ダンブルドアを見上げると、このジジイは俺を優しい目で、悲しそうに見つめていた。
やめろ、そんな目で、俺を見るんじゃない。
「本当にわしは、無力じゃ、愚かなジジイじゃ
じゃからせめて君の思いは、全て受け止めよう」
やめてくれ、今そんな優しくするな。
こんな辛い時に、そんな事言われちまったら
「ひぐっ・・・ううぅっ・・・う″う″う″っ」
涙が、止まんなくなっちまうだろうが。
「ダンブルドアッ・・・わ″た″し″は″っ・・・」
「ヨーテリア、わしはアルバスじゃ。アルバスと、呼びなさい」
・・・ああ、この・・・馬鹿野郎。
「・・・ア・・・ル・・・バス・・・ッ」
「う″あ″あ″ぁ″ぁ″ぁ″ーーッ、あ″あ″あ″ーーァッ!」
ヨーテリアは泣いた、誰も見たことも無いくらいメチャクチャに泣いた、泣きわめいた。
もう止まらなかった、老人の胸にすがりつき恥も外聞も無く、ひたすらに泣き叫んだ。
「なんでだよォォ!?なんで、なんで俺ばっかりッ!
こんな目に遭わなきゃいけないんだよォォッ!?」
ずっと溜め込んでいた心の叫びだった、短くて長い残酷な一生でずっと叫びたかった、そんな言葉を今、彼女は全力で吐き出していた。
「なんでッ、アーガスを守れなかったんだッ!なんでッ、あいつを引き剥がしたりしたんだッ!俺は悪くないのに、悪くないの″に″ィィッ!
あ″あ″あ″ぁ″ーーーッ!」
結局彼女は、泣き疲れて眠ってしまうまで、アルバス・ダンブルドアに思いをぶつけ続けた。
はい、ピーブズ様登場でございます。
実は私、原作皆勤賞の彼が、映画ではものの見事に不参加のままなのが悔しくて仕方無かったりします。
我が名はグリンデルバルド の初投稿から彼はここで参加させると、誓っておりました。
原作ではただの嫌なポルダーガイストですが、彼もまた、ハリーポッターの登場人物、多少の美化は、勘弁してくださいませ。