Dies irae ~とある超越の刹那物語~   作:ディーン・グローリー

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初の三作同時投稿!

本当にやりたい放題するのは、上条の記憶がぶっ飛んだあと、つまりアウレオルス辺りから、色々とぶっこむ予定です。

まだ今は繋ぎの段階なので、原作沿い路線中です。

では、駄文ですが、どうかお付き合いできる方はどうぞm(_ _)m


第二章【赤い魔術師】

《1》

 時は遡り、夏休み前日の深夜。

 学園都市も一日中、明るい都市ではなく深夜になると闇が支配する。

 元より学園都市は学生のための街なので、夜ふかしなどが多発しないための防止だったりもする。深夜でも明るいのは第5学区や第6学区の一部くらいだ。

 そして、そんな闇が支配する学園都市で、確実に太陽が沈んだら誰も近づかない治安が最も悪い区域……第10学区に二つの人影が、なにかから逃げるようにに走っていた。

 この第10学区は学園都市の裏に繋がら研究所や、不良の溜まり場、スキルアウトの根城、少年院など危険な施設、集団が存在しているのだ。よって、こんな場所を歩く人間などバカな不良か、裏に属する人間、もしくは何かを企んでいる人間くらいだろう。

「くそっ、まさかこんなに早くあんな危険な連中に見つかるなんて、ちっ、完全に失策だ」

「はい。ですが、我々は一刻も早く彼女を捕え、記憶を削除しなければいけません。このようなところで時間を無駄には――」

 瞬間、闇夜を引き裂くように銀色に煌く無数の剣林が、雨のように降ってきた。

「「――ッ!?」」

 二人はそれを横に大きく跳んで、間一髪で避けきる。数瞬でも遅れを取っていれば、文字通り串刺しにされていたであろう。

「もう追いついてきたようですね。成程、これは一筋縄ではいかない……な!」

 再度、自分めがけて弾丸と言う名の数百の剣が己を串刺しにせんと殺到した。一本一本が鉄をも両断するほどの持ち味を兼ね備え、白刃の乱舞が襲う。

 しかし人影の一人、彼女はそれを全く恐れずに、腰に佩いている刃渡り2m程もある大太刀を抜刀する。月が照らす彼女は、まだ若い女性だった。Tシャツとジーンズを着用している、どこにでもいる女性。しかし、このような大きな太刀を、神速の域で抜刀するその身体能力は、ずば抜けて高い。

 よって、抜刀した際の剣戟により剣の雨は全て弾き飛ばされた。

 しかし、それだけでは終わらない。

 彼女の横から、凄まじい威圧を帯びた大きな拳が弾丸のように襲った。

「チッ!」

 魔性の域の速さに、彼女は対応しきれず、完全に不意を突かれる形となる。だが、どうにかそれを太刀で防ぎきり、直撃は避けたものの圧倒的暴力を前に、彼女は後方へ吹き飛ばされた。

 そして相手方も、その吹き飛ばされている間の隙を狙わないわけがない。

 再度、剣の雨が彼女めがけて降り注いだ。

 先の拳の攻撃により、彼女は太刀で応戦することも不可能。今ので腕の骨が逝かれたのは当たり前で、本来なら肉塊のように潰れていてもおかしくないのだ。

「炎よ――」

 瞬間、もう一つの影が彼女を庇うように前に出た。

 その影の手に、オレンジのラインが一閃すると、爆発じみた音をたて灼熱の炎剣が顕現する。

「――巨人に苦痛の贈り物を!」

 さながら閃光のような横一閃。

 瞬間、剣の雨は燃えるのではなく、飴細工のようにドロドロに溶け落ちた。その炎剣がどれだけの熱を宿しているのかは見当もつかないが、それが溶岩レベルの馬鹿げた高温なのは必然だろう。

 もう一つの人影、彼は身長2mはある赤色の長髪の男。耳には大量のピアス、指には全て指輪が嵌っており、さながらメリケンサックのよう。右目の下には意味不明なバーコードの形の刺青が彫られ、黒い漆黒の神父服を着ている。

 そんな彼が、剣林を防ぎ切ったのも束の間――

「なッ!?」

 瞬間、自分の手に持つ炎剣が消滅した。

 何の予兆もなく、何をされたのかすら自覚できずに。

「グハッ!」

 そして続けざまに不可視の攻撃。

 見えない、感じない。単に自分の腹にとんでもない質量の篭った一撃を叩き込まれた。故に、いきなりとんでもない腹痛が発生したと錯覚すら覚えるだろう。

 彼は強い。凄まじい才能と努力の末に、並外れた力を手にした。先の炎術がそれを如実に物語っているだろう。しかし残念ながら、彼は打撃による物理的な攻撃に貧弱だった。体に打ち付けられた痛みが、全身を駆け巡り、無様にも片膝をつく。

「ステイル! ッ!?」

 彼女が相方の安否を一瞬気した間に、再び猛烈な拳が正拳突きのように放たれていた。

 それに対応しようと、自分の太刀を放つも異様なフェイントを発揮され、正拳突きの作法とは混沌としていた。故に、彼女は即座に太刀での対応を捨て、後方に跳び避ける。

 しかしそれを狙ったかのように、不可視の攻撃が彼女を襲った。

 繰り出されたのは背中。激烈な痛みが彼女を襲い、どうにか態勢は崩さずにその不可視の攻撃に対応する。背中に何か物質的な物が当たった直後に、太刀を振り向きざまに横一閃させた。

 しかし刀は空を斬る一点のみ。

 魔力も、気配も、何も感じさせずに自分への打撃。いや、恐らく本来なら自分の身体が両断されていてもおかしくなかったと、彼女は思い至った。

「何だ、今の攻撃は……!?」

 魔術でもない。

 さすれば学園都市の超能力か。

 恐らく敵は三人。そう思った瞬間だった。

 彼女と彼の二人の目の前に、不気味な面をかぶった者が三人現れたのだ。

 一つは怪士。鍛え終えた存在であり、凄まじい威圧感を宿す存在。

 一つは夜叉。細い線の持ち主で、さながら陽炎のような、存在が朧げ。

 一つは泥眼。死神を思わせる、形を持たぬ影法師。

「ニ対三か。これは些か不利……か」

 彼女はつぶやく。

 恐らく一人一人の技量が並外れて高い。こんなもの一対一でもご遠慮願いたい相手だ。

 彼女と彼は、数々の戦場を網羅している戦士だ。二人が属する〝世界〟でも、上位に君臨していてもおかしくない。しかし、上には当然、上が居る。よって、この学園都市に不幸にも相まみえてしまっただけの話。

 そして、それだけでは終わらない。

 更なる闇を抱えた男が、二人を意表を突くように現れた。

「頭が派手に足りんのと違うか? 命要らんのならそう言えや」

 途端、声がした。

 それは三人の背後の建物の上から、一人の男がこちらを見下ろしていたのだ。

「が、しぶとい。凌ぎおったか。やるのう」

 蜥蜴を思わせる痩身の男だった。手にした煙管を弄び、闇に紛れるような着物を羽織っている。

 こちらを見下す目は、全てを読んでいたかのよう。そしてどこか、申し訳程度の同情の色が宿っていた。

「……何者だ、貴様は?」

 彼女は、恐らくリーダー格の男だろうと判断したため、問いかける。

「そない簡単に明かすんは筋とちゃうけえ、まぁ今回は別嬪さんに免じて教えちゃるわ」

 どうでもよさげに、男は適当に言った。

 まるで諧謔、欺瞞、嘲弄といったものが人間に具現化したかのような男。下手に探りを入れるより、実直的に話を進めたほうがいいのは、見た瞬間だけで彼女は理解できた。

「『神祇省』の壇狩摩じゃ。所謂、学園都市の暗部よ。おまえらに、一つ聞きたいことがあるけぇ、これはまぁ、お嬢からの命令なんじゃが、茶番につきおうてもらうで」

 そして物語が交差する。

 

 これが後に、藤井蓮と上条当麻の日常の崩壊の引き金とも知らずに……とある男の掌の上で転がされるのだった。

 

 

《2》

 藤井蓮は補修授業の帰り道――

 適当に夕飯をコンビニで弁当などを購入し、そのまま寮まで帰ろうと思ったが目を疑いたくなる光景を見た。

 時間は夕刻。

 夏休みで、尚且つ学生の街であるためまだまだ活気づいている街並みである。友達同士や恋人同士で和気藹々としている姿が多く見られるのだ。

 その中で、有り得ない姿を目にした。

 いや、その有り得ない本人に対して、とても失礼だと思うが目を完全に疑いたくなる。そもそも、その有り得ない本人に、異性……つまり女っ気などは一切なかった。女難はあったが。

 だからこそ有り得ない。

 アイツの隣に、さながら恋人同士のように楽しく歩く二つの人影。

「……気になるな。少し尾行してみるか。いや、流石にそれは人としてよくないな」

 いくら有り得ない本人が、自分の友人でもそれは不躾に値する行為。

 どうせ家に帰ってもすることないし、家電はほぼ全滅。テレビすら見れない状況だし、エアコンも使えない。ある意味、今の帰るべき家は地獄である。しかし、その対応をしなければ地獄が続くのみ。故に、今日中に対処したいのだ。

 予定としても、この後も暇。学生であるため、もちろんアルバイトをして生計を建てていたりもするが、今日はシフトに入っていない。

「よし、帰るか」

 こうして、蓮は寮へと帰った。

 

   (∴)

 

 上条当麻は補修が終わり次第、一直線に寮に戻った。

 キャッシュカードを破壊した対応、家電の修理依頼、冷蔵庫内の清掃、三つに分けられる三大面倒対応をしなければいけないのだが、それ以上に、それ以前に真っ先にしないといけないことがあった。

 それはもちろん、朝ベランダに干されていた謎多き少女――マリィと呼ばれる摩訶不思議な子の対応だ。

 見た目は完全外国人の超絶美少女。着用しているものは、白い布切れを強引にドレスにしたような、どこか御伽噺から出てきそうな風貌だったのだ。優しい性格をしており、まるで自分の穢れた魂を浄化してくれるような、女神的なオーラを感じた。のと同時に、天然なのか放っておけない危ない性格もしている。

 今は上条の部屋にいる。

 何やら記憶が飛んだらしく、自分の名前以外思い出せないらしい。故になぜ自分のベランダに干されていたのかも不明。

 一般的な対応としては、病院か警察機関と言ったところに任せるのが最善なのだろうが、上記でも記した通り放っておけないのだ。故に一旦、上条は家で大人しくしているようにだけ言って、補修に参加した。

 とりあえず、寮に帰るついでに、近場のユニシロと言う全国チェーンの衣料品店で、男性物の服を購入。流石にあの白いボロボロの布では色々と問題だ。だからといって女性ものに手を出す勇気のない上条は、だいたいのサイズと財布に優しいものを購入したのだ。

 そして上条は、片手に衣服が入った紙袋を手に、寮へと戻ったのだった。

 

「遅かったねトウマ。今までなにしてたの?」

「……学校で補修っていう地獄を見てた」

 上条は玄関を開けると、まず目に入ったのが自分のベッドの上にチョコンと座るマリィだった。

 ここでふと思うのが、自分の帰りを待ってくれる人が居るという有り難み。今まで帰っても誰もいないのが当たり前だったが、こうして見ると何だか嬉しい。結婚をする独り身のことを理解できた気がした。

「ガッコウ? それってなに?」

「将来生きていくために必要な教育機関て言えばいいのかな。まぁ一言で言うと、頭をよくするための場所だ」

 学校という場所を知らないのは、単純に記憶喪失の関する事象によるものなのか、それとも元から知らなかったのか。何やら後者の方が可能性としては高そうだ。

「それより、早速で悪いけど、少し外に出ないか。色んな光景を見たら、もしかしたら記憶が戻るかも知れないし」

「え、いいの?」

「当たり前だろ。あ、けど服は変更で。流石にそのままの格好で行くと、即座に捕まりそうだから。はい、これに着替えて」

 と、上条は紙袋から、男物のジーンズと、白のTシャツに半袖の黒のベストを取り出し、マリィに渡す。本当に男の格好の基準みたいだ。

「ちょっとどころか、かなり男物だけど、そのへんは勘弁な。流石に一人で女物の服を物色するのは、気が引けるし、周りから変な目で目で見られそうだからさ」

「うんうん。ぜんぜん大丈夫だよ。ありがとう、トウマ」

 上条はとりあえず物陰に行き、マリィが着替えるまで待った。

 ――そして数十秒後。

「トウマ、これどうやって着るの?」

「え、どうしたマリ――ッ! お、おい、お前、はだ……!?」

 着方が分からなかったのかマリィは、スッポンポンでベストとTシャツを持っていた。

 ――そして数分後。

「うわわ、トウマ助けて」

「つ、次はどうしたんだ、マリ――ブハッ!」

 Tシャツが着込めないのか、まるで子供のように頭だけ被って、袖口に腕を通せずバタバタしていた。巨乳が震えていた。

 ――そして数秒後。

「うんしょ、ごめんねトウマ。手伝わせちゃって」

「全然、大丈夫だから。っと、あまり動かないでくれますか。手元が狂う」

 目隠しをした上条が、必死に頭でこんな感じだろと想像しながら、マリィにTシャツを着せる。まるで子に服を着せる親の気持ちになった。

「とりあえず、もう少し両手を上げてくれるか。そうそう、袖口に通すように……」

「えっと、こうだよね。ちょっと、キツいけど……あぅ!」

「うぉお! どうしたマリィ?」

「え、なんでもないよ、ちょっと、くすぐったかっただけだから」

「そ、そうですか。……よし、あとは服を下げて」

 ムニッ……とした感触が、上条の両手に伝わった。

「きゃあっ」

「うああああ、ごめん! わざとじゃないから! 本当にごめん!」

 実際は見えないが、恐らく自分はマリィの豊満なお胸様を、傲慢にも触ってしまったらしい。

 上条は猛省。

 とりあえず、どこか頭の中で前途多難になる予感がしたのだった。

 

   *

 

「おー、トウマここからいい匂いがします」

「そこは『金ダコ』ってお店だね。たこ焼き……もしかして知らない?」

「ここは何ですか? ここからもいい匂いがします」

「『マグドナルド』。まさか今まで見たことない?」

「こっからは、とても甘い匂いがします」

「『デザパラ』だけど、聞いたことない?」

 食いしん坊の一面を持つマリィは、学園都市を上条と共に歩き、色んな飲食店に目をやっていた。

 現在、二人は記憶復活兼、散歩がてら都市の中でも一番色々なお店が点在している区域を闊歩している。

 まだまだ夕刻どきということもあり、たくさんの学生たちが遊んだり、買い物をしていたりしているのが見受けられる。

「ねぇねぇトウマ、あれはなんですか?」

「『センタッキー』。あの白ひげのお爺さん像も見たことないのか?」

「初めて見ました」

 ふむ、とここで上条は考える。

 学園都市にいながら、いや、この日本という国にいながらここまで何も知らないのは、やはり記憶喪失のせいなのだろうか。後で、そのへんの知識を先生に聞こうと、上条は思った。

「そういえば、あれから何も食べてないし、どこかで適当に晩飯でも食うか。気になるところ……て言うより、美味しそうな店があったら言ってくれ」

 気になることろと言ったら、恐らくマリィの目に映る飲食店全てに該当してしまうだろう。先から目に入る店をほとんど聞かれている。

「え、いいんですか?」

「そりゃあな。俺もお腹すいてるし、二人分くらいなら余裕……だよ」

 そんなことを言ってみたが、即座に口座に入っている残高を頭の中で照会する。

「それじゃあそれじゃあ」

 と、目を輝かせながら辺りを見渡すマリィ。

 その度にゆさゆさと揺れる、大きな二つの山。

「ん……」

 そして今になって気づいた。

 マリィは現在、ノーブラである。何たって、現れた時が白い布切れ一枚だったため、もちろんブラなど付けていないのだ。

 よって支える下着がないので、服の下の柔らかい双丘は自分の大きさを誇示するように、凄く揺れている。周囲の男の視線は釘付けだった。

「それよりマリィ。まずは、適当な服屋さんに行こうか。ちょっと、危ないことに気づいた」

「???」

 そんな訳で二人は――近くのショッピングモールのランジェリーショップへとやって来た。

「…………」

 上条は実際、このような店に来るのは初めてである。

 いや、そもそも男性でこのような店に入ることはほぼないだろう。彼女に強引に連れて行かれるか、女装趣味でもない限り、このような店に入らないと思う。

 右を見ても下着、左を見ても下着。心のドギマギが止まらない上条は、ここに来たことを後悔したのであった。

「いらっしゃいませ。お客様、本日はどのようなものをお選びでしょうか?」

 きちんと礼をし、接客業の基本である笑顔、アイコンタクト、一声をこなしている店員が、二人のもとへ近づいてきた。

「えっと、彼女の、ブ、ブラジャー選びを手伝ってあげてくれませんか?」

「かしこまりました。では一度、試着コーナーでサイズを測りますので、こちらまでお越しくださいませ」

「それじゃあ、後は店員さんに任せて、行ってこいよマリィ」

「う、うん」

 そして、マリィはそのまま店員さんに連れられて、奥の試着コーナーへと向かった。

「……ゴクリ」

 と、軽く近くにあった下着の値札を見てみたら愕然とした。

 税抜き4000円……高い。正直、今日『ユニシロ』で購入した男性物の服一式とほぼ同じ金額である。

 他のを見てみたらパンツとブラのセットで10000超えするものまであった。こんなもの金持ちくらいしか買えないのではと、上条は思った。しかし上条は女性の服の購入に、どれだけお金を支払うのかは分からないため、何とも言えない。服は『ユニシロ』任せの上条であった。

「えっと、たぶん5000円くらいになると計算して……」

 そしてすぐさま、上条は財布の中の確認と、再度頭の中で銀行に預けている残高の照会を行う。まだ生活費の支給までには日数があるので、困惑ものだ。

「ま、まぁ心配ないか。……けど、けっこう手痛いよな」

 最悪、隣の藤井蓮に色々と食の面でお世話になろうかと考えていた時だった。

「ちょっと黒子!? なに勝手に入ってきてるのよ!?」

「よろしいではありませんかお姉様! このわたくし、そのへんの下手な店員より下着を選ぶのはプロでございますよ!」

 何やら聞き覚えのある声が、奥の下着コーナーから聞こえてきた。

「いつもキャラものの下着ばかりお召になっているお姉様に、このような大人な下着を着て――」

「やっぱりいいって! それより早く出て行きなさいよ!」

 このような品性溢れる店で、いったいこの聞いたことのある声は誰かなと、上条は興味本位で見てみると……

「――ッ!?」

 目を疑った。

 そこには試着室から半分以上、体を出して侵入者を強引に押し出している――下着姿の御坂美琴の姿があった。

「とっとと出ていかないと本気で……」

 そして御坂は一つの視線に気づいたのか、こちらに視線を向けて固まった。

 ……上条は頭でどう言い訳を作るのか、いやここは逃げたほうが早いのかと、頭で必死に考える。

「と、とりあえず、俺はこれで、じゃ」

 冷静を装って、ここは笑顔を向けて他意はないことを示し、自然な流れで退散することにした。背中を向け、いざ出入り口に出発する。

「なんで、あんたが……!」

 瞬間、上条の背後で電流が迸るような嫌な音がした。

 恐る恐る背後を振り向くと……

「ここにいるのよぉおおーーーー!!」

 御坂の悲鳴と怒声が練り混じった叫声と共に、超電磁砲が放たれた。

「うぉあッ! 不幸だぁぁあああーーーー!!」

 こうして上条は予想通り、前途多難は当て嵌ったのだった。

 

 

《3》

 赤い夕焼け空の中、藤井蓮はセミの鳴き声を聞きながら学生寮の、自分の部屋がある七階まで帰ってきた。

 そこで最初に目に入ったのは、自分の部屋の前で清掃ロボット三台が、なにかの汚れに苦戦している姿であった。

「……どんな汚れだよ」

 床に張り付いたガムを通るだけで剥がせるドラム型清掃ロボが三台も寄って汚れらしきものを清掃しているのだ。並みのものではないだろう。

 もしかして隣人の土御門元春が、酔っ払って人の玄関を電柱がわりに盛大に吐いたのではないかと戦慄する。

「その時は、一発くらいぶん殴ってやる」

 そう心に誓い、恐る恐る蓮は近づく。

 

 するとそこには――不思議シスターのインデックスが倒れていた。

 

「…………何だよ、空腹で倒れたのかアイツ」

 どこか安心して、蓮は床に倒れているインデックスに近づきつつ、清掃ロボをどける。

「どうしたインデックス、腹でも減ってまた行き倒れたか」

 自分に迷惑は掛けたくないとか言って出て行ったものの、また迷惑をかけてるじゃねぇかと思う蓮は、軽くインデックスを揺さぶってみる。

 そして、異様なことに気づいた。

「……何だ、これ?」

 ヌメっとした感触だったので、手を見てみると、そこにはベッタリとペンキで塗ったような赤色が染まっていた。

 そして床に広まる真紅の赤。

 どうやら清掃ロボは、その広がる汚れを清掃しようと集まっていたのだ。

「おい、しっかりしろインデックス! ふざけんな、どこのどいつにやられたんだ!?」

 

「うん? 僕達『魔術師』だけど?」

 

 瞬間、背後から男の声がした。

 インデックスの姿に驚愕としていた蓮は、背後まで人が近づいてくる気配にすら気が回らず、驚きと共に後ろを振り向く。

 そこには二メートルほどの身長持った男がいた。

 顔は蓮よりも幼いが、その口にはタバコを咥えており、漆黒の修道服に身を包んでいる。赤い長い髪をしており、左目の下に特徴的なバーコードが彫られている。

「うーん、これはまた随分と派手にやっちゃって。神裂が斬ったって話だったけど、やりすぎだねぇ全く」

 蓮の思考回路が追いついていないのか、相手の言っていることが全く聞き取れない。

 しかし、これだけは理解できる。

 こいつがインデックスを、こんな風に怪我をさせた。それさえ分かればいい。それさえ分かれば、こいつを容赦なく引き裂ける。

 後ろでフードがどうとか言っているが知るか。

 もう、こいつの話にこれ以上、聞き入れることなど皆無だ。

「まぁ血まみれにしたのは不本意なんだけどね。そこは神裂も理解している。さぁ、とっととどいてくれないか――回収できないだろ?」

「……回収だと?」

「そう。厳密に言うと、ソレの持っている十万三千冊の魔道書。ちなみに現物はないんだけど、実際にソレの頭の中にはあるのさ。つまり記憶のなかだよ。完全記憶能力という、まぁその辺は君たち科学の人間のほうが詳しいか」

 男は笑っているのに、詰まらなそうに言葉を紡ぐ。

「僕たちは、その記憶を持つソレを保護しにやって来たんだよ。ほら、もし悪い奴らに捕まって、奴隷のように扱われるなんて、心が痛むだろ? ほら、早くどきたまえよ。時間の無駄だ」

 塵芥を見るような目つきに変わり、どかなければ殺すとでも言いたげだ。

 しかしどかない。

 ああ、もうこいつは色々と終わっている。

「お前なんかが正義ヅラして語るなよ。小悪党の残骸が」

 魔術師が何か知らない。そもそも客観的から見たら超能力もそのカテゴリーだ。似たり寄ったりなんだよ。もちろん、それは自分の力も。

「雑魚野郎、やってることと考えてることはそこらの不良じゃねぇか。もう少し頭使えよカス。お前らは人間狩りをするただの鬼畜だ」

 たったそれだけの、詰まらない理由で、こんな小さな女の子を寄ってたかって追い回して傷つけていたのか。

 正直言って、もう人間やめてると思っていいだろう。

 故に、蓮はもう目の前の男を同じ人間として視野に入れていない。

「何様なんだよ。もういいから死んじまえ、カス」

 ブチッ、とここに来て、ようやく怒りを露にした男は口を開く。

「そうかい。どうやら君は早死にがご希望らしいな」

 咥えていたタバコを手に取り、

「ステイル=マグヌス。いや、ここはFortis931と名乗っておこうか。魔法名だよ。聞き慣れないから軽く教えるけど、魔術を使うときに魔術師は真名を名乗ってはいけないそうなんだよ。古い習慣なんだけど。だから魔法名を名乗る。Fortis……日本語で強者と言ったところか。まぁ、そんなことはどうでもいいか。つまりね、魔法名とはと言うとね僕達の間では――」

 ベランダの方にタバコを放り投げる。オレンジ色の軌跡を描きながら、金属の手すりを超えた。

「殺し名、かな?」

 魔術師――ステイルはここに来て、ついにその魔術を顕現させた。

「炎よ――」

 瞬間、放り投げたタバコが轟! と爆発した。

 莫大な炎が生まれ、それがステイルの手元へ渦を巻きながら吸い寄せられる。それがまるで剣のように、形を形成させようとしていた。

 これが魔術。これが未知の力。蓮が今までに見たことのない御技である。

「――巨人に苦痛の贈り物を」

 ステイルは笑いながら、その灼熱の炎剣を無造作に横一閃に叩きつけた。

 それは触れた瞬間に物質は形を失い、火山の奔流のように辺り一面を爆破したのだ。熱波と先行と轟音、そして黒煙が吹き荒れる。

「やりすぎたか?」

 ここで、しまったと思うステイル。

 頭に多少の血が上って、そこにまで眼に入らなかった。

 そう、蓮のすぐそこにはインデックスがいたのだ。今の炎は摂氏3000度の炎熱地獄だ。金属は飴細工のように溶けるほど。そんなもの人体に向けたら死のそれのみ。形すら残らないだろう。

 しかし、そこで有り得ない、聞こえるはずもない声が聞いた。

「何だよ、そんなもんかよ。でかい態度とったわりには、大したことないな」

 炎と、黒煙を引き裂くようにして、そこに藤井蓮が現れた。もちろん、インデックスも無事だ。

 有り得ない、理解できない。

 こんな人間に、自分の研鑽を積んできた魔術を無傷で打破できるわけがないと、ステイルは絶句する。

「それよりお前、インデックスを保護しに来たんじゃないのか。俺はともかく、彼女まで燃やそうとするなんて、本当に言ってることてゃ真逆のことするんだなカス野郎」

 蓮は挑発じみたセリフを吐くも、同時にインデックスを巻き込みそうになったことに、赫怒の念を募らせた。

「ふ、ふざけるな!」

 自分の魔術を軽々と防がれたことに業を煮やしたのか、次はインデックスを巻き込まぬようにだけ配慮し、横薙ぎに炎を振るった。

 認めない、認めるものかと、ステイルは容赦のない一撃を放つも――

「だから効かねえって。二度も同じ手を使うなんて、本当に馬鹿なんだな」

 軽く、炎が両断された。

 見えない巨大な剣に引き裂かれるように、炎は虚空へと消え去る。摂氏3000度の炎の剣が、虚空に溶けるように消えたのだ。

「お前はもう詰んでる、自覚しろ」

 蓮は冷酷に告げ、一歩、ステイルへ近づく。

「――ッ!」

 同時に、ステイルは、一歩引き下がる。

 有り得ない、こんなもの認められないと、ステイルは思考を全開にする。

 自分の魔術をここまで簡単に破り、涼しい顔までしている。相手が自分と同じ魔術師ではないのは確かだ。なら、この学園都市名物の超能力というやつか、と考えるがそれが該当するかもわからない。そもそも最初から考えると、インデックスの『歩く教会』は誰かに引き裂かれたかのように破壊されていた。もしかしたら、その誰かが目の前の男であると、考えるのが至極当たり前だろう。

 なら――

「手加減は無用。いや、全力で行かないと、こちらが危ない……!」

 ステイルは全身に嫌な汗が噴き出す。

 まさかこんな訳も分からない都市に来て、〝二度殺されかける〟とは思わなかったからだ。

「――世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」

 唱えるは、己が発動する最大級の魔術。

「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり

 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり

 その名は炎、その役は剣」

 もはや相手を同じ人間と考えてはいけない。

 魔術師でも異質、異物の類におくであろう、未知の敵。最悪の危険対象物だ。

 よって、必ず殺す。

「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ――!」

 ステイルの修道服が膨らんだかと思うと、凄まじい轟音を上げながら、巨大な炎の塊が飛び出してきた。

 燃え盛る炎の中で、重油のように黒くドロドロしたものが芯となり、人間のような姿へ変貌していったのだ。

「魔女狩りの王、イノケンティウス。その名は、必ず殺す」

 ステイルが言うと、文字通り必殺の域で炎の巨人は両手を広げ、それこそ砲弾のように連へと突っ込む。

「――――」

 しかし蓮は冷静に、それを見つめ、思う。

 切り刻め――こんな醜い炎、視界にすら入れたくない。瞬速で、光速で切り刻んで、この場から消し去りたい。秒を切り刻んで、ステイルという男の瞠目した姿ごと断ち切りたい。

 時間を止めたい、この日常という刹那を永遠に味わいたいから。

 故に蓮は、こうやって時の体感速度を操作することに慣れている。もはや停止しているかもしれないと錯覚するまでに、時を切り刻みたい。

 よって、更なる上の段階へと昇華する。

 文字通り、力の形成。レベル0の、摩訶不思議な呪いのような力が姿を成して、武装する。何で、こんな力があるのかは分からない。だけど、今なら感謝できそうだ。こんな屑野郎を、捻り潰せるのだから。

 

「形成――

 時と止まれ――おまえは美しい」

 

 そうして、蓮の右腕に力が顕現した。

 それは魔法の言葉。蓮の力を発言するための祝詞。

 右腕が黒色の異形と化し、肘あたりから鎌のような形の黒刃が伸びる。

 黒く重い、その刃は、人を救うために非ず。相手を殺し、そのギロチンに血を注ぐのみとして扱われる、処刑武器だ。

 そして、蓮は迫ってくる炎の巨人を首から軽く切断した。同時に、縦にも引き裂き、炎の巨人は力なく消失する。

 これにて終わり、と蓮が思ったのも束の間――

 粘性の液体が飛び跳ねる音が、四方八方から響き渡り、再び炎が爆発する勢いで燃え上がり、再度ヒトの形を模した炎の巨人が現れた。

「こいつ、何度でも蘇るのか?」

 蓮が呟いたのと同時だった。

 炎の巨人に、人間を磔にできるような巨大な十字架が握られた。あれが恐らくイノケンティウスの武器だろう。随分と剛気溢れる、熱気のこもった武器だ。

 しかし解せない。

 どうして、この炎の巨人は復活したのか? その答えは、予想外の人物が答えてくれた。

「――ルーン」

 聞き覚えのある少女の声が、蓮の耳を捉えた。

「――『神秘』『秘密』を指し示す24の文字にして、ゲルマン民族によりニ世紀から使われる魔術言語で、古代英語のルーツとされます」

 これはインデックスの声だ。

 だが不思議で仕方ない。どうして、こんなボロボロの姿で、平然と解説するが如く話せるのか?

「『魔女狩りの王』を攻撃しても意味はありません。壁、床、天井。辺りに刻んだ『ルーンの刻印』を消さない限り、何度でも蘇ります」

 まるで機械のように語りかけてくるインデックスの瞳は、感情や生気が欠落していた。

 戦闘中に聞けたことではないが、蓮が誰だ? と問うと、それは機械的にイギリス清教内、第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔道書図書館と言い、正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorum、略してインデックスと名乗ってくれた。

 訳も分からない単語ばかり出てきた蓮は、とりあえず頭の中に記憶だけはしておく。

 そしてインデックスは自己紹介を終えると、元のルーンの話に戻した。

「それは簡単に言えば、夜の湖に映る月と同じ。いくら水面を剣で斬っても意味はありません。水面に映る月を斬らなければ、まずは空の上に浮かぶ月を斬らなければ」

 その説明を受けて、ああ、そういうことかと蓮は納得する。

 つまり、あの炎の巨人を潰したければ根源……どこかの天井や床に刻まれたルーンの刻印とやらを、消さないといけない。

 だけど、そんなもの時間の無駄だ。

 もっと、簡単な方法はある。そんな面倒極まりない方法より、至極簡単で単純な策が。

 そう……

「だったら、そのルーンってやつを刻んだ根源、目の前のバカを潰せばいいだけの話だ」

 なら使い手を倒せばいい。

 人は、首さえ切り落とせば殺せるのだから。

「灰は灰に――」

 蓮から、半端ない悪寒を感じたステイルは身の危険を感じ取り、再び魔術を行使する。

「――塵は塵に――」

 ステイルの右手には炎の剣が、そして左手には青白く燃える炎の剣が音もなく伸びる。

「――――吸血殺しの紅十字!」

 力ある言葉が、左右から炎の巨人ごと引き裂くように、大ハサミのように水平から襲いかかる。

 大熱波を放って迸る破滅的な炎に対し蓮は終始、冷静に対応した。

「遅いんだよノロマ。お前、拳をぶつけ合う喧嘩とかしたことないだろ?」

 腕のギロチンを振りながら、両脇から襲い来る炎剣を軽く斬り裂く。そして高く飛び、そのままステイルへ勢いよく突っ込んだ。

「まずは、少しくらい体を鍛えてこいよクソ野郎!」

 蓮は右腕のギロチンは使わず、そのまま左拳を固く握り、力いっぱいステイルの顔面へ叩き込んだ。

 魔術師の体は、それこそ竹とんぼのように回転し、後頭部から金属の手すりへ激突した。

「殺さないでおいてやる。ここでお前を殺せば、お前と同レベルになるからな」

 蓮はそう吐き捨て、ここで決着がついた。

 

 そして狂い始める歯車。

 蓮の愛する日常に、亀裂が走った始まりの瞬間であったのだった。

 

   (∴)

 

 その部屋には窓がない。

 ドアも、階段も、通路も、エレベーターすら備わってはいない建物としては相容れない空間である。

 広大な部屋ではあるが、一切の照明がない。しかし星のように部屋を照らしているのは、無数のモニターやボタンが瞬く光だった。それが四方八方、そして文字通り何十何百万と部屋を覆うようにして伸びるコード。そんな異質な部屋の中央には、さらに異質な全長10メートルを越す、強化ガラスでできた円筒の器。赤い液体が満たされており、そのなかに人が逆さで浮いていた。

 緑色の手術衣を着た『人間』。男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える、計り知れない『人間』である。

「君がわざわざここに出向くとは。何か面白いものでも見つけたのかい」

 逆さの『人間』――アレイスターは、目の前に現れた男に問いかける。

 その男は漆黒の衣に身を包んだ、まるで影のような存在。そこにいるようで、いないような、まるで霧や靄に話しかけているような感覚に陥る、更なる異質な男。

「我が愚息がこの都市で世話になっている身だ。一度、挨拶に出向いたまでのこと。特に何も、企んではおらんよ」

 漆黒の男は、笑みを浮かべつつ言葉を紡ぐ。

「しかしまぁ、面白いものと言うのは、些か語弊があるが、面白い物語でも観賞しに来たという方が適切だな」

「面白い物語。成程、君が面白いと言うのなら、期待して私も見てみたいものだ」

 逆さの『人間』は、漆黒の男の名を口にする。

「見せてはくれないか――メルクリウス」

 

 そして、更なる物語が邂逅する。




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