新訳・トリカブトの花   作:インノケ

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間が空きました。申し訳ないです。


3話

 再び「ジョニー」に出会ったのは、そこから更に数週間後であった。

「見つけたって……、そっちは食堂だぞアール!」

「いいからついてこいって」

 アールに急かされ後をついていく青年はエンジョウジ・ユウスケ。少し前からアールと行動を共にしているパイロットである。同世代のパイロットとして知り合い、こうして一緒にいる。

 

 アールはあれ以来、「ジョニー」に関する情報を集め続けていた。「ジョニー」に執着しているというわけではなかったが、戦いの続く日々に刺激を欲した結果であった。断片的ではあったが、ゲーム内SNSの活用や二人の人脈を駆使し、彼がどんな行動をしているかは把握することができた。

 「ジョニー」は噂通り、凄腕のパイロットである。GBWFには他にもエースと呼ばれるプレイヤーはいるが、「ジョニー」は彼らとは違い大規模戦闘クランである軍には所属しておらず、個人で活動しているため都市伝説のような扱いをされていた。そのため決まった活動拠点を持たず、足取りを掴むことは困難を極めた。

 アール達は「ジョニー」と同じように宇宙の各拠点を回り、戦闘の傍ら知り合ったパイロットたちに話を聞いて回った。二人の予想通り各地で「ジョニー」は目撃されており、特に目撃証言の多かったここソロモン要塞にて張り込みを続けていたのであった。

 

 アールが食堂に入ると、奥の席に見覚えのある姿を認めた。一人で蕎麦をすするあの男、間違いないとアールはつかつかと歩み寄っていく。遅れてつんのめるようにしながら食堂に入ってきたユウスケが続く。

「相席、いいですか?」

「ああ」

 もそもそと蕎麦を食べ続ける「ジョニー」の前にアールは腰かける。なんと声をかけるべきかとアールが思案していたところで、やっと追いついたユウスケが「ジョニー」を一瞥し言った。

「へえ、この人が『ジョニー』なのか?」

 その言葉を聞き、「ジョニー」の食べる手が止まる。

「ジョニー?」

 ユウスケを何をやっているんだと責めるように睨みつけていたアールは、頭を掻きながら答えた。

「あなたのことですよ。知りません? 謎のエース『ジョニー』」

「聞いたことはある。だが俺なのか?」

 アールは少し黙って首をひねってから、口を開いた。

「搭乗機は?」

「ゲルググだ」

「拠点は?」

「転々としている」

「パイロットレベルは?」

「覚えていないがこの間3つ目のボーナスがついた」

「エースじゃねえか……」

アールの後ろでユウスケが呟く。アールも同様にため息を漏らした。

「間違いなくあなたが『ジョニー』ですよ。そんなパイロットはこの辺りじゃあなたしかいない」

 アールの言葉を聞くと「ジョニー」は感心したように頷く。

「俺のことを調べていたのか」

「え、はい。気になったので」

「気になった?」

 多少の居心地の悪さを感じたアールであったが、「ジョニー」の言葉に責めるような語気はない。アールは答える。

「気になったんです。こんな状況でも才能を発揮して活躍してる人がいるんだって。どんな人なんだろうって」

「それでどうだった」

「え?」

 「ジョニー」は無表情でアールに問い返す。彼の言葉や表情からは感情や思惑といったものがまるで見えず、アールは困惑した。

「実際に会ってみて、気になったことはわかったか?」

 アールのそんな心中を知ってか知らずか「ジョニー」は質問を続ける。ここで嘘やごまかしを言っても何の得にもならない、そう感じたアールは思ったことを包み隠さず話した。

「正直、よくわかりません。パッと見普通の人ですし、表情もまるで読めないし。むしろ僕が聞きたいですよ。どうなんです、楽しいですか?」

 「ジョニー」はヤケクソになったアールを見て、それまで一切変えなかった表情を初めて崩した。突然笑った「ジョニー」にアールが面喰っていると、ジョニーが口を開いた。

「そうか、わからないか。残念だったな」

「残念、残念です」

「そう、残念だが俺にもわからない」

「え?」

 再び面喰うアールをよそに「ジョニー」は続ける。

「俺にもわからない。楽しいのかどうか」

「わからない、ですか」

「たまたま俺にできたのがパイロットで、それを続けていただけだ。期待に沿えなくて悪かったな」

 「ジョニー」はいつの間にか食べ終わっていた蕎麦の箸を置くと、席を立とうとした。

「あの!」

 アールは慌てて呼び止めようとする。

「一緒に戦いませんか?」

 思い付きで発した言葉であったが、それはアールの本心でもあった。一緒にいれば、彼の見ているのと同じ光景が見えるかもしれない。アールにはそう思えたのだ。

 「ジョニー」は少し立ち止まって考えてから、アールに言った。

「今はまだ、そのタイミングではないな」

「タイミング?」

「タイミングだ。その時が来たら、また声をかけてくれ」

 「ジョニー」はそう言い残すとトレイを片づけ、食堂から立ち去っていった。

「なにやってんだろう……」

「あー、その、大丈夫か」

 落ち込むアールにユウスケが声をかける。思い付きで滅茶苦茶な提案をした上に、それを断られてしまったのだ。自分の行動を振り返って、アールは机に突っ伏す。

「あ、名前も聞きそびれた……。本当になにやってんだ」

「あー名前なあ、ジョニーでいいんじゃないのか」

「あれは通称だから……」

「いいんだよ、ジョニー・ライデンで。そのほうがミステリアスでそれっぽいしな。それにほら、また今度って言ってただろ。フラれたわけじゃないって」

「ジョニー・ライデン」

アールは口の中で言葉を転がすように呟く。そうだ、目的は果たせたのだ。その上次の目標もできた。突っ伏していた頭を勢い良く上げると、そこにあった表情は不敵な笑みへと変わっていた。

「そうだ、ジョニーはまだって言ったんだ。僕はまだ何かしなきゃいけないんだ」

 やる気を取り戻したアールは思考を巡らせる。ジョニーは何をまだと言ったのか、何をすればいいのか。

「もっと強く、彼の役に立てるような……」

「本当にぞっこんだな」

 ユウスケが呆れたように笑う。アールも笑みで返し、席を立った。

「追いかけるのか?」

「まさか。蕎麦が食べたくなったんだよ」

 

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