【更新停止】転生して喜んでたけど原作キャラに出会って絶望した。…けど割と平凡に生きてます   作:ルルイ

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第二十六話 美由希は人気者

 

 

 

 

 

 さざなみ寮でのはやてちゃんとの会談から翌日。

 俺は久遠を頭に乗せてはやてちゃんを迎えにまた八神家まで来ていた。

 

「いらっしゃい、拓海君。」

 

「こんにちわ、はやてちゃん。

 それじゃあ、どこ行く?」

 

「図書館でええかな。

 借りた本返しに行こう思うて。」

 

「分かった、じゃあ車椅子押したげるね。」

 

「おねがいするわ。」

 

 特に決まった目的もなく、俺ははやてちゃんのうちに来た。

 それは昨日の選択肢を一緒に考えるためだ。

 時間はそれほど無いが慌てて決めていい問題でもないので、こうやって日常生活を送りながら落ち着いて一緒に考えることにした。

 それまで俺ははやてちゃんに出来るだけ付き添う事にしている。

 

 俺は車椅子を押しながら乗っているはやてちゃんのことを考える。

 よく図書館に行くのは知ってたけど、普段は独りだから車椅子をがんばって漕いで行ってるのだろうかと。

 

「はやてちゃんはよく図書館行くの?」

 

「ん、まあそやな。」

 

「これまで独りで車椅子で行ってたの?

 大変じゃない?」

 

「一人での生活長いからな。

 車椅子漕ぐのももう慣れたわ。

 人に押してもらうのも病院行った時の先生くらいやから久しぶりやな。

 楽させてもらってます。」

 

「まあ、いいんだけどね。

 車椅子って漕ぐの結構大変そうだから腕っ節が強そうだ。」

 

「自信あるで。

 これでも家で料理してるんや。

 今じゃフライパンも軽々振るえるで。

 腕っ節の強い女の子になってもうた。

 どないしよう?」

 

「大丈夫、上には上がいる。」

 

 今度来る守護騎士達はもちろん、出会う魔導師達なんか大抵腕っ節が強そうだ。

 原作のはやては魔力はすごいけど、後衛でそれほど近接戦闘に向かないタイプだった。

 腕っ節がどうのこうの言っても、周囲と比べたら全然大した事ないだろう。

 

「それって守護騎士達の女性三人やったっけ?

 騎士って言う位やから皆強いんやろうな。

 あ、あと犬がいるんやっけ?

 何で犬が騎士なん?」

 

「ああ、人の姿に成れるけど大きな青い犬がいる。

 何で犬なのかは知らないけど、自称守護獣って言うらしい。」

 

「ふーん、やけど犬かぁ。

 私、いつか飼えたらなぁって思ってたんや。」

 

「それはいいけど、まずどうするのか考えないと。」

 

「あ、そやったな…」

 

 まだどうするか決めてないが、やっぱり家族になりえる守護騎士達の存在が気になるようだ。

 それを捨てる選択肢がある以上、はやてちゃんも尚のこと悩むことになる。

 

 

「……なあ、グレアムおじさんの事ほんまなん?」

 

「ああ、たぶんね。

 はやてちゃんも手紙で連絡取るだけで会った事ないんだろう。

 おかしいだろう?」

 

「うん、まあわたしもなんかおかしいとは思った事あるんや。

 けど手紙を読む限り優しそうなおじさんやと思っとった。

 ちゃんと私の事心配して親身になって考えてくれとる感じがしたんや。

 間違いやったんやろうか…」

 

「間違いではないと思うよ。

 はやてちゃんの事を考えてたのは、自分の目的からくる罪悪感もあったみたい。

 闇の書の封印の為にはやてちゃんを犠牲にしなければいけないらしいから。」

 

 原作ではそういう感じだったので恐らく間違っていないだろう。

 ちなみにギル・グレアムの使い魔達を警戒して今も円を全力展開して怪しい猫がいないか見張っています。

 久遠も頭の上でのんびりしながらもちゃんと警戒してくれています。

 家だと盗聴の可能性もあったから、外を歩き回りながら相談しています。

 

「なあなあ、グレアムおじさんは闇の書が破壊出来ないから封印するつもりやったんやろう?」

 

「そうらしいよ。」

 

「拓海君は闇の書を破壊する事が出来るんやろう?

 やったらその事グレアムおじさんに話したら手を貸してもらえるんやないかな?」

 

「んー確かにそうかもしれないけど、はやてちゃんはどうして俺が絶対に闇の書を破壊できるって信じる?」

 

「え、それは拓海君が言ったから…」

 

「そ、言っただけ。」

 

 それだけでギル・グレアムは信じることは出来ないだろう。

 過去に何度もアルカンシェルで破壊しても破壊し切れなかった代物だ。

 直死の魔眼が知られた存在でない以上、確実に破壊できる証明が必要だ。

 俺だって月姫で転生する存在を殺す事が出来ると知ってるだけで、何か他に別の予想もしない要素があって破壊出来ないとも言い切れない。

 つまり試してみなければわからないと言う事だ。

 

「破壊できる自信はあるけど、方法は説明してないし信じる要素もギル・グレアムには無い。

 慎重にならざるを得ない事だから、そう簡単に信じてくれる訳無いよ。」

 

「えっと……がんばってお願いすればどうやろか。

 おじさんもやろうとしてることは本意やないんやろ?

 どうやろか……」

 

「……」

 

 確かに親身になって話せば説得できない事もないかもしれない。

 原作でクロノに知られたときはすぐさま諦めるほど潔かった。

 簡単に諦められるほど長期間計画を練ってなかったわけじゃないだろうに。

 

「……今は向こうがどういう行動を取るかわからないから、会う時がきたらそうしてみよう。

 こっちからじゃ接触する手段は無いんだし。」

 

「そやなぁ、わたしも手紙でしか連絡先知らんし。

 けど、いつかちゃんと会って話したいわぁ…」

 

「そうだな……ん?」

 

「どないしたん?」

 

 展開していた円で後ろから付いて来る存在を見つけた。

 円で認識できる特徴から判断してこいつは…

 

「いや、ちょっと後ろから付いて来る奴がいてな。」

 

「え、それってグレアムおじさんの使い魔の猫さん?」

 

「いや、そっちじゃなくて俺の知り合いだ。

 久遠。」

 

「クォン。」

 

 そう言っただけで頭に乗ってた久遠は、飛び降りて歩いてきた方向に掛けていく。

 曲がり角に入ると…

 

「クー!!」「キャッ!!」

 

 久遠の鳴き声と同時に人の声が聞こえた。

 久遠がしっかり付いて来てた奴を見つけたんだろう。

 着いて来てたのは…

 

「何やってんだよ、美由希。」

 

「アハハ、ばれちゃってた?」

 

「クゥン。」

 

 付いて来てたことを誤魔化すように笑いながら久遠を抱いて現れた。

 久遠も動物だけあって鋭いから美由希の存在に直ぐ気づいてた。

 

「拓海君、この人は?」

 

「こいつは高町美由希。

 那美姉さんと同じ学校の友人。

 一応俺とも友人。」

 

「一応なんてひどいなー。

 確かに年齢差はあるけど私もたっくんのこと友達だって思ってるのに~。」

 

 確かに俺は小学生で美由希は高校生だから、友人と言うにはちょっと違和感を感じる付き合いだ。

 まあ、美由希の相手してて楽しくもあるから友人には違いない。

 

 ところで美由希は何かうれしい事があったかのようにニマニマ笑顔を見せている。

 

「何があったのか知らないけど、気持ち悪いな美由希。」

 

「ちょ、もうちょっとオブラートに言えないの!?

 相変わらず辛辣なんだから。」

 

「安心しろ、これだけ辛辣に相手するのは美由希だけだ。

 うれしいだろ?」

 

「ワーイ、ウレシイナー。」(棒読み

 

「な、仲ええんやな…」

 

 俺の美由希への対応に少々戸惑い気味のはやてちゃん。

 まあこういう扱いするのは本当に美由希だけだしなー。

 

「まあ、確かに仲はいいから、こんだけ遠慮無しで遊べるんだけどね。」

 

「くすん…私、たっくん遊ばれちゃった…」

 

「代わりによく愚痴を聞かされたり、恋愛相談に乗らされたりもするんだけどね。」

 

「スルーしないでよ。」

 

「アハハハハ、ほんまに仲がええんやな。」

 

 和気藹々としているがこれからはやてちゃんと図書館に行く途中。

 何の用か知らないがはやてちゃんの事に美由希を関わらせる気はないので、とっとと話を済ませてよう。

 

「それでなんか用なのか?」

 

「別に用って訳じゃないよ。

 偶然たっくんを見かけただけ。

 だけどたっくんにもガールフレンドって子が居たんだね~。

 あ、たっくんが紹介してくれたけど、私高町美由希。

 風芽丘学園の2年生ね。」

 

「八神はやてです。

 学校は今休学してますけど小学三年生です。」

 

「あ、私の妹と同じね。

 たっくんもやっぱり同い年くらいの子が好みなんだ~。

 やっぱりうちのなのは、紹介しよっか?

 恭ちゃんとお父さんが恐いけど。」

 

「やかましい、とっとと帰れ。」

 

 どうやら俺とはやてちゃんの仲を邪推したからニマニマしてたらしい。

 今日ははやてちゃんと相談出来るようにゆっくりするつもりだったのに。

 どうにもタイミングの悪い奴め。

 

「(ごめんはやてちゃん。

 ゆっくり相談するつもりだったのに。

 とっとと追い返すから。)」

 

「(あ、私は別に美由希さんが一緒でもかまわんで。)」

 

「(闇の書の事を話せないだろ。)」

 

「(まだ時間はあるんやろ?

 それに人が多いほうが賑やかで楽しいやん。)」

 

「(まあ、はやてちゃんがそう言うなら…)」

 

 確かに時間は少ないけど、慌てて考えるつもりがないからゆっくりするつもりだったんだ。

 普通に過ごす分には美由希はいいムードメイカーかも。

 

「なになに、私に内緒でデートの相談?」

 

「自分がトンビに油揚げを掻っ攫われたからって、人に恋愛話を求めるな。」

 

「ちょ!! その話はもういいでしょ!!」

 

「なんや? 美由希さん失恋したんか?」

 

「はやてちゃん、興味あるのか?」

 

「私も女の子やからなー。」

 

「OK、じっくり脚色をして話を聞かせてやろう。」

 

「たっくんやめてー!!」

 

 最近美由希で遊んでなかったから、この遣り取り久しぶりだなー。

 

 

 

 

 

 図書館へ行ってからは、俺がいつも来ていた八束神社に来ていた。

 ジュエルシードの発動で来て以来だからちょっと久しぶりだ。

 そう思うと最近ホントに余裕ないなー。

 ここでよく式神で遊んでたのに、事件の最中は監視やら捜索やらで面白みのないことばかり。

 いや、アナァゴだけは割と面白かったけど。

 

 そういうわけで今日ははやてちゃんに式神の有能さを披露中。

 じっくり楽しんでくれとちょっとしたお芝居をやっている。

 

「むーむーむー!!!」

 

『恭ちゃん、うそだよね。

 恋人を作ったなんて…』

 

『本当だよ、美由希。

 僕は僕に相応しい女性を見つけた。

 だからお前との恋人ごっこは終わりだ。

 これからもう普通の兄妹でしかない。』

 

『…無理だよ、今更普通の兄妹になんか戻れない。

 私、恭ちゃんに散々弄ばれちゃったんだもの。』

 

『所詮遊びだったんだ。

 僕は彼女のところへいくよ。』

 

『待って!! 私を置いていかないで!!』

 

『くどい!! …じゃあな。』

 

『キャッ!! うぅ……どうしてこんな事になっちゃったの。

 あの…あの泥棒猫が悪いんだ!!

 絶対許さない!!』

 

 繰り広げられた寸劇は俺が作ったデフォルメ恭也とデフォルメ美由希による式神劇場。

 そして止めようとしてた美由希は俺の金縛りの術を込めた呪符を全身に張った上、口を塞いだので喋る事も出来ない。

 

「これが美由希の恋愛劇場第一章。

 今第二章を美由希本人が展開してて、第三章はついに美由希が切れて行動を起こす予定らしい。」

 

「ほうほう、美由希さんはなかなかのメロドラマ展開を繰り広げとるんやなあ。

 やけど拓海君の式神って面白いな。

 こんな寸劇も即席で出来るんやから。」

 

「最初は質の悪い物しか作れなくて喋る事も出来なかったんだけどね。

 今は複数作り出してこんな人形劇の真似事も出来る。

 この前まではここで動物の式神を作って久遠と一緒に微睡(まどろ)んでたんだけどね。」

 

「それは気持ち良さそうやな。

 なあなあ、何か可愛い動物出してえな。」

 

「いいよー。」

 

「むーむーむー!!」

 

「あ、そろそろ美由希さん離したったら?」

 

「まあ劇も終わったしいっか。」

 

 美由希に貼りまくった金縛りの呪符を全部剥がしてやる。

 最後に口を塞いでいた呪符をとってやると、

 

「ぷはぁ!! ちょっとたっくん、何よあれ!?」

 

「美由希の愚痴から話を纏めた恋愛劇場。

 第二章はいちゃいちゃする兄を見て悶々する内容。

 最終章はついに切れた美由希が行動に移す内容。

 心中する展開だったら、する前に話を最後まで聞かせてくれよ。」

 

「あかんで美由希さん。

 いくら辛くても誰かを傷つけたらあかん。

 ましてや心中なんて。」

 

「しないよ、心中なんて!!」

 

 当然本気で言ってる訳でなくはやてちゃんも解ってるのでノってくれている。

 小学生二人に遊ばれる美由希はさすがに情けなさ過ぎるぞ。

 

「そもそも恭ちゃんは僕とか言わないし!!」

 

「それは肖像権の侵害とか色々あるから俺のイメージで性格を補完した。」

 

 実際にはある程度性格は解ってるけどあえて違うようにした。

 やったら後でひどい目に合いそうだし。

 

「だったら私ももうちょっと変えてよ!!」

 

「本人を前にしながらイメージを変えろと言われても、なあ?」

 

「そやなあ。」

 

「クォン。」

 

「みんな意地悪だ!!」

 

 はやても久遠もノリがよく、俺が振ると同意してくれる。

 美由希も意地悪だと泣き言を言ってるが割りと楽しそうにしてないか?

 

「とか言いながら、美由希って意地悪されてるの楽しんでない?

 お兄さんに意地悪されたと愚痴を言いながら楽しそうに話すし。」

 

「へえ、そんな人ほんまにおるんやなあ。」

 

「ち、違うよ!!

 意地悪されて楽しんだりしてないよ!!

 こんな話されても楽しくないんだから!!」

 

「……そっか、俺たちは美由希とお話しするの楽しいんだけどな。

 そう思わないか、はやてちゃん、久遠。」

 

「そやな、私こんな楽しい会話久しぶりやったんや…

 けど美由希さんは楽しんでくれてなかったんか。

 ちょっと残念や。」

 

「クゥ、寂しい…」

 

 美由希の返答に俺たち三人はちょっとトーンを落として重い雰囲気を作り出す。

 そんな様子に慌てた美由希は、

 

「あの、その、ごめんね。

 ちょっと言い過ぎちゃった。

 私もホントはちゃんと楽しんでるよ。」

 

「ふむ、やっぱり美由希は意地悪されて楽しいらしい。」

 

「世の中いろんな人がいるんや。

 私は美由希さんのこと、差別したりせんで。」

 

「クォン、美由希頑張れ。」

 

「みんなホントに意地悪だぁ!!」

 

 簡単に乗せられる美由希に俺たちは笑うしかなかった。

 こんな風に遊びやすいから美由希とは遠慮為しに付き合える。

 俺の様子にはやてちゃんもいつの間にか一緒に美由希で遊んでいる。

 

「もう、たっくんのせいで会ったばかりのはやてちゃんにまで意地悪されちゃってるじゃない。」

 

「俺のせいじゃない、悪いのは美由希だ。」

 

「そやな、美由希さんおもろすぎるわ。」

 

「クォン。」

 

「くすん、久遠まで…

 私年上なのに~」

 

 俺は美由希を年上だと思ったのは初めて会った時だけだぞ。

 二度目以降はもう何の遠慮もしてない。

 

 

 

 それからはゆっくり駄弁ったり、俺が十二支の動物を久しぶりに出して皆でモフモフ楽しんだしてた。

 結局美由希もはやてちゃんに楽しそうに愚痴を言って、それを再び指摘されて遊ばれていた。

 

 そんな様子を俺は久遠と共に式神動物に囲まれながら眺めてていた。

 いつも美由希との会話を眺めてるのは那美姉さんだったが、俺が美由希と話してるのはあんな感じだったんだろうか。

 こうやって様子を見てるだけでも結構穏やかで退屈しないひと時だ。

 

 本来闇の書の話をする重い内容だったが、美由希のせいでそれは駄目になってしまった。

 まあ、はやてちゃんが決めたことだから無理に拒否するつもりはなかった。

 俺にははやてちゃんに未来を変えた負い目があるし、選択次第では危険な目に遭う。

 だから急かすつもりはなく俺ははやてちゃんの様子を見ながら一緒に選択を決める。

 

 自分の為に逃げると言うなら1の選択を認めるが、誰にも迷惑を掛けたくないからと言うなら認めるつもりはない。

 2の選択は本来の未来の模倣だが、はやてちゃんの性格なら誰かに迷惑を掛ける事を前提の選択を選ばないだろう。

 だからこそ救われる本来の未来を選べない負い目を俺は感じる。

 

 そして3の選択は未確定の可能性の未来。

 誰にも傷つけずにうまくいけば本来の未来以上に幸せが見つけられる可能性がある。

 だけど失敗すれば闇の書が不完全な暴走をして、取り込まれたはやてちゃんごと殺さないといけない可能性もある。

 はやてちゃんが自分を賭けて闇の書を救いたいというならこの選択を認めない。

 だけど家族がほしいからと言う理由でこの選択をするなら認めるつもりだ。

 

 俺ははやてちゃんに幸せになって欲しいとは思う。

 だけど幸せかどうか決めるのははやてちゃん自身だ。

 はやてちゃんには幸せになりたいと言う選択を自分の意思でしてほしい。

 本人が決心して決めてこそ目的を果たす意味がある。

 

 はやてちゃんが幸せを望まなければ幸せとは言えないんじゃないかと、俺は思ったからはやてちゃんが望むように行動させる。

 人の迷惑とか考えて遠慮して自分の意思を後回しにしないように。

 なのはちゃんの時の様に、はやてちゃんが自分が本当に望んで、それを貫き通せるように俺が支える。

 それが俺の今すべき事だと思っている。

 

 

 

 

 

 久々に美由希と会って遊んでから、俺ははやてちゃんの車椅子を押して家に送っていた。

 久遠も今日は那美姉さんのところに先に帰っていった。

 

「今日は楽しかったわ。

 ありがとう拓海君。」

 

「楽しかったのは美由希のおかげだろう。」

 

「そやな、美由希さんはとってもおもろかったわ。」

 

 はやてちゃんはさすがに美由希を馬鹿にしてたわけじゃないけど、話を茶化して偶にからかっていた。

 果たして美由希の付き合いがいいのかはやてちゃんの話し方がうまかったか。

 どちらにしろ仲良くなれたみたいだけど、よく考えたらなのはちゃんとの繋がりになりかねないか。

 美由希のほうには今度釘さしておこう。

 

「ほんま……今日は楽しかったわぁ…」

 

「? はやてちゃん?」

 

「私な、一人で暮らし始めてからなーんも無かったんや。

 朝起きたらご飯食べて、昼間は本読んだりして暇潰して、夜になったら寝てまう。

 ただそんだけの毎日をずっと繰り返しとった。

 両親がいなくなった頃はきっと寂しかったんやろうけど、それももう忘れてもうた。」

 

「……」

 

「家族が欲しいとも足が良くなれば学校へ行って友達が出来るとも思うとったんよ。

 けど今日の事があって、別にそんな事あらへんかった。

 拓海君と一緒に町に出歩いて美由希さんに会っておもろい話いっぱい出来た。

 このままでも楽しい事はいっぱい見つける事が出来る。

 両親がいない事も足が動かん事も別に不幸でも何でもないんや。

 私を見れば不幸やって思う人は多いやろうけど、私はもう不幸やと思わん。」

 

「そうなんだ。」

 

 幸せも不幸も自身がどう思うか。

 はやてちゃんが不幸でないと言うならそうなんだろう。

 俺も少なからずはやてちゃんが不幸だとは思うところはあった。

 だからこそはやてちゃんが幸せを望んで欲しいと思ってたけど、余計なお世話だっただろうか。

 

「やから別に私はこのままでええ。

 誰かに迷惑掛けてまで家族が欲しいとか歩けるようになりたいとは思わん。」

 

「はやてちゃん、だけどどのような選択であれ、今のままではいられないよ。」

 

「わかっとる、どの選択でも私の生き方は変わる事になる。

 ほんまに迷惑な話やな。」

 

「ごめん、はやてちゃん。」

 

「拓海君のせいやないやろ。

 わたしは誰かを責めたいわけやない。

 闇の書の中の人たちやってそうなんやろ。

 みんな、誰かに迷惑掛けたいわけやないんや。」

 

「…そうだな。」

 

 誰も迷惑を掛けたいわけじゃない。

 それは確かにみんな一緒なんだ。

 書の管制人格も主を傷つけてしまう事に嘆いていた。

 

「そやから拓海君、やっぱりわたしは一つ目の選択は選べへん。

 闇の書の中の人達にも相談してどうするか決めたいんや。

 出来るならグレアムおじさんも説得して協力してほしいんや。」

 

「それはきっと難しいよ。」

 

「そうなんか?

 私はそんな事あらへんと思うよ。」

 

「どうして?」

 

 守護騎士達もギル・グレアムも会った事のない存在だ。

 俺もあったことはないけど知識でならどういう人物か知ってはいる。

 知識と実際の存在がイコールでないのはなのはちゃんの件でわかってるけどおおよその性格は把握してる。

 守護騎士達ははやてちゃんを主として従うかもしれないけど、ギル・グレアムはどうだろうか。

 

「言ったやろ、みんな誰かを傷つけたいわけやないって。

 やったら一番ええと思う選択をみんな選んでくれるはずや。」

 

「それは……」

 

 はっきり言って理想論としか俺には思えなかった。

 それぞれに通したい意志があり目的がある。

 だからこそぶつかりたくなくてもぶつからなきゃいけない時がある。

 それはなのはちゃんがフェイト戦ったときの意思であり想いでもあった。

 

 今のはやてちゃんにそれが解れというのは難しい話だろう。

 一人暮らしでしっかりしているとはいえまだ八歳の子供に過ぎないんだから。

 間違いではなくても経験が足りなさ過ぎると言う事だろう。

 

 俺ははやてちゃんが本当に望んだ選択を応援するつもりだったけど、この選択を本気で応援していいものだろうか。

 その望みが叶う可能性がないわけじゃない。

 誰もがはやてちゃんを出来うるなら生かしたいと考えるからだ。

 はやてちゃんの言葉に耳を傾けて協力する可能性は大いにある。

 

 だけど今後もそんな考えだけでうまくいくとは思えないから賛同するのに戸惑った。

 この考え方を認めてはやてちゃんの為になりうるのかと。

 

「話し合う事が悪い事とは言わないけど、それで全てうまくいくとは限らないよ。」

 

「けど、話をせんかったら何も理解してもらえへんやん。」

 

 まるでフェイトと話したがるなのはちゃんだ。

 これじゃあ一度何かにぶつからないとわかってもらえそうにないか。

 

「……解った、とりあえずまずは守護騎士達と話す方針でいこう。

 だけど一つ条件をつけていいかな?」

 

「なんや?」

 

「話し合いで解決すると言う説得には闇の書の主としてではなく、はやてちゃんの考えを知ってもらって納得してもらう事。

 これを条件にする。」

 

「えっと、つまり命令するなっちゅうことやろ。

 それはわかっとる。

 わたしかて家族になるかも知れへん人達にそんなことしとうないもん。」

 

「それならいいんだ。

 説得に関しては俺は協力出来ないけどいい?」

 

「構わんで、それくらいわたしがやったる。

 拓海君ばっかりに任せるわけにいかんからな。」

 

 どうなるか解らないけど、戦いであれ話し合いであれ自分を貫き通すには強い意思がいる。

 守護騎士達には出現当初、主に従うと言う意志以外に特に目的も何もなかった。

 だけどはやての考え方でうまくいくかどうかくらいの意思は示せるだろう。

 そうでなければ、ギル・グレアムとの対話を主の方針としてでなければ賛同しないだろう。

 

 

 

 俺にも何が正しいかなんてわかんないけど、はやてちゃんが幸せだと思える未来を作りたい。

 それを俺だけで決めても独り善がりの我侭になってしまう。

 だからはやてちゃん自身が見つけて、尚且つ俺が望ましいと思える幸せをもつけて欲しい。

 

 難儀な事を考えてるなと思うが、これば別に今まで考えなかったことじゃない。

 ただ単に俺がこれまでやってきたように、平凡でも楽しい生活が出来るようになればいいんだ。

 俺の日常の中にはやてちゃんが加わる。

 それ位に考えればいい。

 

 闇の書の対処はやっぱりめんどそうだけどな。

 

 

 

 

 

 


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